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トップインタビュー

新しいものはすべて「人」から生まれる。サービスやプロダクトの原点は「人」である

人材(People)を中核に据え、求められる能力を、サービス能力、技術能力、インテリジェンスとするNTTグループ。約90の国と地域で働く33万人の全社員が、お客さま、株主、地域、コミュニティ、社員など、あらゆるステークホルダーにとって価値ある存在として、オープン、グローバル、イノベーティブな新たなNTTへの自己変革を加速させています。2022年6月に就任した島田明代表取締役社長に、就任会見で発表された指針の詳細とトップとしての心得を伺いました。

NTT代表取締役社長
島田 明

PROFILE

1981年日本電信電話公社に入社。2007年NTT経営企画部門担当部長、2011年NTT東日本取締役、2012年NTT取締役総務部門長、2015年NTT常務取締役、2018年NTT代表取締役副社長を経て、2022年6月より現職。

変革に取り組み、お客さまに新たな体験と感動をお届けします

ご就任おめでとうございます。記者会見や取材と連日お忙しいことと思います。まずは、NTTの企業像について、ビジョンをお聞かせいただけますでしょうか。

就任会見でもお話させていただきましたが、まずは現在の事業環境を踏まえ「CX(Customer Ex­pe­rience)をEX(Employee Expe­rience)で創造する」ことに取り組みます。
世界各国の33万人のグループ全社員が、お客さまにフォーカスし、お客さまの新しい経験や新しい感動を創造していかなければなりません。そのため、経営陣は、これを遂行する全社員がワクワク感をもって働ける環境を整えていく必要があります。
私たちの事業はインフラ事業から始まり、現在ではソリューションやアプリケーションなども含め、さまざまな事業を展開しています。お客さまにとってはつながるのが当たり前の通信であり、空気のようになかなか目にとまりにくいものではありますが、社員がその仕事の重要性をよく理解して、日々、新しい技術や仕組みを導入し、日夜、安定的につなぐために懸命に保守点検をしています。私はこの日々の着実な努力がNTTの強みであると実感しています。
私はNTTの生み出すサービスやプロダクトのすべての原点は「人」だと考えています。サービスもプロダクトも自然発生的に生まれてくるのではなく、研究開発を担う社員、保守点検を担当する社員、コールセンタやショップでお客さまの対応をする社員等が、お客さまにご満足いただけるよう自らに課せられたミッションにおいて創意工夫をしながら努めることで生まれる、つまり「人」が生み出しているのです。

社員の皆さんの充実度が高まることで生まれるサービスやプロダクトに期待が高まりますね。

当然のことながら、私たちには競争事業者がいます。努力しても、お客さまを満足させることができなければ、ほかの企業に取って代わられてしまいます。そうならないためにも私たちの提供しているサービス、プロダクトによってお客さまが満足していらっしゃるかを常に確認する必要があります。常にお客さまの視点に立って、わずかであっても改善できることは改善する努力をしなければなりません。
一方で、新しいサービス、プロダクトによってお客さまを感動させることも必要であり、少し先を見据えたサービスも提供していけるように努めていきたいと考えています。そして、現状に満足することなく、変化する世の中にこたえるべく、新しいものを生み出すチャレンジをしていくことが大切です。
こうした努力を支える土台づくりや、努力する社員に報いることで士気を高めるためにも、努力して新たなスキルを獲得する社員を評価し、社員全体の専門性を高める仕組みづくりや働き方改革にも努めていきたいと考えています。
さて、リモート勤務について就任会見でお伝えしましたが、すでに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって多くの社員がリモート勤務を経験し、実施しています。社員アンケートでは、通勤の負担が軽減され、子育てをしている社員の満足度が向上していることが分かるなど、働き方に対する一定の効果は確認できました。
リモート勤務は、社員の仕事の内容、経験やスキル、生活環境はさまざまであることから社員の意思により実施するものです。とはいえ、仕事は1人でしているわけではなくチームで臨んでいるものが多くあります。状況に合わせてリモートと出社のハイブリッドで日々の業務に臨んでほしいと考えています。ただ、新入社員等は仕事を覚えることが重要なので、そのためにも出社して上司や仲間からの指導を受ける中で人間関係を築くことを心掛けてほしいと思います。

