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表面的事象に惑わされることなく、本質に迫る ―― 西日本スピリッツで新たな価値創造

IoT、ビッグデータ、AI等をはじめとするデータ活用に関するICTは、我が国の持続的な発展のカギを握ります。地域経済への貢献、地域課題の解決や地域の魅力向上をかんがみたとき、多種多様なマーケットを擁するNTT西日本の知見はどのように活かされるのか、各地で展開する革新的な取り組みと展望を上原一郎NTT西日本代表取締役副社長に伺いました。

上原 一郎 NTT西日本 代表取締役副社長

PROFILE

1988年NTTに入社。2013年NTTネオメイト代表取締役社長、2017年NTT西日本取締役ビジネス営業本部長、NTTビジネスソリューションズ代表取締役社長を経て、2019年7月より現職。

多種多様な地域の魅力を引き出し、地域の課題解決に取り組む

NTT西日本グループの現状をお聞かせ願えますか。

昨年度来、台風をはじめとした自然災害に見舞われることが多く、NTT東日本・西日本ともに対応に追われることが続いています。これに全力で取り組んできた関係各位のご尽力に感謝申し上げます。NTT西日本グループではこうした災害対応にかかる経費は増加していますが、社員の皆さんの頑張りによって2018年度は計画を上回る1183億円の利益を確保できました。しかし、残念ながら売上は前年比317億円の減収となりました。NTT西日本は今年で設立20周年になりましたが、設立当初から減収が続いています。これを増収基調に転換を図るべく2018年秋に中期経営計画を立て、2025年には売上1.5兆円、利益率10%を実現することをめざしています。
ビジネス営業などの成長分野の収入をいかに伸ばしていくことができるか、ということが増収転換のための大きなポイントとなるのですが、これを支えているのが、これまで私たちが培ってきた財産ともいえる地域のお客さまとのつながりです。「地域密着」「ICTソリューション」といったキーワードを基盤として、新たなサービスやビジネスモデルの創造にチャレンジしていきます。
NTT西日本エリアの特徴として、府県が30、政令指定都市が12あり、これらが6つのブロックに分散して経済圏を形成しています。また、それぞれのブロックにおいて電力系会社をはじめとした各地域の企業と競争を強いられるといった厳しい環境にあります。こうした市場環境、競争環境に対応していくために、30府県域の支店長にしっかりとエリアに向き合ってもらい、それぞれの地域の特徴にマッチした活性化に取り組んでいます。このような営みを加速するための初の試みとして、30支店の支店長それぞれが考える地域の活性化プランやアイデアを持ち寄り、ディスカッションを行う「地域活性化推進ミーティング」を9月に開催しました。観光資源の活用や人口減少といった共通的な課題についての議論に加え、宅配業へのドローン活用、eスポーツの振興、農業や林業のデジタルトランスフォーメーションの推進等、特色のあるアイデアも提起され、活発な意見交換が行われました。すでに具体的に動き始めている取り組みもあります。例えば京都エリアでは、龍谷大学様にNTT西日本が「地域創生クラウド」というクラウドサービス基盤の提供を開始しておりますが、この基盤を活用し、業務改革や学生サービスの向上などの課題の解決を一緒に進めています。また、熊本エリアでは、震災後の街づくり、2050年の都市デザインをめざす、くまもと都市戦略会議および地域活性化推進WGに参画し、観光振興や地域社会の活性化、働き方改革の推進等、ICTによる社会課題解決に取り組んでいます。私たちの強みである「地域密着」「ICTソリューション」を活かし、お客さまとともに社会課題の解決に取り組んでいくことに引き続き力を入れていきたいです。
また、お客さまの課題は多様化してきており、「ICTソリューション」だけでは解決できないことも増えてきています。そこでICTソリューションやBPO(Business Process Outsourcing)ビジネスを組み合わせてソリューションとして提供することにも力を入れています。例えばグループ会社の「NTTマーケティングアクト」は以前からコンタクトセンタビジネスに力を入れていますが、単にお客さまのテレフォンオペレータ業務をアウトソースいただくことにとどまらず、テレフォンオペレータ業務を通じてお客さまの声を収集し、AI(人工知能)技術を用いてのVOC(Voice of Customer)分析を行うサービスを組み合わせて提供します。これによりお客さまの商品開発や経営改善に必要なナレッジとしてフィードバックすることができます。このようにICTソリューションやAI技術、BPOサービスを組み合わせ、トータルの価値として提供していくことで地域やお客さまのより本質的な課題解決につなげていきたいです。

2019年、2020年とスポーツのビッグイベントが続けて開催される中、ICTへの期待も高まっているように思います。NTT西日本でも準備されていることがありますでしょうか。

