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特集

XRエコシステム形成に向けたNTTコノキューの取り組み

「いつでもどこでも」イベント参加可能なプラットフォームの開発

近年、企業や個人・団体によるイベント開催の、グローバル展開に対する需要が高まり、また昨今の新型コロナウイルス感染症の影響によりリアルイベント開催が困難なため、オンラインイベントのニーズが高まっています。NTTドコモでは、マルチデバイスに対応し、「いつでもどこでも」オンラインでのイベント参加が可能なプラットフォームを開発しました。本稿では、開発に至った背景、本プラットフォームの特長、実際の活用事例について解説します。

田中 祐貴(たなか ゆうき)※/野村 貴則(のむら たかのり)
村上 圭一(むらかみ けいいち)※
NTTドコモ
※現、NTTコノキュー

はじめに

近年、企業や個人・団体によるイベント開催の、グローバル展開に対する需要が高まり、また昨今の新型コロナウイルス感染症の影響によりリアルイベント開催が困難なため、オンラインイベントのニーズが高まっており、Webブラウザで体験可能なイベント、VR(Virtual Reality)アプリによるバーチャルイベントなど、さまざまなかたちでオンラインイベントが行われています。2020年には約8割のイベントがリアルイベントからオンラインイベントへ移行したという結果が出ています(1)。また、オンラインイベントはグローバル需要に対応できる利点もあり、今後もオンラインイベントが広く展開されていくことが予想されます。
このような状況の中、NTTドコモでは、マルチデバイスに対応し、「いつでもどこでも」オンラインでのイベント参加が可能なプラットフォームを開発しました。
本プラットフォームは、顔写真から生成したアバターでのイベント参加、仮想3D空間でのコミュニケーションが可能で、また8KVR・Volumetric Video*1・モーションキャプチャなどの技術を独自に取り入れており、これによりオンラインでのイベント体験の価値向上を実現しています。本稿では、開発に至った背景、本プラットフォームの特長、実際の活用事例について解説します。

*1 Volumetric Video:人物・物体の3D動画データのこと。対象物の形状データと表面のテクスチャデータで構成されています。

オンラインイベントの課題

新型コロナウイルス感染症の影響により、昨今多くのオンラインイベントが開催されていますが、オンラインイベントには大きく分けて以下の2つの課題があると考えられます。

■リアルイベントの利点が失われる課題

オンラインイベントはバーチャルな体験が主体となるため、リアルイベント会場での体験と比べると理解を深めづらい側面や、臨場感が失われることがあると考えられます。

■バーチャルでのイベント構築・運用コストの課題

バーチャル体験に特化したオンラインイベント実施では、多大な運営コストがかかります。例えば、イベントごとの専用アプリケーションの開発や、フロア空間・展示ブースの構築、リリース後のサーバ運営などがあり、1イベントの実施のために非常に高いコストを要することになります。
そこで、NTTドコモはこれらの課題を解決するために、仮想3D空間でのオンラインイベント体験が可能なプラットフォームを開発した。

本プラットフォームの特長

■リアルイベントの利点が失われる課題

本プラットフォームでは、仮想3D空間により展示物や人が立体的な表現となり、リアルイベントに近い体験価値、およびバーチャルならではの付加価値を加えた体験が可能になります。NTTドコモでは、バーチャルでのイベント体験のための基本機能と独自技術の導入について検討しました。
(1) バーチャルでのイベント体験のための基本機能
本プラットフォームでは、フロア空間と個別の展示ブースがあり、ユーザは自身のアバターを操作しながら両空間を歩き回り、さまざまな体験をすることができます(図1)。フロア空間は、リアルイベント会場の移動導線に代わるものであり、ユーザはフロア空間に配置されているさまざまな展示ブースの中から、自らが興味を持った展示ブース内に入ることができます。
本プラットフォームはグループ機能を具備しており、ユーザは知人どうしでグループを組んで複数人で入り、一緒に会場内を回ることが可能です。グループ内では、音声通話やテキストチャット、アバターでのリアクション動作によりコミュニケーションをとることが可能です。
また、マルチデバイスとして、スマートフォン・タブレット(Android/iOS)、PC(Windows/Mac)、Meta Quest2*2に対応しています。
(2) 付加価値を与える独自機能
① ドコモ・アバターポータル(2)との連携:ユーザは、イベント参加時は前述したようにグループを組むことで一緒に回ることができますが、より臨場感を高めるために本プラットフォームは、ユーザ自身のオリジナルアバターが選択できる仕組みで、ドコモ・アバターポータルと連携しています。ユーザは、顔写真から生成したアバターを用いてイベント会場に入ることができ、知人どうしでイベント会場を回る場合は、よりリアルに近いかたちでイベントを楽しむことができます(図2)。

② 8KVR:360度のVR映像のリアルタイム配信を視聴できる技術です。ユーザは、遠隔地にいたとしてもその場にいるかのような臨場感のあるVR映像が体験可能です(3)。例えば、観光地のツアー映像を専用機材で録画しておくことで、360度の現地映像が高解像度のVR映像で体験可能です(図3(a))。

③ Volumetric Video:多角的に撮影された被写体を、展示ブース内で立体(三次元)として視聴できる技術です。「NTT XR Stu­dio」(4)(5)などの撮影設備で撮影したVolumetric Videoを本プラットフォームで体験することが可能です。例えば、アーティストのライブやスポーツの視聴体験で、自身が見たい角度に視点を変えたり、通常なら近づけない位置まで近づいたりすることで、リアル体験以上の没入感の高い視聴が可能です(図3(b))。

