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情熱が驚きと感動を生む ―― ドコモスピリッツで、5Gが豊かな未来を築く

課題先進国と呼ばれる我が国は、少子高齢化をはじめエネルギーやインフラ問題等と真剣に対峙する時期を迎えています。これらの社会課題解決に第5世代移動通信システム(5G)で挑むNTTドコモ。ラグビーワールドカップ2019TMが開催され、華やかなイベントに彩られる表舞台とともに、5Gプレサービスもスタートし、さまざまな場面への応用が期待されています。産業への貢献、社会課題の解決、そしてビジネス拡大等、ドコモが挑む新しい価値の協創について丸山誠治NTTドコモ代表取締役副社長に伺いました。

丸山 誠治 NTTドコモ代表取締役副社長

PROFILE

985年NTTに入社。2010年NTTドコモ プロダクト部長、2016年取締役執行役員 人事部長、2018年取締役常務執行役員 経営企画部長 モバイル社会研究所、2020準備担当を経て、2019年6月より現職。

5Gプレサービス開始。コミュニケーションを支えたい

ラグビーワールドカップ2019TM日本大会に合わせ、5Gのプレサービスが開始されました。反応はいかがでしょうか。

皆様からのご期待を実感しています。プレサービスについては、ラグビーワールドカップ2019TM*1の開幕に合わせたサービス開始をターゲットと決めて、準備を重ねてきました。この機会に少しでも多くの皆様に第5世代移動通信システム(5G)の素晴らしさを体感していただきたいですね。
5Gは、「高速・大容量」「低遅延」「多数端末接続」の3つの特徴があります。臨場感の求められるスポーツ観戦には嬉しい技術といえるでしょう。プレサービスでは、ラグビーワールドカップ2019TMの一部の試合でスタジアムに配置したいくつものカメラによる映像や選手データなどの付加情報を、お好みのタイミングで自由に切り替えて閲覧できる「マルチアングル視聴」などの新たな観戦スタイルを提案・提供いたしました。こうしたプレサービスの経験を活かして、2020年春に5G商用サービスを開始する予定です。
また、5G時代にはスマートフォンのあり方も変わります。ドコモでは、5Gスマートフォンをハブとして、さまざまな周辺デバイスとそれに連動したサービスを5G環境で快適にご利用いただける「マイネットワーク構想」を提唱しているところです。
さらに、5Gではパートナーとの協業も非常に重要です。ドコモでは、企業・大学組織・地方自治体等、 3000を超えるパートナー(2019年9月時点)と連携して5Gによる新たな利用シーンを創出する「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を進めています。9月18日に実施した5G プレサービス発表会では、各産業分野におけるさまざまな取り組みの中から、製造、医療、教育、職場環境、公共エリアに関する18例を展示しました。
一例として、株式会社竹中工務店様との取り組みである、高層ビル建設におけるタワークレーンの遠隔操作があります。タワークレーンは、操縦士が毎回クレーン上方の操縦席まで登らないと仕事ができないのですが、一度、操縦席へ登るとなかなか地上へ降りるのが困難と伺いました。この作業負担を解消するために、5Gによる遠隔操作の実証実験を行う予定です。単なる機械操作のみならず、現場の音声や映像のほか、操縦判断に重要なクレーンの揺れのデータ等も5Gにより伝送することができるので、実際の操縦席にいるのと近い感覚で遠隔操作が可能となります。
5Gの導入については各方面から注目されていますし、技術的にも非常に大きな進化を迎え、デジタルトランスフォーメーションの柱の1つといえます。これまで、携帯電話の黎明期であるアナログの第1世代からデジタル化した第2世代、モバイルマルチメディアを指向した第3世代、第4世代のLTE(Long Term Evolution)、そして今回の5Gと約10年ごとに移動通信の新たな技術・サービスが導入されていく中で、5Gはこれまでにないほど注目を浴びています。
一方、少子高齢化、過疎化と地域格差、労働力不足と外国人労働者等、さまざまな社会課題が話題となっており、日本は課題先進国といわれています。こうした中、5GとAI(人工知能)、IoT(Internet of Things)を活用して、遠隔医療や医療支援、建設機械の遠隔操作や農業機械の自動運転等の実現が可能となります。5Gにはこのようなポテンシャルもあり、それにさまざまな付加価値をつけることによって社会課題解決に役立てていきます。

