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特集1

APN IOWN1.0サービス開始

APNサービス提供に向けた取り組み

2023年3月、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)を構成する主要な技術分野の1つである、オールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)のサービスをAPN IOWN1.0としてNTT東日本・西日本より提供開始しました。APN IOWN1.0は「超低遅延」の価値を提供するとともに、マイクロ秒単位の遅延可視化・調整を可能としています。本稿では、サービス開始したAPNのIOWN構想における位置付けや提供価値、代表的なユースケース、サービス概要について紹介します。

齊藤 純一郎(さいとう じゅんいちろう)/茶木 悠紀子(ちゃき ゆきこ)
NTT技術企画部門

はじめに

2023年3月16日、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network) オールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)サービス第一弾として、NTT東日本・西日本からAPN IOWN1.0の提供を開始しました(1)(2)
APNは、IOWNを構成する主要な技術分野の1つとして、端末からネットワークまで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、エンド・ツー・エンドでの光波長パスを提供する波長ネットワークにより、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延伝送をめざすものです。
これにより、通信量のさらなる増大やネットワークの複雑化、輻輳などによる遅延の増加といったネットワークの課題、データセンタの電力消費量の増加といったエネルギー消費の課題解決に加え、ライフスタイルの変容に対応したリアルとオンラインの融合など、新たな体験・価値の提供を実現します。
2030年の実現をめざすIOWN構想ですが、現段階で実装可能な技術・製品の組合せにより超低遅延の価値提供が可能と判断し、2030年に先駆け、2023年3月のサービス提供をターゲットに検討を進めてきました。また、早期にサービスを提供することにより、お客さまとの新たなユースケースの創造や価値創出も加速すると考えました。
APNの早期サービス化は、NTT東日本・西日本が中心となり、IOWN関連技術の事業化をミッションとするNTT技術企画部門(技術革新推進室)、IOWN関連技術の研究開発を推進するNTT研究企画部門(IOWN推進室)、またIOWN APN関連技術の研究やプロダクトを開発するNTT研究所(NTT IOWNプロダクトデザインセンタ、NTT未来ねっと研究所、NTTネットワークイノベーションセンタ)が連携することで、APN IOWN1.0のサービス提供に至りました(表)。

APN IOWN1.0が提供する超低遅延

APNが掲げる3つの目標性能(3)のうち、APN IOWN1.0はエンド・ツー・エンド遅延200分の1*1を実現した「超低遅延」の価値を提供するとともに、NTT研究所技術を搭載したマイクロ秒単位の遅延可視化・調整が可能な端末装置「OTN Anywhere」を商品化しました。
2030年に向けたAPNの目標性能を下記に示します。
① 電力効率100倍:ネットワークから端末まで光のままで伝送する技術や、光電融合技術の実装による低消費電力の実現をめざします。
② 伝送容量125倍:マルチコアファイバなどの新たな光ファイバの活用や大容量トランシーバの実装、また大容量光伝送システム技術により実現をめざします。
③ エンド・ツー・エンド遅延200分の1:情報を波長単位で伝送することにより、エンコード・圧縮処理等を不要とするなど、超低遅延の実現をめざします。
映像の送受信を例とすると、現在主流のIPネットワークでは、カメラで撮像した映像をIP等で伝送するためにエンコード・圧縮し、伝送した先で圧縮データを解凍・デコードしたうえでモニタへ投影する手順が一般的です。APNは、レイヤ1の高速な通信パスとしてOTN(Optical Transport Network)*2プロトコルを用い、エンド・ツー・エンドを光波長パスで専有しています。これにより、途中の経路においてルータやスイッチによるパケット等のキューイングを削減でき、超低遅延かつ揺らぎのない通信を実現しています。また、大容量であることから、映像をエンコード・圧縮処理せずに伝送できるようになり、エンコード・圧縮処理による遅延や処理時間の変動による揺らぎを削減できます。加えて、低遅延カメラ・モニタ等を用いることで、システムトータルとしての超低遅延を実現することができます。
これら、APN IOWN1.0が実現する超低遅延の価値に加えて、NTT研究所が開発した「OTN Anywhere」を接続することで、マイクロ秒単位の遅延可視化と調整が可能となります(図1)。これにより、複数拠点間の異なる遅延を合わせることが可能となり、eスポーツのような遠隔拠点間の公平性を求めるユースケースにおいて効能・価値を発揮することができます。

*1 同一県内で圧縮処理が不要となる映像トラフィックでの遅延の目標値。
*2 国際標準化機関ITU-Tで規定される光伝達網に関する通信規格。

APN IOWN1.0のユースケース

APN IOWN1.0が提供する超低遅延の価値は、eスポーツだけでなく、医師が不足する地域における手術支援ロボットの遠隔操作や、広大な工場における機器・高所設備の遠隔操作、また放送業界における映像のリアルタイム伝送によるリモートプロダクションなど、これまでのネットワークでは実現困難であったユースケースを実現可能とします。
また、大容量かつ超低遅延なネットワークを実現したことにより、これまでオンプレミスで処理をしてきたさまざまな業務分野のアプリケーションをネットワーク越しに処理することで、従来の常識を覆すような課題解決に寄与できると考えています(図2)。
超低遅延の代表的な効用は、遠隔においても精緻な操作・作業が可能となることであり(図3)、これを発揮する代表的なユースケースをいくつか紹介します。

