グループ企業探訪
数理系のエンジニアがお客さまや社会の課題を解決する専門家集団
NTTデータ数理システムは、数理最適化、科学技術計算・シミュレーション、アナリティクス・AIを駆使して企業の課題解決に貢献している専門家集団の会社だ。データサイエンティスト等を中心にエンジニア不足が表面化する中、約100名の数理系エンジニアを擁し、DX推進や環境問題等の社会課題解決、そして将来的なグローバル展開に向けた思いを箱守聰社長に伺った。
NTTデータ数理システム 箱守聰社長
数理最適化、科学技術計算・シミュレーション、アナリティクス・AIに関するパッケージやコンサルティングを提供
◆設立の背景と会社概要について教えてください。
NTTデータ数理システムは、半導体CADや科学技術計算一般を主たる事業として1982年4月に設立された株式会社数理システムを母体とし、2012年2月にNTTデータグループの一員となり、2013年9月に現在の社名となりました。
NTTデータグループの会社ではありますが、SIerではなく、データマイニング、機械学習、数理最適化、シミュレーション、科学技術計算など、数理科学とコンピュータサイエンスを駆使して問題解決していくという専門家集団で、約120名の社員のうち約100名が技術者です。現在、データサイエンティストやデータアナリストの不足が言われていますが、当社は数学、物理、情報工学専攻の修士もしくは博士を中心に新卒採用し、社内で数理系エンジニアやデータサイエンティスト、データアナリストとして育成しており、時代の最先端を行く人材を擁する会社です。
◆どのような事業をしているのでしょうか。
数理最適化、科学技術計算・シミュレーションについては、過去から継続して当社の事業の基礎をなす分野で堅調に事業が拡大している中で、アナリティクス・AIといった比較的新しい分野の事業が最近際立って伸びてきています。これらの分野において、プロダクト事業とコンサル受託開発事業の2つの事業を展開しています(図)。
プロダクト事業では、数理科学を駆使し、データ分析や数理最適化、シミュレーションを行うソフトウェアパッケージ製品を自社開発して、販売しています。会社設立以降一貫して提供している数理最適化をはじめ、AIの基本技術である機械学習や統計解析、自然言語処理、データ分析、シミュレーションといったパッケージ製品を、こうした技術のニーズの高まりに合わせて提供してきました。
コンサル受託開発事業では、画像認識やマーケティング分析・異常検知・予測、スケジューリングといった今まさに世の中で注目されているような分野を中心に、プロダクトのパッケージ単体では解決できないお客さま個別の課題に対して、私たちの技術を使い対応しています。
2つの事業の具体的な事例として、株式会社ぐるなび様、横河電機株式会社様、株式会社パルコ様の「マーケティングにおけるテキストマイニングやデータ分析」、大阪ガス株式会社様、東日本旅客鉄道株式会社様の「勤務シフト管理ツール」、NTTデータの「道路交通や航空管制のシミュレーション」、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の「テーマパークにおける人流シミュレーション」、東京ガス株式会社様、株式会社明電舎様、横河電機株式会社様の「エネルギー関連の最適設計・計画システム」、ネットロック株式会社様、株式会社カネカ様における「物流や配車計画の最適化システム」等、数1000以上、年間約400社の実績があります。当社は、各社のビジネスのみならず、渋滞解消、省エネ、CO2削減といった社会課題解決にも貢献しています。
データサイエンティスト等を中心としたエンジニア不足の今こそがチャンス
◆データサイエンティストやデータアナリストの不足が言われている中、市場はどのような状況にあるのでしょうか。
お客さまのご要望は基本的に問題解決であり、その典型的な例として、業務効率化等を目的とした数理最適化やシミュレーションに関する需要は以前から根強くありました。それに加えて最近では、デジタルトランスフォーメーション(DX)や効果的なマーケティングが注目されるようになり、その手段としてビッグデータや統計解析のようなアナリティクス、機械学習に代表されるAIに関する需要が大きく伸びてきています。
こうした需要に対応していくためには、数理系のエンジニア、データサイエンティスト、データアナリストといったエンジニアが必要になるのですが、ご存じのとおり日本においてはかなり不足しているのが現状です。
一般的にソリューションを提供しているSIerや、パッケージ製品の開発ベンダ、企業のシステム部門では、データアナリティクスのスキルよりもシステム構築のスキルに重きが置かれるため、データアナリティクスのエンジニアがいない、もしくは少数というのが現状です。
