トップインタビュー
「選択すれば成し遂げられる」新しいことに挑み、既存のビジネスもしっかり守る
「あしたへ―with you,with ICT.」。ワクワクする未来をめざし、ステークホルダーとともに挑戦を続けるNTT西日本。「西日本スピリッツ」を再定義し、新たな存在意義「パーパス」を定め、「あらゆる人々が幸せで豊かな未来の姿」を追求しています。社会の発展を技術で支える白波瀬章NTT西日本技術革新部長に技術戦略とトップとしての心構えを伺いました。
NTT西日本
執行役員 技術革新部長
白波瀬 章
PROFILE
1992年日本電信電話株式会社入社。2014年NTTスマートコネクト 取締役、2016年同代表取締役社長、2020年NTT西日本 取締役 ビジネスデザイン部長を経て、2021年6月より現職。
大きな変節点を迎え、「西日本スピリッツ」を再定義
NTT西日本の事業状況についてお聞かせください。
NTT西日本は、固定電話サービス利用者減少に伴う収入減等の中、成長分野ビジネスへと収益構造を転換する、まさに変革期を迎えています。こうした中私たちは、地域の皆様に役立つパートナーとして、より成長できる会社への変革をめざし、売上高における成長分野ビジネスを2025年に50%以上に押し上げていくとともに、仕事のやり方を見直し、環境の変化等に迅速に対応していくことができる、筋肉質な体質への変化を加速しています。
2021年には新たなパーパスを、「『つなぐ』その先に『ひらく』あたらしい世界のトビラを。私たちは、地域社会の一員として、あらゆる人々が幸せで豊かな未来の姿を追求しつづけます。そのために、技術と知恵をみがき、新たな価値の共創に挑戦します。」として制定しました。そして、このパーパスの具現化に向けて、全社員が「自分事」として業務に取り組んでいます。
何事においても「自分事」としてとらえることは重要ですね。それを具現化するためにどのような取り組みをされているのですか。
1人ひとりの社員が「会社のパーパス」と接合する自分の「マイ・パーパス」を設定することを奨励しているほか、パーパスをベースに各部署で意見交換の場を設け、トップと話をする機会を設けることに力を入れています。もちろん、私も参加してお話を聞いています。日ごろは管理者から報告を受けることが多いのですが、担当社員の皆さんと直接会って、じっくりと話し、耳を傾ける時間は非常に楽しく、充実しています。当然、交わされる議論の中には厳しい意見もありますが、忌憚のない交流に貴重な気付きを与えていただいています。現代はVUCAの時代といわれ、複雑多様な社会課題を抱えています。多様性が叫ばれる中、こうした直接的なコミュニケーションを通じてお互いにさまざまな価値観を知り、考え方を知ることは重要であり、その場としての意見交換会は非常に有意義な活動です。さまざまな価値観を分かり合ったうえでの自発的な行動はまさに「自分事」だと思います。
また、パーパスを具現化していくプロセスにおいては、地域にフォーカスしたものが中心となってきますが、一方で、地域のみならず、グローバルにも展開できる可能性を感じています。具体的には日本で成功した新しいビジネスを海外展開していくことです。例えば、グループ会社のNTTソルマーレが提供する漫画・電子書籍の配信サービス、「コミックシーモア」の月間利用者数は3500万人です。そして日本の「Manga」文化が海外にも定着していることに着目し、2022年3月に北米向け電子書籍配信サービス「Manga Plaza」をリリースし、海外展開を強化しています。ほかにも、廃棄ゴミを削減し、地域経済の活性化に貢献する地域食品資源循環ソリューションや省人化のためのロボット、AIソリューションなど、課題先進国である日本発のビジネスは大きな可能性があると思っています。また逆に、海外のベンチャー等とも積極的に連携し、競争力のあるサービスを日本で展開していくことも視野に入れていきたいと考えています。
技術に加えて重要なのはマーケットの先読み
地域のみならず、グローバル展開も視野に入れての営みなのですね。CTOとして実現のカギを握る技術戦略やビジョンについてお聞かせいただけますか。
ICTとしては、マルチクラウド、ネットワークと統合したICTインフラ、マネージドサービス。課題解決においては、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)、教育、医療。さらに、未来創出においてはWell-beingが実感できる社会を実現するため、生活、健康、経済、環境をキーワードに「未来社会」を築いていくためのサービス化を考えています。現在これらのキーワードを踏まえて、「イノベーティブな社会課題解決企業への変革」と「デジタル社会を支える重要インフラである通信サービス提供」の2つの軸において技術戦略・ビジョンを掲げています。
