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トップインタビュー

「今これをやらなきゃダメだ」という強い信念を持てるか。めざすはGlobal No.1の技術力の実現、お客さまへの提供価値の最大化

情報技術をもって新しい「仕組み」や「価値」を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献するNTTデータ。新中期経営計画では5戦略を携えて、投資と成長の好循環を確立し、Global 3rd Stageに向けた事業成長の実現をめざしています。この目標を技術面で率いる冨安寛NTTデータ技術革新統括本部長に具体的な技術戦略とトップとしての信条を伺いました。

NTTデータ
執行役員
技術革新統括本部長
冨安 寛

PROFILE

1990年NTTデータ通信に入社。2007年NTTデータ 技術開発本部部長、2011年ソフトウエア工学推進センタ長、2015年技術革新統括本部 基盤システム事業本部 システム方式技術部長、2017年技術革新統括本部 システム技術本部長を経て、2020年6月より現職。 

技術部門のヘッドクォーター・技術革新統括本部を率いる

NTTデータの技術戦略についてお聞かせいただけますか。

NTTデータはここ数年で世界各国に19万人の社員を擁するまでに成長したグローバル企業です。2022年度から2025年度の新しい中期経営計画において、Global 3rd Stageの到達に向けて、ITサービスプロバイダとしてGlobalトップ5入りをめざして取り組んでいます。これまでGlobal 1st StageにおいてGlobalカバレッジを拡充し、Global 2nd Stageにてグローバルブランドの確立を図り、Global 3rd Stageでは、「変わらぬ信念、変える勇気」によってGlobalで質の伴った成長をめざしてきました。そして、Global 3rd Stageの到達に向けた新中期経営計画として、さまざまな人々をテクノロジでつなぐことで、未来に向けた価値をつくり、お客さまとともにサステナブルな社会の実現をめざして、「ITとConnectivity の融合による新たなサービスの創出」「Foresight起点のコンサルティング力の強化」「アセットベースのビジネスモデルへの進化」「先進技術活用力とシステム開発技術力の強化」「人材・組織力の最大化」の5戦略で臨んでいます。
私の率いる技術革新統括本部は米国や欧州に点在する技術部隊のヘッドクォーターの役割を担い、Global No.1の技術力の実現、お客さまへの提供価値の最大化を掲げた技術戦略により、先進技術の活用、お客さまの課題解決を実現する共創R&Dなどをとおして、今使える技術だけではなく今後普及していく技術の見極め・活用することに、いち早くGlobal全体で取り組んでいます。特に、中期経営計画の5戦略においては「アセットベースのビジネスモデルの進化」と「先進技術活用力とシステム開発技術力の強化」に注力し、その実現に向けて技術注力領域を定めるとともに、高い生産性とデジタル時代にふさわしいアジリティを持つシステム開発を実現する技術を独自に開発してGlobal共通アセットとして提供し、そして、その価値を継続的に提供していくために技術力の高い人材の活用を進めています。

5戦略のうち、2つを担うとは大役ですね。ビジネスモデルの進化には注目が集まりそうです。

私たちのビジネスモデルは従来、お客さまのご要望に応じてシステムの開発を行うスタイルの、いわゆるSI(System Integration)でした。お客さまからのRFP(Request for Proposal:提案依頼書)を受けて提案する営業活動を行い、それぞれのRFPに対して、オーダーメイドとして一点もののシステム開発を中心に行ってきました。
この従来型SIから、これまで培ってきた顧客理解と高度な技術力でシステムをつくる力と、さまざまな企業システムや業界インフラを支え、人と企業・社会をつなぐ力を存分に発揮するために、アセットベースのSIへシフトします。
その背景にはIT人材の確保と、刻々と変化する環境やお客さまのご要望への迅速な対応という2つの課題があります。IT人材不足の解消については、従来型のSI業態のまま売上を拡充するためには大量の人材を抱えるプロジェクトを数多く実施しなくてはなりません。しかし、依然、IT人材の獲得競争は世界的に過熱している状況下にありますから、大量の人材が確保できるとは限りません。このため、「個別につくらない開発」の実現が重要になりますから、私たちはグローバルレベルでグループ内の技術や知見、経験などをアセット化して、それらをマルチリージョン、マルチインダストリで有効活用するスタイルをめざすことにしました。
迅速な対応については、デジタル技術の活用によってビジネススピードが急激に加速している中、従来型SIのスピード感ではそれについていけないため、アセットを活用して自ら提案し、発信するビジネスモデルへと進化させて、デジタル時代にふさわしいビジネスアジリティを備えて、お客さまへの提供価値を最大化していきます。
さて、アセットといってもさまざまなものがありますが、ここでは、業界や業務のフォーサイト、ベストプラクティス、ソフトウェア、自社ツール等の再利用可能なもののことです。そのうち、私たち技術革新統括本部はグローバル共通のテクノロジアセットの創出を担い、グローバルに技術注力領域を定めて、各領域で業界に依存しないテクノロジアセットを開発します。各領域での「売上規模拡大」「技術者数増加」「パートナーアライアンス強化によるエコシステムの実現」によって、Global No.1の技術力の獲得をめざし、その技術力を活かして、アセットベースのビジネスへの変革を加速させています。

