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ITU世界電気通信開発会議(WTDC-22)の結果報告

2022年6月6日から16日にかけて、国際電気通信連合(ITU)の電気通信開発部門(ITU-D)の総会に相当する世界電気通信開発会議(WTDC-22)がキガリ(ルワンダ)で開催されました。ここでは同会議の概要と主な審議内容を紹介します。

大槻 芽美子(おおつき めみこ)†1/今中 秀郎(いまなか ひでお)†2※

NTTドコモ†1
NTTアドバンステクノロジ†2
※現、情報通信研究機構

はじめに

2022年6月6日から16日にかけて、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)電気通信開発部門(ITU-D)の総会である世界電気通信開発会議(WTDC:World Telecommunication Development Conference)22がキガリ(ルワンダ)で行われました(写真1)。同会議は当初、2021年11月にアディスアベバ(エチオピア)で開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により開催が延期され、さらにエチオピアで内戦が発生したことから開催地が急遽ルワンダに変更されることとなりました。WTDC-22には150カ国から、各国政府主管庁、起業家、学生等を含めた2152名(現地参加1304名、オンライン参加848名)が参加し、電気通信・ICTに関する開発途上国への展開に向けた将来計画が議論されました。日本からは、総務省、NTT、NTTドコモ、NTTアドバンステクノロジ、NEC、ソフトバンク、KDDI、日本ITU協会等から約40名が参加しました。

WTDCの位置付けと構成

WTDCは電気通信・ICTの最新動向を議論し、ITU-Dと電気通信開発局(BDT:Telecommunication Development Bureau)の活動計画と優先順位を決定する総会であり、4年ごとに開催されます。WTDC-22では、総会としての意思決定を行うプレナリ(PL: Plenary)の配下に5つの委員会(COM:Committee)および作業グループ全体会合(WG-PL:Working Group Plenary)を設置しました。COM1では会議運営、COM2では予算管理、COM3では目的(地域イニシアティブ、行動計画、研究課題および関連決議を含む)、COM4では作業方法、COM5では編集、WG-PLでは戦略計画および宣言が扱われ、また、それぞれの会合の下で詳細な検討が必要なものについては、アドホック会合や、決議に関するドラフティング会合が随時開催されました。なお、WTDC-22では、図のように議長、副議長が選出され、プレナリ議長にはホスト国であるルワンダのポーラ・インガビレICT・イノベーション大臣が任命されました。

主な議論と成果文書

WTDC-22は、ロシア連邦によるウクライナ侵攻からわずか3カ月余りで開催されたことから、非常に政治的な雰囲気の中で行われました。オープニング・セッションで、ウクライナはロシアの行動を非難し、WTDC-22およびITU-Dの議長・副議長職にロシアからの代表者を任命することに異議を唱える声明を発表しました。この声明は多くの国によって支持され、数日間にわたり加盟国の間で非公開の交渉が続きましたが、結果として妥協点を見出すことができず、第2週のプレナリで秘密投票を行うこととなりました(詳細は後述)。このほか、WTDC-22では215件の提案が議論され、2つの研究グループ(Study Group: SG)における14の課題と、28の地域イニシアティブと4件の新決議が承認されました。以下に主な議論と成果文書の内容を示します。

■キガリ宣言

キガリ宣言は、次会期(2022~2025年)の行動指針および基本認識を対外的に公表するITU-D最高位の文書です。電気通信・ICTはあらゆる経済分野の基盤であるものの、いまだ約29億人がインターネットに接続できない状況が続いていることを認識し、WTDC参加代表団は、デジタルインフラ、サービス、アプリケーションの拡大と利用、資金調達の動員、ブロードバンドインフラとアクセスへの投資を促進し、関係者間のパートナーシップを構築、災害と新型コロナウイルス感染症の影響を緊急に軽減し、環境・気候変動問題への取り組みを強化すること等を宣言しました。

