特集 主役登場
社会を変える通信基盤をめざして
伊達 拓紀
NTTネットワークイノベーションセンタ
主任研究員
私が情報通信技術の研究者となることを選んだのは、人・モノをつなぐ情報通信技術がこれからの社会にはなくてはならないものであり、その重要性はますます増えていくだろうと考え、その発展に携わり、社会に貢献したいと思ったからです。あれから10年以上経った今、人・モノが通信するデータ量(通信トラフィック)は莫大に増え、社会におけるその重要性はその通信トラフィック以上に大きく増しているといっても過言ではないと思います。
今、私が研究開発に携わっている光伝送ネットワークは、大容量・長距離の安定した通信を実現し、基盤としてさまざまな通信サービスを支える情報通信の根幹ともいえる存在です。デジタルトランスフォーメーション(DX)、IoT(Internet of Things)の進展、5G(第5世代移動通信システム)の普及、ますます進むリモート化によって、今後も莫大に増え続ける通信トラフィックに対応するために、この光伝送ネットワークがより大容量の通信を行えるようにしていく必要があります。一方で、大容量化していくだけではなく、同時にその構築、保守の運用を行いやすいように高度化していくことも同じくらい重要であると考えています。
私は、NTTグループ会社において、光伝送ネットワークを構成する新しい光伝送システムの導入、構築・保守の運用支援に数年間携わりました。このときに、多くの構築・保守のスペシャリストが光伝送ネットワークを支えていることを実感しました。同時に、このスペシャリストの方々の力をもっと活かせるような技術を取り入れていければ、より迅速に構築し、より安定した通信基盤を実現できるのではないかとも感じました。これまでも蓄積されてきている運用の知識・ノウハウが光伝送システムそれ自体にも蓄積され、より活用しやすくすることがまた新たな知識・ノウハウにつながっていくような環境が実現できれば、通信基盤のあり方に変化をもたらせるかもしれない、この実現に貢献する技術に取り組みたいと考えるようになりました。
大容量のトラフィックを運ぶ光伝送ネットワークは、どうしても故障時の影響が大きくなることから、早期の故障復旧を実現し、安定した通信基盤が実現できるよう、まず保守の高度化に着目しています。きめ細かく収集した監視データの蓄積と解析、データの変動パターンと保守対応方法・結果を紐付けたフィードバックの活用による解析精度向上から、故障の予兆段階から部位を特定可能とすることで、故障発生時の即時交換、さらには事前対応による故障自体の回避を実現することめざして研究開発に取り組んでいます。
光伝送システムの運用高度化の実現には、研究開発の段階から光伝送システムを実際に扱うメンバと密に連携することが重要であると考えています。また当然、光伝送システムのつくり、システムを構成するさまざまな革新デバイスへの理解も不可欠であり、各デバイスの研究開発に取り組むメンバとの連携も重要です。これからも、光伝送ネットワークに携わる多くの方々と協力し、通信基盤を支えるだけでなく、少しでも新しい変化をもたらし、より良い社会につなげていけるよう研究開発に尽力していきます。