技術開発活動をEGM領域に再構成

技術の活用力や開発技術力もさらに強化されるのですね。

これは私たちの技術をビジネスにつなげていくための非常に重要な戦略で、将来の競争力獲得に向けた先進技術の活用力と生産性の向上に向けたシステム開発技術力を強化するものです。まず、これらを技術の成熟度に応じてEGM(Emerging、Growth、Mainstream)の3つのフェーズに分けて、フェーズごとに技術獲得をめざす研究開発・技術開発活動に再構成しました。
Emergingフェーズは5年から10年後を想定した先進技術探索と、お客さまとともに新しい技術による価値創出を検討する共創R&Dを担います。そして、Growthフェーズでは3年から5年後の成長事業、技術注力領域を形成するための技術開発、テクノロジアセットの創出とビジネス検証に加えて技術者の育成も実施します。EmergingとGrowthフェーズにおいてはテクノロジアセットの整備を本格的に始動し、技術起点でグローバルビジネス拡大を実現していきます。また、新たな社会価値創出の重点施策テーマとして、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)については、要素技術の研究開発を推進するNTT研究所と連携し、研究成果をお客さまに展開・事業化できるように共通テストベッドの開発や、社会変革パートナーとの共創R&Dを実施するデジタルツイン共創プログラムも展開しています。
そして、Mainstreamフェーズでは現行の事業向けに技術注力領域でテクノロジアセットを開発し、グローバル戦略を統一して日本、米国、欧州3極での事業展開、デリバリーリソースの拡大、市場シェア拡大を推進します。主な技術注力領域としては、多様なクラウドサービスを活用したシステム開発を実施する「クラウド領域」、デジタル技術を活用したアジリティの高いシステム開発とさらなる生産性を追究する「ADM(Application Development and Management)領域」、従来の境界型の防御ではなく、ゼロトラストの考え方に基づくセキュリティサービスに注力する「サイバーセキュリティ領域」、そして、AI(人工知能)を利用したデータ分析と活用によって新たなビジネス価値の創出に挑む「D&I(Data & Intelligence)領域」の4領域があります。

技術革新統括本部の再編成はNTTデータのビジネス変革の旗印のようですね。

旗印というよりも「試金石」だと考えています。冒頭でもお話ししましたが、NTTデータは全世界に19万人の社員を擁する企業に成長しました。この成長過程ではM&Aを行っており、各社のビジネススタイルの違い、各国の商習慣やビジネスプロセスの違い、お客さまの特性やニーズの違いがあります。これらを共通化、場合によっては統合し、戦略的にNTTデータのアイデンティティを築いていくにあたって、各リージョンでそれぞれ異なるお客さまのニーズに適応できるよう調整していかなければなりません。これには相当な時間がかかることはいうまでもありませんが、ある意味で技術は世界共通ですから統一しやすいこともあり、技術戦略を先行して共有化したのです。
もちろん、初めてのことですから上手くいかないことも当然のごとくあります。そこで、事業計画に関してはスピード感を持って実行しつつ、必要に応じて修正するというやり方に変えて、各国の幹部とともに3カ月ごとにその実施状況により計画を見直しています。常に目を光らせて3カ月ごとに大修正ですから、私自身にも経過に一喜一憂するゆとりもありません。「夢中で取り組む」の繰り返しが後の「良かったな」につながっていくととらえて仕事をしています。
ところで、この見極めに際して、通常の指標に加えて、そのプロジェクトが「多忙な状況にあるのか」もポイントの1つとしています。「大変だ、大変だ」と言いながら全力で向き合ってきた仕事を後から振り返ってみたとき、「あれは面白かった。充実していた」と感じたことがあるかと思います。私自身にもそのような経験もあって、今まさに夢中になって取り組めているかどうかも見極めの際には考慮しています。