一方で、10数名のエンジニアを擁してデータ解析等特定の分野で事業展開しているベンチャー企業も何社かあるものの、約100名のエンジニアで数理最適化、シミュレーション、アナリティクス、AIといった幅広い分野で長期にわたる実績のある会社は、当社のほかにはすぐに思いつきません。
当社のプロダクトやサービスは、お客さまへ当社が直接提供するほか、パートナー会社のプロダクトやソリューションと連携してお客さまに提供しておりますが、需要の伸び、エンジニア不足、競合不在といった非常に恵まれた環境にあることも影響し、多くのお客さまやパートナーからお声掛けをいただき、対応を少しお待ちいただくこともあるほどの有り難い状況です。また、NTTデータグループ以外とのお付き合いが約80%あり、グループ内外で当社を認識していただけていると感じています。
◆今後の展望についてお聞かせください。
過去からの実績もあり当社事業の基盤の1つでもある数理最適化の分野は、現在着実に伸びていますが、より強固な基盤としていくためには、まだまだこの技術の認知度が低いと考えています。数理最適化の効用には、最近注目を集めているDX推進、効率的なエネルギー管理、CO2削減といったものがあり、グリーンやSDGsでの課題解決には必須の技術です。これらの事例を可能な限り公開し、訴求していくことで、認知度向上を図っていきます。
一方、AI、アナリティクスの分野は現在まさに市場が拡大中であり、技術の進歩も非常に速い領域です。こうした市場特性から、多くの注目を集めて競争環境も厳しくなり、いわゆるレッドオーシャンになることは容易に想像がつきます。これに対しては重点的にリソースシフトをかけていくことで、エンジニア不足で足踏みしている周囲に対して、1歩でも2歩でも先行して市場獲得していくつもりです。
また、アナリティクスの分野として、2021年にリリースした「Alkano」という次世代データ分析プラットフォームプロダクトの販売にも注力していきます。Alkanoは2000年代にリリースした「VMS」というデータマイニングプロダクトをベースに、約20年にわたる実績・経験、ノウハウを取り込んで進化させたデータ分析プラットフォームです。当面、Alkanoを主力プロダクトとして販売強化していきます。
そして、市場環境が良好な現段階で力を蓄えて、将来的には、当社としても実績豊富な数理最適化を中心に、グローバル展開も視野に入れていきたいと考えています。
担当者に聞く
「データから学ぶ」のではなく 「現実をモデリングする」ことで 真の最適化をめざす数理最適化
数理計画部 部長
多田 明功さん
◆担当されている業務について教えてください。
数理計画部は、数理最適化に関する国産唯一のソルバー(計算エンジン)を有する、汎用数理最適化パッケージ「Nuorium Optimizer」の開発・販売、および数理最適化技術を利用したコンサルティングやシステム開発を主な業務とする部署です。
数理最適化とは、お客さまの課題解決を目的として、その実現のために考えられる多くの手段の中から一定のルールの範囲内で最適なものを選び出すプロセスです。このプロセスを実行していくうえで、何を変えるかという「変数」、何の値を最大化(最小化)するかという「目的関数」、満たすべき条件としての「制約条件」の3要素がキーファクターとなります。例えば製品製造の場合、コスト、設備稼働率、作業平準化、廃棄量等が目的関数となり、生産量、製造順序、人員配置、在庫量等が変数に、需要、設備やライン等の資源、生産能力、必要人数、スキル等が制約条件になります。コスト最小化を目的関数とすれば、与えられた制約条件の中で、その目的を達成するための最適な変数が導かれます。
このアプローチは、機械学習と似ているのですが、全く異なるものです。機械学習のアプローチは、過去の「データから学ぶ」もので、選び出されたその結果は「確率的に最適に近しい」ものです。一方で、数理最適化のアプローチは「現実をモデリングする」もので、モデルで定義された制約条件を満たしながら変数を変化させることでその結果が最小(最大)となるパターンを選び出すことであり、その結果は「真に最適な」ものとなります。
数理最適化は、コスト削減や売上・効果の増大といった効率化向上のための計画立案や、熟練者のノウハウを抽出してモデル化することでプロセスの自動化や標準化を図ることが可能となります。こういった特性をうまく組み合わせて導出された結果を業務に適用することは、まさに業務のデジタル化そのものであり、改革にも結び付いていきます。具体例として、ある運輸会社でのトラック等による配送ルート最適化においては、単なるコスト削減だけではなく6%のCO2削減という副次的効果も出ています。また、ある電力会社では、電力の安定供給とコスト削減という二律背反するような課題を、数理最適化により需給調整することで解決しています。
