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グループ企業探訪

第256回 株式会社NTT EDX

ICTで学びを新たなステージへ導くパイオニア

NTT EDXは、出版社、書店、高等教育機関等と連携して学修者本位の教育の実現をめざした、「電子教科書・教材配信サービス」を展開している。「ICTで学びを新たなステージへ」というビジョンを掲げて高等教育の高度化・教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)をめざす思いを金山直博社長に伺った。

NTT EDX 金山直博社長

電子教科書・教材配信サービスで高等教育の高度化、教育のDXをめざす

◆設立の背景と会社の概要について教えてください。

平成30年の中央教育審議会で出された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」において、高等教育のあり方とそのプロセスの可視化に関する方針が提示された後、コロナ禍をきっかけとして大学においてリモートベースの講義が一般化してきました。この動きに呼応してNTT西日本が、大日本印刷との協業により、大学に向けて電子図書館、電子教科書といったソリューションを提供してきました。
当時は、丸善雄松堂や大学生協等が独自のプラットフォームにより同様なソリューションを提供していたのですが、利用者の立場からみるとViewerがプラットフォームごとに異なる、出版・書店業界としても扱える電子書籍等がプラットフォームに依存するといった課題がありました。教育の質を高める、電子化による大学や出版業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)といった社会課題は共通なので、NTTグループとして、これまでの取り組みにより得られた知見をベースにプラットフォームの統合をはじめとして社会課題の解決を目的に、大日本印刷とNTT東日本の参画を受けて3社により、2021年10月にNTT EDX(エディックス)が設立されました。社名はEducation × DXに由来し、「ICTで学びを新たなステージへ」を企業ビジョンとして、会社の登記地である大阪、本社のある東京の2カ所で、事業運営をしています。

◆具体的にどのような事業展開をしているのでしょうか。

学修者本位の教育の実現をめざした、電子教科書・教材配信サービスを展開しています(図1)。紙ベースの書籍の場合、基本的に、出版社等で作成された書籍は、流通網により書店等を経由して読者の手に渡ります。電子書籍の場合は、書店を通じて購入した電子書籍がViewerを通じて利用者に届けられます。NTT EDXの電子教科書・教材配信サービスは高等教育機関をターゲットとして特化されたものです。
基本的なサービスメニューとして、出版社から電子化の許諾が得られた教科書を仕入れ、書店等を通じて教員や学生に販売する「電子教科書取次サービス」、および、購入された電子教科書がViewerを通じて閲覧できるようにする「電子教科書・教材配信プラットフォーム」を提供しています。また、大学等における教育では、教科書ではなく教員が作成した教材が利用されることもありますが、この場合も電子教科書同様にこのプラットフォームにより配信が可能です。この場合の電子教材作成をサポートする「オリジナル教科書・教材制作サービス」も提供しています。さらに、各教科書等へのアクセス状況やマーカーを引いたり、メモをしたりといった学修ログデータも収集しているため、それらを学生の履修状況の把握から講義等における指導へフィードバック、売れ筋教科書の調査といったマーケティングに活用可能な「学修データ利活用サービス」も提供しています。

市場のパイオニアとして、学生の質の向上や日本がめざしている教育のあり方に貢献

◆事業を取り巻く環境はどのような状況でしょうか。

文部科学省の施策である「GIGAスクール構想」では、小中学校等における施策の推進にあたって補助金等の手当てがなされているのに対して、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」において高等教育の高度化の方針が提示されてはいるものの、個々の施策については大学の自主性に委ねられているものが多く、当然ですがこの施策向けの補助金等の手当てはほぼありません。少子化の中で特に私立大学では教育の高度化ツールとしてのみならず、大学の魅力、付加価値のアピールの材料として電子教科書配信プラットフォームを活用しているところもありますが、講義の方針等は各教員に委ねられているところがほとんどで、補助金もない中で大学全体としての動きは一部のものとなっています。
一方、配信プラットフォームサービスを提供している競合他社もありますが、対象サービスの違いやそれぞれの強みと弱みには違いがあり、全国でオープンにサービスを展開しているNTT EDXとは現在のところ緩やかなすみ分けができている状況です。
日本国内には大学が約800、学生が約300万人、教員が約19万人で、あるコンサルティング会社の試算では大学・高等教育機関における教科書関連市場は約500億円となっています。その中でNTT EDXでは、現在約150大学、約16万のアクティブユーザにご利用いただいており、スタートラインに近い市場の中で、まさにパイオニア的な存在です。

