グローバルスタンダード最前線
ISO/IEC JTC 1の最新動向
ISO(International Organization for Standardization)/IEC(International Electrotechnical Commission)JTC(Joint Technical Committee)1は、ISOとIECが共同で設立した、情報技術分野の国際標準化を担う組織です。ここでは、ここ1~2年におけるJTC1直下の会議体の動向を中心に紹介します。
山本 英朗(やまもと ひであき)
NTT社会情報研究所
ISO/IEC JTC 1
ISO(International Organization for Standardization)/IEC(International Electrotechnical Commission)JTC(Joint Technical Committee)(1)は、ISO(2)とIEC (3)が共同で設立した、情報技術分野の国際標準化を担う組織です。従来、情報技術分野の国際標準化については、ISOにおいてはISO/TC(Technical Committee)97(1960年設立)が、また、IECにおいてはIEC/TC 53(1961年設立)が進めてきました(4)。このため、両組織間での技術分野の重複が問題となってきました。この問題を解消させるため、JTC 1が1987年に創設されました。JTC 1の事務局は、ANSI(American National Standards Institute)が務めています。2023年6月現在、JTC 1は、Pメンバ(積極的参加)が37カ国、Oメンバ(オブザーバ)が64カ国です。
JTC 1総会はJTC 1の最高意思決定会議体であり、主要議題は次のとおりです。
① JTC 1配下のSC(Sub Committee)・WG(Working Group)・AG(Advisory Group)等の創設・改廃
② SC国際議長の選任
③ 業務指針の改定
④ SC等の活動状況の報告
JTC 1の組織構成
JTC 1の組織構成を図に示します。規格開発はJTC 1直下の5つのWGと23のSCが担います。将来の規格開発を視野に入れた課題の検討、および業務指針の見直しなどマネジメントに関する審議は、JTC 1直下のAG・AHG(Ad Hoc Group)が担います。
JTC 1は、JTC 1以外の組織ともリエゾンを構築しています。具体的には、IEC/TC 65(プロセス計測制御・オートメーション)、IEC/TC 100(AV・マルチメディア、システムおよび機器)、ISO/TC 215(保健医療情報)、ISO/TC 307(ブロックチェーンと電子分散台帳)、ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)、Ecma International等です。
このような状況において、日本は主に次のようなかたちでJTC 1の運営に大きく貢献しています。
① 23すべてのSC およびJTC 1直下の5つのWGにおいてPメンバとして参画
② SC 2(文字コード)、SC 23(デジタル記憶媒体)、SC 28(オフィス機器)の議長およびSC 2、SC 23、SC 28、SC 29(メディア符号化)、SC 34(文書の記述と処理の言語)のコミッティマネージャ
③ 延べ約90名のプロジェクトエディタ(2023年3月末時点)
④ JTC 1総会のホスト(計4回)
2019年からJTC 1総会は春・秋の年2回開催されています。本稿執筆時点で直近2回のJTC 1総会は、2022年11月に東京で、2023年5月にパエストゥム(イタリア)で、ともに“face-to-face mode with some remote participants”*1の形式で開催されました。これらのJTC 1総会において、日本は、十数件の寄書を通じた意見提起、起草委員会への参画、コロナ禍では初の対面形式となった東京総会*2のホスト等を通じて、JTC 1の運営に大きな役割を果たしました。
以下では、これら2つの総会でのJTC 1直下の組織の動向に焦点を当てて紹介します。
*1 “face-to-face mode with some remote participants”とは、ISO/IEC JTC 1のStanding Document N 19(Meetings)にて定義された、対面形式とオンライン形式とを併用した国際会議開催形態の名称です。このStanding Documentでは、類似の形態として“hybrid mode”も定義されていますが、1日当りの会議時間の上限、通信が途絶した場合にリモート参加者が議事進行停止を要求できる権利の有無などで両者に違いがあります。
*2 2020年11月に岡山で開催する予定で準備を進めていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で開催形態がバーチャルに変更されたため、改めて日本に招致したものです。
主な会議体の最新動向
(1) スマートシティのための情報技術に関するSC
