NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

from NTT東日本

映像技術で業務DX・組織文化の変革をめざす――映像活用推進チーム「V-TECHX」のチャレンジ

Web会議や研修動画、社内イベントのライブ配信など、企業活動のさまざまな場面で映像の活用の幅が広がっています。NTT東日本では、その映像技術による自社の業務変革を、約400人規模の組織横断チーム「V-TECHX(ブイテックス:VIDEO TECH GROUP)」を中心に、内製により推進しています。V-TECHXの営みは、単に会社の技術領域拡大やコミュニケーション手段の補足だけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)に欠かせない新しい組織文化づくりやお客さまの映像活用の支援の機会など、チーム活動からさまざまな恩恵を享受しています。ここでは、読者企業の業務変革の参考になればという思いから、NTT東日本での映像活用事例と、V-TECHXの成り立ちや取り組み、働き方を紹介します。

NTT東日本の技術社員の中で広がる「映像」技術

■動画マニュアルで技術者育成を効果的に実現

NTT東日本社内で約400名の推進メンバが集うほど映像活用が進んできたきっかけを振り返ると、そこには「技術者育成」があったといえます。NTT東日本の技術者たちは東日本中に張り巡らされている電柱やマンホールなどの通信設備を日々、保守・運用していますが、時代の変化と技術の進歩とともにその基盤がメタルから光へとシフトしてきたことに加え、地域のICTパートナーとしてお客さまの課題解決に向き合う中で、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)といった新技術が求められるようになってきており、必要な技術領域は格段と拡がってきています。
そのような状況で課題となったのは、やはり、技術者育成という点です。コア技術である通信設備については、光設備に移行してきているとはいえ、まだ運用されているメタル設備を保守しなければなりません。メタル設備を保守する技術は、ベテラン社員に偏りがちであるうえに、机上で継承できても、現場で教わる機会は徐々に減ってきています。また、新技術については、リリースとアップデートが激しく、かつ複雑な設定や操作などに首尾よく対応していく必要があります。そこで活躍したのが「動画マニュアル」です。それまでの技術者育成というと、トレーニング施設に集まって研修を受講したり、事務所にある紙マニュアルを読み込んだりといったスタイルが社内で一般的でした。また研修の受講は時間や場所の制約を受けるほか、計画されるカリキュラムによってスキルに差分が生じる、分厚い紙マニュアルはテキストや図のみで難解になりがちでタイムリーな情報更新ができない、といったさまざまな課題がありました。一方、動画マニュアルはタブレットやスマートフォンなどのデバイスさえあれば、必要な場面で必要なだけ学習できることに加え、説明に動きと音声が添えられていることで、伝えやすい・理解しやすいという点で優れています。開始当初は本社からの発信が中心だったものの、今では支店の現場メンバが制作したコンテンツがその数を上回るほどで、動画マニュアルの展開を始めた2019年から総計して約2500件の動画が存在します。

■ライブ配信で社員間のコミュニケーションを取り戻す

新型コロナウイルス感染症という世界的なパンデミックの猛威により、NTT東日本でも仕事のスタイルがオフラインからオンラインへ大きくシフトしたことはいうまでもありません。そうした状況で課題となったのは、「社員間コミュニケーションの希薄化」です。リモート型の働き方による利点はワーク・イン・ライフ*1の観点でもちろん大きいものの、社内でのキックオフや表彰式典などの行事の多くが中止または延期となり、Web会議やチャット、電話に限られた同僚とのつながりに対して、何ともいえない物足りなさを感じたビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
そこに立ち上がったのがNTT東日本の「映像技術が好き」という本社の設備部門のメンバです。一言で映像技術と括ってもそのバックグラウンドはさまざまで、「TikTokやYouTubeに動画をつくって投稿するのが好き」というメンバもいれば、「伝送技術が好きでeスポーツをフレッツ光クロス*2で配信してみた」というメンバもいます。その個性豊かなメンバが始めたのは、社内行事のライブ配信です。それも単にWeb会議のカメラ越しに参加者どうしを接続するだけではなく、まるでテレビ局のように効果的につくられた画面配置や演出を醸し、また多拠点の参加者を確実に接続するために高度な設備構成が練られた配信です。
その後、社内のいたる組織でライブ配信の需要が高まり、組織長による事業計画説明会や四半期ごとの表彰式典など、さまざまな実績が積み重なりました。その過程で「映像技術が好き」なメンバも増え、やがて「V-TECHX」と名乗りながら活動を広げていきました。初期は本社メンバ中心の5人で構成されたV-TECHXチームでしたが、今では、支店も合わせて約400人という規模に拡大し、その実績と人財はまさに映像活用における百花繚乱の時代となっています。
この映像技術者拡大の隆盛を止めないためにも、現在のV-TECHX本社メンバで映像制作やライブ配信をより効率的に進めるためのプロダクトも検討しています。例としては、本社ビルに設置している動画編集用高スペックPCに、遠隔からの接続による時間や場所にとらわれないシームレスな作業環境の構築です。動画は視聴する(情報を取得する)側にとって、視たい時間・場所で、ときには視たい速度で、という具合でそのパーソナライズ性が高いように、動画をつくる(情報を発信する)側としても柔軟な環境を提供することで、業務に動画という情報が当たり前のように交わされる働き方をめざしています。

