トップインタビュー
歴史や経緯にこだわらず「いま」をみつめよう。ICTで新たな挑戦。西日本発グローバルへ
「地域のビタミン活動」を通じ、地域の社会課題解決に取り組むNTT西日本。社会課題解決のみならずICTを活用した新領域への挑戦、新たなイノベーション創出にも挑んでいます。ICTの力で社会課題を解決する先駆者として、Well-beingに満ちた、持続可能な社会の実現に向けて邁進する森林正彰代表取締役社長にNTT西日本のビジョンとトップの姿勢を伺いました。
NTT西日本
代表取締役社長
社長執行役員
森林 正彰
PROFILE
1984年日本電信電話公社に入社。2009年NTT Europe Ltd. 代表取締役社長、2016年NTTコミュニケーションズ取締役 クラウドサービス部長、2018年同社代表取締役副社長、2019年7月NTT Ltd. 取締役副社長を経て、2022年6月より現職。
2023年は勝負の年
2年ぶり、3度目のご登場ですね。前回はコロナ禍のロンドンでしたが、久しぶりの日本はいかがでしょうか。
コロナ禍を経てリモートワークが社会に定着してきましたが、一方で、選択肢としてオフィスに出社するようにもなり、お客さま等と直接対面でお会いする機会も徐々に増えてきており、コロナ禍以前とは違う社会になったという実感があります。
さて、2022年6月に日本に戻り、30年ぶりに西日本地域で仕事に就いています。NTTコミュニケーションズ(NTT Com)設立時の1999年から2019年までNTT Comに在籍していましたが、2016年から2018年までを除き、海外の会社への出向も含めて一貫してグローバル関連の仕事をしており、さらに2019年からはNTT Ltd.でロンドンに勤務し、NTT生活の半分以上が海外拠点を中心としたグローバルのビジネスをしてきました。このため、国内、しかもNTT西日本という地域の会社で、仕事のギャップにうまく馴染めたか等のご心配もいただきそうですが、違和感も抵抗感もなく仕事に従事しています。
もちろん、30年の時を経て西日本地域の仕事が大きく変化していることも実感していますし、お客さまも変化しています。しかし、グローバルな視点からみると、日本もその1つの地域であり、さらにICTであれば、ネットワークやセキュリティ、クラウド、DX(デジタルトランスフォーメーション)等と、グローバルにおいてもNTT東日本、NTT西日本のようなドメスティックな会社でも抱えている課題はほとんど同じですから、これまでの経験を活かすことができると思っています。
同時に、グローバルのパートナー企業とも、NTT Ltd.やNTT Com時代に築き上げた関係性をそのまま大切に維持していますから、これを活かして直接的な連携も可能です。
2022年、NTT西日本の新本社ビルNTT WEST i - CAMPUSの竣工に伴い、オープンイノベーション施設、QUINTBRIDGEを開設し、パートナー企業の皆様とともに社会課題の解決や未来社会の創造に臨んでいます。すでにオープン時から延べ5万人以上が集い、240回以上のイベントを開催しました。また、未来共創プログラム『Future-Build』をスタートさせ、健康、生活、経済、環境の4つの分野に、国内外のベンチャーから100件を超える提案が寄せられ、6件のビジネス化を検討しています。
QUINTBRIDGEのパートナー企業に対しては、私たち、NTT西日本グループはもちろん、国内外のNTTグループ、米国西海岸、イスラエルなどのベンチャー企業、大手IT企業などとのマッチングの機会を増やして、さまざまな連携、共創を進めていきたいと思います。
世界を相手に獲得した知見や、盤石なネットワークはとても心強いですね。経営環境や2023年のビジョン等をお聞かせいただけますでしょうか。
足元では、半導体不足、エネルギー価格の高騰など、大きな社会情勢の変化が生じています。また、情報通信分野においても、新型コロナウイルス感染症を踏まえ社会生活が変容し、あらゆる事業・生活でデジタル化・オンライン化の流れが加速・定着する中で、ますます情報通信インフラの重要性が高まっています。