*1 ラグビーワールドカップ2019TM:「ラグビーワールドカップ」およびそのロゴはラグビーワールドカップリミテッドの商標または登録商標。

5Gによって日本が抱えている問題の解決が促進しそうですね。

ほかにも5Gプレサービスでは、ドコモが5Gの基地局装置や移動局に接続する映像伝送機器などをパートナーに対して無償で提供し、各種検証等を行っていただける、「ドコモ5Gオープンラボ®*2」を4カ所から11カ所に拡大しました。5Gを使ってみたいというパートナーにはぜひこの「ドコモ5Gオープンラボ®」をご活用いただき、連携を深めていくことで、5Gの新たなサービスを生み出していきたいです。先ほど申し上げた社会課題解決に向けては、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」や「ドコモ5Gオープンラボ®」の活動を通して対応を加速していきます。
例えば、過疎化への対応として地方創生がうたわれています。地方創生では、5Gを活用した産業創出はもちろんのこと、その地方にお住まいの方々の暮らしを守ることも重要なテーマとなります。医療サービスの過疎地と他地域の病院とを5Gで接続することで、新たに遠隔医療基盤が整えば、生活圏内で医療を受けられる安心感が生まれ、それが住民の定着につながるのではないでしょうか。
地方創生は、その地域に閉じた話になりがちですが、遠隔医療の例のように他の地域との連携が重要となります。この連携のためには、「人と人」「人とシステム」「システムとシステム」のコミュニケーションは必須です。「臨場感」「リアルタイム性」そして「広がり」を持ったコミュニケーションこそ5Gの得意とするところであり、こうしたコミュニケーションサービス、インフラを提供することは、ドコモの大きなミッションの1つで、社会課題解決と背中合わせでもあります。

*2 ドコモ5Gオープンラボ®:「ドコモ5Gオープンラボ」は㈱NTTドコモの登録商標。

マーケティング環境は変革期を迎えた

それではドコモを取り巻く環境についてお聞かせいただけますでしょうか。

2019年10月に改正電気通信事業法が施行され、通信料金と端末代金の分離をはじめとする、販売方法の見直し等が必要となりました。さらに、競争の促進を目的とした第4の事業者の参入です。大手のOTT(Over The Top)プレイヤーがモバイル通信事業者として参入するのは世界的にも珍しいケースですから、日本のモバイル通信産業に世界中から注目が集まっていると思います。これまで私たちが培ってきたやり方とは異なる技術・方法で、市場参入が行われると予想しています。彼らをよく研究し、良いところは取り入れていけるようにしていきます。
そして市場からも料金競争が期待されており、こうした環境の変化を先取りして、私たちは6月から新料金プランを導入しました。シンプルで分かりやすい仕組みで、そのうえ料金が最大4割くらい安くなるお客さまもいらっしゃいます。ドコモのサービスの特長をご理解いただき、少しでも長く使い続けていただきたいです。

時代の変化やニーズに合わせて、さまざまなサービスが創出されそうですね。

2018年10月に中期経営戦略を発表し、2020年代の持続的な成長を実現するために、「会員を軸とした事業運営への変革」と「5Gの導入とビジネス創出」を基本方針としてビジネスを展開しています。その中で骨子となるのは「顧客基盤をベースとした収益機会創出」「5Gによる成長」「お客さま還元の実施とお客さま接点の進化」の3点です。
5Gについてはこれまでの説明のとおりです。「会員を軸とした事業運営への変革」では「お客さま」の定義を変えています。これまでは回線の契約者を「お客さま」と定義してきましたが、私たちのサービスをお使いの方すべてを「お客さま」と定義しました。例えば、dポイントクラブ会員のうち、他社と回線契約をしている会員が2000万近くいらっしゃいます。こういった方々もお客さまであり、ドコモと回線契約をしているお客さまと合わせて7000万近い数となります。これらすべてのお客さまがもっと便利に、アクティブにさまざまなサービスをお使いいただけるよう、1人ひとりに合わせたマーケティング活動も進めています。会員を軸とした事業運営は順調に展開しており、会員数も増加基調です。dカード®*3やd払い®*4等の決済手段も順調に普及しています。豊富なアセットを活かして会員とパートナー企業を拡大し、両者をデジタルマーケティングで結びつけることで、お客さまとの継続的なリレーションを実現し、新しい価値を提供していきます。
さて、7000万に近い会員の情報、これは貴重なビッグデータでもあります。現状、1人当り約3万項目のデータを保有しており、それが7000万人分集積しているわけです。ただ、これらのデータ活用に不安を感じるお客さまもいらっしゃるかもしれません。そこで私たちは、お客さまの安心・信頼と、データ活用による新たな価値提供を両立するために、ドコモのデータ活用ポリシーを「パーソナルデータ憲章」として8月に公表しました。12月にはパーソナルデータダッシュボードの提示により、お客さまご自身が、各データの許諾状況の確認や設定を変更できるようにしていく予定です。
また、ビッグデータの別なかたちの活用例として「モバイル空間統計®*5」というサービスを提供しています。これは、情報を匿名化して、特定エリアの流出人口分布をリアルタイムに知ることができるサービスです。AIとも組み合わせ、商業店舗での来店需要予測や自転車シェアリングにおける最適な自転車の再配置、高速道路の渋滞予測等に活用いただいています。
このほかにも、スマートフォンには各種のセンサやカメラが搭載されていますが、これらとAIを連携させ、集中力や精神状態の推測や、食品のパッケージやラベルから宗教上の理由で食べられない食品の選別等、ユニークなサービスがたくさん誕生しています。中には、社員が自発的に行う「チャレンジプロジェクト」で提案されたものから、優秀なアイデアが実用化に至ったものもあります。