■キガリ行動計画

キガリ行動計画は、WTDC-22で特定された優先事項を監視し達成するためのITU-Dの運営計画となるものであり、①安価な接続性、②デジタルトランスフォーメーション、③政策と規制の環境整備、④資源の動員と国際協力、⑤持続可能な開発のための包括的で安全な電気通信・ICTの5本の柱に整理されました。

■地域イニシアティブ

地域イニシアティブは、アフリカ、アラブ、米州、アジア太平洋、欧州、ロシアの6地域における、優先度の高い課題およびそれに対する活動について記述したものであり、各地域の準備会合にて作成された文書がそれぞれ採択されました。アジア太平洋地域の地域イニシアティブは、優先事項としてデジタルスキルの拡大や男女格差の縮小、弱者支援をこれまでのイニシアティブに追加しつつ、以下の5項目で構成されています。
① 後発開発途上国、太平洋島嶼国を含む小島嶼国、内陸国の特別なニーズへの対応
② デジタル経済とインクルーシブなデジタル社会を支える情報通信技術の活用
③ デジタル・コネクティビティの強化と未接続者をつなぐためのインフラ整備の促進
④ デジタルトランスフォーメーションを加速するためのイネイブリングな政策と規制環境
⑤ 安全で強靭なICT環境への貢献

■研究グループ(SG)の課題と議長・副議長

2022~2025年の研究会期にSG1およびSG2で扱う各課題については、議論の結果、表に示すようにまとめられました。またSG1とSG2の任務を見直し、SG1の任務を「有意義なコネクティビティを実現するための環境整備」、SG2の任務を「デジタルトランスフォーメーション」と決定しました。最終的な研究課題数は前会期同様の14のままとなりましたが、SG2の課題5として新たにデジタルスキルが追加されたこと、SG2の課題2のe-healthにe-educationが追加され、さらにSG1の課題3を統合しe-service全体を担当することとなったこと、防災ICTはSG2からSG1へ移管されたことなどが主な変更点として挙げられます。
会議では、新たな研究会期のTDAGおよびSGの議長・副議長の選出も行われ、SG1にはコートジボワール、SG2にはエジプト、TDAGには米国からそれぞれ議長が選出されました(写真2)。なお、日本からは副議長が2名選任され、当記事の筆者である大槻芽美子がSG1副議長、今中秀郎がSG2副議長に就任しました。
前述のとおり、ロシア代表はWTDC-22のCOM5(編集)のほか、TDAG、SG1、SG2それぞれに副議長候補を擁立しており、同4名の任命を承認するか否かがプレナリで議論されました。ガーナの提案により、秘密投票が実施されたところ、賛成23票、反対47票、棄権28票で否決されたため、ロシアの候補者は任命されないこととなりました。