*1 ワーク・イン・ライフ:仕事と私生活を完全に切り離す「ワークライフバランス」の考え方とは対照に、仕事も私生活(家庭、友人、趣味、学習など)と同じく自分の人生の一部としてとらえる考え方。
*2 フレッツ光クロス:NTT東日本の提供する、最大通信速度がおおむね10Gbit/sのインターネット接続サービス。

■動画の共有でDXに欠かせない組織文化づくりを

動画マニュアルの定着とライブ配信を中心としたV-TECHXチームの活動により、業務の中に動画というコミュニケーション手段が常態化しただけでなく、「企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に欠かせない組織文化づくり」にも良い影響を与えているのではないかと感じています。例えば、前述した動画マニュアルは、TechREC(テックレック)(図1)という設備部門に閲覧・投稿権限が限られた動画プラットフォームにアップロードし、展開しているのですが、その方針として「情報セキュリティをはじめ各監査項目の観点を除き、アップロードする動画の様式や品質は制限しない」とルールを決め、運営をしています。そうすることで、技術継承のための動画だけでなく、お客さまの課題解決に貢献できたDX事例を他支店にもスケールさせ、より多くの地域・企業に寄り添うことをめざしたソリューション紹介動画や、事務所での作業効率化施策を公開し全国標準に発展させ、現場全体の生産性向上につなげる動画など、多岐にわたる分野により広く効果を発揮する、アイデア溢れる情報共有の場となってきたのです。また、特に増えている新技術に関する動画では、コメント機能を使って「○○さんの説明で○○ができるようになりました!」「それはよかった!次はこんなことに挑戦しようと思っているので一緒にどうですか!」といった創造的なやり取りが自然発生していて、TechRECが1つのコミュニケーションの場になるだけではなく、発信したことによる反響を本人や職場が実感することで「新しいことへチャレンジがしやすい雰囲気」づくりにも効果を発揮しているのです。もちろん、掲載されている動画は玉石混淆であり、他情報とのリンク付けや類似動画の分類によってさらにその利便性を向上すること、そして蓄積されていく膨大なノウハウデータとして発揮する効果を大きくする工夫は必要ですが、こうした自由なアイデア創出の場はイノベーションに欠かせないことから、TechRECが個人の発信力を高め、他者の価値観を受け入れるという組織文化の醸成に、寄与していくことをめざします。

社内の成功体験をお客さまにもシェアする

■中長期的な成長をかんがみた、映像活用の完全社内運営をめざす

こうした社内における映像活用は、NTT東日本の社内だけでなく、地域・企業のお客さまにもやはりニーズがあり、これまでに蓄積したノウハウをお客さまにも提供しています。そのうえで、私たちが大事にしているのは、映像による業務改革をお客さまと共に進める「伴走型」の支援です。商品のPR動画やセミナーのライブ配信を外注しようとすると、品質が担保される一方で、コストや時間がかかる面があり、今後ますます増えていく映像需要をふまえると、中長期的に持続性があるとはいえません。その意味で、動画制作やライブ配信についても社内のリソースで完結することを理想とするお客さまは少なくはなく、V-TECHXがこれまで社長メッセージ動画の制作や表彰式典のライブ配信を内製で実施してきたエピソードに共感をいただくことが多いのです。そうしたお客さまの声と私たちの成功体験から、「地域・企業のお客さまの持続的な事業成長を目的として、映像活用に伴走し、最終的には自走(完全社内運営)していただく」ことをゴールに設定するスタイルで、技術提供をしています。

