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グループ企業探訪

第254回 NTT PARAVITA株式会社

睡眠改善No.1企業をめざし、睡眠改善により社会課題解決に取り組む

NTT PARAVITAは、センサーからの「睡眠データ」を解析し、睡眠改善により健康で充実した生活の維持をサポートすることをとおして、医療費削減や健康経営といった社会課題の解決に取り組む会社だ。ヘルスケアに世の中の注目が集まる中、「睡眠改善」という切り口でこの分野の市場拡大をめざす思いを中野康司社長に伺った。

NTT PARAVITA 中野康司社長

「睡眠データ」の解析・可視化のみならず具体的アクションにつなげて効果を発揮

◆設立の背景と会社の概要について教えてください。

NTT PARAVITA(PARAVITA)は、ICTを用いた、未病状態の発見に資するデータ提供を行うことにより利用者の健康で充実した生活の維持をサポートする事業の展開を図ることで、社会保障費の削減および地域住民の健康増進といった地域の社会課題の解決への貢献を目的として、2021年7月に、NTT西日本とパラマウントベッド株式会社の合弁により設立されました。“そばに”という意味の“PARA”と、“生命、人生、生活”を示すラテン語の“VITA”を社名に掲げ、人に寄り添い、「自分らしく彩りのある人生を」支えていくことをビジョンにする企業です。
NTT西日本のICTを活用した地域の抱える社会課題の解決への取り組みと、医療・介護ベッドおよびマット型睡眠センサーで国内トップシェアを誇るパラマウントベッドの製品・知見との連携により、ICTを活用した未病・早期発見の支援や健康促進のための情報提供を目的としたヘルスケア事業を展開しています。

◆具体的にどのようなサービスを提供しているのでしょうか。

自治体向けサービス、医療・介護事業者向けサービス、健康経営支援サービスの3つのドメインでサービスを提供しています。
自治体向けサービスとしては、自治体からの委託に基づき、最終的なサービス利用者となる地域住民の方に専用の睡眠センサーを配布し睡眠データを取得し、地域住民に自身の睡眠状況を客観的に把握していただきつつ、得られたデータに基づいて、専門家による睡眠改善に資する生活習慣の改善指導を行う、「ねむりの見守り」サービスを提供しています。
医療・介護事業者向けサービスとしては、訪問介護などの介護事業者や調剤薬局、フィットネス事業者に向けて睡眠センサーと可視化された解析レポートを提供し、エンドユーザへの健康アドバイスや服薬アドバイス等による健康促進を支援する「ねむりの窓口」サービスを提供しています。
健康経営支援サービスとしては、一般企業、福利厚生代行企業等向けに、睡眠センサーと専用のアプリを使い、毎日の睡眠時間と睡眠の質を上げるための日中の活動量(徒歩数)を記録して、生活習慣病予防につなげる参加型のモデル実施ダイエットプログラム「ねむりのジム」サービス、そして、従業員に睡眠センサーを配布し、計測・取得された睡眠データを基に睡眠のパーソナルトレーナーから具体的なアドバイスを行うことで睡眠改善をサポートし、従業員の生産性を高めるとともに、疾病リスクの低下にもつながる健康経営施策「ねむりのあれこれ」サービスを提供しています。
これらのサービスは、収集データやその解析結果といった情報提供にとどまらず、個人の行動変容までサポートするために専門家による指導やそれに関連するアクションにつなげるといったハイブリッドなアプローチで、効果を出しているところが大きな特長です。

「睡眠データ」活用を出発点に新たな領域への展開をめざして社会課題解決を推進

◆事業を取り巻く環境はどのような状況でしょうか。

昨今の研究成果として、睡眠と健康には密接な関係があることが分かってきました。睡眠に問題があると、①集中力、創造性、論理的思考力、感情制御機能等脳の機能の低下、②肥満リスク上昇やそれと関連する高血圧、Ⅱ型糖尿病、心疾患発症のリスク上昇、③癌、抑うつ症状、認知症のリスク上昇、④免疫力低下といった健康への影響や生産性への影響が出てきます。こうした中、2019年の経済協力開発機構(OECD)の発表では、日本の睡眠時間は、加盟33カ国平均の8時間27分に対して7時間22分と大差で最下位になっています。これらの結果として日本は医療費削減や生産性向上といった社会問題に直面しています。
一方で、従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する「健康経営」が注目を集めつつありますが、健康の3大要素といわれる「食事」「運動」「睡眠」のうち、「食事」と「運動」がその活動の中心となる傾向が強いのが現状です。また、仮に睡眠に関するデータを収集していてもそれをどのように活用するかというレベルには至っていません。
したがって、睡眠をとおした健康ビジネスや健康の3大要素すべてにわたった健康経営に関する市場が育っていない状況にあります。「睡眠」については、高精度なセンサーも出てきており、簡単で質の良いデータを継続的に収集できるような環境が整っているので、PARAVITAは「睡眠改善」に向けて睡眠の専門家の知識を活用し、新たなビジネスとして市場拡大を図っていこうとしています(図)。「睡眠」を基軸とした同様な取り組みをしている会社もいくつかありますが、「睡眠」の認知拡大と市場拡大に向けてお互いに協力し合っている、というのが現状です。

◆今後の展望についてお聞かせください。

PARAVITAは、睡眠データを活用したデータ分析を強みとして、それにより気付きを発見し、未病に対する予兆を検知して、予防や受診といったアクションにつなげるということを事業のコアとしています。それをまず、睡眠データの活用というアプローチの中で行っていき、医療費削減、生産性向上と健康経営といった社会課題解決につなげていきたいと考えています。
そのために、「睡眠と健康」に関する認知度向上と市場拡大をめざして邁進するとともに、その過程においては質の良い莫大な量のデータも収集されており、これを解析・活用することで新たな領域への展開も図っていくことを考えています。

