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グローバルスタンダード最前線

ISO/IEC JTC 1の最新動向

ISO(International Organization for Standardization)/IEC(International Electrotechnical Commission) JTC(Joint Technical Committee) 1は、ISOとIECが共同で設立した、情報技術分野の国際標準化を担う組織です。2018年11月5~8日まで、ISO/IEC JTC 1総会がストックホルムで開催されました。ここでは、ISO/IEC JTC 1ストックホルム総会にて設置が決議された、新技術領域に関するSG(Study Group)の動向を中心に紹介します。

※ 現、NTT情報ネットワーク総合研究所

ISO/IEC JTC 1

ISO(International Organization for Standardization)/IEC(International Electrotechnical Commission) JTC(Joint Technical Committee) 1(1)は、ISO(2)とIEC(3)が共同で設立した、情報技術分野の国際標準化を担う組織です。従来、情報技術分野の国際標準化については、ISOにおいてはISO/TC(Technical Committee) 97(1960年設立)が、また、IECにおいてはIEC/TC 53(1961年設立)が進めてきました(4)。このため、両組織間での技術分野の重複が問題となってきました。この問題を解消させるため、JTC 1が1987年に創設されました。JTC 1の事務局は、ANSI(American National Standards Institute)が務めています。2019年3月現在、JTC 1は、Pメンバ(積極的参加)が34カ国、Oメンバ(オブザーバ)が65カ国です。
JTC 1総会はJTC 1の最高意思決定会議体であり、主要議題は次のとおりです。
① JTC 1配下のSC(Sub Committee)・SG(Study Group)等の創設・改廃
② SC国際議長の選任
③ 業務指針の改定
④ SCの活動状況の報告

JTC 1の組織構成

JTC 1の組織構成を図に示します。規格開発はJTC 1直下の2つのWG(Working Group)と22のSCが担います。業務指針の見直しなどマネジメントに関する審議は、JTC 1直下のAG(Advisory Group)、AHG(Ad Hoc Group)が担います。将来の規格開発を視野に入れた課題の検討など技術に関する審議は、JTC 1直下のSG、SWG(Special Working Group)が担います。
JTC 1は、JTC 1以外の組織ともリエゾンを構築しています。具体的には、IEC/TC 65 (プロセス計測制御・オートメーション)、IEC/TC 100(AV・マルチメディア、システムおよび機器)、ISO/TC 215(保健医療情報)、ISO/TC 307(ブロックチェーンと電子分散台帳)、ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)、Ecma International等です。
2018年11月のJTC 1ストックホルム総会までは、JTC 1の直下に、JAG(JTC 1 Advisory Group:JTC 1国際議長の諮問会議)が設置されており、マネジメント・技術ともJAGにて審議されてきました。JTC 1ストックホルム総会をもってJAG会議は開催されないこととなり、JAG会議で扱っていたマネジメント系の会議体、および新技術の調査等を行う会議体が、JTC 1直下に設置・再編されました。
このような状況において、日本は主に次のようなかたちでJTC 1の運営に大きく貢献しています。
① 22すべてのSCおよびJTC 1直下の2つのWGにおいてPメンバとして参画
② SC2(文字コード)、SC 23(デジタル記憶媒体)、SC 28(オフィス機器)、SC 29(メディア符号化)の国際議長および幹事国の引き受け
③ 延べ約110名のプロジェクトエディタ(2018年5月現在)
④ JTC 1総会のホスト(2020年11月の招致決定分を含む計4回)

図 JTC 1の組織構成と各会議体のテーマ

新技術領域に関するSGの設置と日本の検討体制

本稿執筆時点で直近のJTC 1総会は、2018年11月5~8日までストックホルムにて開催され、日本を含む24カ国・各SCの国際議長・リエゾン等から約100名が参加しました。新任のJTC 1国際議長であるPhilip Wennblom氏(米国)にとっては、就任後最初の総会でした。
この総会において、日本は、寄書発表等を通じた意見提起、創設が決まったSGの作業項目に関する議論、起草委員会委員等を通じて、JTC 1の運営に貢献しました。
以下では、JTC 1ストックホルム総会にて創設が決まったSGのうち、新技術領域に関する主要SG、およびJTC 1ストックホルム総会後の日本の対応に焦点を当てて紹介します。

