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特集 主役登場

人と社会のWell-beingを可能にする研究開発の取り組み

Well-beingのための情報通信技術のデザインをめざして

赤堀 渉
NTT社会情報研究所
研究員

Well-beingは、人と情報通信技術のより良いかかわり方を議論するうえで、近年注目されている概念の1つです。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大による影響から、リモートワークが急速に普及しました。しかし、勤務形態の移行に伴う職場の同僚からのサポートの有無や仕事量の変化などが、従業員のWell-beingの悪化につながることが報告されています。このような背景から、現在、Well-beingに焦点を当てた情報通信技術のデザインが求められています。
私の所属するグループでは、Well-beingに焦点を当てた情報通信技術のデザインについて議論するだけでなく、「Well-beingとは何か。どのように測るか」という議論も行っています。この問いは長年議論されてきましたが、Well-beingが多様な側面を持つため、いまだに統一的な答えが出ていない難しい問いです。しかし、情報通信技術を研究開発している民間企業において、情報通信技術が人々や社会のWell-beingに及ぼす影響を深く考えることは、意義のあることだと私は考えています。
私はこれまで人々の支え合いの効果に関心を持ち、個人と集団の関係性に基づくWell-beingに焦点を当てて研究に取り組んできました。例えば、リモートワークが従業員のWell-beingに及ぼす影響を調査した研究では、リモートワーク時において、元々つながりのある同僚との関係性は強いまま維持されるものの、対話や接触の機会が少ない同僚との関係性はより希薄になり、関係性の二極化がWell-beingの低下につながる可能性を発見しました。そして、この結果に基づき、つながりの弱い同僚との関係性を強化するための情報通信技術のデザイン指針について議論しました。ただし、人と情報通信技術のかかわり方はさまざまで、その影響を評価する標準的な尺度が存在しないため、情報通信技術のデザイン指針を導き出すことは一般的に難しいことです。しかし、望ましいとされる結果を数量的に測定するような量的アプローチだけでなく、結果に至る過程を問うような探索的な特性を持つ質的アプローチも併せて行うことで、情報通信技術のデザイン指針を導いていくことに、私はやりがいを感じています。
Well-beingに関する研究は、主に心理学や社会学の分野において活発に議論されていますが、Well-beingのための情報通信技術のデザインをテーマにした研究はまだ多くありません。この要因として、例えば情報通信技術がユーザの持続的なWell-beingにもたらす影響を評価することの難しさが考えられます。今後は、こうした研究課題に向き合いながら、人々や社会のWell-beingに良い影響を与える情報通信技術をデザインできるように、着実に研究を進めていきたいと思います。