具体的には、オープンイノベーションと、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術をいち早く活用した社会にインパクトのある新事業を創出し、成長重点領域のサービスを創出・拡大すること、そして、社会インフラとしてのネットワーク基盤の安定運用と効率化・高度化に向けた技術開発を図ります。一例として、お客さまに安心して通信サービスをお使いいただけるよう品質やインフラの状況を可視化して、不具合発生時に、より迅速な対応を可能にしたり、電車の遅延情報の案内のように、お客さまに速やかに分かりやすく報告するようなサービスを考えています。そして、IOWNも見据えた次のネットワークへのトランジションに臨みます。時代とともに変化に適用してきた現在のネットワークシステムは、変化の節目ごとに個別に対応してきたこともあり、複雑で非効率な部分を内在しています。そのため、次のオペレーション方式、アーキテクチャを検討しなければならないと考えています。Web3.0等も見据え、IOWN関連の先出し技術を活用した、新たなネットワークアーキテクチャの検討も必要です。それらの一部を大阪・関西万博でご紹介したいと考えています。
ところで、今回のインタビュー会場である「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」は、企業・スタートアップ・自治体・大学等のパートナーとともに、「社会課題の解決」と「未来社会の創造」に臨む場として2022年3月に創設されたオープンイノベーション施設です。国籍や性別、年代もさまざまな立場の会員の方々が来場されて、あちこちでディスカッションが展開されていて、盛況を博しています。NTT西日本のオープンイノベーションは、まさにここを舞台としています。
さらに、QUINTBRIDGEに限らず、オープンイノベーションや、ネットワークに関するイノベーションを実現していくために、グローバルダイレクトのパートナーリレーションも積極的に活用していきます。
ゆったりとしたオープンスペースや個室はとてもモダンなデザインで、まるでカフェにいるようです。コーヒースタンドでディスカッションされる様子もあって、見ているだけで創造性を刺激されます。
複雑多様な現代の変化の激しい環境において、技術に加えて重要なのはマーケットの先読みです。私はその実現方法、カギとなるのがオープンイノベーションだと考えているのです。やはり、社会の動きや技術の動向は1つの企業のみの営みでは気付けないことがあるのです。その社会の動きや技術の動向について、さまざまな立場の方々と出会い、会話し、議論することを通じ、タイムリーにその変化を獲得しなければマーケットの先読みはできません。これらの営みを通じて新しい発見をしていくことは非常に重要であると考えています。
これを実現するためのQUINTBRIDGEは、オープン以来、延べ9.2万人の方にご利用いただいています。イベント数は1年3カ月で470回を超えました。私はQUINTBRIDGEのオープンイノベーションのアプローチ自体もイノベーションだと考えています。通常、事業会社が運営するオープンイノベーション施設では、その会社と組みたい方々が集まるものですが、QUINTBRIDGEでは運営会社であるNTT西日本とのマッチングだけにこだわらず、まず会員それぞれが「問いや課題」また自身が提供できる「アセット」をこの場に持ち寄り、そこからNTT西日本も含めた他の会員との「社会課題解決のための」共創活動を実施するようにしたのです。これにより想定以上のパートナーが集まって、今日のような活発な活動が自発的に行われています。
ところで、私は日本企業、特に大企業の多くは自分自身だけでは限界を超えるのが難しいと感じています。私は企業が自らの限界を超えるためのプロセスをつくりたいのです。それがうまくいけば各社に展開し、支援することでNTT西日本は次世代の社会的企業になれると考えています。そのための1つの仕組みがQUINTBRIDGEなのです。QUINTBRIDGEにおける日々の活動から、参加している会員の皆様の私たちへの強い期待もひしひしと伝わってきます。開設から1年を経て、オープンイノベーションの土台づくりはできたと実感していますが、新たなビジネスを創出するために、NTT西日本としてやるべきことをさらに明確化しなければならない、私たちの成果を最大化していく修行の場としてQUINTBRIDGEをさらに活用する必要性も感じています。スタートアップをはじめとする会員企業からは、NTTグループ全体との連携への期待もいただいています。NTT西日本として強みを発揮できることに積極的にチャレンジするのはもちろん、NTTグループ各社との連携のハブにもなって、グループの総合力で社会により大きなインパクトのある事業を具現化していきたいと思っています。
トップは変える人であり、決める人だが、独善的になってはいけない
NTTに入社して歩んでこられた道のりから得られた教訓等をご教示いただけますか。
1992年にNTTに入社して法人営業からスタートし、2年後にNTTアメリカのロサンゼルスオフィスへ赴任しました。関西の企業のグローバル展開をサポートする業務にあたりながら、米国でインターネットの商用化が勢いよく進んでいくのを目の当たりにし、「これはビジネスになる」と幹部に進言して、現地に設置されたNTTの研究所の方々の支援を受けて、インターネットへの接続サービスなどを手掛けることになりました。この経験を通じて、NTTは提案を前向きにとらえてくれる企業であり、研究所を含めて人材の宝庫であると再認識したのです。