熱意を持って「人」を育てたい

本部長が仕事をする際に大切にしていらっしゃることを教えていただけますか。

私が入社したのは1990年です。研究開発の仕事からスタートし、画像認識の研究開発を10年程度続けてきました。しかし、手掛けていた画像認識は時代背景や将来性等のさまざまな判断から断念することとなり、金融システム関連の部署へと異動となりました。
この経験から得た教訓があります。それは、惰性でプロジェクトを継続してはいけない、タイムリーに撤退や軌道修正をかけるための強い信念を持つことが重要である、ということです。NTTデータはいまや19万人の社員を擁するグローバル企業ですから、惰性で仕事していてはこの19万人があらぬ方向へ進んでしまいます。だからこそ、NTTデータのグローバル一体化に向けた明快な技術戦略を世界各地の技術者と共有し、信念を持って変革を推し進めているのです。
それから、開発している技術はお客さまに受け入れられるものであるか、人気を集めそうなものであるかという目利きも重要です。フロントラインの社員がお客さまと直接コミュニケーションを図る中でつぶさに見た課題に対応できる技術を開発し、フロントラインの社員が「これで課題を解決できます」と自信を持ってお客さまに提案できるものをつくることが大事なのです。
ややもすると、技術者は現場からの距離が遠くなりがちで、その状況において自らの発想を起点にした開発に終始し、成果をお客さまに提案することがあります。こういうプロセスで開発したモノは残念ながらお客さまに受け入れられないことが多くなります。こうしたことから、私はタイムリーにフロントラインや現場の判断を大切にしたいと考えています。

現場や現場の方々の考えを大切にされるのですね。最後に、社内外の皆さんに一言お願いいたします。

私は熱意を持って「人」を育てようと努めています。人を育てるのに大切なのは、その人がどういう人であるか、どんなセンスを持つ人かを見極める力です。なぜならば、すべての人が同じタイミングやスピードで育つわけではありません。また、伸びる傾きも違えば、センスも違います。その人の個性に合った仕事を与えられるかどうかがトップの手腕だと考えています。育てたいと思うその人にとって難しすぎないか、簡単すぎないかといった点に合わせて個性を見極めることを常に念頭に置いています。
パートナーの皆さん。人材獲得は世界的にも熾烈な戦いを強いられています。マスコミではGAFA等のレイオフが報じられていることから、ICT人材はすでに飽和状態であると思わるかもしれませんが、実体は違います。ICTの変化はめまぐるしく、そこに求められる人材像も変わってきており、それに対応できる人材獲得競争が起きているのです。また、さまざまなAIの登場から、将来的にコンピュータシステムはすべてAIにとって代わるのではないかと想像しがちですが、動かしているのは「人」ですし、コンピュータシステムやソフトウェアはこの先も必要です。だからこそ、今後も「人」が大切になります。私は社内の人だけではなく、パートナーの皆さんも責任を持って育てたいと考えていますので、ぜひ一緒に仕事をしていきましょう。
そして、お客さま。私たちの技術レベルの高い社員が皆様のご要望におこたえいたしますので、ぜひ私たちを採用してください。
最後に若い技術者の皆さんは「寝食を忘れる」という言葉のごとく、技術の勉強に没頭していただきたいですね。ソフトウェアやコンピュータシステムの技術は「使われてナンボ」ですから、チャンスがあれば若いうちに現場で経験を積んで、技術者として一回り大きくなってください。

(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)
※インタビューは距離を取りながら、アクリル板越しに行いました。

インタビューを終えて

「冨安本部長はとても気取りのない方です」という評判どおり、インタビュー会場は5分に一度、笑いが起きるほど和気あいあいとした雰囲気に包まれました。というのも、冨安本部長は技術戦略やトップとしてのご方針を語る際、「第三者からはこんなふうに見えることもあるかもしれない」という客観的視点を添えて、ユーモアを織り交ぜながらお話をされるのです。客観的視点は時にクリティカルシンキング(批判的思考)であるため辛口に聞こえます。しかし、ユーモアを添えられて発せられるせいか耳障りではなく、誠実さを帯び、お話を伺った後もその発言の真意を反芻したくなりました。
そんな冨安本部長のご趣味は釣りで、「釣りは男性に孤独を感じさせない趣味だから」とか。おひとりの時間はどんなことをお考えになられているのか、冨安本部長が紹介してくださった一冊の本、『夜と霧』(V.E.フランクル 1945)に垣間見ました。「壮絶な人生を描きつつ、筆者は心理学者・精神科医として“頑張った”とか“戦い抜いた”だけではなく、冷静な視点で現状を分析し、記録を残しているんですよ」と冨安本部長。まさにウォームハートとクールヘッド。冨安本部長の絶妙なバランス感覚を感じたひと時でした。