新技術領域に関する主要SG

(1) 量子コンピューティング
JTC 1における量子コンピューティングの技術動向調査は、JETI(JTC 1 Emerging Technology and Innovations)(5)にて行われてきました。
JETIとは、JTC 1で取り組むべき新規標準化テーマの候補を検討することを主目的にJAG内に2016年8月に創設された検討グループです(その後、JTC 1ストックホルム総会を経て、JTC 1直下のSWGとして改組)。JETIは、15領域のトップ・プライオリティ・テクノロジを定め、直近では、4つの技術領域(デジタルツイン、自動運転車、量子コンピューティング、ブレインコンピュータインタフェース)を検討してきました。
2018年10月に、JETIは、量子コンピューティング技術の調査・各標準化組織での量子コンピューティングの標準化への取り組み状況・JTC 1への提言等をTTR(Technology Trend Report)という報告書としてまとめました。
このTTRを受け、中国・米国等から量子コンピューティングに関するSGを創設すべき旨の寄書が提出され、JTC 1ストックホルム総会にてSG創設が決議されました。
このSGの活動項目は表1に示すとおりであり、SG主査はHong Yang氏(中国)が務めています。JTC 1ストックホルム総会の決議では、このSGでの活動状況を次回のJTC 1総会で報告するよう求められており、現在、電話会議等による検討が進んでいます。
(2) データ利活用
このSGの設置は、JTC 1ストックホルム総会向けに提出されたオーストラリアからの寄書(Data Sharing Framework)が契機になっています。この寄書では、データ共有やスマートサービスに関する検討を行うことをJTC 1に提案しています。
この寄書に関して、JTC 1ストックホルム総会では、SC 27(セキュリティ)・SC 38(クラウド)をはじめとして多くのSCがデータ利活用にかかわっており、JTC 1内での整理が必要であるとの意見が多くの国から提起され、SG創設が決議されました。
このSGの活動項目は表1に示すとおりであり、SG主査はDonald Deutsch氏(米国)が務めています。JTC 1ストックホルム総会の決議では、このSGの活動状況を次回のJTC 1総会で報告するよう求められており、現在、対面会議・電話会議等を併用した検討が進んでいます。
(3) Trustworthiness
“Trustworthiness”に確立した定義はありませんが、各標準化組織によって検討されてきた定義では、安全性・セキュリティ・プライバシ・信頼性・回復力等を包含した「広義の信頼性」を意味する場合が多いようです。現状、“Trustworthiness(形容詞形はTrustworthy)”の定義が表2のように分かれています。
2018年6月に、ISO/IEC JTC 1 SC 41(IoT)からJAGに対し、“Trustworthiness”の定義等をJTC 1内で横断的に検討すべきとの問題提起がありました。これを受け、2018年8月のJAGトロント会議にて“JAG Group on Trustworthiness”という検討グループが発足しました。
JTC 1ストックホルム総会をもってJAG会議が開催されなくなったことに伴い、この検討グループは、JTC 1直下のSGとして改組されました。
このSGの活動項目は表1に示すとおりであり、SG主査はWalter Fumy氏(ドイツ)が務めています。JTC 1ストックホルム総会の決議では、このSGの活動状況を次回のJTC 1総会で報告するよう求められており、現在、電話会議等を併用した検討が進んでいます。

日本の検討体制

JTC 1ストックホルム総会後の日本の対応について紹介します。JTC 1直下に新設・改組された会議体のうち、NB(National Body:各国代表団体)*に参加が求められているAG・AHG・各SG・各SWGへの対応を包括的に行う目的で、情報処理学会情報規格調査会(6)は、2018年12月に「JTC 1サブグループ対応小委員会」を設立しました。
この小委員会では、SG等での審議状況の共有とSG等への対処方法の協議を行っています。この小委員会での議論を重ねる中で、必要に応じ、特定SGへの対応を行う者の任命や、SG等への対応のためのアドホック会議の設置等も含めて協議しています。特に、「データ利活用」「Trustworthiness」については、当該小委員会メンバ以外の国内企業・団体の関心が高いため、情報規格調査会技術委員会の配下に、前記小委員会とは別にそれぞれアドホック会議を設けて対応しています。

* NB:ISOではMB(Member Body)と呼び、IECではNC(National Committee)と呼びます。ISO/IEC JTC 1 は両組織に共通であるため、NBと呼びます。

表1 JTC 1直下に設置された新技術領域に関する主要SG

表2 各標準化組織における“Trustworthy”の定義の違い

今後の予定

2019年からJTC 1総会は年2回の開催となり、今後は、2019年5月にハワイ(米国)、同11月にニューデリー(インド)、2020年5月にリムリック(アイルランド)、同11月に岡山(日本)にて開催される予定です。

■参考文献
(1) http://www.jtc1.org/
(2) http://www.iso.org/
(3) http://www.iec.ch/
(4) http://www.ipsj.or.jp/50anv/50nenshi/data/pdf/000050.pdf
(5) https://jtc1info.org/developing-standards-for-emerging-technologies-and-innovations/
(6) https://www.itscj.ipsj.or.jp/