IOWNで電力使用量を削減し、カーボンニュートラルをめざす

社会貢献はNTTの代名詞ともとらえられています。これからさらに注力する取り組みを教えてください。

サステナブルな社会を創造するためさまざまな取り組みを展開していますが、特にエネルギー問題は重要な社会課題と考えており、それに対応するために、NTTグループは2040年にカーボンニュートラルをめざします。
インターネットやスマートフォン等の普及により、世の中の通信量は増加の一途をたどる中で、現在、私たちの情報通信事業では日本の商用消費電力の1%近くを消費しており、温室効果ガス排出量もその多くが電力消費に由来しています。
こうした背景から、私たちは、カーボンニュートラルの目標を日本政府の目標よりも10年前倒しで設定しました。「2040年に実現」という宣言は全社員、総力を挙げて取り組むという決意表明と考えてほしいと思います。これを実現するのがIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のオール光化による低消費電力化と再生可能エネルギーの開発です。

社会貢献と並んで、NTTの研究開発も社会から大いに期待されていると思います。IOWN構想はじめ、R&Dではさまざまな研究活動をしていらっしゃいますが、世界をけん引する、あるいはユニークな成果をお聞かせいただけますでしょうか。

代表的な例としてはIOWNの光電融合技術です。現在、伝送路や各装置の間を結ぶ配線には光ファイバが利用されていますが、それをさらに進めて装置内の各回路基板間、基板上のチップ等の各パーツ間、そして究極はチップ内の配線まで電気ではなく光で対応する技術です。これにより、低消費電力化や処理の高速化が実現します。時間のかかる話でもあり、まずは2025年までには基板間の光化を実現するつもりです。
さらに、皆さんにもなじみのあるAI(人工知能)や量子コンピュータ等、世界に誇るさまざまな研究成果を上げていますが、その中でユニークな成果といえば、昨年の世界的なスポーツイベントにおいて、日本女子ソフトボールの金メダルに貢献したスポーツ科学分野の研究です。世界大会での金メダルをめざして「脳を鍛えて、ソフトボールで勝つ」を実現するべく、対戦相手の投手の球質分析や、それに応じた変化球を投げられるピッチングマシンに投手の映像を組み合わせたバッティング練習システムを強化合宿で活用し、学術的な研究と並行して、実践的に取り組みました。
他に、多くの成果をNTT R&Dフォーラムにおいて紹介しているのですが、現状は年に一度の開催で、招待制でもあり限られた方々にしか成果を披露していません。さらに、研究成果なので、世の中に普及しているものではないため、一般の方々にとっては理解するのが難しいかもしれません。このため、私たちの研究成果をやさしく、分かりやすく解説して、さらに社会に発信していく必要があると考えています。NTTの技術力を改めて知ってもらうために、例えば、私が研究所を訪ねて、各分野の専門家、研究者と話をする様子をビデオに収めて配信しようかと検討しているところです。

