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特集1

APN IOWN1.0サービス開始

NTT東日本におけるIOWN構想の実現に向けた取り組み

NTT東日本は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた初めての商用サービスとして、APN IOWN1.0を2023年3月16日から提供を開始しました。本稿では、NTT東日本がIOWNに取り組む意義やサービス提供に向けて「低遅延性」を活かした実証の取り組み、APN IOWN1.0の活用例について紹介するとともに、ユースケースの拡大に向けた取り組みや今後の展望についてお伝えします。

五十嵐 貴大(いがらし たかひろ)/瀧野 祐太(たきの ゆうた)
NTT東日本

NTT東日本がIOWNに取り組む意義

NTT東日本グループでは、地域循環型社会の実現に向け、地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業をめざして、現場第一線で活動する社員の高い地域密着力とエンジニアリング力を活かし、さまざまな取り組みを開始しています。地域循環型社会とは、地域の持つ特色ある文化や多様性をICTやデジタル技術により拡張し、地域のトラフィックは地域で完結、エネルギーは地産地消、データは地域分散させることで、人口だけでなく経済活動や情報を都市集中から地域へ分散し、新たな産業や雇用を生み出す循環型の仕組みが整った社会です。
この社会の実現に向けた取り組みの1つが「REIWAプロジェクト(1)」であり、これはNTT東日本グループがそれぞれ地域で保有するアセット(通信局舎・通信設備等)を最大限に活かし、地域のお客さまの課題解決につなげていくプロジェクトです。それぞれの地域に設置したエッジクラウド上で、データは安全なかたちで保管され、課題解決に資するさまざまなアプリケーションも展開、クラウド接続のためのアクセスサービスも充実させてNTT東日本グループがワンストップで提供します。
この地域を支える「REIWAプロジェクト」をさらに推進させるもの、それが「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」であると私たちは考えています。地域のエッジクラウド間を低遅延、大容量に接続可能なオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)で相互に接続し、あたかも一体であるかのようなシームレスなエコシステムを社会に実装していくことで、サステナブルな地域社会をめざしていきたい考えです。

これまでの実証の取り組み

IOWNの社会実装に向け、NTT東日本グループはIOWNの技術要素であるAPNの持つ低遅延性、大容量性を活用したユースケース創出の一例として、リモート協奏の実証を通じ、その実用性を検証してきました。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う社会情勢の変化によって、遠隔コミュニケーションへの心理的ハードルが下がり、コンサートのオンライン配信やリモートレッスンなど音楽の新しい共創・鑑賞形式が広がりをみせています。しかし、リモート協奏(図1)の実現には、演出者どうしの音や動きによるコミュニケーションを低遅延かつ双方向で実現することが必要であることから、従来のインターネットを用いたネットワークでは困難とされてきました。
これらの課題に対して、APNの要素技術にかかわる、「低遅延伝送技術」に「低遅延映像処理技術(2)」を組み込むことによって解決をめざしたものが、これまでの一連の取り組みです。「低遅延伝送技術」とは、電気処理を主体とする通信装置(ルータ、レイヤ2スイッチなど)を使用せず、非IP方式のレイヤ1通信パスをエンド-エンドに設定することで物理的極限に迫る低遅延化を実現する技術です。「低遅延映像処理技術」とは、各拠点からの映像を縮小し、1つのモニタの画面を分割して表示させる処理について、伝送される映像を入力された順に画面配置を制御しながら表示することで、処理装置への映像入力から出力までの処理遅延を10ms程度以下で実現する技術です。
第一弾は、Bunkamuraオーチャードホール(東京都渋谷区)とNTTインターコミュニケーション・センター(東京都新宿区)をつなぎ、コンサート会場でのAPN関連技術を活用した2地点間協奏としては日本初となる「Innovation × Imagination距離をこえて響きあう 未来の音楽会(3)」を2022年3月に開催しました。「低遅延伝送技術」と「低遅延映像処理技術」の技術を活用し通信の遅延を短縮することで、プロの演奏者でも違和を感じずにリモート協奏が可能であることが検証できました。
第二弾は、2022年11月開催「第179回NTT東日本N響コンサート(4)」の中で、東京オペラシティ(東京都新宿区)とドルトン東京学園(東京都調布市)をつなぎ、演奏者の演奏と両会場の観客の手拍子を低遅延かつ双方向で配信を行う実証に取り組むことで、コンサートとしての一体感を醸成することに挑戦しました。アンコール曲である『ラデツキー行進曲』を、東京オペラシティにいるオーケストラとドルトン東京学園にいるスネアドラム奏者の演奏を双方向で伝送しリモート演奏を成立させました。さらに音楽に合わせ、両会場の観客による手拍子を低遅延かつ双方向で配信することで、約10km離れた会場が1つになったような新しい音楽共創・鑑賞体験を実現することができました。
第三弾は、多地点かつ遠距離での実現に向け、東京-大阪-神奈川-千葉の4拠点を接続した「Innovation × Imagination距離をこえて響きあう 未来の音楽会Ⅱ(5)」を2023年2月に開催しました。東京と大阪では演奏者と観客、神奈川では演奏者、千葉では観客に参加いただき、地点間での双方向性のある音楽体験を提供するコンサートを開催し、将来的なAPN技術の社会実装を視野に入れ、オープン規格に則った機器の相互接続によるマルチベンダ構成でのネットワーク構成の実現性を検証しました(図2)。
このような実証を通じて、離れた会場どうしでも一体感を得られる新しいリモートコンサートが開催可能であることが確かめられました。今後は実証を通じて得られたデータ・知見を活用し、文化芸術領域における新しい共創・鑑賞モデルの1つとして、音楽公演やイベント会場、教育現場などにおける事業化を検討しています。