担当者に聞く

「ねむりの窓口」「ねむりのあれこれ」を中心に、お客さまとともにブラッシュアップしてバリューを提供

マーケティング部
新田 一樹さん

◆担当されている業務について教えてください。

マーケティング部で、サービス開発の責任者として、2021年9月にリリースした「ねむりの窓口」をはじめ、最近では2022年9月にリリースした「ねむりのあれこれ」まで、PARAVITAの提供するほとんどすべてのサービスを開発しています。ビジネスアイデアの段階から、睡眠データ活用に関してお客さまへのヒアリングを行う中で、感触の良かった部分を仮のサービスとして具現化し、お客さまにお使いいただく中でブラッシュアップすることで、サービスとしてリリースしました。当社は小さな会社なので、このブラッシュアップをスピーディかつ柔軟に対応できました。
さて、睡眠と健康の関係は、世の中で少しずつ認知されてきており、マクロ的視点では良い睡眠のための環境を整えていくことに対する理解もできてきています。一方で、健康経営の視点では、先行している「食事」「運動」よりも「睡眠」の優先度を上げる、もしくは新たに「睡眠」を加えるということは、「睡眠」が健康経営のための必須要素ではないこともあり、まだまだ訴求が足りていないと思います。そこで、NTT西日本に採用していただき、多くの社員のデータ活用の効用に関する実績を積み上げ、これを他の企業にアピールしていくことでお客さま拡大を図っています。

◆今後の展望について教えてください。

「睡眠」に関して世の中の認知度をさらに向上させていくような啓蒙活動を行っていく中で、サービス開発の立場からは、プロダクトとしてはまだまだ未完成であると思っており、お客さまへのバリューを最大化する取り組みをしっかりと継続していきます。そのために、お客さまの声を聞いてそれをプロダクトに反映することでブラッシュアップしていくことに注力していきます。そして、お客さまに対するバリューを訴求していくことで、より多くのお客さまを獲得していくことに貢献できるよう取り組んでいきたいと思っています。

データの収集・蓄積・解析方法を洗練化することでエビデンスとしてのバリューを高める

事業開発部
曽我部 一樹さん

◆担当されている業務について教えてください。

データ解析のためのAI(人工知能)等、サービスを実現するシステム、お客さまに提供した睡眠センサーのオペレーションやセンサーの在庫管理のためのシステムといったシステム開発と運用を担当しています。サービス開発のカウンターパートとして、サービスを実現するシステム開発・運用を行う立場です。
システム開発・運用を行っていくうえで、意識しているところが3つあります。まず、お客さまの意見・ニーズにフレキシブルに対応していくことです。このために、アジャイル開発を取り入れていますが、その特長を最大限活用できる体制の構築に取り組んでいます。次に、蓄積された睡眠データはPARAVITAの財産だということです。この財産を中長期的にどのように活用するのかを視野に入れて、それにふさわしいデータの収集・蓄積の方法を検討・実践しています。そして、解析されたデータを可視化し、エビデンスとしてビジネスに活用することです。今後さらに多くのデータが蓄積され、私たちとしてもAIをさらにうまく活用していくことで、このエビデンスのバリューを向上させることができると思います。その先にはデータアナリスト、データサイエンティストの存在も意識していきたいと思います。

◆今後の展望について教えてください。

まずはお客さまにきちんとバリューを提供できる、それもスピーディにかつコストミニマムにやっていくことをめざします。サービス立ち上げ時から、お客さまの意見・ニーズを伺いながらそれをシステムにフィードバックすることで対応してきました。基本的なところはすべてのお客さまに共通なのですが、いわゆる個別最適な部分もあります。今後お客さまが増えてくるに従い、全体最適なシステムにしていくことで、スピーディかつコストミニマムを実現していきます。
それとともに、データ活用ビジネスとしてさらなる発展をめざしていきたいです。現在は睡眠データがほとんどですが、他のヘルスケアデータを組み合わせたビジネスも考えられます。こういった部分を視野に入れてデータの収集・蓄積方法を検討していきたいと思っています。

ア・ラ・カルト

■「ラウンジ」がオフィス

リモート勤務が標準の会社だそうです。そのためか、社員も意外と会社(本社・大阪)からは遠隔地に住んでいるようで、中には名古屋や東京に住んでいる人もいるとか。オフィスは、会議室やホワイトボード等、最低限のオフィスとしての機能はありますが、あくまでもコミュニケーションを取る場、休憩所というコンセプトでできており、名称も「ラウンジ」で、まさにその名のとおりの雰囲気です(写真)。出社した人は、コミュニケーションや食事の場として、コンセプトどおりに活用しています。リモート勤務標準の会社であるにもかかわらず、最近は、リアルで人と会いたいという意向もあり出社する人が多く、ゆったりとくつろげるはずのラウンジが手狭になってきたようですが、「ラウンジ」というコンセプトもあり、最先端のワークスタイルになっています。

■「お散歩しながら会議」で健康増進

健康をテーマとした会社で、行動指針にも「健康第一、生き生きと」というのが掲げられています。その効用もあってか、この会社で働き始めてダイエットを成功させた、前のところで働いたときと別人みたいになった、という人も多くいるそうです。
さらに、ロケーションフリーの勤務であることと、健康を組み合わせて、「お散歩しながら会議」という健康増進施策も行っています。スマートフォンやタブレットを手に、耳にはイヤホンといった姿で川沿い等を散歩しながら会議に参加します。散歩しながらなので、電波状態のよくないところでは反応が遅れてしまうこともあるそうです。川沿いの歩道とはいえ、くれぐれも交通事故には気を付けてください。