米国で「情は人の為ならず」を実感

入社されてから社長に就任されるまでどのような道のりを歩んでこられたのでしょうか。現在のお立場を目標にされていたのですか。

私の年代の人は、新たに社会人となる多くの方が頂点をめざして企業に入社されたのではないでしょうか。とはいえ、熱い志はあっても現実味はないと思います。事実、私もそうでした。
私は1981年に電電公社に入社して、最初は電話局で営業から始めて、局外保守、局内保守など1年間の研修を経て、データ通信の部署における研修といった具合に、当時の主な業務を経験しました。
その後、本社計画局で収支計画の担当、幕張電報電話局の営業係長、経済企画庁(当時)への出向、本社人事企画係長、東海支社労働部企画課長などを経て、1995年にロンドンのNTTヨーロッパへ赴任しました。
当時はNTTが国際通信に進出するというタイミングでその準備にあたっていたのです。最初の国際回線は東京とロンドンの間で、当時のさくら銀行(現・三井住友銀行)のデータ通信回線が1997年9月18日に開通したのです。これがNTTにとっての初のグローバルネットワーク事業です。売上ほぼゼロからスタートしたグローバルビジネスが今や2兆円超に成長したことを思うと、グローバルビジネスに最初からかかわってきた者としては感慨深いですね。私が現在のポジションに至るまでには国内外、グループ内の約13の企業で勤務しました。引っ越しも13回です。
40年あまりの職業人生は決して良いことばかりではなく、大変だと思ったこともありました。例えば、買収した米国の企業が、ITバブルの崩壊で経営危機に瀕し、立て直しのために合理化を図らなくてはならない状況になったときのことです。当時、現地で勤務していたのですが、合理化方針に関しての意見がトップと合わなかったことから、日本の本社サイドから提案してもらいました。その後、原案を創ったことがばれて、トップとの関係が悪化してしまいました。仕事がやりにくくなったのですが、致し方ありません。
それからは日本へのプロダクトのOEM供給などで売上を伸ばすことに取り組み、いくつかの事業部長の信頼を獲得していき、徐々に仕事がやりやすくなっていったことを思い出します。
会社を100%買収したとしても、親会社の意見を100%聞いてくれるわけではないということやコミュニケーションの難しさを痛感するとともに、「情は人の為ならず」を実感できた経験です。

大変なご経験まで包み隠さずお話しくださりありがとうございます。こうしたご経験に裏打ちされたトップとしての信条をお聞かせいただけますか。

こうした経験からも多くの人がかかわる組織体は、「人」がプラスの方向に向かえるように、コミュニケーションを整えていくことが非常に重要だと思っています。NTTグループ33万人の社員とともに歩むリーダーとして、私は「人」を大切にしたいのです。リーダー1人では何もできません。会社という存在の魅力は「組織」であること、複数の人間が存在することです。組織であれば、かかわり合うことによって1人では乗り越えられないものを乗り越えられるのです。
その組織を、新しいアイデアを生み出せるように活性化するのがリーダーの役割で、そのためにはトップが偉そうに肩肘張って「私は社長だ」なんて態度ではダメです。それでは誰も話したがりません。自然体で、誰もが話しやすい存在でありたいと思います。
そして、上に立つ者にとっては「見出す」ことも仕事です。社内にはさまざまなアイデアを持っている人がいて、うまく見出されてないことがあるかもしれません。そのような人を見出すことが大切です。加えて、全く違う組織やスキルを持つ人をうまく組み合わせて新しいイノベーションを起こす、このような変革をしていくのもリーダーの仕事だと思います。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

※インタビューは距離を取りながら、アクリル板越しに行いました。

インタビューを終えて

全世界に900社以上、33万人の社員を抱え、世界中にICTサービスを提供するグローバル企業のトップとなられた島田社長。就任されたばかりでお忙しいはずなのに、インタビュー会場に到着されたときにはそんなそぶりは全く見えません。しかも、毎朝5時半には起きてウォーキングをし、公園や神社仏閣の静けさを楽しんでいるというのです。「すがすがしい気持ちになりますよね」と、微笑んで、頭の中を空っぽにする時間をつくっているとおっしゃいます。ところが、そんな貴重な時間でさえ、記者に待ち伏せをされることもあるそうですが、「私とは視点が違うから話すこと自体が勉強になります」と、島田社長はプラスに受け止めていらっしゃいました。
インタビューの間も終始穏やかに、時折、チャーミングな笑顔を見せて、話しやすい雰囲気を自ら醸してくださる島田社長。スタッフも私も、「自然体」「優しい」「人思い」という印象を持ったにもかかわらず、ご自身の自己分析では「話し方がゆっくりだから優しそうに見えるのではないでしょうか?」とのこと。実はイライラすることも多いとのことですが、就任会見で掲げられた「CXをEXから」という言葉に代表されるように、表情や言葉の端々に人を重んじる姿勢が溢れておられました。イライラと表現されたご心情は「変革への熱意」という言葉で置き換えられると確信したひと時でした。