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ITU全権委員会議(PP-22)の結果報告

2022年9月26日から10月14日にかけて、国際電気通信連合(ITU)の最高意思決定会議である全権委員会議(PP-22)がブカレスト(ルーマニア)で開催されました。ここでは同会議におけるITU幹部職および理事国選挙、ならびに主要議題の結果について紹介します。

大槻 芽美子(おおつき めみこ)†1/荒木 則幸(あらき のりゆき)†2
NTTドコモ†1
NTT研究企画部門†2

はじめに

2022年9月26日から10月14日にかけて、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の全権委員会議(PP-22)がブカレスト(ルーマニア)で開催されました(写真1、2)。同会議には193カ国から約2500名、日本からは柘植芳文総務副大臣および吉田博史総務審議官等を代表団長とし、政府、民間等から約90名が参加しました。

PPの位置付けと構成

PPは4年に1度開催されるITUの最高意思決定会議であり、全加盟国の代表等が参加し、次会期幹部等の選挙やPP決議等を審議します。PP-22では、総会としての意思決定を行うプレナリ(PL: Plenary)の配下に6つの委員会(COM:Committee)および作業グループ全体会合(WG-PL:Working Group Plenary)を設置しました。COM1では会議運営、COM2では信任状、COM3では予算統制、COM4では編集、COM5では政策・法的問題、COM6ではITUの組織運営、WG-PLでは公共政策が扱われ、また、それぞれの会合の下で詳細な検討が必要なものについては、アドホック会合や、決議に関するドラフティング会合が随時開催されました。なお、PP-22の議長にはホスト国であるルーマニアのサビン・サルマシュ氏(ルーマニア下院議会情報技術通信委員会委員長)が任命されました。

ITU幹部職および理事国選挙の結果

PP-22では2023~2026年会期のITU幹部職および理事国の選挙が行われ、日本から立候補した尾上誠蔵氏(NTT CSSO)が次期電気通信標準化局長に選出されました。任期は1期4年、最大で2期までとなります。電気通信標準化局長選挙には尾上氏のほか、トーマス・ツィルケ氏(ドイツ)およびビレル・ジャムシ現ITU電気通信標準化局職員(チュニジア)の計3名が立候補する中で、尾上氏が、1回目の投票で投票権を有するITU全権委員会議参加加盟国の過半数の得票を獲得し当選しました。同局長に日本人が選出されるのは初めてであり、 次世代通信ネットワークの標準化等を担うことが期待されています(写真3)。
PP-22では電気通信標準化局長のほか、事務総局長、事務総局次長、電気通信無線局長、電気通信開発局長、無線通信規則委員会(RRB)委員および理事国の選挙も行われ、次期事務総局長としてドリーン・ボグダン=マーティン氏(米国)が、次期事務総局次長としてトーマス・ラマナウスカス氏(リトアニア)が選出されました。また、次期電気通信無線局長には2期目再選となるマリオ・マニエウィッツ氏(ウルグアイ)が、次期電気通信開発局長にはコスマス・ザバザバ氏(ジンバブエ)がそれぞれ選出されました(写真4)。
次期理事国選挙においても、日本はE地域(アジア・太平洋州)(定数13)で立候補し、146票(有効票:180)を獲得し、当選しました。日本が理事国を務めるのは1959年以降13回連続となります。選挙結果の詳細については、PP-22ホームページの選挙結果(1)を参照ください。

主な議論と成果文書

PP-22では57件の決議および2つの決定が改訂され、1つの決議が削除され、6つの新決議が承認されました。以下に主な議論と成果文書の内容を示します。

■政策・法的事項

(1) 決議208: 研究グループ(SG)等議長・副議長等の任命および期間
日本提案を元に、SGおよび諮問委員会の議長・副議長の出席率を各セクターの総会に報告することが合意されました。ロシア地域は議長・副議長の任命について、各地域で合意した候補者をそのまま総会で承認するよう提案しましたが、欧米および日本の反対により反映されませんでした。なお、当記事の筆者である大槻芽美子が本決議を含むアドホック会合の議長を務めました。

(2) 新決議提案:産業界の参加
産業界からITUへの参加が減少していることへの懸念から、欧州・米州地域および豪州より、産業界によるITU活動への関与を強化するための新たな決議案が提出されていました。しかし「産業界」の定義について中国・アラブ・アフリカが対象の限定を主張したことから対立が解消せず、決議としての作成は見送られ、ITU活動に対する企業や組織の参加推奨を継続する勧告をプレナリのレポートに挿入することで合意されました。

(3) 新決議:軍用無線設備への規則適用
可能な限りでの規則遵守を認めるITU憲章48条は軍用無線設備のみに適用すること、誤用の疑いがあれば事務局が明確化を求めること等を含んだ新決議が作成されました。軍用無線設備の機密保持、本条適用解除後の情報提供の要否等について欧州等とアラブ・アフリカが対立しましたが、2023年世界無線通信会議(WRC-23)まで経過措置等を置くことで合意しました。

