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特集1

APN IOWN1.0サービス開始

NTT西日本におけるAPNサービス提供に向けた取り組み

NTT西日本は、『「つなぐ」その先に「ひらく」あたらしい世界のトビラを』をパーパスとして掲げ、社会を取り巻く環境変化がもたらすさまざまな課題に対し、技術と知恵を磨き、新たな価値共創によって地域社会のさらなる発展に貢献することをめざしています。本稿ではNTTグループ全体で推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた取り組みとして、特にオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)に関して、ユースケースの創出およびAPN IOWN1.0としてのAPN商用サービスの提供に関する取り組みを紹介します。

太田 敦志(おおた あつし)/西木 雅幸(にしき まさゆき)
木村 英明(きむら ひであき)/松本 賢治(まつもと けんじ)
田邊 克洋(たなべ かつひろ)/米坂 真司(よねさか しんじ)
NTT西日本

はじめに

社会を取り巻く環境が大きく変化していく中において、NTT西日本は地域が抱えるさまざまな課題と向き合い、NTT西日本グループが持つネットワーク、サービス、ソリューションを活用し、地域のお客さまやパートナーの皆様との共創を通じて、地域の活性化や新たな価値の創造に貢献することをめざしています。
しかし、少子高齢化の進展による地域産業の担い手不足や地域の移動手段となる交通機関の持続的な維持など、地域を取り巻く課題は複雑化しており、経済の発展と社会的課題の解決を両立するためには、ICTやさまざまなデータ、AI(人工知能)・IoT(Internet of Things)等のデジタル技術をさまざまな生活シーンに取り入れながら、人々のライフスタイルを従来のものからより大きく変革していくことが求められていくと予想されます。
このような社会変革を支えていく技術基盤として、NTTグループではIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の検討・具体化を進めており、NTT西日本においても、このような革新的な技術をさまざまな社会課題の解決へと結びつけるためのユースケースの実証や、先行して実用化が進むIOWN技術を活用したサービス開発に現在取り組んでいます。
以降では、NTT西日本におけるIOWN構想の具現化と地域社会の課題解決に対する具体的な取り組みの実例として、特に低消費電力・大容量通信・低遅延通信を可能とするオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)を用いた、さまざまなパートナーとの共創の取り組みについて紹介をします。また、IOWN構想における社会実装の第一弾として2023年3月に発表しました、APN IOWN1.0におけるAPNサービスの特徴と本サービスを用いたパートナーとの協業事例についても紹介をします。

APN関連技術を活用したリモートライブの実現

ライブ・エンタテインメント分野において、無観客ライブやバーチャルフェスなど、リアルとオンラインの融合を取り入れた新たなイベントのあり方が模索されています。NTTグループにおいても、大容量・低遅延を実現するIOWN APNの関連技術開発を通じて、複数の拠点を接続し、1つの空間として体感することができる技術として、ライブ・エンタテインメント分野を含めたさまざまな分野における事例創出をめざしています。
このような背景においてNTT西日本では、大阪城ホールにて、株式会社毎日放送主催で1983年から毎年開催されている合唱コンサート、「サントリー1万人の第九」の第40回記念公演において、東京-大阪間をIOWN構想の構成要素であるAPN関連技術でつないだリアルタイム遠隔合唱の実証実験を実施しました(図1)。本実証実験では、大阪城ホール、QUINTBRIDGE(大阪・京橋)、さらに光ファイバ長として約700km離れたOPEN HUB Park(東京)の計3拠点をつなぎ、リアルタイム遠隔合唱を実施しました。指揮者、演奏者(オーケストラ)、合唱者が離れた会場においてもAPN関連技術を用いて、映像の遅延量を片道15ms(60fpsで1映像フレーム未満の伝搬時間)に抑え、映像の遅れを感じさせない体験を実現できました。また音声の遅延量は片道約4msとなり、これは同じ空間の3m程度離れた距離から届く音声と遠隔地から届く音声が同時に届くということになり、まさに距離を超えた新たな体験を実現することができました。
この遅延量は、通信によって発生する遅延量だけでなく、特に映像伝送においてはカメラやディスプレイ等の内部処理によって発生する遅延量も大きく影響するため、できる限り内部処理時間が短い機器を選定することも、低遅延で実現するうえで重要になります。一方で、離れた会場とも各地の盛り上がりや臨場感等を共有していくためには、メイン会場で得られるような体験を遠隔拠点でも充実させる必要があり、まだまだ豊かな体験を提供するために検討できる余地は大きいと考えられます。
また今回の実証内容に限らず、離れていてもそばにいるかのような体験が実現できることで、社会課題の解決に寄与できるケースも存在すると考えられることから、今回の取り組みで得られた知見を活かし、IOWN APNの利用シーンの開拓を行っていく予定です。

