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特集 主役登場

オールフォトニクス・ネットワーク(APN)の実現を支えるデバイス技術

未来のネットワークを支える半導体レーザ

進藤 隆彦
NTTデバイスイノベーションセンタ
主任研究員

私が入社以来携わってきた光通信用の半導体レーザは、今や現代の情報通信インフラを支える基幹技術の1つといえます。一見地味な研究テーマにもみえますが、昨今のスマートフォンに代表されるモバイル端末の普及、SNSや動画配信といったサービスの多様化に伴い、光ファイバ網を伝達される情報量は飛躍的に増大しており、これらを担う半導体レーザなどの光部品の高性能化が非常に重要になっています。特に、私の研究グループが開発を進める半導体レーザは、一般家庭やオフィスなどをつなぐアクセス系や、クラウドサービスを担うデータセンタなど比較的短距離な領域で使用されるデバイスです。より多くの人に通信サービスを提供するためには、その性能だけではなく消費電力や設備面のコストが重要な領域といえます。光ファイバ網では無数に設置された半導体レーザが光の明滅による光信号を送信しており、これらには先人の研究者が世に送り出した技術が使われています。今後も、ますます多様なサービスやコンテンツが登場しデータ通信量の増大が予想されています。この要望に対応し、誰でもどこでも使えるネットワークの実現に向けて研究開発を行っています。
そこで私たちのグループでは、より効率良く光を発し伝送距離を延ばすことができる高出力な半導体レーザをめざし、レーザと同じチップ内に半導体光増幅器(SOA)を集積した半導体レーザ(通称AXEL)の開発を進めています。このAXELは一辺が1mmに満たない半導体チップ内にレーザや変調器、光増幅器が一体集積されています。従来のレーザチップと同じコストで製造が可能であり、従来に比べて光信号出力を約2倍に増大させることが可能となります。AXELの基本構成は光増幅器を追加するだけの比較的シンプルなアイデアであり、これはさまざまな用途へ適用可能です。当初、AXELは10Gbit/s(1秒間に100億ビットの信号伝送)級光通信網に向けたデバイスの研究開発からスタートし、将来の大容量伝送の需要に対応すべく、より高速なアプリケーションへの適用に向けて開発を進めてきました。AXELは光増幅器を集積したことにより、光の信号品質が劣化しやすいという課題があり、それぞれの用途に合わせて、光信号品質と高出力特性を両立させるレーザ設計の改良を続けています。2019年には25Gbit/s動作対応のAXELを、そして2021年には100 Gbit/sの光信号に対応するAXELを開発しました。単体の光送信器においては、光の明滅による100Gbit/s信号を、もっとも遠くまで伝送できるデバイスが実現されています。
また、AXELは低消費電力性やさまざまなアプリケーションへの応用が可能である点が特徴です。これはNTTが提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想への基本理念にも合致するものであり、将来的にIOWNで実現されるネットワークの基幹技術となるべく、これからも研究開発を進めていきます。