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テクニカルソリューション

光ファイバ伝送路の状態を効率的に分析する光試験データ解析ツール

光ファイバ伝送路は、敷設された環境条件からさまざまな影響を受け、伝送損失や反射等の伝送特性が変化することがあり、その度合いによっては通信品質を担保できないことがあります。一般的に、光ファイバ伝送路の状態把握には、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)を用いた測定が行われますが、データの分析には多大な稼働を要していました。そこで、NTT東日本技術協力センタでは、取得したデータから簡単に光ファイバ伝送路の状態分析が可能なツールを開発しました。ここでは、その概要と機能等について紹介します。

光ファイバ伝送路の状態分析

光ファイバ伝送路は、情報通信サービスのみならずさまざまな社会活動を支える社会基盤として全国各地に敷設されています。光ファイバ伝送路は、市街地や山間部の地上や地下に敷設されているため、周囲の環境条件は敷設場所によって異なり、その影響を受けることになります。例えば、地下区間においては湿潤環境にさらされ、架空区間においては振動、温度変化等による曲げが発生することが考えられます。このような影響は、ケーブル区間の伝送損失や接続点の反射として現れることが多いため、光ファイバ伝送路を正常な状態に保つためには、定期的に試験を行い、状態を把握することが重要です(1)
光ファイバ伝送路の状態把握には、一般的にOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)が用いられます。OTDRは、試験光としてパルス光を光ファイバに入射し、入射方向に対して後方に伝搬する散乱光や反射光を検出する測定法です。散乱光や反射光が受光されるまでの時間は光ファイバ長手方向の距離に比例するため、散乱光や反射光の強度を時間の関数として取得することで、光ファイバ伝送路の距離に沿った状態を推定することができます(2)
OTDRの測定結果例を図1に示します。光ファイバ中の光強度は距離に対して指数関数的に減少するため、縦軸を受光強度の対数表示、横軸を距離としてOTDR測定波形を表示すると、測定波形は右肩下がりの波形となり、光ファイバの伝送損失はOTDR測定波形の傾きから算出することができます。また接続点では、光ファイバどうしの突合せ部のわずかな隙間等による反射により、図1に示すコネクタ接続部のようなスパイク状の波形が確認できます。接続点の損失はスパイク前後の散乱光強度差から推定することができ、反射の強さはスパイクの高さに基づく計算(2)により反射減衰量*1として算出することができます。

*1 反射減衰量:反射率(入射光に対する反射光の強度比)の逆数を対数表示したもの。反射率が大きいと反射減衰量は小さくなります。

従来のデータ解析における課題

従来の損失および反射の評価方法では、作業者がOTDR波形上の解析したい個所に手動で複数の解析用マーカーを置き、マーカー間で解析された損失の変化や傾きを各個所で評価していました。そのため、マーカーの配置によって値のばらつきが生じる可能性があり、評価者に一定の経験とスキルが求められました。また、解析作業はケーブル区間や接続点が多くなるほど解析対象個所が増加し、さらに1心を複数波長で測定したデータを解析する場合は、波長の数だけ手間と時間が倍増するため、手作業での処理には膨大な稼働が必要でした。

光試験データ解析ツールの概要

NTT東日本技術協力センタが開発した「光試験データ解析ツール」の概要を図2に示します。本ツールは複数のOTDR測定データを一括で読み込み、自動で分析を行います。分析機能として、2つの機能があります。
①ケーブル区間の状態分析
②接続点の統計的状態分析
以下にそれぞれの機能について簡単に述べていきます。

■ケーブル区間の状態分析

OTDRの測定データを読み込み、ツールに設定した任意の区間幅・しきい値で伝送損失の解析を自動で実行します。解析は複数の心線および波長の測定データに対し一括で実施するため、従来の手作業による解析では困難であった膨大なデータに対しても、短時間で解析することができます。
解析結果は設定した区間幅ごとの一覧表として表示するほか、ケーブル上の任意の距離における波長ごとの損失を表すグラフとして表示することが可能です。正常な光ケーブルの場合、伝送損失は、図3(a)に示すように波長1550nm付近の損失が最小となり、一般的に約0.2dB/kmとなります。一方、マイクロベンディング等の損失*2が生じている場合には、図3(b)に示すように、長波長側で損失が大きくなる右肩上がりのグラフとなります。それ以外の形状のグラフで、なおかつ損失値が大きい場合は、マイクロベンディング以外(製造、施工等)の不良が疑われます。このように波長ごとの損失を可視化することで、損失の発生要因の推定が可能となります。