*3 dカード®:「dカード」は(株)NTTドコモの登録商標。
*4 d払い®:「d払い」は(株)NTTドコモの登録商標。
*5 モバイル空間統計®:「モバイル空間統計」は(株)NTTドコモの登録商標。

踏ん張りどころで魅せるNTTグループ・DNAの底力

新しいサービスもさることながら、社内にもすごく可能性を感じるというか、若い方のモチベーションが上がりそうな仕組みがあるのですね。社内外の技術者の皆様に一言お願いできますか。

社員がモチベーションを持って仕事ができる環境づくりは私の仕事だと思っています。
5GやICT革命が大きく展開しているこの時代は私たちにとってはチャンスです。このような時代だからこそ社員が主体的に取り組むことができる企業でありたいと思っています。これはNTTグループ各社においても同様かと思います。チャンスは数えきれないほどあるので、それを1つでも多くつかんでもらいたいです。そのために、情熱を持って仕事を進めることが大切です。どんな環境においても、情熱と意思を持って仕事を続けていればチャンスはやってくるのではないでしょうか。
私はNTTへ入社以来、「あれをやらせてほしい、これをやらせてほしい」とよく言っていました。最初は、入社して配属された移動体通信事業部のときでした。当時は自動車電話の時代で、サービス開発の部署に所属していたのですが、技術の中身が分からないので、もっと深く技術の勉強がしたくなり、研究所へ配属希望を出したところ、無線通信の研究開発をさせていただけることになりました。ところが、研究開発をしていると、今度はもっとビジネス全体のことを知りたいと思い、また申し出ました。今考えると支離滅裂な気もしますが、私の希望を叶えてくださった諸先輩方には大変感謝しています。
繰り返しになりますが、私たちはICTの活用により世の中が変わる真っ只中にいると思います。まさにその中心にいるのがNTTグループで、これはすごく幸運なことだと思います。NTTグループの社員ならばこのチャンスを活かすことができます。意思を持って、情熱的に取り組むことで、成果はきっと世の中の役に立つものになっていくと信じています。

副社長の情熱の源は何でしょう。

端末開発を担当していたころは、自分が手掛けたものが世の中に出ているのを見るとすごく嬉しいものでした。街中で、その端末を指して、「あれいいよね」と言っていただいたり、端末が実際に使われている姿を見ると、すごく嬉しかったです。私の場合は、開発に限らずこういうフィードバックが情熱の源なのかもしれません。
また、オンとオフのメリハリ、今でいうワークライフバランスもそのエネルギー源になっていると思います。休みの日は読書をしながら十分に休息をしています。大半は小説ですが、ボーっとする時間は大切だと思います。読書に限らず、人それぞれがリセットされるような好きなことをする、無心になって取り組めることがあると良いと思いますし、それがエネルギー源にもなると思います。
さらに、使命感も情熱の源になるのではないでしょうか。例えば、9月に千葉県を直撃した台風15号による通信障害の復旧の話です。停電の影響もあり、広い範囲で携帯電話がご利用いただけない、またはご利用しづらい状況が発生しました。復旧に時間がかかりお客さまにはご迷惑をおかけしてしまいましたが、千葉を中心に全国から社員が集まって対応させていただき復旧に努めました。こうした災害のような不測の事態とそれへの対応に伴うNTTグループの結束力は、代々受け継がれているスピリットなのですが、社会にとって重要なインフラを提供しているという使命感からくるものです。インシデントが発生すれば、すぐに対応できる体制は整えられています。社長をトップとして、経営幹部が災害対策本部に集まる仕組みです。さらには、幹部だけでなく社員全員にその覚悟があるのは、まさに使命感のなせる業です。これがNTTのDNAでもあり、情熱の源でもあると思います。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

丸山副社長はさわやかな笑顔で颯爽とインタビュー会場に登場されました。「丸山副社長は一言でいうとどんな方でしょうか」。トップインタビューの前に、それとなく社員の方に伺うと、3つのキーワードをいただくことができました。気さくでおおらか、そして、聞き上手。「思い当たる節はございませんか?」とお聞きすると、「そうかなあ」と照れながら、支店を訪ねて、若手社員の意見を聞く場を設けていらっしゃる様子を話してくださいました。「人の言葉に耳を傾けるのは、性格的に向いているんですね。やっぱり自分ひとりで考えられることは限られています。叡智は結集したほうが良いんです」と丸山副社長。
先日も物流センターでいろいろな取り組みの話を聞きながら、お客さまが本当に望んでいることを掴んで仕事をする重要性に気付かれたといいます。ご自身が大切にされていることを、見聞きすることで再確認する、確信される時間を大切にしていらっしゃいます。週末はジムで汗を流して、最近ではブラームスをはじめ、クラシック音楽を嗜まれているそうです。ちなみに、クラシック音楽を聴かれるようになったきっかけは端末開発時に「ハイレゾ」に出会ったことだとか。豊かな趣味も仕事への情熱に由来すると知り、その志の高さと興味関心の広さに学ばせていただいたひと時でした。