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特集 主役登場

新たなライフスタイル「リモートワールド」の実現に向けた研究開発

リモートワールド時代の心躍るエンタテインメント体験を夢見て

井元 麻衣子
NTT人間情報研究所
主任研究員

エンタテインメントを私なりに語源(ラテン語のinterとtenere)から解釈すると、「人の心をつかんで離さないこと・モノ」です。皆様が心を揺さぶられるのはどんなときでしょうか。私は劇場で演劇やミュージカルを観るとき、繊細な表情や超越した歌声の素晴らしさ、輝きの裏に隠れた努力に毎回胸を震わせます。
2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの日常を一変させました。さまざまな行動が制限される中で、エンタテインメントにおいては、コンサートや演劇、スポーツ等のイベントが開催中止や無観客での開催を余儀なくされました。そのような状況下で、クリエイティブな演出や最新テクノロジを活用したオンライン配信が数多く行われるようになりました。コロナ禍にオンライン配信を体験した方も多くいらっしゃるのではないかと思います。オンライン配信の広がりは、参加の手軽さ等のメリットを感じさせる一方で、私たちにオンライン配信におけるライブ感や会場・スタジアム独特の雰囲気の喪失、リアルが持つ魅力を改めて実感させ、リアルへの渇望を増幅させたのではないでしょうか。
NTTが実現をめざすリモートワールド(分散型社会)において、リアル(実世界)とオンライン(リモート世界)の融合が進んでいくとき、自宅等の分散した小規模な環境でエンタテインメントを体験する機会が増えていくだろうと考えています。そのような未来を想像するとき、これまでリアル至上主義であったエンタテインメントに対して、私たちはテクノロジの力で、どのような心をつかまれる新しい体験を創出できるのか、新しい未来を創造すべく日々思考しています。
私たちヒトは実世界で瞬間的にさまざまなモノ、例えばその場の雰囲気や周囲のヒトの存在感をするどく感じ取っています。劇場では、隣の人が笑ったのにつられて自分もつい笑ってしまったり、手拍子のタイミングがそろったかと思えば一斉に止んだりします。また、その人の過去の経験や感性によっても感じ取るモノやその程度は異なると思います。リモート世界で何をどのように再現できたら一体感や高揚感の同期が生まれるのか、はたまた、実世界以上の体験としてどのような体験を創出できるのか、ヒトの理解や、認知科学、HCI(Human-Computer Interaction)への探求心が私の研究活動の原動力です。
私たちがめざす世界の実現に向けて、解決しなければならない課題はたくさんあります。しかし、リモートワールドが物理的な制約を解放し、エンタテインメント体験がより身近でリッチなものになれば、ヒトの感性はより研ぎ澄まされ豊かになっていくはずです。そのような未来を思い描きながら、NTTグループのさまざまな事業へ貢献できる技術の創出をめざし奮励努力を重ねていきます。