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from NTT西日本

新体験、顧客価値の創出に向けたNTT西日本の研究開発における取り組み

NTT西日本は、「『つなぐ』その先に『ひらく』あたらしい世界のトビラを」をパーパスとしてかかげており、社会を取り巻く環境変化がもたらすさまざまな課題に対し、技術と知恵をみがき、新たな価値共創によって地域社会のさらなる発展に貢献することをめざしています。ここではNTT西日本の研究開発としてNTTグループ全体で推進しているIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の早期サービス化や新たな価値創出をめざした取り組みを紹介するとともに、将来サービスの具現化に向けた構想やアーキテクチャ検討の取り組みについても紹介します。

はじめに

NTT西日本は、刻々と変化する社会環境の中で地域が抱える課題に対し、ICTで新たな価値を創造・共創していくことで社会課題の解決、地域活性化に貢献することをめざしています。
しかし、近年の社会課題やお客さまの課題は多様化しており、画一的なサービスや技術だけでは課題を解決することは困難となっています。そのため、それぞれの課題に応じたサービスのカスタマイズが必要であり、さまざまな情報からお客さまの課題を正確に把握し、解決に向けてサービスを最適化することが求められると考えています。
このような変化の中で、日本がめざすこれからの社会の姿として、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによる経済発展と社会課題の解決を両立する人間中心の社会としてSociety5.0が提唱されています。Society5.0の世界では、ICTやさまざまなデータの活用による新たなサービスの登場や、AI(人工知能)/IoT(Internet of Things)技術がさまざまな生活シーンに取り入れられ、人々のライフスタイルが従来のものから大きく変革し個々にパーソナライズドされたサービスによって豊かさを実現していくことと予想されます。このような世界を実現し支えていく技術基盤として、NTTグループではIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を進めています。IOWN構想は光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信、膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想であり、次の3つの主要技術にて構成されます(図1)。
1番目が、ネットワークから端末まですべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送の実現をめざすオールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)、2番目が、サイバー空間とフィジカル空間の掛け合わせによる未来予測等の実現をめざすデジタルツインコンピューティング(DTC:Digital TwinComputing)、3番目が、クラウドやエッジをはじめ、ネットワーク、端末等を含めてさまざまなICTリソースをニーズに応じて最適に制御し、オーバレイソリューションの迅速な提供をめざすコグニティブ・ファウンデーション(CF:Cognitive Foundation®)です。
NTT西日本では、これらのIOWN技術から早期に具現化された技術(プレIOWN技術)を活用し、サービス化に向けた取り組みを進めています。以降では、現在プレIOWNとして活用可能なAPNの低遅延性を活かし、複数の会場をAPNにて接続し同時に合唱を行う「遠隔合唱」実証の取り組みとDTCの一部である4Dデジタル基盤®を活用したインフラ設備の管理等への活用に向けた取り組みについて紹介させていただきます。またこれらに加えて、将来のIOWN技術を見据えたNTT西日本としての将来サービス像の検討の取り組みについて紹介させていただきます。

APN関連技術を活用したリアルタイム遠隔合唱実証実験

ライブ・エンタテインメント分野において、無観客ライブやバーチャルフェスなど、リアルとオンラインの融合を取り入れた新たなイベントのあり方が模索されています。NTTグループは、IOWN APNの関連技術開発により、ユースケースの1つである複数の拠点を接続し1つの空間として体感することができる技術として、ライブ・エンタテインメント分野を含めたさまざまな分野における事例創出をめざしています。
NTT西日本では、大阪城ホールにて、株式会社毎日放送主催、1983年から毎年開催されている合唱コンサート「サントリー1万人の第九」の第40回記念公演において、東京-大阪間をAPN関連技術でつないだリアルタイム遠隔合唱の実証実験を実施しました(図2)。本実証実験では、大阪城ホール、QUINTBRIDGE(大阪・京橋)、さらに光ファイバ長として約700km離れたOPEN HUB Park(東京)の計3拠点をつなぎ、リアルタイム遠隔合唱を実施しました。指揮者、演奏者(オーケストラ)、合唱者が離れた会場においても、APN関連技術を用いることで、違和感なく合唱ができる遅延量20ms(7m程度離れた所からの音声の伝搬遅延量)を目標遅延量として設定し、実現に成功しました。
今後は、本実証実験により蓄積した知見を基にAPN関連技術の社会実装に向けた研究開発を進めるとともに、新たなユースケースの探索によりIOWN APNの利用シーンの開拓を行っていく予定です。