そして、人とのつながりがいかに大切であるかを実感したのが、帰国後、インターネット関連のビジネスを推進するプロジェクトに配属され、担当したAPEC大阪会議(1995年)での経験です。会議支援のために集まったメーカーや放送局、広告代理店をはじめさまざまな企業や大学の先生方とつながって、先進的なインターネット技術の開発、実証実験を進める産官学共同コンソーシアム「サイバー関西」を発足しました。ここから、NTTスマートコネクトやスマホ等でラジオが聞けるradikoのような新会社、新サービスが生まれたのです。
このような経験がいかに実りあるもので、社会貢献につながっているかを感じています。次は2025年の大阪・関西万博で新たなレガシーをつくりたいです。これらの経験に導かれた教訓は、多様性が大事であることかもしれません。多様性を積極的に受け入れるためには「意識」が必要なのです。人は見たいものしか見えないですから。
さらにこれらの経験を通して、私は新規事業と既存事業のバランスに非常に気を配っています。企業活動においては、既存事業の深化と新規事業の探索のうち、深化に引きずられてしまいがちです。既存事業を守るために新規事業に手が回らないこともあるのです。一方で手当たり次第に探索を試みてもうまくいきません。このバランス、リバランスをニーズと知見を活かして意思決定していくことを大事にしています。
意思決定の精度を高めるために日ごろから努めていらっしゃることはありますか。
意思決定の精度を上げるために、私は社内外のさまざまな立場の方々と交流することを大切にしています。コロナ禍にあって、直接的に交流することが叶わない時期がありましたが、だからこそ、その価値を実感しています。
私は何事も「選択すれば成し遂げられる」と信じています。「まず選択する」ことが、どんなに時間がかかっても何かを実現するうえでは力になると、これまでの経験を通じて実感してきました。また、私はトップとは「決める人、変える人」だと思っています。最終的な決断は、トップが担うわけですが、独善的に決めるわけではないのです。私はさまざまな状況や立場に耳を傾け、展望等をかんがみて、適切な方向へ導けるように確認しながら決断を下します。人は、最善だと思って進んでいる方向を自ら転換する、特に止める、のは難しいものです。だからこそ、トップが決断する役割を担うという側面もあると思います。
そして、企業自身も自ら変革を起こすことはなかなか難しいものなのです。そこで、先ほどのお話に戻りますがオープンイノベーションが大事になるわけです。さまざまな人と共創することで変化をつくり出すことができるからなのです。
最後に皆さんへのメッセージをお願いします。
まず、研究者の皆さん、基礎研究を含めた研究開発を継続的に取り組んでいることはNTTグループの強みです。新しい技術創出にチャレンジしていただきたいのですが、その際、その技術が何に役立ちそうかの仮説をもって信じて取り組んでください。結果的に、本来のねらいと違うところに活かされてもよいと思います。ぜひ、自信をもって新しい価値を生み出してください。
技術者の皆さん。通信インフラを守りつつ、イノベーティブな社会的企業へ変革するには、既存事業の深化・新規事業の探索、両利きで取り組まないといけません。新しいことをやる人と守る人、両方必要だと私は考えています。互いに尊重し合い、助け合う風土を大切にしていきたいですね。QUINTBRIDGEも活用しながら、グループの人材を横でつなげるようなコミュニティもつくっていきたいと思っていますので、ぜひ参加、あるいは、企画してください。
お客さま、パートナーの皆様。私たちは今後もQUINTBRIDGE、大阪・関西万博等のイベント等を活用して、さまざまな事業アイデアを創出・発信していきたいと考えています。パートナーの皆様、新たなアイデア・サービス、よりよい社会を共に創り出していきましょう。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)
企業のマネジメントのトップのお話は、ややもすれば事業説明に終始してしまうことがあります。ところが、NTTのトップは事業説明に織り交ぜて、成功も失敗も、公私ともに正直にお話ししてくださり、知見や教訓を授けてくれます。白波瀬部長も同様に、ご経験に加えて、ご趣味についてもお話ししてくださいました。驚いたのが趣味や興味の幅広さです。ご趣味の読書ではマーケティング戦略や時間節約術、技術関連の書物を手に取られ、最近ハマっているというファスティング(断食)の仕組みについて熱く語ってくださいました。その一方、大のドラマ好きで、サブスクリプションを利用すると際限なく観てしまうので1クール3本と絞り込んでいるとか。刑事ものから、大河ドラマなどを楽しんでいるそうで、「私の人生の半分はドラマでできているかもしれませんよ」と満面の笑みを湛える白波瀬部長。インタビューで感じた俯瞰的な視点や切れ味をクールヘッドと称するならば、趣味や興味を無邪気に話されるお姿はまさにウォームハート的なあり方です。新規事業と既存事業のバランス感覚を重要視されているというご姿勢と同様、白波瀬部長の人としてのあり方の絶妙なバランス感覚を垣間見たひと時でした。