■映像技術をきっかけに、事業成長の礎を強固に

お客さまに提供するのはライブ配信や映像制作に必要な映像技術だけかというと、そうではありません。とあるお客さまのウェビナー*3運営の支援では、通信環境の調査も併せて実施しました。というのも、前述したとおり、最終的にはお客さまご自身で映像活用をしていただくうえで、その環境づくりについても相談をいただきますが、特にライブ配信では配信元の通信環境が肝心要となるため、その品質を向上させたいと思われるのは自然な流れであり、そこで私たちのコア事業である情報通信のコンサルティングもさせていただいたのです。また、見方を変えると、映像による業務改革というのはある種のDXであることに対し、「動画制作とライブ配信が自社で完結してできるようになったことで、企業としての発信力向上という効果が発揮できただけでなく、映像活用を手の届きやすいDXとしてとらえて、社員が自ら技術を身につけ成功体験をつくることができ、それを皮切りに社内全体のDX推進が加速した」という声もお客さまからいただいています。
これらの経験から、映像活用の支援をきっかけに、通信環境やDX推進を後押しする、つまりお客さまの事業成長のトータルサポートをめざすことが、通信事業を営む地域のICTパートナーであるNTT東日本が映像技術を提供する真骨頂なのだと考えます。

*3 ウェビナー:「ウェブ」と「セミナー」を掛け合わせた造語で、Web会議ツールなどを使ってオンライン上で開催するセミナーのことを指します。

担当者に聞く、組織を横断したバーチャルチームの働き方

■設備企画部 ビジネス推進部門 映像ビジネスプロデュース担当 西村佳苗

V-TECHXは本社メンバ15人を除き、約400人が社内副業的に有志により集まり、その技術を発揮して活動している、組織も働くエリアも多種多様なバーチャルチームです。そのうえで現地作業以外のシーンで集合することはほとんどなく、大抵のコミュニケーションは「Microsoft Teams」のWeb会議やチャットで、業務報告や案件の進捗管理は「Asana」のプロジェクト管理やタイムラインで、また、ノウハウ蓄積や議事録などは「Notion」のメモ機能でといった具合で、SaaS(Software as a Service)を存分に使いながら、ポジティブにバーチャル的な新しい働き方を採用しています。中でも、Microsoft Teamsでのコミュニケーションで特徴的なのが、「すべての会話をメンバへオープンにすること」です。もちろん、お客さま情報や設備情報といったセキュリティの観点は十分配慮しつつも、V-TECHXのメンバであれば基本的にどのやり取りも見ることができます。そうすることで、会話から生まれたノウハウがそこに蓄積されるので類似案件の対応の際に参考にもなりますし、何よりも技術的に困ったときに、400人のうち誰かが積極的に助けてくれます。このワークスタイルにより仕事をアジリティ高く進められるという効率性はもちろんですが、助け合いの精神が生まれ、昨今企業の課題となる心理的安全性の向上にもつながっていると思います。ある日、興味本位でこのV-TECHXのMicro­soft Teamsにおけるコミュニケーションの量を分析したら、1日で100を超えるコメントやリアクションがありました(図2)。「ワクワクを仕事にする」に共感して集まったバーチャルチームならではの主体性が、活動量としての数字に表れているのではないでしょうか。

今後の展望:映像技術に秘められた真価を見つけ、開発する

AIとの共存時代の到来、メタバース*4世界への進出など、そう遠くない未来に控えている技術を進歩させるうえで、データとしての映像というのは貴重な資源になると考えます。例えばAIの精度を上げるために、学習データとしての映像ファイルはそのボリュームに富んでいますし、メタバースの仮想空間を構築するうえで、動画は欠かせないコンテンツとなります。そのような、より一層映像に対する需要が高まる将来を踏まえて、V-TECHXでは映像により業務変革を図るだけにとどまらず、映像技術の可能性を見込み、他の技術と掛け合わせることで、さらに大きな価値を創造していくべく、さまざまなチャレンジをしています。例えば、超低遅延の映像配信プラットフォームの開発による視聴者へのストレスのない高品質な映像提供や、オンライン研修における受講生のカメラ映像からその受講態度を取得・分析するAIの開発によりカリキュラムを評価・改善しより良いものにするということなどです。
これらの挑戦の多くはまだ道半ばで実運用していくには課題が山積みです。しかし、未来を創造して世の中に求められることに映像技術をフィットさせ、懲りずにチャレンジしていくことが私たちV-TECHX(図3)の今後の展望でもあり、活動指針でもあるのです。

*4 メタバース:「Meta」と「Universe」から形成された言葉で、三次元の仮想空間そのものや、それを使ったサービスを指します。

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 設備企画部 ビジネス推進部門
映像ビジネスプロデュース担当(V-TECHX)
E-mail v-techx-ml@east.ntt.co.jp