■WTDC-22で審議された主な決議

(1)決議37:デジタルディバイドの解消*1
決議37の修正についてはAPTの提案により、デジタルディバイドの縮小手段としてHAPS(High Altitude Platform Station)への言及を追加することが提案されていました。これについては、各国より特定の技術の記載をすべきではないとの指摘がなされましたが、stratospheric serviceの一例としてHAPSが記載される結果となり、HAPSのデジタルディバイド解消への有用性が確認されました。また後述のOpen RANに関する情報提供を促進する内容についても追加されました。
(2)決議45:サイバーセキュリティ上の協力を強化するための仕組み*2
アラブおよびアフリカから、データ保護に関する既存の協力枠組み(GCA: Global Cybersecurity Agenda)について、ITUに情報を提供することを奨励する追記提案が出されたのに加え、欧州からも、サイバーセキュリティの脅威、脆弱性等の情報共有を奨励する旨の改訂提案が出されていました。日本は、米州等有志国と協調し、セキュリティ関連の情報は機密性が高いことから、たとえ拘束力がなくてもITUへの情報提供を決議に含めることには反対していました。アドホック会合で長時間審議された結果、妥協案として、GCAについては、キャパシティビルディングに関する記載のみに限定するとともに、情報提供については今会期SGの研究作業における情報収集に統合するかたちで合意しました。
(3)決議66:情報通信技術と気候変動*3
決議66に、「SMART海底通信ケーブル」という特定技術を記載する提案が欧州およびアフリカから出されていました。日本としては、決議はハイレベルな文書であるべきとして具体的な技術を記載することについて反対していたところ、審議の結果、一般的な記載「ケーブルによる海底のセンシング」とすることが採用されました。
(4)新決議:持続可能な開発に向けたデジタルトランスフォーメーション*4
アフリカおよびアラブ地域より、BDT局長に対して、キガリ行動計画に沿って途上国のデジタルトランスフォーメーションを促進することを指示する内容の新決議案が提出されていました。インフォーマルグループを構成しドラフティングを行い、特定の技術に関する記述を除くなどの調整をした結果、新決議として合意されました。
(5)新決議案:オープン無線アクセスネットワーク(Open RAN)の推進*5
WTSA-20に引き続き、Open RANの開発および実装に関する研究を行うことがアラブ地域より提案されていました。カナダ、スウェーデン、中国が、Open RANの標準化はITU-RおよびITU-Tでは行われていないこと、未成熟な技術であり提供できる情報がないこと、また特定の技術に関する決議を作成すべきではないことなどを懸念し、新決議に反対する一方で、アラブ、インド、ベトナム、アフリカ諸国がOpen RANはデジタルディバイドの解消に有用であるとして新決議作成を支持しました。米国を中心にドラフティングが進められましたが、先にSGにおけるさらなる研究の実施が必要であるとして、単体の新決議とはせず決議37 (デジタルディバイドの解消)に情報共有を促進する内容を挿入することで合意しました。
(6)新決議案:パンデミック対策のためのICTの利用*6
アジア太平洋地域、アラブ地域、ロシア地域がそれぞれ提案を出しており、日本からもパンデミックにおいてeHealthの協力を推進することを提案していました。しかし、WTSA-20において、パンデミック関連新決議は本年9月の全権委員会議〔PP(Plenipotentiary Conference)-22〕で議論を行うことに合意したことを受けて、非公式協議の結果、提案を取り下げることで合意し、今後、有志国によりPP-22への入力文書を準備することを検討するとされました。

*1 原題は“Bridging the digital divide”。
*2 原題は“ Mechanisms for enhancing cooperation on cybersecurity、 including countering and combating spam”。
*3 原題は“Information and communication technology and climate change”。
*4 原題は“Digital transformation for sustainable development”。
*5 原題は“Promotion of global development and adoption of Open Radio Access Networks”。
*6 原題は“Use of Information and Communication Technologies to Combat Pandemics”。

PP-22に向けた選挙活動

本年9月にブカレスト(ルーマニア)で開催されるPP-22では、理事国および事務総局長、事務総局次長、各部門の局長、無線通信規則委員会委員(RRB)の選挙が予定されています。WTDC-22では、同選挙に向けた支持要請のためのレセプションやコーヒーブレイクが連日開催されました。日本も理事国選挙およびNTTのCSSO(Chief Standardization Strategy Officer)である尾上誠蔵氏が立候補している電気通信標準化局長選挙への支持を要請するためにディナーレセプションを開催し、300名以上が参加しました。

おわりに

WTDC-22では、世界中の若者が参加するユースサミット、デジタル変革を共に推進するためのデジタル開発ラウンドテーブル、また女性のリーダーシップの機会を促進するためのNetwork of Womenなど、複数のサブイベントが期間中に併催され、先駆的なイニシアティブに対するITU-Dの熱意が十分に感じられる会議となりました(写真3)。これらのイベント開催により、実質的な審議は第4日目以降に始まったものの、オンライン出席者も平等に議論に参加できるよう配慮され、ほぼ予定どおりに審議が行われました。今会期は“Connecting the unconnected”を目標に、コネクティビティとデジタルトランスフォーメーションに注力するという方針が明確になったこともあり、ITU-Dによるより効果的な活動が期待されます。NTTグループとしては副議長のポストを2名確保したため、今後とも電気通信・情報通信技術の発展および開発途上国への展開に関する活動に積極的に取り組んでいきます。