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トップインタビュー

しつこく追う。最後の最後まで手を抜かない。社会の役に立つ、お客さまに一番近い企業をめざしたい

地域を見つめ、ともに歩んできたNTT東日本グループ。持続的に発展できる地域の循環型ミライをめざしています。災害の甚大化や高度化するサイバー攻撃等、新たな脅威に対抗するべく通信ネットワークのレジリエンスをさらに強化し、危機管理能力と機動力を磨き、高品質で安定した通信インフラの提供に努め「つなぐ使命」を遂行する星野理彰NTT東日本代表取締役副社長に新たな取り組みとトップとしての信条を伺いました。

NTT東日本
代表取締役副社長
星野 理彰

PROFILE

1990年日本電信電話株式会社入社。2018年NTT東日本 取締役、2020年NTT-ME代表取締役社長、2022年NTT東日本ネットワーク事業推進本部長、NTT e-Drone Technology代表取締役社長を経て、2022年6月より現職。

地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業、NTT東日本

副社長に就任され、まもなく1年です。どのような時間でいらっしゃいましたか。

私たちのすべきことはまだまだたくさんあると確信し、社員の情熱を行動するエネルギーへと昇華させ、さらに挑み続けてお客さまのご要望におこたえしていきたいと決意を新たにして仕事に向き合った1年でした。
私は持株会社に在籍していた一時期を除き、再編成後はNTT東日本とともに歩んできました。NTT東日本の副社長という立場となり、改めてこの会社の力、技術力や社会貢献にかける社員の情熱を見つめてみると、私が思っている以上にその力は大きく、お客さまから私たちに寄せていただく期待の範囲も、私の想像よりも広く大きなものであると実感しました。
NTT東日本のエリアは東京を中心とした首都圏域と地方圏域の両方が存在しています。多くの住民を抱える首都圏域や人口減少が進む地方圏域といった地域ごとの課題を踏まえて、NTT東日本は通信インフラの整備や災害対策の取り組みに加え、文化や農業分野で新たな可能性のために事業を興す等、さまざまな取り組みを始めています。さらには、こうした取り組みをとおし、お客さまから「職員や社員にデジタルトランスフォーメーション(DX)の意義を十分に理解させ、DXで課題解決に臨みたいので力を貸してほしい」等のお声も多数お寄せいただいています。
この1年、私はこうしたお客さまのご要望を伺いながら確信しました。通信をつなぐ会社として出発した私たちの使命はさらに広がり、人をつなぎ、地域を次の世代へつなぎ発展させていく役割を担うことだと。期待していただいていることにこたえていきます。

人や地域を「つなぐ」のですね。NTT東日本のめざす方向を具体的に教えていただけますでしょうか。

一般的に企業の主な経営目的は利益の最大化ともいわれていましたが、昨今では、企業にはさらなる社会貢献も求められるようになってきました。私たちNTT東日本は、単なる課題解決にとどまることなく、持続可能な新たな価値を創造する「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業」をめざし、「地域の価値の再発見」と「地域循環型への変革」のため、「共感型DXコンサルティングの実現」と「フィールド実践型エンジニアリング力の強化」を図っていきます。
「共感型DXコンサルティング」では、従来型の課題分析、提案、実行というアプローチとは異なり、地域のお客さまと向き合い、地域そのものに飛び込み、ともに考えることで地域に共感し寄り添います。そして、お客さまとともに試行錯誤しながらも実行に移すことで課題解決をめざします。これにより、地域密着企業であるNTT東日本ならではの経営スタイルを磨いていきます。
「フィールド実践型エンジニアリング力の強化」では、地域の価値創造のために必要となる産業の醸成、文化の継承、エコな街づくりなどの取り組みにおいて必要となる、実フィールドで価値を実現できる総合エンジニアリング力を、情報通信で培った技術力をベースに広げ、強化していきます。
さらに、今後、地域活性化を加速させるため、地域の資産や魅力(文化・食・自然)を活かした新たな価値創造を行っていきます。2023年1月には、地域が持続的に発展し夢や希望が感じられる社会を創ることを目的に「地域循環型ミライ研究所」を設置し、地域の持つ価値の創造や循環型社会の構築に取り組んでいます。
これらの活動を一言で表現するならば、「もっとお客さまのそばに行く」ことではないかと思います。