◆今後の展望についてお聞かせください。

会社設立1年半でもあり、走り出したばかりの市場で足場を築いていくためにもサービスの安定運用は必須であり、そのうえで電子教科書・教材配信サービスの付加価値をご理解いただきながらお客さまを増やしていくことが重要です。ビジネス的な観点から、まずは30〜40%のシェア獲得が1つの目標となります。
大学の教員のミッションが研究と教育であり、教員によりその比重も異なります。一方で、大学における教育の方向性のカギを握るのは教員であり、教育と研究の比重によってもこうしたサービスの受け止め方も異なります。サービスの利用により講義の効率化も期待でき、研究にしても教育にしても忙しい教員にとってこれは大きな付加価値になります。教員とのディスカッションをとおして理解をいただくとともに、新しい付加価値に向けた機能追加等も今後行っていきます。
そして、さまざまな方と連携しながら、この教育の世界で、学生の質の向上や日本がめざしている教育のあり方というところに、いかに貢献できるかといった意識を持って事業を進めていきたいと思っています。

担当者に聞く

異文化の融合を進めてビジネスを前進

企画部 部長
藤田 英隆さん

企画部
田中 友基さん

◆担当されている業務について教えてください。

企画部なので、基本的には経営企画、総務、財務といったコーポレート業務がメインですが、設立間もない少人数の会社でもあるので、サービス企画から営業を担当してくれているNTT西日本・東日本の法人営業部門の方々への支援等ほとんどすべての業務にかかわっています。
メインビジネスが電子教科書・教材配信サービスで、扱い商品が電子メディアではありますが、その商流をはじめ基本的には出版業界のビジネスがベースとなっています。NTTグループ側からみると、出版業界は未知の世界ですが、逆に大日本印刷側からみても同様だと思います。同じことに対してそれぞれの業界で異なる用語を使うこともよくあります。社内の会議においても、それぞれの立場からの意見の相違の調整に苦労する中で、よく確認してみると実質的な相違はほとんどなかった、というようなこともあります。
コーポレート業務においてその違いが如実に表れてくるのが契約です。契約の相手先として出版業界がメインで、逆にお客さまは大学であり、対応していただく教員によってもそのスタイルが千差万別です。当社はその立場上、契約においてはどうしても「従」側の立場になることが多いので、NTTグループが契約相手の場合はともかく、それぞれの業界の商慣習が反映された契約書になってしまいます。つまり、契約書がダブルスタンダード、トリプルスタンダードな状況になっています。また、NTT EDXはNTTグループと大日本印刷の出資により、社員がそれぞれからの出向者で構成されており、その出向形態の相違から総務・人事的な業務でもダブルスタンダードが発生しています。
こうしたダブルスタンダードな状態について抜本的に見直しをかけるには相手方との力関係や少人数でパワー不足のところもあるので時間がかかるとは思いますが、それぞれのいいところ取りや、デファクト的なものを活用しつつ標準化を進めていきたいと思います。

◆今後の展望について教えてください。

とにかくお客さまを増やしていくことで、ビジネスが成立し、社会課題解決への貢献にもつながるので、現段階においてはそれが第一優先です。NTT西日本・東日本の法人営業部門が実際の営業部隊として活動してくれるので、そこへの支援に注力していきます。そのために販売キットやツールの充実はもちろんですが、やっと運用が軌道に乗ってきたホームページをさらにブラッシュアップして、1つのチャネルとしてそこに誘導してもらうような仕組みを構築していきます(図2)。
一方で、新ビジネスとして大学教員のオリジナル教科書・教材制作サービスは、著作権マネジメントも行うことで幅が広がり、それをベースとして大学内への「電子教科書・教材配信サービス」の拡大も期待できるので、これに関する検討も進めたいと思います。
こうした活動を行う中で少しずつダブルスタンダードの解消にも取り組みたいと思います。

ア・ラ・カルト

■文化の違い

NTTグループと大日本印刷、異なる業界で仕事の作法どころか、それぞれの文化も異なっているそうです。これまで当たり前だと思っていたことが、そうではなかったことがままあるとのこと。業界用語はもちろんですが、普段何気なく使っている言葉の違いもあるようで、ある会議の中の議論が半分以上分からなかったなどということもあったそうです。言葉は文化そのものですからね。こうした文化のちょっとした違いにも社員の皆さんはいい刺激を受けて、これが会社も個人も今後の発展につながるのではないかと信じてやまないようです。

■第1回目の集合会議・イベントをめざして

少人数の会社ですが、東京と大阪にロケーションが離れていることもあり、さらに会社設立がコロナ禍の真っただ中でリモートワークになっていたこともあり、少人数であるにもかかわらずいまだに全員で顔を合わせたことがないそうです。リモートワークが社会に浸透してきて、NTT EDXもWeb会議等をかなり活用しているとのことですが、会議の取り組み方や働き方については親会社含め三者三様でありWeb会議ではどうも調子が出ないこともあるようです。コロナ禍も落ち着いてきていることもあり、そろそろ全員集合の会議・イベントを始めようかとしているところで、その企画を募集中とか。