④ モーションキャプチャ:モーションキャプチャシステムを用いて取得したモーションデータを展示ブース内の3Dアバターに反映し、リアルタイムに動かす技術です。ユーザはそれを自由な視点から見ることができ、これにより没入感の高い体験が可能です(6)(図3(c))。キャラクター物などのアクターによる3Dアバターのショーで実用化が可能であり、ユーザはバーチャルならではのアミューズメント体験が可能です。

⑤ AIアバター:展示ブースには説明員を配置することも可能ですが、生身の人間が操作する必要があるため、すべての展示ブースに説明員を長期間配置することは難しくなります。本プラットフォームでは、ドコモAIエージェントAPI®(7)を用いたAIアバターを開発し、無人ブースへのAI説明員の配置を可能としました。これにより、ユーザはバーチャル空間でAIアバターから展示の説明を受けることができます。ユーザは展示ブースに入ると、AIアバターによる展示ブース紹介を受け、また、質問をすることで、事前に設定したシナリオに沿った自動回答がAIアバターによって行われます。

*2 Meta Quest2:Meta社が提供するVRヘッドセット。

■バーチャルでのイベント構築・運用コストの課題

本プラットフォームでは、イベントを安価に構築・運営する仕組みを開発しました。
(1) イベント空間を自由に構築できる仕組み
本プラットフォームでは、Unity*3による開発キットを用意しており、イベント作成者はそれを利用することで自由にバーチャル空間を構築することができます。構築対象として、フロア空間と展示ブースの2点を設けています。

① フロア空間:個々の造形を自由につくることはもちろん、マップをつくったりBGMを設定したりすることも可能です。イベント作成者はイベント別に異なったテーマを、小さな街をつくるように表現することが可能です。

② 展示ブース:自由な3D空間の構築はもちろん、2D動画、BGM、Volumetric Videoなどの配置が可能です。空間のサイズも自由に設定可能なため、巨大な物体を仮想空間内で展示することも可能です。これにより、展示ブース別に異なったテーマで出展が可能となります。

(2) イベント管理を容易にする仕組み
本プラットフォームでは、イベント管理をより簡単にするための管理者用のWebサイトを用意しています。この管理者用サイトは、以下のとおり、複数のイベントを開催する機能を持ち、フロア空間、展示ブースなどの3D空間にかかわる設定や、開催期間などのイベント運営にかかわる設定が可能であり、データ分析もすることができます。

① 複数のイベントを開催する機能:管理者用サイトには、複数のイベントを同時開催するための機能が具備されています。カスタムされたフロア空間や展示ブースをイベントごとに登録し、個別に運営することが可能です。

② フロア空間設定:掲示板の設定ができ、運営から周知したい内容をタイムリーに発信することができます。

③ 展示ブース設定:動画や静止画像については、Unityによる開発をしなくても、管理者用サイトを通して配置することができます。また、管理者用サイトから説明員配置の設定を行うことができ、さらに配置する説明員の数についても、展示ブースに応じて設定をすることが可能です。

④ 開催期間設定:フロア空間や展示ブースは、開催期間の設定を行うことが可能です。開催期間外にはユーザは入室することができず、その間にコンテンツのメンテナンスを実施することが可能です。

⑤ データ分析:イベント実施により、参加者数(総参加者数、ユニークユーザ数)、展示ブースデータ(入室数、滞在時間、展示ブース評価)、アンケート評価などのデータを取得することが可能です。これらは、イベント内でのユーザの行動に関する匿名データであり、イベントの傾向分析に役立てることが可能です。例えば、人気のある空間やコンテンツを分析することで、次のイベント開催に向けた改善に活かすことができます。

これらのイベント管理を容易にする仕組みにより、イベント個別でのハードコーディング*4による実装が不要になり、円滑な運営の実現およびイベント運営コストの低減が可能となりました。

*3 Unity:Unity Technologies社により提供されているゲームエンジン。
*4 ハードコーディング:特定の動作環境を前提としたソースコードの実装のこと。

活用事例

本プラットフォームを活用した事例を紹介します。
2022年1月17~19日の3日間にわたり、NTTドコモは本プラットフォームを用いたバーチャル展示「docomo Open House ’22」を実施しました(8)(図4)。本イベントの特徴は、モーションキャプチャ技術を活用したNTTドコモ初の出展を行ったことです。モーションキャプチャ技術を活用した展示に関しては特に多くのユーザからの反響がありました。

おわりに

マルチデバイスに対応しており、「いつでもどこでも」オンラインでのイベント参加が可能なプラットフォームについて、開発に至った背景やそれらを踏まえて開発した本プラットフォームの特長、また実際の活用事例について解説しました。
本プラットフォームは、複数のイベントの開催、VRならではの体験コンテンツ、その他バーチャルイベントで必要と考えられる特長を具備しています。また、フロア空間や展示ブースの造形は自由に構築できることから、イベント以外の用途でも利用可能であり、メタバースでの提供も考えられます。今後は、これまでのイベントでのユーザの声を踏まえた改善を行ったり、イベントをより盛り上げる要素を取り入れたりしながら、より良い体験ができるプラットフォームになるよう検討を進め、主に法人向けソリューションとしての展開を進めていきます。

* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30, No.2, 2022年7月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) https://documents.peatix.com/2021_Peatix_Event_Survey.pdf
(2) https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2022/01/11_00.html
(3) https://www.docomo.ne.jp/biz/service/le8kvr/
(4) https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_210114_00.pdf
(5) 阿部・藤本・加藤・的場・吉山・浅川:“XRコンテンツの撮影・編集・配信向けスタジオ「NTT XR Studio」,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.30,No.2,pp.21-26,July 2022.
(6) https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2022/01/11_01.html
(7) https://www.ntt.com/business/services/ai_agent_api.html
(8) https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2021/11/17_00.html

(左から)田中 祐貴/野村 貴則/村上 圭一

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