JTC 1において、スマートシティのための情報技術に関する規格開発は、WG 11が担っています。ISO TC 268/SC 1(スマートコミュニティインフラ)とJTC 1との間でスマートコミュニティインフラに関する活動を調整する目的で、2022年5月のJTC 1バーチャル総会の決議に基づいてAG 20が発足しました。2023年5月のJTC 1パエストゥム総会に、中国から、WG 11で議論されてきたスマートシティについてSCを新設すべきとの寄書がありました。総会会期中、各国から賛否両論の意見があったものの結論が出ず、最終日の決議採択の場で採決することとなりました。日本は、新たなSCのスコープがスマートシティに関連する他の組織のスコープと重複する懸念があることを理由に反対を表明しましたが、採決の結果、出席したPメンバの賛成多数で44番目のSCを新設することが承認されました。新SCの議長は、WG 11のコンビナであるHeng Qian氏(中国)が就任する予定で、新SCの発足に伴ってWG 11は廃止されます。ただし、本稿執筆時点では、JTC 1総会で承認された段階であり、新SCの発足は、ISO・IECの上層部(ISO技術管理評議会、IEC標準管理評議会)それぞれの投票で承認されてからとなります。
(2) 量子情報技術に関するWG
JTC 1における量子情報技術の標準化活動は、2018年11月のJTC 1ストックホルム総会にて設立が承認された、量子コンピューティングに関する検討グループ(SG)が端緒です。そのSGとしての活動を引き継ぎ、2020年6月のJTC 1バーチャル総会にてWG 14の設立が承認され、量子コンピューティングに関する規格開発が開始されました。2022年11月のJTC 1東京総会では、量子シミュレーションに関するPWI (Preliminary Work Item:予備業務項目)の開始が承認されたことに伴い、その審議体制が議論されました。その結果、既存のWG 14とは別に量子シミュレーションに関するWGを新設するのは効率が悪いことから、既存のWG 14の活動項目を広げることで合意されました。これを受け、WG 14のタイトルは「量子コンピューティング」から「量子情報技術」と改称され、活動項目も量子情報技術に幅広く対応できるように変更されました。現在のWG 14の活動項目は表に示すとおりであり、主査はHong Yang氏 (中国)が務めています。
(3) JTC 1の戦略的方向性に関するAG
このAGは、2022年11月のJTC 1東京総会にカナダから提出された寄書が契機となって設立されました。この寄書の趣旨は、1990年代後半以降、ICT市場や技術情勢だけでなく国際社会におけるICTの利用方法も大きく変化したものの、20年以上にわたってJTC 1の組織の見直しをしていないので、JTC 1の組織構成・ガバナンス・運営方法について振り返りをすべきというものです。現在のAG 21の活動項目は表に示すとおりであり、主査はNorbert Bensalem氏(フランス)が務めています。
(4) 領域横断活動に関するAHG
このAHGは、2021年5月のJTC 1バーチャル総会に日本から提出した寄書が契機となって設立されました。この寄書の趣旨は、WG 11およびWG 12の再構築を念頭においた、アプリケーション領域を扱うWGの再構築および再構築形態の提案です。当時の総会では結論に至りませんでしたが、アドホック会議を新設してこの議論を継続することとなりました。このAHG設立後、JTC 1総会に、リエゾン活動のモニターと領域横断活動の長期計画の検討が提案されたり、AHG 4をAGに移行する提案がなされたりしましたが、採用は見送られました。現在のAHG 4の活動項目は表に示すとおりであり、主査はJacqui Taylor氏(英国)が務めています。
日本の検討体制
JTC 1傘下のSCおよびSC傘下のWGへの対応は、一般社団法人情報処理学会情報規格調査会(ITSCJ)等*3が担っています。JTC 1直下のWG 11~WG 15へは、それぞれに対応する小委員会がITSCJに設置され、審議状況の共有および国際投票への対応等を行っています。JTC 1直下のAG・AHGのうち、NB(National Body:各国代表団体)*4に参加が求められている会議体への対応を包括的に行う目的で、「JTC 1サブグループ対応小委員会」がITSCJに設置されています。この小委員会では、AG等での審議状況の共有とAG等への対処方法の協議を行っています。また、SC 43(ブレイン・コンピュータ・インタフェース)へは、この小委員会にて対応しています。なお、ISO/IECの業務指針(ISO/IEC Directives)については、当該小委員会メンバ以外の国内企業・団体の関心が高いため、ITSCJの技術委員会の配下に、上記小委員会とは別に「ディレクティブズ小委員会」を設けて対応しています。
*3 SC 17、SC 28、SC 35傘下のWG 1(キーボード並びに入力およびフィードバックに関する方法および装置)・WG 2(グラフィカルユーザインタフェースおよびインタラクション)、WG 4(モバイルデバイスのユーザインタフェース)・WG 6(ユーザインタフェースアクセシビリティ)へは、一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会が対応し、SC 25傘下のWG 3(商用構内配線)、SC 31傘下の各WG、およびSC 39へは、一般社団法人電子情報技術産業協会が対応しています。
*4 NB:ISOではMB(Member Body)と呼び、IECではNC(National Committee)と呼びます。ISO/IEC JTC 1 は両組織に共通であるため、NBと呼びます。
今後の予定
今後のJTC 1総会は、2023年11月にベルリン(ドイツ)、2024年5月にオーストラリア(開催都市未定)にて開催される予定です。
■参考文献
(1) https://jtc1info.org/
(2) https://www.iso.org/home.html
(3) https://www.iec.ch/homepage
(4) https://www.ipsj.or.jp/50anv/50nenshi/data/pdf/000050.pdf
(5) https://itscj.ipsj.or.jp/