*2 マイクロベンディング等の損失:敷設環境に依存した経年変化で生じる損失の一種であり、光ファイバ被覆内に発生した水泡等による微小な応力が光ファイバ長手方向に連続的に生じることによる損失。

■接続点の統計的状態分析

接続点に対応する局所的な損失個所と反射個所はOTDRの測定データに記録されています。本ツールは記録された複数の損失個所・反射個所について、波長ごとの損失量、損失差および実効反射減衰量*3を計算します。解析結果は任意の損失個所・反射個所について、各心線の結果一覧および図4のような損失や反射減衰量ごとの心線数の分布を示すヒストグラムとして表示します。正常な接続点では、損失量は小さく波長ごとの損失量はほぼ同じ値をとるため、図4(a)および図4(b)のように、損失量と損失差のヒストグラムで横軸の値の小さい領域に多くの心線が分布します。
一方、曲げ等の異常がある場合は、損失量が大きくなり波長によって異なる値をとるため、図4(d)および図4(e)のように、正常な場合に比べて横軸の値の大きい領域に心線が分布するヒストグラムになります。また、コネクタ接続ではわずかな隙間により反射が発生しますが、正常であれば反射量が小さく実効反射減衰量は大きい値をとるため、図4(c)のように実効反射減衰量のヒストグラムで横軸の値の大きい領域に多くの心線が分布します。
一方、接続不良等の異常がある場合は、反射が大きくなることで実効反射減衰量が小さくなるため、図4(f)のように正常な場合に比べて横軸の値の小さい領域に心線が分布するヒストグラムになります。このように、単に接続1点の状態だけでなく、任意のクロージャ等に収容された接続点の損失と反射について複数心線トータルでの状態として可視化・把握することで、劣化の進んだ設備を優先的に更改する等、効率的な更改計画の策定に役立てることが可能です。

*3 実効反射減衰量:複数波長の反射率の平均値の逆数を対数表示したもの(4)。複数波長で反射率が大きいと実効反射減衰量は小さくなります。

今後の展望

ここでは、光ファイバ伝送路の現在の状態分析を効率化する「光試験データ解析ツール」について紹介しました。本ツールを用いることで、さまざまな場所に敷設される光ファイバ伝送路のメンテナンス作業の効率化に貢献できると考えています。現在、本ツールは技術協力センタから保守部門に貸与しているほか、当センタの技術支援活動の中で活用しています。今後は、過去の測定データの分析による将来の状態予測の実現も視野に入れて検討を進めていきます。
NTT東日本技術協力センタでは、55年以上にわたり技術協力活動を行ってきました。引き続き全国の現場で生じる難解な故障の解決に向けた技術支援を行いながら、技術支援で得たノウハウや知見等を蓄積・活用し、現場の技術力向上や効率化に貢献するようなツール等の開発を行っていきます。

■参考文献
(1) テクニカルソリューション:“被災した光ケーブルの信頼性評価技術,” NTT技術ジャーナル,Vol.17, No.10,pp.74-75,2005.
(2) テクニカルソリューション:“光ファイバ故障時における探索方法,” NTT技術ジャーナル,Vol.18, No.10,pp.53-54,2006.
(3) 技術基礎講座: “光ファイバケーブルの損失を簡単に評価可能なツールの開発,” Raisers, Vol.69,No.5,2021.
(4) A. Nakamura, N. Honda, and H. Oshida:“Simple Technique for assessing soundness of MT connector using multi-wavelength OTDR,” Optical Fiber Technology, Vol.63,102490, pp.1-6,2021.

問い合わせ先

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