APNと高周波数帯無線を活用した遠隔ロボット制御の実現

少子高齢化が進展する地域社会において、労働者人口の減少は今後の地域経済維持において大きな課題となってきています。これに対して物理的な場所や身体的な特性にとらわれず、どこからでも必要な作業を実現できる遠隔操作ロボットの実現は、このような課題の解決に有効な手段になり得る一方、遠隔制御には高精細な映像通信やリアルタイムな信号のやり取りが求められるなど、十分な通信帯域や低遅延通信の確保という課題が存在します。このような背景を踏まえ、NTT西日本では、ロボット群の遠隔操作プラットフォームを提供するアダワープジャパン株式会社と連携し、リアルタイムな遠隔ロボット制御の実証に取り組みました(図2)。
本実証では、QUINTBRIDGEに設置したサービスロボットを、NTT西日本兵庫支店内の施設であるeSPARKLe KOBEから、APN回線を通じてロボットに取り付けた複数のカメラ映像を確認しながら、細やかな操作が必要となるボタン操作やドアの開閉などのタスクを遠隔から実施しました。
QUINTBRIDGEは通常から多数の施設会員が交流を行う場所であり、ロボット接続に2.4GHzや5GHz帯の無線LANを利用すると、施設の混雑に伴いスループット低下を招くなど遠隔操作に影響を及ぼすことが考えられるため、それら帯域と干渉しない60GHz帯無線LAN(WiGig:Wireless Gigabit)を用いました。60GHz帯のような高周波数帯無線は人や壁・柱などでも電波が遮蔽されるため、エリア内で見通しを確保する基地局の置局設計や、ロボットの移動・回転時でも瞬時に見通し基地局へ切り替える技術が必要です。前者はエリア端に複数基地局を設置する方向ダイバーシチ構成により実現し、後者はNTTアクセスサービスシステム研究所のサイトダイバーシチ制御技術を用いました。具体的には、ロボットにWiGig無線端末を2台搭載して各々が異なる無線基地局と接続し、2つの異なる無線伝送路を常時確保します。そして、データパケットごとに無線品質の良い無線端末を選択して伝送することにより、遮蔽環境でも通信断することなく、無線品質の動的モニタリングに基づく通信経路の切り替えを実現しました。これによりロボットが施設内を移動するケースにおいても無線干渉や基地局切り替えの影響で通信が途切れることなく、4K品質のカメラ映像と制御信号を配信し、タスクが実現できることを確認しました。また、4K映像をAV1コーデックで圧縮した条件でもエンド・ツー・エンドで約56msと一般に遅延を認識できるしきい値である100ms以内で映像配信を実現できていることから(1)、複数台のカメラ、ロボットを混在する環境でも実用的な遅延量で十分な通信キャパシティを提供できる見通しも確認できました。

APN IOWN1.0サービスの提供

APN IOWN1.0サービスはネットワークサービス(高速広帯域アクセスサービス powered by IOWN)と端末装置(「OTN Anywhere」 powered by IOWN)により実現しています。