ちょっと変わった事例としては、公益社団法人日本将棋連盟様の例があります。奨励会員どうしの対戦表を作成するのに数理最適化を導入し、熟練の技が必要であった複雑な考慮条件をクリアしながらも、これまで人手で1日2時間半かかっていた対戦表作成作業がほぼ瞬時にこなせるようになりました。
◆どのような点にご苦労されていますか。
数理最適化を実務に適用する際には、お客さまからのヒアリングと、それを基にした算出結果に対するお客さま側の納得感が重要になります。したがって、数理最適化によりお客さまの課題を解決する際には、お客さまと議論を重ねともに推進していく、という点に注力しています。
導入を進めるにあたって、ヒアリングによりモデル化を行うのですが、実はほとんどの場合初期の段階では7〜8割程度の条件しかヒアリングできません。この状態で数理最適化の計算を行うと、必ずしもお客さまに納得いただける結果が出てきません。場合によっては感覚的に理解できない、といった評価をいただくこともあります。実際、残りの2〜3割のところに暗黙知を始めとしたキーとなる重要な条件が存在していることが多く、それを見つけるためにさらにヒアリングを繰り返すことで、最終的にはお客さまに納得いただける結果を導き出せるモデル化が実現できます。
また、この導き出した結果を現場に適用させる段階では、それぞれの現場の事情が表面化することで、部分最適な傾向が出てくるケースも存在します。お客さまの協力を得ながら全体最適化を図っていくことにより、数理最適化の実務への適用を実現しています。
◆今後の展望について教えてください。
数理最適化の認知度がまだまだ低いことが課題です。専門家の間では当社の数理最適化技術には高い評価をいただいておりますので、この評価も含め、数理最適化の力をさまざまなところでアピールしていきたいと思います。最近はエネルギー関連やCO2削減といった環境関連が社会課題として注目を浴びており、数理最適化技術はこのような分野においての課題解決にも非常に有効です。こうした社会貢献や専門家の評価を訴求していくことで、当社の実績をさらに増やして認知度向上を図ります。
また、数理最適化の導入はお客さまのデジタル化に貢献するものであり、それをきっかけとしてお客さまの企業内の変革や、新サービス展開といったDXの推進にもつなげていきたいと考えています。
現在は、こうした活動を国内企業中心に展開していますが、製造系やエネルギー系等グローバル企業のお客さまとの連携により海外展開も視野に入れた活動もしたいと考えています。
ア・ラ・カルト
■日本を代表する専門家集団
約100名の数学、物理、情報工学専攻の修士卒もしくは博士卒を中心としたエンジニアがお客さまのためにアウトプットを出すことがビジネスなのですが、その傍らで研究開発の活動もしており、国内外の学会で発表をするほど成果も出ているそうです。また、海外の研究所へもエンジニアを派遣し、技術交流をすることでそれぞれの技術のブラッシュアップを図っている例もあり、まさにこの分野で日本を代表するような技術者集団です。そして、こうした成果をお客さまに提供してこそ「真の成果」という意識が強くなるそうです。
■広々と開放感あるオフィス
以前よりリモートワークに取り組んでいましたが、コロナ禍がきっかけでリモートワークが定着し、今では総務等の共通業務を除いて出社率は10%程度とのことです。全員分のデスクが必要なくなってきたので、フロア中心に緑色のカーペットを敷いて広めの導線を確保したうえで、今まで個別のブースがあったところを、休憩コーナー、打合せコーナーも含めてオフィス全体をフリーアドレスに変えたそうです。広々とした明るいスペースに、フリーアドレスならではの開放感を感じます。この先、コロナ感染状況が落ち着いてきたときにはフリーアドレスを活用した社員交流を図っていきたいそうです。
■バーチャル社員旅行
コロナ禍で忘年会、新入社員歓迎会等のイベントはオンラインとなりました。その中で、以前は2年に1回のペースで行っていた社員旅行をバーチャルで行ったそうです。参加者はヘッドマウントディスプレイを装着してVR(Virtual Reality)でホノルル観光という企画です。VRとはいえ海外への社員旅行ということで、「旅行のしおり」までつくったとのことです。想定よりも多くの社員が参加したことにより、システムトラブルも発生したようですが、リアルな「旅行のしおり」を前にそれなりの雰囲気は感じることができたのかもしれません。それゆえに次回に向けた意気込みは並々なものではないそうです。