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特集

IOWNに向けたアクセスネットワーク技術

筑波研究開発センタの50年

NTTアクセスサービスシステム研究所は、1972年7月20日に「建設技術開発室」として茨城県つくば市に発足以来、電電公社時代、民営化したNTTの時代にいく度かの改称や組織整備が行われ、2022年に発足から50周年を迎えることになりました。そこで本稿では、つくばの地で行われた研究開発を支えた大型の実験設備を中心に、筑波研究開発センタ50年のあゆみについて紹介します。

高橋 央(たかはし ひろし)/川田 秀雄(かわた ひでお)
小山 良(こやま りょう)/田中 亮(たなか りょう)
大槻 信也(おおつき しんや)/後藤 和人(ごとう かずと)
田所 将志(たどころ まさし)
NTTアクセスサービスシステム研究所

はじめに

NTTアクセスサービスシステム研究所の前身である日本電信電話公社 建設技術開発室(建技室)は、1963年9月に、閣議了解により建設が進められた国家プロジェクトである「筑波研究学園都市」で計画された43の研究・教育機関の一員として1972年7月に発足しました(1)。その後、図1に示すとおり、筑波技術開発センタ(1985年)、筑波フィールド技術開発センタ(1987年)、フィールドシステム研究開発センタ(F開セ)(1991年)、アクセス網研究所(A網研)(1994年)と組織再編されました。1997年には、幕張ビル、横須賀研究開発センタの各ロケーション組織が加わり、1999年1月に現在の名称となり、2014年には武蔵野研究開発センタにも組織を構え、2022年7月に設立50年を迎えました。
建技室として発足当初、当時の社会情勢、電話需要の増大等から、屋外建設工事の効率化、安全性の向上、作業環境の改善をめざし、つくばの地で、メタルアクセス技術・インフラストラクチャ技術に関する研究開発が進められました。現在は、光アクセスネットワークを支えるオプティカルファイバアクセス技術、インフラストラクチャ技術、アクセスシステム技術、ワイヤレスアクセス技術、オペレーション技術の5分野の研究開発を行っていますが、筑波研究開発センタでは、建技室発足当初から一貫して、通信線路・土木設備に関する研究開発を行っています。
筑波研究開発センタは、あらゆる環境に対応できる通信設備をつくるために、現場と同等の状態でのさまざまな実験ができるようにつくられており、大規模かつユニークな通信線路、土木実験設備を有しています。以降では、つくばの地で行われた研究開発を支えた大型の実験設備を中心に紹介します。

筑波研究開発センタの大型実験設備

筑波研究開発センタでは、主にインフラストラクチャ技術およびメタルアクセス技術、オプティカルファイバアクセス技術に関する研究開発を行ってきました。これら技術分野の50年の研究開発を支えた大型実験設備について、建技室時代に建設され、その後役割を終えた設備を中心に紹介します。図2に1983年当時の筑波研究開発センタの設備と現在の設備を示します。約22ヘクタールの広大な敷地には、世界に類をみない高さを持つ縦系配線実験設備である高層実験棟をはじめ、土質別地下埋設物設備、シールド推進実験設備、水中実験設備、高低温ケーブル実験設備、振動疲労実験設備など多くの設備が整備され、現場を再現できる線路・土木の研究開発センタでした。

竣工時(1983年)の高層実験棟の外観を図3に示します。超高層ビル、大型橋梁などの高層建築が増加する中、垂直布設工法の改良や高層設備の気温変化、地震時の挙動解明を目的に建設されました。棟内部は、ケーブルの布設実験、静荷重試験および振動試験を行うことができる、高さ75m、縦1.8m、横2.5mのAシャフト(地下3階から地上12階)と、垂直布設されたケーブルのヒートサイクル試験(−40〜+80℃)を行うことができる、高さ60m、縦1.0m、横1.0mのBシャフト(地上1階から地上12階)で構成されていました。さまざまなケーブルの垂直布設時の検証に活用されましたが、高層建築の光配線が広く普及し、その信頼性がゆるぎないものとして広く認知され、本実験棟は役目を終え、解体されました。