■ネットワークサービス

APN IOWN1.0のネットワークサービスでは、データの待ち合わせ(キューイング)や信号変換をなくすことで、低遅延と揺らぎゼロを実現しています。また、OTU4インタフェースを採用することにより、100Gbit/s相当のイーサネット信号を透過的に転送可能なネットワークを提供します(図3)。
APN IOWN1.0のネットワークサービスでは、UNIからUNIまでの全区間においてOTN(Optical Transport Network)を採用しています。OTNは占有型の光パスを提供する技術であり、クライアント信号に対して保守オーバヘッドや誤り訂正符号を付与したユニット単位でデータの送受信を行います。ネットワークサービスの全区間でOTNに対応したことで、パス監視やパフォーマンスモニタを実現する監視制御信号をエンド・ツー・エンドで疎通させることが可能になりました。

■端末装置

遅延の可視化と遅延調整機能を備えた端末装置として、「OTN Anywhere」(2)を用います。「OTN Anywhere」が遅延調整に関する制御信号を保守オーバヘッド領域に付与し、ネットワークサービスで途切れることなく疎通させることで、エンド・ツー・エンドで遅延調整を実現する特徴的な機能を実現しています。

社会実装を通じたパートナーとのユースケース創出

商用版APN(APN IOWN1.0)を用いた西日本初のユースケースとして、2023年3月20日に吉本興業株式会社と「未来のお笑イブ」と題し、大阪市内3拠点〔京橋(QUINTBRIDGE)、梅田(LINKSPARK)、難波(よしもと漫才劇場)〕を接続し、遠隔漫才・遠隔バンド演奏のリモートエンタテインメントを実施しました(図4)。
APN IOWN1.0を用いて会場間を接続することにより、低遅延な映像伝送を実現していることに加え、今回のイベントでは、QUINTBRIDGEとよしもと漫才劇場の2拠点に複数台の大型等身大低遅延ディスプレイを使用し、各拠点のリアルな芸人と等身大ディスプレイを通じて遠隔拠点から届くバーチャルな芸人があたかも同じ場所にいるようなかたちで掛け合いをする様子を2会場で同時に鑑賞できるようにしました。
このように、遠隔の拠点においても臨場感のある体験を来場者に提供することができた結果、QUINTBRIDGE、よしもと漫才劇場にご来場いただいた観客の皆様からの評価も97.3%が“遅延を全く感じなかった”、94.5%が“イベントに満足”と回答いただき、今回の取り組みを通じて新たなエンタテインメントのかたちを提示することができました。

おわりに

本稿ではIOWNが実現する革新的な技術をさまざまな社会課題の解決へと結びつけるためのAPNを活用したユースケース実証の実例として、リモートライブや遠隔ロボット制御の取り組みについて紹介しました。また、2023年3月より、IOWNサービスの第一弾として提供を開始するAPNサービスについて、パートナーとの共創事例とともにその概要について紹介しました。
今後は商用サービスのリリースを皮切りに、さまざまなパートナーとのユースケース創出に弾みをつけるとともに、より幅広い分野の社会インフラとしての活用が期待されるモバイルフロントホールや、データセンター間接続などの分野への適用性についても検討に取り組んでいきたいと考えています。そして大阪・関西万博が開催される2025年には、より多くのお客さま、パートナーの皆様との協業を通じてIOWNが提供する価値を体験いただけるよう、今後もサービス・技術開発に取り組んでいきます。

■参考文献
(1) https://tachilab.org/content/files/publication/study_on_telexistence/te063.pdf
(2) 大原・小田・犬塚・新宅・武智・臼井・島崎・大西:“APN IOWN1.0 を支える遅延マネージドネットワーク技術,” NTT 技術ジャーナル,Vol.35,No.7 ,pp.28-30,2023.

(左から)松本 賢治/田邊 克洋/西木 雅幸/米坂 真司/太田 敦志/木村 英明

地域社会の課題解決とIOWN構想の具現化に向けて、今後もさまざまなパートナーとの共創を通じて、新たな価値の創出と社会実装の推進に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTT西日本
技術革新部 IOWN推進室
E-mail all-iown@west.ntt.co.jp