スポーツイベントの期間中、国外からのお客さまが西日本に立ち寄られる機会も多いですから、お客さまが立ち寄られる場所でのサイネージ等による情報提供という基本的な環境整備に加えて、お客さまの観光をお手伝いするような取り組みを進めています。例えば、大阪ならナイトスポット、京都、奈良であれば観光名所めぐりを多言語でご案内するという各地域の特色を活かした取り組みを進めています。また、今後は大阪・関西万博や統合型リゾート(IR)誘致など西日本エリアでも国際イベントが控えており、それに向けた自治体や経済界のお客さまからNTTグループへの期待感の高まりを感じています。5Gのプレサービスが提供されたように、国際イベントをフィールドに、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)などの新たな技術やサービスの実証実験にチャレンジしていきたいです。私たちだけでは課題解決にも限界がありますので、さまざまなパートナーと協力して、それぞれの強みを組み合わせて新しいビジネスモデルを生み出し、提供することが大切になると思います。

コミュニケーションとリアリティの追求を使命とする

お客さまからの期待にこたえていく取り組みの中で大切にされていることは何でしょうか。

私は仕事をするうえで、「西日本スピリッツ」というNTT西日本グループの企業理念に掲げる行動指針を大切にしています。この行動指針は、“『姿勢』はお客さま第一”、“『原点』は「個」の自立”、“『使うべき』は知恵”、“『推進力』はコミュニケーション”、“『成長』は日々革新”、“『めざす』はプロフェッショナル”という6つから成り、中でも私は“『原点』は「個」の自立”、“『推進力』はコミュニケーション”の2つを特に大切にしています。
1999年のNTTの再編成によって設立されたNTT西日本ですが、設立当初から赤字で、黒字化が大きな課題となっていました。こうした環境の中で頑張って実績を積んでいくには、社員が「個」をしっかりと持って自立する姿勢を基盤にして、コミュニケーションを図り、同じ方向に進んでいこうという思いが込められた言葉、それが「原点は個の自立」「推進力はコミュニケーション」です。お客さまに頼られ、ご期待にこたえていくという観点でも、この2つの言葉はとても大事だと思います。仕事柄、社外のお客さまと接する機会は非常に多いのですが、このような場は世の中の常識やリベラルアーツに触れられる機会であり、さまざまな気付きを得られる場でもあると実感していますので積極的に臨んでいます。こちらが一方的に勉強するだけではなく、こちらからもお客さまの役に立つ情報や興味を持っていただける情報を発信して、お互いのコミュニケーションを深めることでお付き合いが続き、それがビジネスの種となっていくと考えています。このようにお客さまとの良好な関係を築き、お客さまのご期待にこたえていくためには“『原点』は「個」の自立”、“『推進力』はコミュニケーション”など、「西日本スピリッツ」の理念を体現、実行していくことが必要だと考えています。

「西日本スピリッツ」をご自身が率先して実践されているのですね。

昨今、自然災害が相次いで発生していますが、お客さまへの対応の場面のみならず、こうした災害への対応においても、「西日本スピリッツ」で謳われていることは活きています。
私が仕事上、最初に経験した大規模災害への対応は阪神淡路大震災です。当時、東京にいた私は復興計画を作成するメンバーとして震災直後に現地へ向かいました。ビルの倒壊や被害のひどかった街で情報通信をどう復旧しようかと考えているとき、電話がつながらないのなら蓄積すれば良いという発想から災害用伝言ダイヤルサービスが生まれました。時を経て、東日本大震災のときは東日本対策本部にリエゾンとして派遣されました。最初に経験した阪神淡路大震災のときとは異なり、津波ですべてが破壊されてしまった被災の教訓として、置局やケーブルルートの見直し、防水対策がなされました。さらに、阪神淡路大震災のときは電話復旧への対策でしたが東日本大震災では電話はもちろんですがWi-Fi復旧への対応というようにサービス内容が変化していました。そして、九州エリアの責任者として熊本地震を経験したのですが、今度は地下に埋設すれば大丈夫だと思っていたケーブルが、地震によって断裂してしまったのです。阪神淡路大震災からは20年あまりが経過し、サービスや技術が進展していても自然を前に私たちの無力感を感じることがあります。こうした災害対策時には、災害対策本部長の下に、それぞれの役割分担を明確にしたチームを構成しますが、全体の情報共有はもちろん、各チーム相互間のコミュニケーションも重要になります。一方で、それぞれの対応現場では、一刻を争うような事態も発生しており、最前線の判断(“「個」の自立”)と他との“コミュニケーション”も重要となります。このような経験を通して、“『原点』は「個」の自立”、“『推進力』はコミュニケーション”に基づく行動が培われてきたのだと思います。