そのような事業環境の中、2022年6月の社長就任記者会見で「伝新人輪(でんしんじんわ)」という言葉を掲げました。電信電話ともつながる語感で、一文字ずつに思いを込めました。「伝」はNTTの伝統と技術を守り磨き続ける。「新」はグローバルな視点を活かした新たな挑戦をする。そして、「人」は社員、お客さま、地域コミュニティ等あらゆる人とのつながり、そして人を大切にすること。最後の「輪」はパートナーとの共創の輪を広げるという思いを表現しています。
2023年度はNTT西日本にとって勝負の年で、これまでの電話と光、通信の会社というイメージからAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)等をフルに活用して、先進的で、イノベーティブで魅力的な会社へと大きな変革を遂げる年です。
私たちがめざしているのは、屋台骨となる情報通信インフラを、安定的かつ高品質につなぎ続けるとともに、DXの推進による効率化を通じて、通信インフラを磨き続けること。そして、社会課題解決の先駆者として、地域やパートナーとのつながりによって地域創生を実現することです。
そのためには、より一層、成長分野ビジネスの強化も図っていきます。私たちの強みである設備インフラのノウハウを活かしたインフラビジネス、電子書籍事業やコンタクトセンター事業といったグループ会社での事業強化も今後の成長に欠かせません。
具体的には、自治体が抱える産業活性化、雇用創出、高齢化対策などへの対応や、人手不足に陥りがちな地域企業が求める仕事の効率化などの実現をめざした「地域創生クラウド」展開、一斉・画一的な教育から、個人の主体的な学修や個別最適化された教育への転換や、学生生活を含めた利便性の向上を図り、特色ある学校づくりを支援するデジタルエデュケーション構想を実現するプラットフォーム「エルID」による、大学向けの教育DXの推進をはじめ、中堅、中小企業向けの複合型ソリューションパッケージ、カーボンニュートラルに関する取り組みとしてEV活用による新たな共創、自社データの分析や活用により高度化するキャリアインフラビジネスを主な成長分野ビジネスとして注力していきます。
ICTの力で社会課題解決とWell-beingを追究
成長分野のビジネスはどれも現代社会には不可欠で、重要なことばかりですね。日常生活においては、ICT活用がますます進んで便利になっていくのですね。
日常生活のデジタル化と同時に、Well-being志向も高まっています。こうした中で、私たちはエンタテインメントサービスの領域でもICTを活用したサービス展開に力を注いでいます。最近はTV CMでも流れている「コミックシーモア」はご存じでしょうか。2022年にサービス開始から18周年を迎えた総合電子書籍サービスです。2022年3月にこのサービスを世界中のお客さまへお届けする第一歩として、海外向けのデジタルマンガストア「MangaPlaza(マンガプラザ)」のサービス提供を開始しました。エンタテインメントサービスは、情報端末の進化とともに、次々と新しいサービスが生まれるダイナミックな領域であり、多くのパートナーの皆様とともに新たな文化の創出にチャレンジしたいと考えています。
そして、疾病の予防と早期発見・健康増進はすべての人々にかかわる重要テーマです。これらは睡眠と深い関係があり、この大きな課題を解決すべく、医療・介護ベッドおよびマット型睡眠センサーで国内トップシェアを誇るパラマウントベッド社と合弁会社「NTT PARAVITA(パラヴィータ)」を設立して取り組んでいます。睡眠という観点からICTを活用した未病早期発見の支援や健康増進のための情報提供を目的として、高精度睡眠センサーを活用して睡眠情報を可視化し、専門家による睡眠改善アドバイスや調剤薬局における健康サポートサービスを提供しています。私たちが研究開発をしてきた睡眠データを分析するAIエンジンと睡眠のノウハウを掛け合わせて、顕在化していない未病段階で早期発見に取り組んでいきます。
変わる、変えることに違和感を持たない
トップとして、これまで大切にしてこられたことを教えていただけますでしょうか。
やはり「人」、そして「人とのつながり」です。リモートワークが定着してきましたが、リモートと対面、それぞれの利点も活かしつつハイブリッドで、人のつながりやコミュニケーションを大切にしていきたいと考えています。