IOWNとREIWAで分散型ネットワーク社会を実現したい

光ブロードバンドサービスの拡大やデジタルソリューション等、これまで地域が抱える課題解決で培った知見がさらに発揮されるのですね。

日本の未来を考えるとき、やはり、私たちの強みである通信ネットワークの視点を活かしていきたいと考えています。例えば、都市部への集中による効率性の重視だけではなく、地域へも分散しながら多様性と効率を両立させたいです。この実現にはNTTグループで挑んでいるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想と、NTT東日本のREIWAプロジェクトがカギを握ると思います。
IOWNについては、IoT(Internet of Things)の広がりやサービスの多様化により訪れるデータ容量・消費電力量の大幅な増加や通信遅延などの課題解決のため、フォトニクス(光)ベースの技術を活用し、従来のエレクトロニクスベースの通信ネットワークと比較して、伝送容量を125倍、エンド・ツー・エンドの遅延を200分の1、電力効率を100倍にするオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)の実現を目標にさまざまな研究開発に取り組んでおり、2023年3月にはAPNサービスの第一弾として、「APN IOWN1.0」の提供を開始しました。APN IOWN1.0は遠隔合奏や遠隔レッスン、eスポーツ、リモートプロダクションや実験計測機など機器の遠隔操作、データセンタ間の緊密な連携など、超低遅延が要求されるシーンでの活用を中心に、お客さまとともに利用シーンの創出を進めています。
さらに、NTT東日本の取り組みであるREIWAプロジェクトでは、新たな価値の創出を目的として、営業地域の17都道県にある約3000カ所の通信局舎のうち、1000カ所程度をデータセンタとして活用できます。その一部を地域のエッジコンピューティングポイントとしてクラウドサービス「地域エッジクラウド」の提供を開始していきます。私たちのあらゆるアセットを活用して地域のエッジコンピューティングポイントをネットワークにより広域に接続された状態にすることでクラウドベースのICT 基盤を構築し、映像解析AI(人工知能)プラットフォーム、IoTプラットフォーム、地方創生クラウド、データレイク等によって、シェア型でさまざまな機能を提供しています。
このICT環境を広くご利用いただくために実証実験環境として、東京・北海道・宮城にスマートイノベーションラボを開設して、産学官一体で新しいサービスやビジネスの創出に取り組んでいます。
このように通信技術、アセット、ノウハウを地域社会のために活用し、エネルギーや人材を循環させる取り組みを通じて社会を支援していきたいと考えています。

他にもさまざまな変革やチャレンジに臨まれていると伺いました。

これまでの事業の磨き上げと新たな事業への挑戦を進めています。具体的取り組み例を少しあげると、①通信分野における効率性の推進と設備・サービス品質の向上の両立をめざす取り組みや、②ソフトウェア事業の立ち上げなどがあります。
より便利なサービスを安定的に利用したいという社会的要請にこれからもこたえていくため、PSTN網のIP網化へのマイグレーションや IOWNにつなげていくためのネットワークの機能高度化や現設備からの移行を、第三者によるチェックも加えながら着実に前に進めています。また、構築・運用業務にDX技術を積極的に活用し、調整業務の省力化や作業の自動化等を実現させています。これらの取り組みは大幅な稼働削減の実現にとどまらず、人の関与を減らし人為ミスの要因を減らすことで信頼性向上にも大いに寄与しています。さらには、Web技術を用いたカスタマーセルフ化の促進や、リモート環境を活用したオペレーションの実現は、CS向上や効率化の促進とともに、これまでとは異なる手段の確保が災害時における緊急対応力の強化にもつながっています。
ソフトウェア事業の立ち上げについては、非通信分野における新たなビジネス展開をめざしたもので、システム開発の内製化によりソフトウェア開発技術の社内蓄積と、DX推進によるDX人材の育成を図ります。もちろん、システム開発コストの低減もめざします。この取り組みの中で、高度で専門的なスキルを必要としないローコード開発に着目し、2022年4月にソフトウェア内製化推進プロジェクトを立ち上げ、ローコード開発に加えてローコードによるオフショア開発も実現しています。現在では、社内の業務システムの更改や新規開発ですでにいくつかの実績も出ており、今後のビジネス展開に向けた準備を進めています。また、こうしたものの基盤においても、仮想化を活用したプライベートクラウドを立ち上げ、パブリッククラウドとのハイブリッド環境を整え、社内外での利用拡大をめざしています。

