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特集

オールフォトニクス・ネットワーク(APN)の実現を支えるデバイス技術

400Gbit/s 40kmの伝送を実現する高光出力光送信器と高感度光受信器

NTTでは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想で提唱しているオールフォトニクス・ネットワーク(APN)の実現に向けて、長距離伝送向けの高光出力光送信器、高感度光受信器の開発を行っています。本稿では、高光出力化のキーデバイスであるAXEL(SOA Assisted eXtended reach EADFB Laser)と高感度化のキーデバイスであるAPD(Avalanche PhotoDiode)、そしてこれらキーデバイスを搭載した400Gbit/s動作光送受信器について紹介します。

金澤 慈(かなざわ しげる)/進藤 隆彦(しんどう たかひこ)
中西 泰彦(なかにし やすひこ)/名田 允洋(なだ まさひろ)
葉玉 恒一(はだま こういち)/陳 明晨(ちん みんしん)
辰己 詔子(たつみ しょうこ)/神田 淳(かんだ あつし)
中村 浩崇(なかむら ひろたか)
NTTデバイスイノベーションセンタ

はじめに

クラウドサービス、自動運転、遠隔医療といった新しいサービスの進展とともに、通信ネットワーク内で扱われるデータ量は飛躍的な増加傾向を示しており、これに伴いトラフィック量も急激な増加を示しています。今後も伸び続けるトラフィックへの対応と、さらなる大容量化、低遅延、低消費電力、かつ柔軟性に優れた通信ネットワークを提供するため、NTTは新たなネットワークIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現を提案しました。
IOWN構想を構成する3つの柱の1つ、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、ネットワークから端末まであらゆるところにフォトニクス技術の導入を図るというものです。APNでは、ネットワークにおける短距離伝送から長距離伝送に至るあらゆる情報伝送において、フォトニクス(光技術)の利用を図り、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現します。
NTTデバイスイノベーションセンタでは、ネットワーク内の光インタフェースの小型化、低消費電力化、伝送容量拡大をめざし、小型化、低消費電力化に優れた強度変調方式を用いた長距離伝送用光送受信器の開発を行っています。長距離伝送実現のためには、光送信器の光出力パワーの高出力化、光受信器の高感度化が鍵となります。そこで、私たちは高出力化のキーデバイスであるAXEL(1)(SOA*1 Assisted eXtended reach EADFB Laser*2)と高感度化のキーデバイスであるAPD(Avalanche PhotoDiode)を研究開発し(2)、40km伝送を実現する400Gbit/s動作可能な光送受信器を開発しました(3)(4)。本光送受信器により、強度変調方式の適用領域が拡大可能となり、ネットワーク機器の小型化、低消費電力化に寄与します。

*1 SOA :Semiconductor Optical Amplifier。光半導体増幅器。
*2 EADFB Laser:ElectroAbsorption modulator integrated Distributed FeedBack Laser。電界吸収型光変調器集積DFBレーザ。

SOA集積型EADFBレーザ(AXEL)

高出力光送信器の心臓部である、高速高光出力送信デバイスについて説明します。1チップ当り100Gbit/sとなる高速な光信号を生成する光送信器では一般的にEADFBレーザと呼ばれる半導体デバイスが送信デバイスとして用いられます。このEADFBレーザは単一波長の光を発するDFBレーザ部と、電気信号を光信号に変換するEA変調器部で構成されていて、高速で高品質な光信号が生成できます。しかし、従来のEADFBレーザでは、EA変調器部での光損失が大きく、光信号の高出力化が難しいという課題がありました。
この問題の解決に向け、私たちは高速高光出力を実現できる送信のキーデバイスとして、SOA集積型EADFBレーザであるAXELを開発してきました(図1)。SOAは電流注入によって駆動し、SOAに入射した光は内部を伝搬しながら増幅されます。一般的なEADFBレーザでは、DFBレーザが発した光はEA変調器で変調される際に光強度が低下してしまいますが、AXELではSOAによって光を増幅することで高出力な光信号が得られます。また、SOAはDFBレーザやEA変調器と同じ半導体材料から作製されるため、これらを同一チップに集積したAXELは、同一プロセスで大量に作製可能であり、小型かつ低コストでの作製が可能となります。また、SOAは1チップ当り100Gbit/sの高速光信号を増幅する必要があります。そこで、このSOA部に、電流を効率的に光に変換し、光波形劣化の少ない光増幅層を新たに採用し、100Gbit/sの光信号も品質を低下させることなく光出力を増幅することが可能となりました。これにより、本開発で作製したAXELチップは、100Gbit/sの高速光信号を+8.0dBm以上と高強度に出力することが可能となりました(1)。このAXELチップを4台搭載することで、400Gbit/sの光信号を生成する光送信器が実現できます。