DTCを活用した高精度な設備劣化予測や設備設計のシミュレーション

4Dデジタル基盤®は、DTCを支え、ヒト・モノ・コトのさまざまなセンシングデータをリアルタイムに収集し、「緯度・経度・高度・時刻」の4次元の情報を高い精度で一致・統合させ、多様な産業基盤とのデータ融合や未来予測を可能とする基盤となっています。
昨今、インフラ分野は急速な高齢化と生産労働力人口の減少が社会課題となっており、省力・効率的なインフラ設備の維持管理の仕組みが必要となっています。NTT西日本ではインフラ分野での適用検討をファーストケースに、4Dデジタル基盤®の要素技術活用に向けた取り組みを行っています。
具体的には2D地図上へ、高精度3D骨格情報*1、建物3Dモデル、実フィールドをとおして取得した点群データ等を統合させることでリアル空間をデジタル空間に再現、および3次元座標値(X、Y、Z)を持つ点群データの特徴を活かし、精緻な設備管理のためのAI*2による設備自動抽出等に取り組んでいます(図3)。
将来的には、デジタル空間で精緻に管理された設備に対し、サビやヒビなど表面劣化を検知する画像データ、傾きやへこみ等の構造を理解する点群データ、センシングデータ、これら時系列データを組み合わせることにより、高精度な設備劣化予測や設備設計のシミュレーションへの活用を想定しています。
またこの4Dデジタル基盤®については、プレIOWN技術として一部実現可能な技術のため、具体的なユースケースでの活用検討を進めていますが、データ収集におけるコストや大量のデータを組み合わせて扱うための高性能なデータ処理能力が求められることが課題としてみえてきています。サービス化をめざして、これらの課題解決に向けても取り組んでいく予定です。

*1 高精度3D骨格情報:NTTインフラネット社が整備を進める高精度位置を持つ道路縁・マンホール位置基準情報。
*2 設備管理のためのAI:NTT研究所の点群データ処理技術(geoNebula®)。

必要なときに柔軟かつ容易にリソース提供可能なネットワークアーキテクチャの追求

お客さまのネットワークインフラを支えるNTT西日本としては、IOWNの構想や技術を見据えつつ、将来のお客さまニーズについて仮説からバックキャストし、求められるサービスの検討と実現に向けて必要となる技術やアーキテクチャの検討にも取り組んでいます。この取り組みはIOWNの主要技術であるCF技術の実現・活用につながると考えています。
NTT西日本のネットワークは、インターネットの主流がWeb1.0(ブログや検索サイトにつながること)からWeb2.0(プラットフォーマーの台頭とモバイル端末の普及による大規模トラフィック化)に変遷するに従い、インターネットをお客さまがより快適につなげられるかたちとして接続回線の大容量化へと進化してきています。しかし、今後主流とされるWeb3.0においては、いつ、どこからどこへ、どのぐらいのトラフィックが流れるかは、お客さまのニーズによって決まる時代になると想定しており、計画的、画一的なトラフィックをベースとしながらも、必要なときに柔軟かつ容易にリソースを提供できるような可変的なモデルが必要とではないかと仮定しています。現時点では、下記に関する研究開発を行っています。
① 選択の自由度が高い(品質の自由度、リソース選択対象の自由度等)サービスをお客さまの希望するタイミングに合わせて提供できる機能
② 多様な端末との接続ニーズにこたえることができるネットワークアーキテクチャや機能
今後さらに、サイバーとフィジカルの融合において求められると考えるトラスト機能(本人性の証明などの信頼情報提供)に関する検討を進めていく予定です(図4)。
これらの機能の多くは、CFにて実現可能と考えていますが、早期サービス化をめざすにあたり、IOWN技術を待つのではなく、現在の技術にて実現可能な部分から具現化に向けて取り組んでいく予定です。IOWN技術が確立された際には、さらなる高度なサービスへと進化し、お客さまへの新たな体験の提供と新価値の創造につなげていく予定です。

おわりに

ここではNTT西日本の新価値創造および顧客体験の創出に向けた研究開発の取り組みについて紹介しました。IOWN構想の実現に向けては、2023年3月よりIOWNサービスの第一弾として超低遅延・大容量化を実現するAPNサービスの開始が予定されています。前述した世界の実現にはさらなる大量かつ多様なデータの通信と蓄積・分析・活用等の取り組みが必要であり、それに伴う消費電力の増加が予想されます。今後は多様な人々のWell-being実現に貢献していくだけでなく、IOWNのもう1つの大きな特徴である低消費電力技術を活かした革新的なネットワークサービスの実現に向けた研究開発にも取り組んでいきたいと思います。

問い合わせ先

NTT西日本
技術革新部 技術戦略部門 技術企画担当
TEL 06-6490-0206
E-mail tech-strategy@west.ntt.co.jp