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特集2

つくばフォーラム2023に見るIOWNとアクセスネットワーク技術

低遅延・省電力に資する新たな光アクセスシステム技術

NTT研究所ではデータ量の増加、消費電力の増加、ネットワーク遅延抑制といった課題を克服する技術開発に取り組んでいます。今回、そのために必要となる光アクセス基盤の研究開発を行うNTTアクセスサービスシステム研究所(AS研) 光アクセス基盤プロジェクトから、ネットワークの低遅延・省電力化に資する研究開発技術を紹介します。

吉田 智暁(よしだ ともあき)
NTTアクセスサービスシステム研究所

低遅延化に対する高い期待

光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信、膨大な計算リソース等を提供可能とするネットワーク・情報処理基盤の構想であるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けて、さまざまな企業が集まり議論を行うIOWN Global Forum(IOWN GF)が中心となって活動を行っています。IOWN GFでは、非常に高精細な映像や知覚表示、伝達を可能にする「人の認知を超えた能力をナチュラルに提供する」ことをめざし、そのために必要となるネットワークや計算資源、デバイスについてのユースケースや技術を議論しています。IOWN GFでは、大量のカメラやセンサから得られるデータをリアルタイムに収集し、未来予測や自律制御を行うサイバーフィジカルシステムや、労働人口減少への対応という観点からも期待が高い遠隔操作やXR(Extended Reality)ナビゲーションなど、没入感を高め人の認知を拡張するユースケースが例示されています。
こうしたユースケースで重要となるのが低遅延かつ安定したネットワークです。例えば日本外科学会が策定した遠隔手術のガイドライン(1)では、通信環境の低遅延性と安定性の双方が要件として示されています。また、今後減少していく生産年齢人口に対応するために、生産性の向上や危険作業の撲滅は喫緊の課題となっており、精緻な遠隔操作を実現するための低遅延かつ安定したネットワークへの期待は年々高まっているといえます。

低遅延を実現するネットワーク技術

IOWNの1構成要素として議論されているオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)は、光ファイバ通信の特性を活かした安定した低遅延性を提供できると期待されています。しかし、実際にユーザが必要とする精度の高い遠隔操作を実現するには、情報の伝達における遅延の抑制だけでなく、情報の入力・処理・出力に要する時間やそのサイクル全体を低遅延化すること、またそのサイクルのさまざまな個所で障害が発生しても、冗長化による経路切り替え等で円滑にユーザ操作を継続できる仕組みが必要となります。
そこでNTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)光アクセス基盤プロジェクトでは、低遅延FDN(Functional Dedicated Network)というネットワーク構成技術を提案し、研究開発に取り組んでいます。低遅延FDNは現在「ネットワーク・サービスに生じる変化に即応する機能」「エッジ処理用の計算資源の高速な割当てや入れ替えを行う機能」の具体化を進めています(図1)。これにより、光区間、エッジ処理を含め、遠隔操作システム全体で低遅延・低ジッタのネットワークを安定して提供することが可能になります。特に、遠隔制御の実用化や普及には、クラウド技術、特にエッジコンピューティングのメリットを活かし、画像処理やAI(人工知能)処理の高信頼化を果たす「ネットワーク&コンピュート高速クローズドループ制御技術」の研究開発を進めています(図2)。ネットワークとエッジサーバの双方の状態をタイムリーに情報収集して品質監視を行い、品質劣化時にネットワークとサーバを同時に切り替えて安定性を確保します。つくばフォーラム2023では、このネットワーク&コンピュート高速クローズドループ制御技術を用いて、遠隔のロボットを画面越しに操作するアプリケーションと、エッジサーバの背景負荷が増大し遠隔操作環境が悪化しても経路とサーバの切替制御を行って操作が継続できる高い安定性のデモを実施しました。
もう1つの低遅延技術として、工場内の複数のロボットを安定かつ低遅延に制御する用途を想定した技術を研究開発しています。ユーザの近傍に配置するMEC(Multi-access Edge Computing)と多数の端末との間のミッションクリティカルなデータ転送にTAS(Time Aware Shaper)技術(2)を活用します。TASは元々非常に厳しい遅延要件の通信を調停、多重するためのトラフィック制御技術ですが、これを複数のスイッチ間、すなわちネットワーク全体で連携制御を行う仕組みに応用します。この技術によって工場内のあらゆる端末とMEC間の各制御メッセージの低遅延性を確保することができ、繊細なロボットアームを複数同時に制御することが可能となるデモを実施しました。