■管理・運営事項

(1) 決議71: ITU戦略計画
2024~27年戦略計画について、ビジョンおよびミッションの下に新しい戦略目標や優先事項等が設定されました。サイバーセキュリティを単独の優先事項としたいアラブ・アフリカと、分野横断的であるとして単独での優先事項とすることに反対する日米欧等が対立し、議論の結果、サイバーセキュリティは別の優先事項と統合することで合意されました。

(2) 決定5:財政計画
加盟国からの分担金は前会期より12と1/4単位増加したものの、パンデミックの影響による費用回収の減少等を加味し、2024~27年の財政計画については約652百万スイスフラン(日本円で約970億円、2020~23年から約8百万スイスフラン減)で合意されました。分担金の一単位は2006年より変更なく31万8千スイスフランとなりました。

■公共政策関連

(1) 決議130:サイバーセキュリティ
国連全体におけるサイバーセキュリティの議論においてITUの役割を高めるなど、ITUの活動を拡大することを提案したアラブ・アフリカ・ロシア地域と、ITUの活動はベストプラクティスの共有や能力開発等にとどめるべきとする欧米諸国が対立しました。また交渉の後半では、ITUグローバル・サイバーセキュリティ・アジェンダ(GCA)の見直しや改訂がもっとも大きな争点となりました。最終的に決議文中のGCAへの言及は削除することで合意に達しましたが、「ITU理事会はGCAとその将来的な精緻化の可能性に関する加盟国からの提案を検討する」という勧告がプレナリの報告書に記載されることとなりました。

(2) 決議139、新決議提案等:オープンRAN
ブラジルよりオープンRANの標準化を含む新決議提案、アラブ地域よりオープンRANに関する記載を複数の決議に入れ込む提案が提出されていましたが、重複等の観点から欧米・カナダ等が反対した結果、デジタルデバイド解消を目的とした決議139に、オープンRANなどの活動推進・情報共有を行うことを記載することで合意されました。

(3) 決議206:OTT (Over The Top)
決議 206に関しては米州地域より「変更なし」の提案、アフリカ地域より、OTT企業がインフラ整備に財政的に貢献することを奨励するとともに、事務総局長に対し途上国のOTT向け規制枠組みの確立を支援するよう指示する新たな文章が提案されていました。アドホックでの議論において欧米が変更に妥協する歩み寄りを見せたものの、修文の内容に最後まで合意が得られなかったことから、結果として修正は行われませんでした。

(4) 新決議:人工知能(AI)
前回(2018年)のPPで否決されたAI(人工知能)に関し、新決議の採択を求める2件の提案が提出されていました。アフリカ地域はSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた発展途上国におけるAI導入の必要性を強調しましたが、議論の結果、ITUのマンデートおよびコアコンピタンスの範囲内で既存のAIに関する作業を継続し、他の国連機関との連携を継続すること等を記載した欧州地域提案を反映し、決議のタイトルもこれを反映した「人工知能(AI)技術と電気通信/ICT」とすることに合意しました。

(5) 新決議:パンデミック対策におけるICTの役割
複数地域からパンデミック対策に関するICTおよびITUの役割に関する新決議提案があり、ITUのマンデートの範囲内で世界保健機関(WHO)およびその他の機関・組織と連携することや、電気通信/ICTの展開と利用を可能とするプロジェクト等を支援することなどの内容を含んだ新決議が作成されました。

■その他

来会期の主要会議の開催国として、2024年世界電気通信標準化総会(WTSA-24)にインド、2025年世界電気通信開発会議(WTDC-25)にタイ、2026年全権委員会議(PP-26)にカタールがそれぞれ立候補し、承認されました。また、2027年無線通信総会および世界無線通信会議(RA/WRC-27)はルワンダが開催の意向を表明しました。正確な場所と日程は今後の理事会において決定されます。

おわりに

PP-22は新型コロナウイルス感染症やロシアのウクライナ侵攻等の影響により緊張感を伴って開催されましたが、各地域での準備会合や地域間調整がオンラインも含めたかたちで予定どおりに行われたこと、会議本番では複数の決議提案をパッケージ化したうえでアドホック会合において議論したことなどにより、非常に効率的に進行され、実りの多い会議となりました。選挙においては、日本が1959年以降13回連続で理事国に選出されるとともに、電気通信標準化局長候補として擁立した尾上誠蔵氏が1回目の投票で過半数を得て選出されるという喜ばしい結果となりました(写真5)。今回の会議で選出された新執行部は、2023年1月1日からそれぞれの職に就任しています。2023年以降もRA/WRC、WTSA、WTDCなど重要な会議が毎年予定されていることから、NTTグループとしても、引き続きITUにおけるプレゼンスの向上に尽力し、電気通信・情報通信技術の発展および世界への展開に関する活動に積極的に取り組んでいきます。

■参考文献
(1) https://pp22.itu.int/en/elections/elections-results/