■手術支援ロボットを使った遠隔医療

現在、地方の外科医不足や専門医・指導医の都市部偏在などが課題となっており、遠隔医療分野への期待が高まっています。手術支援ロボットと遠隔地の操作者との間をAPNで接続することにより、低遅延かつ揺らぎなく情報を伝送することができ、安定したロボットの遠隔操作による高品質な遠隔手術支援が可能となります。加えて、医療従事者は遠隔においても、あたかも同じ部屋にいるかのような環境が重要であり、APNを使った遠隔操作では患者さんの状態や手術室、また操作者の状況を8Kなどの高精細映像を見ながら手術ができる双方向性が特徴となります。遠隔医療支援の実現により、地域医療の発展をめざしています。

■スマートファクトリ

化学プラントや精密機器の製造工場など、広大な環境における多岐にわたる作業やメンテンナンスについても、低遅延かつ揺らぎのないAPNを活用することで遠隔操作等が可能となります。遠隔から、高所や防爆エリアでの設備確認やバルブの微調整などの細かい作業を実施することで、スキル者の集約や危険度の高い作業を安全に行うことが可能となります。また、複数の拠点で機械やシステムをIoT(Internet of Things)化し、APNで接続し連携させることで、遠隔での一元的な出荷品の検品自動化など、製造ラインの自動化が可能となります。

■リモートプロダクション

放送業界では、新たなライブ番組制作の手法として、中継現場から番組作成拠点等へ撮影映像をリアルタイムに伝送し、遠隔地で番組制作を行うリモートプロダクションが注目されています。大容量・低遅延回線であるAPNを用いて中継現場と番組制作拠点を接続することで、番組素材の非圧縮伝送が可能となります。通常は中継現場に機材を持ち込み、現地で番組を制作して各放送局へ配信していますが、リモートプロダクションによって各種機材や人員の現地配備を抑制することが可能となります。
これらユースケースに加え、データセンタ間を大容量・低遅延で結ぶことによる光ディスアグリゲーテッドコンピューティング*3の実現や、モバイルフロントホールへの適用によるBeyond 5G(第5世代移動通信システム)/6G(第6世代移動通信システム)の迅速なエリア化など、今後も他のIOWN技術との組合せやさらなるAPNの進化により、適用ユースケースを拡大していきます。

*3 コンピュータをネットワークで接続する従来のサーバオリエンテッドな概念に対し、CPUやメモリ等のコンピュータリソースを直接光で接続することで光の伝送特性を活かし、データセンタスケールの1つのコンピュータとして扱う概念。

APN IOWN1.0の概要

APN IOWN1.0は、通信ネットワークの全区間で光波長を専有し、インタフェースに光伝送網の多重収容を実現するOTU4*2を採用することで「高速・大容量」「低遅延・揺らぎゼロ」を実現しています。また、APN端末装置である「OTN Anywhere」と組み合わせることで、「遅延の可視化・調整」を実現しました(図4)。
(1) APN IOWN1.0の特徴
① 高速・大容量:Point to Pointの専有型100Gbit/s回線
② 低遅延・揺らぎゼロ:従来比200分の1の低遅延、揺らぎゼロ*4、光波長専有により、他ユーザのトラフィックの影響ゼロ
(2) 端末装置(「OTN Anywhere」の特徴
① 光信号の受信・変換機能:お客さま装置等から10GbE、100GbEの信号を受信し、OTU4に変換し出力
② 遅延の可視化・調整:拠点の遅延測定結果を「OTN Anywhere」のログとして出力し可視化、1マイクロ秒単位(8μ〜20ms)での遅延調整

*4 時分割多重方式(送信する時間を固定化して情報を区別)を採用することで、トラフィック状況による遅延やパケットロスを抑制。

おわりに

APN IOWN1.0は、IOWNの第一弾サービスとして、サービス提供を開始しました。APNを早期に提供開始したことで、外部パートナーとの連携による新たなサービス創造や、お客さまとの新たなユースケース、価値創造が加速していくことを期待しています。
APNは、光電融合技術による低消費電力や、マルチコアファイバなどの新たな光ファイバを用いた大容量光伝送システム技術による高品質・大容量に向けた高度化を引き続き進めていくとともに、さまざまなお客さまからの要望におこたえしながら、新たな価値提供を進めていきます。

■参考文献
(1) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20230302_01.html
(2) https://www.ntt-west.co.jp/news/2303/230302a.html
(3) https://www.rd.ntt/iown/0002.html

(左から)齊藤 純一郎/茶木 悠紀子

NTT技術企画部門はIOWN構想の実現に向け、事業会社とともにお客さまの声をお聞きしながらIOWN技術の事業化を推進していきます。

問い合わせ先

NTT技術企画部門
技術革新推進室
E-mail giki-gikaku-p@ntt.com