挑戦をできる範囲にとどめておく限り、成長はその範囲にとどまってしまう

お仕事において、大切にされていることを教えていただけますでしょうか。

大切にしているのは挑む姿勢や目標に向かう気持ちです。目の前のことを処理するだけでは次につながっていきません。この仕事で何を得て、それをどう活かしていきたいのかを自分に問うています。
社員の皆さんにも同じように問いかけ、彼らの話を聞きながら学ばせていただいています。社員の熱い思いを聞きますとそれだけですごくエネルギーをもらいます。そして、今度はその思いを他の人に伝えるよう努めています。良いエネルギーを循環させることは副社長という立場に就かせていただいた者の責任だと思っています。
私は入社してすぐに現場で通信設備の保全を担当して以来、多くの職場で現場の熱い思いを体験してきました。災害対策においては東日本大震災の復旧の取り組みを経験し、先の見えない中でも必死に取り組むメンバのためにも、先の見通しが立つように指示を出していくことの大切さを実感しました。こうした多くの経験をとおして、できることではなくやるべきことを目標にセットし、挑まなければならないことや、変わらなければならない理由をしっかりと伝え、めざすべき目標を示していくことの大切さを実感しました。
挑むことは怖いときもあります。それでも、挑戦をその人のできる範囲にとどめておく限り、その人の成長はその範囲にとどまってしまいます。リスクがあるならそれも示したうえで、本人に変化しなくてならないと伝えることで潜在的な能力を引き出すことができると思うのです。挑むきっかけとなる上の目標をセットすることはトップとして大切だと思っています。

自分では思ってもみなかった力を発揮できそうな期待が湧いてきます。最後に研究者、技術者の皆さんやお客さまやパートナの皆さんへも一言お願いいたします。

渡した仕事が思った以上に重くなってしまう、あるいは軽すぎることもあります。また、負荷がかかりすぎて仕事を渡された人が想定外の行動をとる、サポートの有無等、その人自身の特性や取り巻く環境の影響は仕事を渡した時点では予測のたたないこともあります。しかも、それは十人十色、千差万別です。だからこそ、言い渡して終わりにするのではなく、状況を見て、必要に応じて環境を整えることもトップの仕事だと思っています。他の仕事もそうですが、しつこく追う、環境の調整を疎かにしないことが大事です。
ソーシャルイノベーション企業としてチャレンジしていこうとするとき、今の私たちの技術では担えないこともあります。私は研究所やグループ各社の力を結集して、持続可能な世の中を実現したいと思っています。私たちは社会の役に立つ、お客さまに一番近い企業をめざしていきますので、ぜひ力をお貸しいただきたいと思っています。
私たちのお客さまには、直接のお客さまに加えて、回線の卸先の事業者や接続事業者等とさまざまなお客さまがいらっしゃいます。こうした方々のご要望を真摯に受け止めておこたえしていくとともに、現段階で、おこたえできていないサービスについては、コストを勘案し、品質の改善や新技術の導入等により、適切なサービスとしてつくり上げていきたいと考えています。お客さまの声をしっかり伺える企業をめざしていきたいと考えています。よろしくお願いいたします。

(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

昼食時も執務室でお弁当を召し上がりながら仕事に向き合うという星野副社長。インタビュー当日も直前まで会議に出席されていらっしゃいました。インタビュー中、膝におかれた両手は固く握られ、言葉の1つひとつを丁寧に届けてくださいます。そんな副社長を社員の方々は「どんなに苦しい状況でも前を向かせてくださる方です」と評されました。また、「人間味あふれる方」と評される星野副社長のあたたかさを実感したのは東日本大震災の災害対策時のエピソードをお話しされたときのこと。「被災現地入りしたときは真っ暗でした。その闇にポツンと自家発電で灯したオレンジ色の裸電球が見えました。社員や協力会社の皆さんが復旧作業をしていたのです。…使命感を感じました。(NTT東日本で)仕事をしていてよかったと…」それまで、明瞭にお話されていた星野副社長が言葉に詰まってしまったのです。「まいったなぁ」とうつむかれるお姿に思わずもらい泣きをしてしまいました。一呼吸おいて、「社会の求めていることが腹に落ちればもっといける(できる)という確信が私にはあります」と星野副社長。この言葉にご自身の使命を全うしようとなさる決意と社会貢献に臨まれる心強さを感じたひと時でした。

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