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特集

IOWNに向けたアクセスネットワーク技術

ユーザやサービスに合わせるネットワークの実現に向けたワイヤレス技術への取り組み

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)/6G(第6世代移動通信システム)時代に向け、無線システムだけではなく、利用シーン、アプリケーション、端末等さまざまな進化・多様化が進み、ユーザやサービス要件も多様化していくと考えられます。特に環境の影響を受けやすい無線アクセスにおいては、抜本的な革新が必要となります。本稿では、無線アクセス性能のポテンシャルを拡大する技術、拡大したポテンシャルを最大活用する制御技術、多様なサービス開発を支える無線環境検証技術への取り組みを紹介します。

鷹取 泰司(たかとり やすし)
NTTアクセスサービスシステム研究所

はじめに

無線通信は離れた地点間をつなぐ通信インフラとしての利用から始まり、その後衛星通信の実用化により、あらゆる場所に通信を届ける役割を担いました。さらに、自動車電話や携帯電話、PHS(Personal Handy-phone System)により、いつでもどこでも音声通信が行えるアクセス手段としてより身近な存在となりました。携帯電話によるデータ通信や無線LANが一般的となった2000年ごろからは、無線アクセスによるインターネット接続が普及し、高速化と、携帯端末・スマートフォン、ノートPC、スマートデバイスなどのデバイスの多様化との相乗効果により利用シーンは拡大してきています。今や無線アクセスは誰もがインターネットに自由に接続する手段となり、人々の生活になくてはならない通信手段となっています(図1)。
これまでの無線アクセスは、公衆無線アクセスを担うセルラシステムと自営無線アクセスを担う無線LANが中心となり発展してきました。現在はセルラシステムでローカルエリアの無線アクセスを提供するローカル5G(第5世代移動通信システム)も登場し、無線アクセスの多様化が進んでいます。6G(第6世代移動通信システム)時代に向けては、インターネットにモバイルで接続する価値を超える新たな価値創出を行うため、公衆向けの無線アクセス、自営向けの無線アクセスを合わせて、さまざまな利用シーンに対応していくことが求められています。
無線アクセスのトラフィックの総量は2026年には2021年と比較して約3倍になると予想されています(1)。2020年ころから6Gセルラや次世代無線LAN(Wi-Fi 6E、Wi-Fi7)に関する技術開発もさまざまな機関で取り組まれ始めており、このようなトラフィック増にも耐えられる新たな無線環境構築への準備が進められています。また、トラフィック増の中身も大きく変化していくと考えられます。2019年5月にはIOWN(Innovative Opti­cal and Wireless Network)構想が発表され、ネットワークも新たな革新が始まろうとしています。IOWN構想においては、あらゆる人やモノをネットワークにつなぐだけではなく、人の体験や、さまざまな物理現象など、世の中で起きているあらゆることを連動させていくことが可能になり、無線アクセスも新たな価値創出を担っていくと考えられます。NTT研究所では無線アクセスも含めたエンド・ツー・エンドでエクストリームなサービス要件を維持していくネットワークサービスをエクストリームNaaS(Network as a Ser­vice)と呼び、研究開発を進めています(図2)。
無線アクセスのさらなる発展を促していくためには、無線アクセスのポテンシャルを拡大する技術と、拡大したポテンシャルを最大限に引き出す技術が必要となります。無線アクセスのポテンシャル拡大には、利用可能な周波数の拡大と周波数利用効率の向上の2つのアプローチが必要となります。また、拡大したポテンシャルを十分に引き出すためには、無線環境の変化にも追従し、必要な無線品質を実現させていく技術が必要となります。
NTTアクセスサービスシステム研究所では利用可能な周波数の拡大に向け、異システムとの周波数共用による周波数開拓(2)(3)と、今まで使われていなかった新たな高周波数帯を開拓する2つのアプローチで研究開発を進めています。また、周波数利用効率の向上においては、新たな無線デバイスを活用した空間領域の開拓に着目した取り組みを行っています。さらに、無線環境の変化への追従については、現在の無線状態を把握分析し、無線品質の推定および将来の品質予測を行い、最適な無線設計・制御を導出する一連の技術群をCradio®と名付けて研究開発を進め、複数無線アクセスを活用した新しい無線ネットワークの実現をめざしています。
このような新たな無線アクセスの展開に向け、コア技術の研究開発だけではなく、新たな無線システムの標準化や、新たな周波数の有効利用を実現する法令の整備にも積極的に貢献しています。また、新たな価値創造に向けては、NTTグループの事業会社や、さまざまなパートナー企業や大学、研究機関と連携した研究開発も進めています。
本稿では、現在取り組んでいる、エクストリームな要件を満たすネットワークサービスを無線領域に拡大していくための無線アクセスの高度化技術、無線環境の変化への追従技術、多様な無線アクセス検証を支える無線空間再現技術について紹介します。