光給電Optical Network Unit(ONU)

山岳や海などでの観測、またダムなどの設備の監視といった、ルーラルエリア、無人環境でのデータ収集をIoT(Internet of Things)が担うというユースケースは有望と考えられています。しかし、そうしたエリアでは電力線による電力供給すら難しいケースがあります。これまで太陽電池や、エナジーハーベスティング技術、LPWA(Low Power Wide Area)などを活用するIoT機器が提案されてきましたが、安定した電力供給や電波伝搬距離に課題も多い状況です。例えば、これらの厳しい設置環境においては、地形や気象、植生などの条件により、太陽電池やエナジーハーベスティング技術は電力源としての安定性に欠け、LPWAも伝搬距離に制限、変化が生じるため、より安定した電源によるアクセスポイントの確保が求められています。そこでAS研では、光ファイバ中を伝搬するエネルギーを電力として利用しIoT通信を可能にする「光給電ONU」の研究開発に取り組んでいます(3)
今回、低消費電力で動作する光トランシーバを試作し、通信が不要なときにはONUをスリープさせて平均消費電力を徹底的に抑制し、その間に光電変換ユニットで受信した光からの電力で充電する仕組みを搭載して(図3)実証を行いました。つくばフォーラム2023においてこの光給電ONUのデモを行いました。

Photonic Gateway(Ph-GW)の研究開発動向

AS研は、従来より端末をフルメッシュかつエンド・ツー・エンドで接続し、中継に電気処理を極力用いない光パスによる大容量、低遅延の伝送を可能にするAPNにおいて、アクセスノードに配備してユーザ装置を収容する際に必要な機能を提供するPhotonic Gateway(Ph-GW)を提唱・研究開発しています。Ph-GWは、光技術を活用した①遠隔波長設定、②集線・分配、③通過・停止、④折返し、⑤取り出し・挿入、の各機能で構成され、ユーザが通信プロトコルを意識せずにエンド・ツー・エンドの主信号の開通・停止を提供します。AS研では、この5つの機能を実現可能であることを実証しています(4)(5)。また、Ph-GWを構成するこれらの機能ブロック群をIOWN GFにおいて提案し、APN-Gとして記載されています(6)。特に、②、③、⑤の機能については既存の光伝送装置であるROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)の機能を拡張して実現することが可能であり、Open ROADMMSAにおいても検討が開始されました。ほかにも、実現途上である遠隔監視制御やAPN端末の小型化、低コスト化など課題はまだあり、Ph-GWの研究開発とともに継続して取り組んでいきます。APNは、まずその良さを知っていただくために、使える技術をいち早く体験いただきつつ、研究開発を続けて順次機能拡充を提案、実現していきたいと考えています。

■参考文献
(1) https://jp.jssoc.or.jp/uploads/files/info/info20220622.pdf
(2) IEEE:“IEEE Standard for Local and metropoli­tan area networks - Bridges and Bridged Networks - Amendment 25: Enhancements for Scheduled Traffic,”IEEE Std 802.1Qbv-2015, March 2016.
(3) H. Katsurai, Y. Fukuda, R. Miyatake, H. Nago­shi, M. Sekiguchi, and T. Yoshida:“Sleep/Active operation of optical-power-supplied ONU without electricity for rural IoT,” ICETC2022, O2-2, Nov. 2022.
(4) Y. Senoo,S. Kaneko,T. Kanai,N. Shibata,J. Kani,and T. Yoshida:“Demonstration of in-service protocol-independent end-to-end optical path control and restoration in All-Photonics Network,”OFC2022, W3G.4,March 2022.
(5) M. Yoshino, S. Kaneko, N. Shibata, R. Igarashi, J. -I. Kani, and T. Yoshida:“New Photonic Gateway to Handle Digital-Coherent and IM-DD User Terminals and Enable Turn-back Connections in Metro/Access-Integrated All-Photonics Network,” OFC2023, W3F.5, San Diego, U.S.A., March 2023.
(6) https://iowngf.org/wp-content/uploads/formidable/21/IOWN-GF-RD-Open-APN-Functional-Architecture-1.0-1.pdf.

吉田 智暁

従来の高速大容量とは異なる、低遅延や低消費電力を光アクセスの新しい価値、品質として提供できるよう、研究開発を推進していきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
光アクセス基盤プロジェクト
TEL 046-859-4958
FAX 046-859-5513
E-mail akip-as-ml@ntt.com

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