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グループ企業探訪

第248回 株式会社e-Craft

趣味の活動をきっかけに、プログラミング教育ビジネスを展開

e-Craftは、趣味の「ものづくり」から誕生したembotが、さまざまなコンテストで高い評価を得たことで、NTTドコモの新規事業創出活動に参画して誕生したベンチャー企業だ。embotをベースとしたプログラミング教育とそのビジネスへの思いを、創業者である、CEOの額田一利氏に伺った。

e-Craft 額田 一利さん

趣味の「ものづくり」でベンチャー企業が誕生

◆NTTドコモ発のベンチャー企業なのですね。設立の経緯について教えてください。

e-Craftは、NTTドコモの「39works」という新規事業創出活動の成果として、子どもがプログラミングをより楽しく学び、プログラミング教育を通して「つくりたいものをつくる」ことができる世の中の実現を目的に、2021年8月に設立されました。私はNTTドコモの先進技術研究所(現クロステック開発部)において、エネルギーマネジメントシステムの研究を行っていました。そのかたわら、2016年ごろに「ものづくり」をしてそれを多くの人に使ってもらいたいとの想いから、NTTドコモ社内2名のプログラミング能力の高い友人と、余暇の趣味として「ものづくり」を始めたところが起源です。
「ものづくり」といっても何をつくればいいのか模索するとともに、単なる趣味の範囲では人に使ってもらうことにたどり着けないのではないかと考え、コンテストへの応募を目標に活動しておりました。人に使ってもらうためにはコンテストである程度の評価を得る必要があるため、そこに向けて、近況の一喜一憂を遠くに住む大切な人に動作・ポーズで伝える、感情お届けロボット「embot」(emotion robot)を手づくりし、コンテストで賞をいただく等、高い評価を得られるようになりました。
一方、当時「プログラミング教育」という言葉がメディア等に登場し始めたころで、ユーザから「自分でもつくってみたい」という声があったことから、この分野をターゲットとすればさらに多くの人に使ってもらえるのではないかと考え、プログラミング教育サービスとしてプロダクトをより洗練化させてきました。2017年ごろ、メディアで少しずつプログラミング教育の必修化という言葉が登場するようになると、embotがより注目を集めるようになり、ビジネス化を意識するようになりました。ちょうどその当時、docomo Open Houseのイノベーションチャレンジブース(社員の個人的な活動を展示するブース)にembotを出展し、タカラトミー様が興味を示され、このころから連携の話を進めていました。
その後に、NTTドコモ内にイノベーション統括部という新規事業開発をミッションとする組織ができ、そこからembotの事業化の話が来て、それに応諾した瞬間に趣味からビジネスに変革しました。事業化の過程でプログラミング教育をベースに、法人(教育機関)、コンシューマ両方をターゲットとし、ものづくりから物販も行うといったビジネス展開に合致する事業部が見つからなかったことから、起業する方針で準備を進め、e-Craftを設立しました。私がNTTドコモからの出向者を含めて直接社員をスカウトして集め、現在8名ですべての業務を行っています。

◆embotによるプログラミング教育とはどのようなものでしょうか。

embotは、キットとして準備されたLEDライトやサーボモーター等の電子工作パーツを組み込んだ段ボール製のロボットで、タブレットやスマートフォンでプログラミングアプリを使って操作します(写真)。プログラミングアプリは、個々の動作の制御や動作のための条件等を設定するための、図形や絵で表示されたブロックプログラミングで、例えば、設定した時間になるとロボットの手(サーボモーター)を動かす等の操作を行うものです。段ボールのロボットはカスタマイズや自作も可能であり、センサや回転するサーボモーターなども追加が可能であるため、プログラミングを工夫することで、さまざまなオリジナルのロボットをつくることもできます。
教育的観点から、まず、ロボットを組み立てることを通して、電子工作や造形の基礎を学ぶことができます。そして、プログラミングアプリを使ってロボットの動作を決め、アプリ上で点滅している実行個所と比べながら実際にロボットを動かすことで、正しくプログラムできたかどうかを確認し、アプリの指示や試行錯誤により修正を加えつつ正しく動作させます。プログラミングの方法は、1ステップずつ順次処理する「ブロック式」と条件分岐処理や反復処理を行う「フローチャート式」があり、さらにロボット本体がなくてもプログラミングの内容をアプリ上で確認するシミュレータ機能もあります。こうした体験を通して、プログラムのロジックを学習することが可能です。
また、API(Application Programming Interface)を使ってプログラミングできる機能もあり、天気の情報を取得できる天気APIやニュースの情報を取得できるニュースAPI等があります。明日が雨なら傘を持っていくことを教えてくれるロボットなど、自分のアイデア次第で拡張したembotの世界も出来上がり、上級レベルのプログラミング体験・学習も可能です。