APN IOWN1.0を活用したユースケース創出に向けた取り組み

NTT東日本は、IOWN構想の実現に向けた初めての商用サービスとして、APN IOWN1.0を2023年3月16日から提供を開始しました。このAPN IOWN1.0は、同日販売を開始した端末装置「OTN Anywhere」と組み合わせることで、低遅延かつ遅延揺らぎのない通信の提供が可能であり、従来のサービスにはない遅延の可視化・調整機能が提供可能です。
この遅延に関する訴求点に対しては、従来eスポーツ分野や映像・音声のリアルタイム伝送での活用が有効とされてきたことから、NTTe-Sports主催によるイベント「Open New Gate for esports 2023 〜IOWNが創るeスポーツのミライ〜(6)」を開催し、実演しました。
わずかな応答速度の違いで勝敗が決まるeスポーツにおいては、大会で活躍するにはプレイヤの能力はもちろんのこと、プレイ環境も十分整っている必要があります。通信環境はプレイヤがもっとも重視するプレイ環境の1つであり、実際、オンライン大会にて遅延等のプレイ環境懸念による大会参加見送りや参加を迷われた経験を持つプレイヤは多く、プレイ環境が改善された場合は、オンライン大会に積極的に参加したいという意見も存在しています。
今回のイベントでは、これらプレイヤが感じる遅延に対して、APN IOWN1.0を活用しMIYASHITA PARK(東京都渋谷区:ミヤシタ)とeXeFelid Akiba(東京都千代田区:アキバ)の2拠点をつなぎ、eスポーツのエキシビジョンマッチを行いました。ミヤシタ側にはPCを設置せず、アキバ側のPCをAPN IOWN1.0経由で遠隔操作し、アキバ側のPCもミヤシタ〜アキバ間を伝送した場合と同等の遅延量を付加して操作をする構成(図3)とすることで、ミヤシタ〜アキバ間の物理距離があっても、ミヤシタのプレイヤとアキバのプレイヤとで遅延差のないプレイ環境を実現しました。
また、映像・音声のリアルタイム伝送に関しては、NTTe-Sportsが力を入れている地域活性化、部活動の地域移行においてニーズが高まっている遠隔ダンスレッスンの実演をしました。ミヤシタにいる生徒に対し、アキバにいるダンスコーチが遠隔でダンス指導を行い、アキバ側からコーチが流すBGMに合わせ、ミヤシタ側の生徒が問題なくダンスが可能か、を実演しました。
結果、eスポーツにおいても遠隔ダンスレッスンにおいても、参加したプレイヤ、コーチ、生徒のいずれからも、全く違和感がなかったとの評価があり、同じ場所にいるかのような感覚を体感いただけました。
この結果は、APN IOWN1.0の今後の活用の発展性を示すものであり、eスポーツ分野においては都市部・地方部をつないだ複数拠点での大会の開催やゲーミングPCを現地設置しないeスポーツ施設拡大の推進、映像・音声のリアルタイム伝送については、芸術やスポーツの分野での遠隔指導などに提供可能であると考えられます。

ユースケースのさらなる拡大に向けた取り組みと今後の展望

IOWN構想の実現に向けては、APN IOWN1.0を用いたユースケースのさらなる拡大を通じてプロモーションを図っていきます。
例えば、スポーツが開催されるスタジアムなどの中継先の現場から、遠隔地にある映像編集拠点に撮影した映像ソースを伝送したうえで映像のスイッチングなどを行う、リモートプロダクションの営みにも、APNを活かすことができます(図4)。撮影した映像ソースは容量が非常に大きく、撮影先で映像データを圧縮、変換したものを伝送して、受け取った映像編集拠点側で復号する必要がありましたが、APNではそういった圧縮、復号を行う必要がなくなります。これにより、リアルタイムでの高画質映像伝送が可能となります。
また、課題となっているデータセンタの一極集中化による土地、電力の確保の問題を解消するため、中小規模のデータセンタをAPNで接続し、あたかも1つのデータセンタであるかのようにコンピュータを動作させることで、データセンタの分散化への貢献や、低遅延かつ揺らぎゼロの特徴を活かした、遠隔からの精密機械操作などにも適用可能性があります。
これらはほんの一例で、私たちが気が付いていない価値がAPN IOWN1.0にはまだまだ存在していると考えています。今回のサービスリリースを契機に、お客さまとともに、ユースケースのさらなる拡大に向けて取り組んでいきます。

■参考文献
(1) https://business.ntt-east.co.jp/content/reiwa/
(2) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/03/04/220304a.html
(3) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20220324_02.html
(4) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20221107_01.html
(5) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20221222_01.html
(6) https://www.ntte-sports.co.jp/newsrelease_20230302.html

(左から)五十嵐 貴大/瀧野 祐太

2023年3月、NTT東日本はIOWN構想の実現に向けた第一歩として、APN IOWN1.0をリリースいたしました。皆様とともに、APN IOWN1.0を活用した新しい価値を創出していきたいと考えています。

問い合わせ先

NTT東日本
経営企画部 IOWN推進室
TEL 03-5359-6340
E-mail info-iown-ml@east.ntt.co.jp