アバランシェフォトダイオード(APD)

高感度光受信器の心臓部である、高速高感度受信デバイスについて説明します。一般的な受信デバイスであるフォトダイオードは、その光電変換効率は理論最大値で100%になります。しかし、ほとんどの場合は、フォトダイオードに入射する際の損失や、フォトダイオード内において光が吸収しきれない等の理由により、実際は数10%程度にとどまります。私たちは、高速高感度を実現するために、アバランシェフォトダイオード(APD)と呼ばれる特殊なフォトダイオードを、受信のキーデバイスとして開発しました。APDは、デバイス内に高電界を誘起し、発生した光電子をイオン化衝突させることでさらなる電子、正孔を発生させます。結果、100%を大きく超える光電変換効率が可能であり、受信器の高感度化を実現します。開発した高速高感度受信APD(図2)は、主に光吸収層と、アバランシェ増倍層により構成されています。光吸収層において光信号を電子/正孔に変換し、発生した電子をアバランシェ増倍層において増幅します。
また、本開発では、1つのAPDは100Gbit/sの信号を光から電気に変換する必要があります。一般的に、フォトダイオードは高速動作を実現するためには受光感度を犠牲にする必要があり、また入射する光信号をフォトダイオードに光学結合させることが困難な導波路形状を採用する必要があります。私たちの開発したAPDは、光吸収層として、電子拡散が主なキャリア輸送機構となる光吸収層と、正孔ドリフトが主なキャリア輸送機構となる光吸収層の2層を組み合わせたハイブリッド光吸収層を適用することで、受光素子100Gbit/sの光信号に対応できる高速動作が可能でありながら高い感度を維持し、さらに光学結合が容易な垂直入射構造を採用しています(2)。このAPDチップを4台搭載することで、400 Gbit/sの光信号を電気信号に変換する光受信器が実現できます。

400Gbit/s動作高出力光送信器

高出力化の鍵となるAXELチップを搭載した4チャネル光送信器を紹介します(3)。図3(a)は本開発品である400Gbit/s動作4チャネル光送信器の内部の概略図になります。内部にはAXELチップを搭載したサブアセンブリを4台搭載しており、各サブアセンブリ上のAXELチップからは、100Gbit/sの光信号が出力されます。各サブアセンブリから出力される光の波長はLane0、1、2、3、それぞれ1295.5、1300、1304.5、1309.1nmとなっており、LAN-WDMグリッドと呼ばれる標準化規格で決められたものとなっています。出力された光は第1レンズを介して平行光となり、波長フィルタとミラーとそれらを搭載したガラスブロックから構成される光合波器へ入力されます。合波され、合計400Gbit/sの信号となった光信号はアイソレータと第2レンズを介して、LCレセプタクルと呼ばれる部品内部の光導波路に結合されます。図3(b)は作製した4チャネル光送信器の写真になります。長さ18.2mm、幅6.2mm、高さ5.4mmと非常に小型の光送信器となっており、QSFP-DD(Quad Small form Factor Pluggable-Double Density)と呼ばれる小型の光トランシーバにも搭載可能なサイズとなっています。
作製した4チャネル光送信器を400Gbit/s動作させたときのアイ波形、光出力パワーを測定しました。チップ温度は50度一定とし、AXELチップ内のレーザには80mA、SOAには40mAの電流を印加しました。また、電気信号は53.125Gbaud、4-PAM(Pulse Amplitude Modulation)信号、振幅電圧は0.75Vppとしました。アイ波形の観測にはサンプリングオシロスコープを用いており、26.6GHz帯域のローパスフィルタと、TDECQ(Transmitter Dispersion Eye Closure Quaternary)フィルタと呼ばれる等化処理を行った後の光信号波形を観測しました。測定結果は図4に示したものになります。波形品質の指標値であるTDECQは全レーンにおいて、2.4dB以下の良好なアイ波形が観測されています。また、光出力パワー(OMA:Optical Modulation Amplitude)についても全レーンにおいて+4.7dBm以上の光出力パワーを確認することができ、AXELチップによる高出力な特性を確認することができました。