それはお客さまやパートナーとのつながりだけではなく、社員とのつながりも同様です。日頃、役員や部門長と接する機会があっても、それ以外の社員と語り合う機会がなかなか持てませんので、西日本の30府県にある支店への訪問や社員とランチ会等を通じた対話の場を設けています。ただ、NTT西日本グループ全社員は約5万人ですから、すべての社員との対話というわけにはいきませんが、少しでも多くの社員とコミュニケーションを図りたいと思っています。
それから、トップとしては、意思決定において「外部からの視点」を大切にしています。例えば、新しく配属された先で、そこで粛々と行われている業務に対して何かしらの違和感を覚えることがありますよね。その違和感はたいていの場合、改善や変革すべき課題で、その認識は正しいことが多いのです。それに対して、私は「これ変じゃないか?」と問いかけるようにしています。もちろん、トップである私に、声に出して反論しづらいときもあるでしょうけれど、私は表情や会話のニュアンスを注意深く見て決定し、反論にも耳を傾けています。
また、反論の際に「今までの経緯があってこうなっているのです」という理由をよく聞きます。「その経緯がなければどうか」と聞き返すと、「おっしゃるとおりです(変だと思います)」という回答が返ってくることが結構あります。10年前に決めたことをそのまま引き継がなければならないルールはありません。しがらみは捨てて、現時点の判断で正しい、最適だと思うことをやるのです。
最後に、パートナー、研究者、社員の皆様に一言お願いいたします。
まずは研究者の皆さん。NTTとして付加価値を付けられるもの、世の中にないものをぜひ生み出してください。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想はNTTグループにとって大きなビジョンであり、世界をリードする技術です。私たちも2年後の大阪・関西万博でしっかりPRしていきます。非常に優秀な頭脳を持った研究者の皆さんにはグローバルを意識して研究に臨んでいただきたいと思っています。
パートナーの皆さんとは引き続き新しいものを築いていきたいです。QUINTBRIDGEをはじめ、私たちは非常に広く門戸を開いています。1人でも、1社でも多くの皆さんと新しいものをつくり、サービスを提供していきたいと思っていますので、2023年度も引き続きよろしくお願いいたします。
そして、社員の皆さん。私たちが社会課題の解決を図り、企業として成長するための要は「人」です。人権尊重とダイバーシティ&インクルージョン、安全労働、健康経営を推進し、リモートワークを基本とする新たな経営スタイルへの変革を図り、社員の皆さんが自ら働く場所や時間を選択できるワークインライフを推進しています。繰り返しますが、私たちにとって2023年は勝負の年です。成長分野のビジネスを並行して伸ばしていくためにはすべきことがたくさんあります。過去のしがらみ、経緯にこだわらずに「いま」を見つめて、良かれと思ったことをぜひ提案してください。私自身のポジティブさはいつまでも変わりません。これからもどんどんポジティブにいきましょう。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)
※インタビューは距離を取りながら、アクリル板越しに行いました。
前回はロンドンと日本をインターネットでつないでインタビューさせていただきましたので、森林社長に直接お目にかかるのは、NTT Comの副社長時代以来の3年ぶりです。フランク、フラットなあり方であっという間にその場を和ませてくださる森林社長。いつも以上に和やかにお話が進み、つい図々しく森林社長の執務室にもお邪魔させていただきました。執務室の入り口にはなんと森林社長の似顔絵と昨年6月の就任記者会見で披露した「伝新人輪(でんしんじんわ)」の文字が飾られていました。これは、かつてお勤めであった北九州支店の社員さんの作品だと言います。「書を書いてくれた社員の師匠は世界で活躍する書道家で、その方は私が北九州支店にいたときのご近所さんだったのですよ。人ってつながっていますよね」と優しく微笑まれました。現在はもうすぐ2歳を迎えられるお孫さんとままごと遊び等をして楽しんでいらっしゃり、将来はグランパと呼ばせたいとか。人の心と未来を拓く前向きな姿勢とつながりを大切にするあたたかさ、そして、森林社長を語るときに外せないキーワード、「ポジティブ」「グローバル」を実感するひと時でした。