「NTTとなら何か新しいチャレンジができそうだ」をめざそう

それでは、技術者・研究者の皆さんにエールを送っていただいてよろしいですか。また、今技術者・研究者にどんなことが求められているか、ご意見をお聞かせください。

お客さまとお付き合いをしていく中で、どのようなサービスを提供するか、どうICTをご活用いただこうかと考える機会が多くあります。地域活性化やBPOといったビジネスでは、今まで以上にお客さまや地域社会に寄り添い、マーケット目線でのサービスや商品の提供が必要になります。こうした思いからマーケットを意識した研究開発をしていただきたいと思います。
私たちは、マーケットのニーズを収集し、掘り起こしながら、お客さまと一体的に地域の課題解決をしていきます。技術者・研究者の皆さんにはそれらをしっかりと受け止めて、技術の目利きや研究開発に取り組んでいただきたいと思います。そして、私たちフロントとしっかりとタッグを組んでマーケットに響くサービスや商品をつくり上げていきましょう。
NTTグループに対する社会からの期待は大きく、多様だと思います。IOWNやスマートシティを創造する技術を発信し、「さすがNTTだ」と感じていただき、「NTTとなら何か新しいチャレンジができそうだ」とお客さまに実感していただきたいです。お客さまとビジネスパートナーとして連携していくことで、私たちの可能性も広がっていくでしょう。

今後、NTT西日本ではどのような取り組みを進めていかれますか。

「お客さまのデジタルトランスフォーメーションのサポート」に注力していきます。これには2つの観点があり、1つはお客さま事業としてビジネスやサービスを創造いただくにあたって、デジタルデータの分析や活用のお手伝いをするということです。お客さまには必ずしもデジタルデータを活用したビジネスを推進するための技術に精通した人材がいらっしゃるわけではありません。お困りごとは分かっていてもどう解決すれば良いのかが分からないこともあります。このような状況を踏まえて、デジタルデータを活用したお客さまのビジネスをトータルコーディネートし、さらにICTソリューションの実証実験に必要な環境を整えた「LINKSPARK」という共創ラボを2019年8月に設立しました。ここでは、新規ビジネスを検討するためのハードウェアやデータセンタ、クラウドなどのアセットを提供し、常駐しているデータサイエンティスト、AIコンサルタントがデザイン思考をベースとしたデータ分析をサポートします。すでに、引っ越し業のお客さまとは引っ越し配送計画策定業務の標準化やスキルの継承、そして災害保険業のお客さまとはAIを活用した災害発生時の受付人員配置予測等、幅広いテーマに取り組んでいます。常にお客さまの価値を高めていくことを念頭に置き、これからもこのような展開を拡大・推進していくつもりです。
もう1つの観点がお客さま事業の業務プロセスのデジタル化を進めるお手伝いをするという観点です。今年8月に「おまかせAI 働き方みえ~る」というサービスをリリースしました。お客さまの事業所のPCに専用ソフトウェアをインストールしていただくことで、AIが自動的にPCのログを収集・分析し、お客さまの業務内容を視える化し、経営改善や危機管理につなげていただけるレポートとして提供するというものです。例えば、レポート分析の結果、お客さま業務に繰り返し作業に膨大な時間がかかっているということが分かれば、「WinActor®」などのRPA(Robotic Process Automation)の導入により業務効率化の大幅アップを実現していただけます。あるいは、プリントアウト作業を伴う業務が多く発生していることが分かれば、AI OCRという手書きの伝票を読み取り電子データ化するサービスをお勧めします。このようにお客さまの業務プロセスに寄り添い最適なデジタルトランスフォーメーションの提案、コンサルティングをすることで、お客さまのビジネスを支えていきたいです。
(インタビュー:外川智恵)

インタビューを終えて

細身のスーツに身を包み、さわやかな風をまとって登場された上原副社長。週末は大阪城の周りをランニングするのがご趣味で、10年近く続けていらっしゃるそうです。走ることを趣味とするメンバーが何人かいらして、「仕事が終わった後に走るか?!」という話をきっかけにレースにも挑戦することになったと言います。九州地区に勤務したときは那覇マラソンや指宿マラソンにも出場し、フルマラソンで4時間を切るスコアを記録する実力の持ち主です。健康的に日焼けしたお姿からは休暇はほとんどスポーツを楽しまれているのかと思いきや、奥様と映画鑑賞をするお時間もしっかりとつくられて、最近では『記憶にございません!』(監督:三谷幸喜)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(監督:クエンティン・タランティーノ)等の最新作もご覧になられたそうです。「50歳を超えると夫婦で料金が安くなりますからね。利用して楽しんでいますよ」と冗談まじりに微笑まれましたが、「相手の気持ちを慮って対応してくださる方です」と社員の方々に伺ったとおり、奥様のお気持ちも汲み取られご一緒されたのかもしれないと推測しました。どんな方のお気持ちにも繊細に温かく向き合われるお姿に学ばせていただいたひと時でした。