400Gbit/s動作高感度光受信器

APDチップを搭載した4チャネル光受信器を紹介します(4)。図5(a)は本開発品である400Gbit/s動作4チャネル光受信器の内部の概略図になります。光受信器はLCレセプタクルから出力される光を平行光にするレンズ、波長多重した光信号を分波する光分波器、4チャネルレンズアレイ、4チャネルAPDアレイおよび4チャネルTIA(Trans-Impedance Amplifier)によって構成されています。光送信器から波長多重信号として出力された光信号は、光ファイバを伝送し光受信器に入力されます。光受信器に入力された光信号は光分波器によって1295.5nm、1300nm、1304.5nm、1309.1nmごとに分波されます。分波された光信号はレンズアレイを通して、4チャネルAPDアレイチップに入力され、APDによって光信号は増幅された電気信号へ変換されます。各チャネルの電気信号はTIAを介して1チャネル当り100Gbit/sの電気信号を受信器外部へ出力します。図5(b)は作製した4チャネル光受信器の写真になります。長さ16.7mm、幅6.2mm、高さ5.3mmと非常に小型の光受信器となっており、前述の光送信器同様QSFP-DDサイズトランシーバに搭載可能なサイズとなっています。
作製した4チャネル光受信器の受信特性を評価しました。評価系の概要を図6に示します。4チャネル光送信器を用い、1チャネル当り100Gbit/s、4チャネル合計で400Gbit/sの光信号を生成しています。光信号の消光比は、3.9〜4.3dBです。光信号は可変減衰器を介して、4チャネル光受信器入力され、電気信号へ変換され出力されます。出力信号は、400Gbit/s送受信用ICにて復調し、ビットエラーレートを算出します。ビットエラーレートの評価は各チャネルの信号の単独入力の元で実施しました。
各チャネルのビットエラーレートを図7に示します。光送信器と光受信器をほぼ直接接続したBack to Back(BtoB)構成でのビットエラーレート2.4×10-4における最小の受信感度はOMAで−13.5〜−14.0dBmになります。また伝送路として40kmの一般的なシングルモード光ファイバを接続した構成での最小の受信感度はOMAで−12.3〜−14.1dBmになります。本結果から、AXELを搭載した4チャネル光送信器とAPDを搭載した4チャネル光受信器を組み合わせることで、強度変調方式を用い400Gbit/s伝送サービスにおいて、伝送距離を40kmまで拡大できる可能性があることを示しています。

おわりに

高出力なAXELチップと高感度なAPDチップを開発し、これらのチップを搭載した400 Gbit/s動作可能な小型4チャネル光送受信器を実現しました。本開発の光送受信器により、低消費電力化が期待される、強度変調方式を用いた400Gbit/s信号の40km光ファイバ伝送という、長距離伝送を実現します。本開発のデバイス、ならびに光送受信器によって、より小型・低消費電力なネットワーク実現が期待されるとともに、IOWN構想実現に寄与するものと考えています。
■参考文献
(1) T. Shindo, N. Fujiwara, S. Kanazawa, M. Nada, Y. Nakanishi, T. Yoshimatsu, A. Kanda, M. Chen, Y. Ohiso, K. Sano, and H. Matsuzaki:“High Power and High Speed SOA Assisted Extended Reach EADFB Laser (AXEL) for 53-Gbaud PAM4 Fiber-Amplifier-Less 60-km Optical Link,” Journal of Lightwave Technology, Vol. 38, No. 11, pp. 2984-2991, 2020.
(2) M. Nada, T. Yoshimatsu, F. Nakajima, K. Sano, and H. Matsuzaki:“A 42-GHz Bandwidth Avalanche Photodiodes Based on III-V Compounds for 106-Gbit/s PAM4 Applications,” Journal of Lightwave Technology, Vol. 37, No. 2, pp. 260-265, 2019.
(3) S. Kanazawa, T. Shindo, M. Chen, N. Fujiwara, M. Nada, T. Yoshimatsu, A. Kanda, Y. Nakanishi, F. Nakajima, K. Sano, Y. Ishikawa, K. Mizuno, and H. Matsuzaki:“High Output Power SOA Assisted Extended Reach EADFB Laser (AXEL) TOSA for 400-Gbit/s 40-km Fiber-Amplifier-Less Transmission,” Journal of Lightwave Technology, Vol. 39, No. 4, pp. 1089-1095, 2021.
(4) A. Kanda, T. Yoshimatsu, M. Nada, S. Kanazawa, Y. Nakanishi, F. Nakajima, H. Matsuzaki, and K. Sano:“400-Gbit/s High-Sensitivity APD-ROSA for 4λ LAN-WDM 40-km Optical Link,” OECC2020, T4-5.4, 2020.

(上段左から)金澤 慈/進藤 隆彦/中西 泰彦/名田 允洋/葉玉 恒一
(下段左から)陳  明晨/辰己 詔子/神田 淳/中村 浩崇

NTTデバイスイノベーションセンタの強度変調方式向け、高出力光送信器、高感度光受信器について紹介しました。IOWN構想のめざす、よりスマートな社会の実現に向けて、これからも光送受信器の基盤技術の研究開発に取り組んでいきます。

問い合わせ先

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