無線アクセス高度化技術への取り組み

無線アクセスの高度化によって無線アクセスの持つポテンシャルを拡大していく技術領域として大容量化、未踏領域への拡大、非通信領域の統合があります。その中でも大容量化は中心的な役割を担っています。無線アクセスの容量は、周波数帯域幅×周波数利用効率として表現することができます。ここでは利用可能な周波数帯域幅の拡大に向けた取り組みを紹介します。すでに多数の無線システムが運用されている低い周波数帯では、異なる無線システムどうしが周波数を共用するオーバレイのアプローチが必要となります。一方で、無線装置の実現が難しく無線利用が進んでいない100GHz以上の高周波数領域は新規利用開拓のアプローチとなります。
1GHz帯以下の周波数では2022年から新たなIoT(Internet of Things)向け無線LANであるIEEE 802.11ah (11ah)の展開が国内でも開始されようとしています(2)。11ahは無線LANを電波の減衰が小さく、建物の裏などへの回り込み特性にも優れた1GHz以下の周波数で運用できるようにしたもので、映像伝送などの付加価値の高い情報を広範囲に伝送することが期待されています。IoT向け無線LANの展開に向け、バッテリ運用等の新たなファクタの考慮や、多数の運用に関する規定が定められている920MHz帯の電波法令に合わせた最適化を行うことで、より安定した運用を可能とする取り組みを行っています(図3)。
一方で100GHzを超える周波数帯を開拓する取り組みも進めています。6G時代に向けては、広大な帯域幅の確保が可能となる100GHz以上の周波数の活用が有望視されています。世界に先駆けて屋外市街地環境における300GHzまでの伝搬特性のモデル化に着手し、Beyond 5G推進コンソーシアムや国際標準化機関ITU-R(Inter­na­tional Telecommunica­tion Union Radiocommunication Sec­tor)への寄与を通じて、周波数帯の開拓に貢献しています(図4)。
このように、1GHz以下の周波数から100GHz以上の周波数にわたって、無線アクセスの周波数利用が大きく変革されていくタイミングとなっています。また、分散MIMO(Multiple In­­put Multiple Output)技術などの空間軸に着目した周波数利用効率向上技術と合わさっていくことで、将来の無線アクセスのポテンシャルが飛躍的に拡大されていくことが期待できます。

無線環境変化への追従に向けた取り組み

今後、特性の異なる多様な無線システムが登場し、これらが併設される環境が増え、さらに無線端末や利用目的・環境も多様化・重層化が進むと、個々の利用要件や場所に応じた最適な無線アクセスの選択や設計・制御は複雑なものとなります。さらに、環境や要件の時間的な変化を考慮すると、個々の無線アクセスのポテンシャルを十分活かしきれない状況が想定されます。NTT研究所ではこの複雑な問題を解決するだけでなく、無線以外のさまざまな産業・アプリケーションとも連動し、より広範囲な最適化を実現していくため、Cradio®技術群の研究開発を行っています(4)(5)。Cradio®技術群では、無線センシング・可視化技術、無線ネットワーク品質予測・推定技術、無線ネットワーク動的設計・制御技術を組み合わせ、把握、予測、制御の繰り返しにより、無線ネットワークが環境と要求の変化に追従して、ユーザやサービスの要件を満たし続けていくことをねらいとしています(図5)。
図6では無線アクセスの最適化を、物流倉庫のデータベース情報と連動させて実現していく例を示しています。あらかじめ把握した倉庫環境に対して、無線システムの最適設計、制御を行うだけでなく、物流倉庫のデータベースから倉庫内の環境が変化する予定の情報が得られると、その情報を取り込み、3Dモデル化、自動最適設計、無線ネットワーク設計・制御が行われます。このように、IOWNによってこれまで連動することのなかった、さまざまな産業が持つ情報や機能とリアルタイムに連動していくことが可能になれば、無線ネットワークだけでなく、アプリケーションを含めた全体が調和した新たな価値創出につながっていくと考えています。

多様な無線アクセス検証を支える無線空間再現技術

前述した高度化により、ポテンシャル拡大とポテンシャルの最大活用を進め、究極的には必要となる無線環境を先回りして無線端末の周囲に形成する、インテリジェントな無線空間形成をめざしています。これは与えられた環境に対する最適化ではなく、環境そのものをつくり出す、全く新しいアプローチになります。このアプローチを支えていくキー技術が無線空間再現技術です(6)
無線空間再現技術では、実空間から取得された無線環境情報と、高精度なモデル化・シミュレーション技術によって、別の場所で無線空間を再現します。モデル化した無線環境を正確に再現することで、ユーザやサービスに合わせた無線空間提供のための空間再現精度を高めることをねらいとしています(図7)。

おわりに

無線アクセスの爆発的な普及をもたらしたインターネットにモバイルで接続する価値を超える新たな価値創出に向けた取り組みとして、ユーザやサービスに合わせるネットワークの実現に向けたワイヤレス技術への取り組みを紹介しました。本稿で含められなかった無線センシング等の非通信領域の統合や未踏領域へのカバーエリアの拡大など、無線アクセスはさまざまなかたちで飛躍的な発展が進むと考えられます。NTTアクセスサービスシステム研究所では、IOWN/6G時代に向けた無線アクセスの革新に貢献していきます。

■参考文献
(1) https://www.ericsson.com/4ad7e9/assets/local/reports-papers/mobility-report/documents/2021/ericsson-mobility-report-november-2021.pdf
(2) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000540.html
(3) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban12_02000142.html
(4) 河村・守山・小川・淺井・鷹取:“エクストリーム NaaS に向けた無線技術──マルチ無線プロアクティブ制御技術Cradio®,”NTT技術ジャーナル,Vol. 33, No. 8, pp. 19-23, 2021.
(5) https://journal.ntt.co.jp/article/13100
(6) https://b5g.jp/doc/whitepaper_jp_1-0.pdf

鷹取 泰司

IOWN/6G時代に向けた無線アクセスの研究開発をさまざまな技術領域や多様なサービスを担うパートナーと一体になって取り組み、ネットワーク全体に新たなイノベーションを起こしていきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
無線アクセスプロジェクト
TEL 046-859-5107
FAX 046-859-3145
E-mail shoko.shinohara.et@hco.ntt.co.jp

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