地下埋設物や水中での通信線路・土木設備検証に用いられた大型実験設備を図4に示します。図4(a)は、竣工時(1977年)の土質別地下埋設物実験設備の外観です。線路・土木の地下埋設物は、地盤の性質が多様であり、正確に予測することが困難なため、設計・施工・保全等の課題を検討することを目的に建設されました。土質、地下水位等を調整することができ、その上に自動車荷重を再現する荷重車を走らせることもできました。実物大のマンホールを埋設して影響を調査することや、管路を現場に近い環境の土層へ埋設し、その上を荷重車で走らせることで管路内のクリーピング*1の影響調査等、さまざまな検証で活躍しました。近年、通信設備の地下埋設物が日本全国に整備され、本実験設備は役目を終えました。
図4(b)は、シールド推進実験設備の実験ピットおよび全景です。道路等を開削することなくとう道建設を行うために開発されたシールド工法を適用するために、現場で予想されるいろいろな施工条件を考慮し、工法の適応性、安全性等を検証するための装置として建設されました。圧力土層に試料土を入れ、その土層に水圧発生装置により任意の水圧をかけることで、所定の地盤をつくることができました。このようにしてつくられた土層内へ、実験用ピット内に設置した小型シールドモデル機を推進させ、掘削、排土等に関する実験が行えるようになっていました。さまざまな地盤に対応したシールド工法(2)が確立・普及し、また、新たにとう道を建設することが少なくなったため、シールド推進実験設備は役目を終え解体されました。
図4(c)は竣工時(1974年)の水中実験設備の外観です。海底ケーブルの敷設試験や地下構造物の耐水実験を行う目的で建設されました。長さ50m、幅6m、深5mの水槽と水中観測とう道、移動ブリッジ、橋形クレーン、測定室で構成されていました。移動ブリッジは走行速度10〜50m/分の自走式で、海底ケーブルに関するシミュレーション実験を行うための模擬海底ケーブル敷設装置として活用されました。海底ケーブルや地下設備の試験方法が確立され、本設備は役目を終えて撤去されました。

*1 クリーピング:地下管路に敷設された光ケーブルが車両による振動や地震などで管路内を移動する現象。ケーブルが大きく移動すると、力や曲がりが加わり、伝送特性に悪影響を及ぼすことがあります。

屋外、主に架空での通信線路・土木設備検証に用いられた大型実験設備を図5に示します。図5(a)は竣工時(1973年)の高低温ケーブル実験設備です。通信線路、土木設備は、ほとんどが屋外に設置されているため、実際のケーブル敷設環境を再現して、耐候性試験、温度特性試験を実施するために建設されました。長さ150m、幅2.45m、高さ2.25mの総ステンレス張りで、試験室内で、とう道内敷設状況、管路内敷設状況、電柱に設置した状況まで再現することが可能です。建設当時は温度を−20℃から+60℃まで変化できましたが、現在は−30℃から+70℃まで変化させることが可能です。光ケーブルでは、ケーブル内での微小な曲げがさまざまな伝送特性に影響するため、新しいファイバ構造やケーブル構造の実用化において、今後もさまざまな検証で活用していきます。
図5(b)は、竣工時(1977年)の振動疲労試験機です。架空ケーブルなどの風による振動状態を疑似的に発生させ、架空に用いる線路物品、ケーブル、クロージャ、金物類などの光損失増加や破断などのメカニズム解明を目的に建設されました。新たなケーブルや線路物品などの設計、開発、検証にフィードバックすることで設備の安全な長期利用を実現します。本装置では、架空ケーブルを実際に設置した状態で、ケーブルやつり線を強制的に加振できるようになっています。当時の装置では、最大敷設長35mまででしたが、現在は最大敷設長が65mまで拡大され、今後もさまざまな検証で活用していきます。
そのほか、マンホールの鉄蓋が重車量などに繰り返し踏みつけられた状況を調査できる輪荷重繰り返し載荷試験機、特殊な穴あき構造にも加工でき、さまざまな構造のファイバプリフォーム*2から光ファイバを製造できる光ファイバ製造設備、電柱1本ではなく複数の電柱で構成される“系”として電柱に加わる影響を再現・分析できる架空構造物総合実験設備など、これからのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)を支える設備、スマートな設備の研究開発において活躍する大型実験設備も建設されています。

*2 ファイバプリフォーム:光ファイバと同じ屈折率分布を持つ高純度の棒状ガラス。これを溶かし繊維状まで引き延ばされたものが光ファイバとなります。

おわりに

50年にわたる筑波研究開発センタの研究開発について、通信線路・土木設備に関する研究開発を支えた大型実験設備を中心に振り返り、紹介しました。今回紹介した大型実験設備での実験等により産み出されたインフラストラクチャ技術、オプティカルファイバアクセス技術に関する研究開発成果は、アクセスシステム技術、ワイヤレスアクセス技術、オペレーション技術とともに、2022年4月に開設した50周年記念サイト(3)や、その1コンテンツの主な研究成果にまとめました。今後もIOWNを支える設備、スマートな設備の実現においても、世界最先端でも現場最先端でも通用する技術をめざして研究開発を行っていきます。

■参考文献
(1) https://www.mlit.go.jp/crd/daisei/tsukuba/
(2) https://www.rd.ntt/as/history/infra/in0101.html
(3) https://tsukuba-forum.jp/50th/

(後列左から)後藤 和人/高橋 央/田所 将志/川田 秀雄
(前列左から)小山 良/大槻 信也/田中 亮

NTTアクセスサービスシステム研究所では現場を再現できる大型検証設備を多く備えるという強みを活かし、これからも世界最先端でも現場最先端でも通用する技術を開発していきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
50周年WG
TEL 029-868-6020
FAX 029-868-6037
E-mail as50th-wg-pb-ml@hco.ntt.co.jp

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