◆事業概要を教えてください。

embotは当初は手づくりでしたが、事業化に伴い大量生産が必要となりました。現在はタカラトミー様と共同で開発・製造・販売を行い、自社ECサイトである「e-Craft shop」を始めとするさまざまな店舗やオンラインショップでembot関連商品を販売しています(https://www.ecl.embot.jp/)。また、教育機関の授業に適した、「embot信号機セット」「embot A分類対応 算数用作図セット」「embot補助教材セット」などの教育機関向け教材の販売も行っています。
そして、プログラミングスクール「embot creative lab」の企画、教室運営も行っており、オフィス内に設置された教室に小学生を集めて、プログラミング教育を行っています。さらに、「embot」を用いた授業やワークショップなどの企画および運営の受託も行っています。
具体的な事例では、未来の学びコンソーシアム(文部科学省・総務省・経済産業省)においてホームページに実践事例を掲載するとともに、「未来の学び プログラミング教育推進月間(通称:みらプロ)」で全国100校以上に教材を提供し、約3000人の小学生がembotで授業を行っています。
栃木県の小学校では、3年生の総合的な学習の時間において「地域学習」でembotを用いて授業を実施しております。ロボットが実社会でどのように活用されているか調査する中で、子どもたちが想像力を働かせ、社会に結びつけながら自由にembotをカスタマイズしました。
東京都の私立小中学校では、5年生の図工でembotを活用しています。目的ではなく、表現のための手段や発想を広げるツールとしてembotを活用し、作品を生み出していました。
その他教員向けのプログラミング研修会の開催や授業支援、ドコモショップにおけるプログラミング教室も行っています。

embotによるプログラミング教育で子どもの創造性も育てる

◆どのような事業環境なのでしょうか。

事業を開始して約1年、embotの販売を中心として事業展開をしてきました。embotをプログラミング教育の教材として考えた場合、プログラミング教育の必修化が具体化してきた2019年ごろは、海外の企業や大企業が軒並み関連教材を出してきたのですが、まだ市場が立ち上がっていない日本においては当然ビジネスが成立することなく、撤退する企業も少なくありませんでした。embotについては、単なる教材の販売ではなく、子どもの遊びとしての体験につながるツールになるよう工夫を凝らしております。
一方、タカラトミー様から販売されていることもあり、どうしても玩具としては高価にみられてしまう部分もあります。玩具業界は毎年多くの新商品が出るため、その中で生き残ることは大変です。EducationとEntertainmentの融合領域であるEdutainment領域を狙い、遊びながら学べるサービスとして独自性を強くしていきたいと考えています。

◆今後の展望についてお聞かせください。

プログラミングには2段階のステップがあると思っています。第1ステップはいわゆる最初の導入段階で、難しいというイメージがあるため、そこを乗り越えるためには大きなエネルギーを必要とします。第2ステップは導入後の段階で、プログラミング教育で学習したことを本当に使いこなせるようにすることですが、これにも大きなエネルギーを必要とします。
現在は、プログラミング教育そのものが始まったばかりであり、第1ステップをクリアすることが教育現場では求められていると考えます。embotは手軽に扱うことができるので、当面は、1つでも多くの事例をつくり、それを広く紹介していくことでこの段階をクリアできると考えています。それにより、小学校におけるプログラミング教育がさらに浸透し、指導できる教員が増え、需要が伸びてくるとともに、入学と卒業が繰り返される小学校において、毎年定常的な需要が発生するため、そこに対して事業を展開していくつもりです。
そのうえで第2ステップを視野に入れながら、ソフトウェア、デジタルコンテンツ、API連携を手掛けていきたいと思います。現在、プログラミングスクール「embot creative lab」で小学生にプログラミングを教えているのですが、ある程度使えるようになってくると、自分たちでいろいろと組み合わせて、独自のものをつくり出します。こういったところから得られる知見は非常に貴重な財産になると思います。さらにプログラミングスクールで学んだことを用いて、子どもが子どもにプログラミングサービスを提供する、C2Cプラットフォームをつくることができるのではないかと考えています。
embotの販売を成長させ、ビジネス的にまずは当初の目標である単年度黒字を何としても達成してビジネス基盤を安定させ、C2Cプラットフォームを実現させていきたいと思います。

アラカルト

■おしゃれなオープンカフェが応接室

オフィスは、習い事としてプログラミングスクールに通ってくれる子どもが多そうな、高級住宅街でもある代官山にあります。オフィスは社員が業務をする執務スペースとプログラミングスクールのスペースがあるのですが、境がありません。スクールが開催されないときはスクールスペースが会議卓になることもありますし、子どもの多いイベントがあるときは執務スペースがイベント会場になることもあります。また、オフィスには区切られた応接や会議室はありません。複数の会議が同時にある場合はウッドデッキにアウトドアデスクとチェアを置いてそこから遠隔で会議に参加したり、隣接するカフェで打ち合わせをしたりすることもあるとのことです。代官山の雰囲気といい、なんともおしゃれなオフィスです。

■デジタルな会社でアナログなイベント

リモートがメインのデジタルな会社のおしゃれなオフィスで、月に1回、チームメンバー全員でピザを食べながらアナログなボードゲーム大会を開催するそうです。ボードゲームが大好きで自宅に多くのゲームを持っているエンジニアが、一度会社にゲームを持ってきたことがきっかけで、それが非常に好評だったことから始まったそうです。アナログなボードゲームはモノ(用具)に触ることでゲームが進むので、「ものづくり」で普段からモノに触っているチームメンバーのレクとして相性がいいようです。ゲームは人間性が見えてくるという側面もあり、それゆえにメンバーとのコミュニケーションが取りやすくなり、和気あいあいとした雰囲気が漂っています。

■プログラミングスクールがいつの間にか工作場に

プログラミングスクールにはレーザカッターが設置されており、それを子どもたちが使いながら「ものづくり」を行うことができます。スクールが開催されていないときに、しばしばタカラトミーの開発担当の方が来訪されレーザカッターで試作に利用することもあります。時期によっては子どもたちよりも利用頻度が高いときもあり、大人と子どもの垣根のない「ものづくり」ができる素敵なスペースになっています。