NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

特集2

つくばフォーラム2023に見るIOWNとアクセスネットワーク技術

大容量伝送、低消費電力、適用領域拡大を加速するワイヤレス技術の展開

6G(第6世代移動通信システム)/IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けて、NTTアクセスサービスシステム研究所が検討を進めている無線技術を紹介します。私たちは、IOWN構想と6Gは同じ方向感であるととらえて、6G/IOWN構想の実現に向けた無線技術の研究開発を進めています。特に、光無線融合による高速大容量化、衛星通信を活用した上空方向でのカバレッジ拡大、無線技術の新たな適用領域拡大、さらには、共通的な課題である低消費電力化の観点からも検討を進めています。本稿では、これらの方向性に関する各技術とその展望について述べます。

鬼沢 武(おにざわ たけし)
NTTアクセスサービスシステム研究所

はじめに

NTTでは、2019年5月にIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想(1)を発表しました。IOWN構想では、オールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)として光伝送技術のさらなる発展に取り組んでいます。光伝送装置、デバイス技術の革新的な進展を構想に盛り込み、2030年代のネットワーク将来像を描いています
一方、無線分野では、移動通信ネットワーク技術を中心に、6G(第6世代移動通信システム)の2030年代の実現をめざしてきました、高速大容量、カバレッジ拡張、低消費電力をねらうネットワーク構想が世界中で立ち上がり、ホワイトペーパーも多く発行されています(2)。国内においても、NTTドコモから2020年1月に6Gに向けたホワイトペーパーが発行され、現在は第5版(3)までの改訂が進んでいます。
NTTアクセスサービスシステム研究所では、IOWN構想と6Gは同じ方向感であるととらえて、6G/IOWN構想に向けた光と無線分野の融合技術の検討を進めています。この6Gの実現には世界的な方向感の合意も必須です。私たちも、NTTドコモをはじめ、国内外の各社と6Gに関する技術実証実験を協力して進めています(4)
無線分野において高速大容量化には、周波数リソースが潤沢なミリ波帯、サブテラヘルツ帯の利用が効果的ですが、伝搬損失が大きくなるため無線装置を高密度に展開する必要があります。したがって、従来のセルラー構成に加えて、図1に示すように、柔軟に無線エリアを構築できる空間領域での分散ネットワークのトポロジー(New Radio Network Topology)(3)が必要になります。
この実現には、無線信号を送信する張出局(無線装置やアンテナ)を多く設置する分散MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)技術の適用が考えられます。また、集約局から多くの張出局への配線には、損失が少ない光ファイバを用いることが望ましいです。私たちは、アナログRoF(A-RoF)技術と分散MIMO技術を融合させた技術検討を重ねてきました。さらに、この空間領域での分散ネットワークは、無線伝送路を確保するために柔軟なネットワークトポロジーを形成しやすいため、上空方向へのカバレッジ拡大や新たな適用領域拡大にも相性が良いのです。
本稿では、私たちが6G/IOWN構想の実現に向けて検討を進めている高速大容量化、上空方向でのカバレッジ拡大、無線技術の新たな適用領域拡大、さらには、共通的な課題である低消費電力化の観点から、各技術の紹介とその展望(5)について述べます。

高速大容量化

高速大容量化に向けて、私たちが考える、高周波数帯分散MIMOシステムを図2に示します。集約局と張出局の光区間はアナログRoF技術を適用します。

■アナログRoF技術

図2に示したように、アナログRoFのネットワークトポロジーとしてはスター型が一般的です。これに対して、カスケード型のネットワークトポロジーが検討されています。この構成では、各張出局において光スプリッタと光合分波器を用いており、そこを通過することによる光損失が大きく、接続可能な張出局数が制限される課題があります。この課題に対して、私たちは光薄膜フィルタを用いた構成を検討しています(5)。光薄膜フィルタは、特定の波長を低損失で透過し、それ以外の波長の光を反射させることで分岐することが可能です。この特長を活用してカスケード型のネットワークトポロジを構成します。
また、アナログRoF技術では、無線基地局の信号処理機能を集約局に集約することで、高密度に設置する張出局の簡易化、低消費電力化を実現できます。高周波数帯では、利得を稼ぐために必須となるビームフォーミング技術を遠隔で行う遠隔ビームフォーミング制御手法について検討を進めてきました(6)。この中で、ビームテーブルを用いた遠隔ビーム制御手法を適用し、5G NR(New Radio)の物理仕様に準拠した信号を上下回線の無線信号として用いて、上下同時に双方向で4K映像伝送を実証しました。
また、集約局から張出局まで20kmのSMFを適用した際のEVM(Error Vector Magnitude)も計測しています。図3にSA(Spectrum Analyzer)で測定した各計測点でのEVMおよびコンスタレーションを示します。OTA(Over The Air)におけるEVMは約3.36%となっており、3GPP(3rd Generation Partnership Project)が規定する256QAM(Quadrature Amplitude Modulation)信号のEVM要求条件である3.5%以下を満たす結果が得られています(5)

■分散MIMO技術

分散MIMO(5)を実現するためには、いくつかの検討課題があります。前述したように、私たちは分散アンテナ展開にはアナログRoFを適用する手段を検討しています。ここでは、分散伝搬路制御技術(3)を中心に紹介します。
多くの張出局を効率的に運用するときには、高密度な張出局の配置に伴いビームサーチ数が増加する課題があります。この課題に対しては、複数の張出局が同時に同一周波数リソースでビームサーチを行うことで、オーバヘッドが張出局数に依存しない同時ビームサーチ手法の実証検討を行っています(5)
さらには、NEC、NTTドコモと協力し、28GHz帯を用いた分散MIMOにおいて、エリア内の無線伝搬状況や移動端末の位置などの環境情報をシステム自身が把握し、環境に応じて集中局(基地局)から張出局(分散アンテナ)を動的に切り替える技術の実証を行いました(7)。実験エリアと実験系の概観を図4に示します。また。集約局からアナログRoFを介して2本の張出局に接続し、アナログRoFと分散MIMOを融合させた上下双方向無線伝送の実証も実施しました。アナログRoF適用時も同軸ケーブルとほぼ同じスループット特性が実証の結果として得られています。

カバレッジ拡大

私たちは地上と宇宙の多層接続により、地上や上空のカバー率100%の高速大容量化を図り、宇宙統合コンピューティング・ネットワーク(8)の実現をめざしています。図5に示すように、GEO(GEOstationary orbit satellite)/LEO(Low Earth Orbit satellite)/HAPS(High Altitude Platform Station)による通信を連携する多層ネットワークにより、伝搬特性やパスの通信容量など異なる条件を考慮した通信ルートから、そのときの状況に応じて最適なルートを選定できる通信サービスを実現します。例えば、上空方向の無線伝送路は降雨の影響を受けやすく減衰するため、降雨が無いルートを選択して通信を行うといった制御を活用することで、通信速度の向上を図るルート制御技術の検討を進めています(5)
また、衛星通信では複数端末の情報を衛星から基地局に伝送するフィーダリンクの大容量化が重要です。これを可能にする衛星MIMO技術の装置化にも取り組んでいます(5)。衛星MIMO技術を衛星軌道上で実証を行うための送受信機能を盛り込んだ衛星搭載用コンポーネントの装置化も進めました。
現在は、衛星MIMO技術の低軌道衛星を用いた実証に向けて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携し、革新的衛星技術実証3号機に続いて革新的衛星技術実証4号機(5)を活用した実証検討を進めています。

適用領域の拡大

高速大容量、カバレッジ拡大の特長を活用するために無線技術の適用領域を拡大する検討を進めています。この中で、実証まで進みつつある事例を2つ紹介します。
1つは、通信電波を用いた測位情報に基づいた基地局切替制御技術です。6Gにおいても測位技術は重要視されています。従来と異なり、本技術ではエリアの境目の識別に通信電波自体による端末測位手法を活用することで、より高精度な切替制御を可能にします。GPSなどの外部測位システムを適用しないことも重要な点です。免許が不要である60GHz帯無線LAN(WiGig)を活用し、時速300kmのフォーミュラカーに搭載し技術の実証を行いました。現在は、端末の接近を検知した基地局(張出局)のみアクティブ状態にし、残りの基地局(張出局)はスリープ状態にする低消費電力化の実証も進めています(9)。時速260km以上の環境で実験を行い、スリープ制御なしの場合と比較してスループットの劣化なく、基地局の動作時間を約6割削減できることを実証しました。
次に、大型構造物の非接触破損点検技術を紹介します(10)。将来のカーボンニュートラルに貢献する風力発電風車の無停止点検をめざす技術の実証実験を開始しました。特に規模が大きい洋上風力発電装置とは、カバレッジ拡大と組み合わせることで大きな効果が期待できます。
図6に示すように、本技術では、点検対象構造物を挟み込むかたちで飛行させた2機のドローン間において、免許不要な微弱無線の送受信を行います。電波の変動を検知、解析することで、大型構造物の異常等を検知します。従来の目視や画像による設備点検では運転停止が必須でしたが、この事前確認として本技術を活用した点検を併用することで、インフラ設備の利用停止時間を短縮化することをめざしています。

おわりに

本稿では、私たちが6G/IOWNの実現に向けた無線技術の最近の研究開発について紹介し、その展望を述べました。特に、高速大容量、カバレッジ拡大、低消費電力、これらの特長を活用した無線技術の新たな適用領域拡大は今後ますます重要になると考えています。

■参考文献
(1) NTT:“NTT Technology Report for Smart World 2021,” 2021.
(2) https://www.soumu.go.jp/main_content/000702111.pdf
(3) https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/whitepaper_6g/DOCOMO_6G_White_PaperJP_20221116.pdf
(4) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/02/27/230227a.html
(5) 鬼沢・北・宮城・山下:“6G/IOWN構想の実現に向けた無線技術の展開,”信学技報, CS2023-14, pp.34-40, 2023.
(6) 白戸・伊藤・菅・新井・高橋・山本・北:“高周波数帯RoF システムの実現に向けて−遠隔ビームフォーミングからPoC まで−,”信学技報, MWP2021-31, pp.6-11, 2021.
(7) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/10/31/221031a.html
(8) 山下・堀:“宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想の実現に向けた基盤技術の研究開発,”信学誌, Vol.106, pp.376 -381, 2023.
(9) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/03/31/230331a.html
(10) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/05/15/230515a.html

鬼沢 武

6G/IOWNの実現に向けて、無線分野における、高速大容量・カバレッジ拡大・適用領域拡大、さらには低消費電力への検討は必須です。NTTアクセスサービスシステム研究所では、これらの技術課題に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
無線エントランスプロジェクト
TEL 046-859-8021
E-mail hiroki.shibayama@ntt.com