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特集1 主役登場

より強靭性の高いネットワークの実現に向けて

高信頼で強靭なネットワークをめざして

高橋 洋介
NTTネットワークサービスシステム研究所
主任研究員

インターネットは今や、私たちが生活する社会にとって欠かすことができない基盤となっており、その信頼性と強靭性が絶えず求められています。信頼性とは、いつでも必要な情報にアクセスでき、必要なサービスを利用できるという安定性のことです。強靭性とは、さまざまな問題や障害が発生したときでも、その影響を最小限に抑え、迅速に復旧できる能力のことです。これらは、私たちが日々の生活をスムーズに、そして安心して過ごすためには欠かせない要素となっています。
しかし、社会の変化に伴い、このインターネットの信頼性と強靭性を維持することは、日々難しさを増しています。その理由の1つとして、インターネットを基盤としたサービスの急速な増加が挙げられます。新たなサービスが次々と生まれ、それぞれがネットワーク事業者の想定外のトラフィックを発生させることでネットワークの負荷が高まり、安定したサービス提供が難しくなることがあります。さらに、ネットワークの高速化・高機能化に伴い、ネットワークを構成するハードウェアやソフトウェアもまた複雑化しています。この結果、予期せぬハードウェアの故障やソフトウェアのバグが原因でネットワークがダウンしてしまう事態も発生しています。
私たちの研究グループでは、増え続けるネットワークの複雑性に対応するため、AI(人工知能)を活用したネットワークオペレーションの研究開発を推進しています。具体的には、AIを用いたゼロタッチオペレーションの研究に力を入れています。ゼロタッチオペレーションとは、人間の介入を最小限に抑え、NW-AIによってネットワークの運用と管理を行うことを指します。例えば、ネットワーク障害の発生時に人間が介入して復旧作業を行うのではなく、NW-AIが大量の運用データを分析・監視することで、自動で「障害発生の検知」、「障害個所の特定」、「障害からの復旧処理」を実施することができれば、より迅速かつ正確な対応が可能となります。私たちのめざすネットワークは、自己診断し、自己修復する能力を持つことで、高い信頼性と強靭性を併せ持つことができるものです。
AIを用いたゼロタッチオペレーションを実現するためには、ネットワーク障害発生時の運用データを大量に用いて、NW-AIに障害発生時の対応を学習させる必要があります。しかし、実環境ではネットワーク障害が生じる機会が少ないため、AIの学習に必要となるデータを十分に収集することが困難であるという課題があります。そこで、私たちの研究グループでは、ネットワークのデジタルツイン環境の中で人為的にさまざまなネットワーク障害を発生させ、NW-AIがそれらへの対応方法を自律的に学習できる「NW-AI自己進化フレームワーク」を検討しています。これにより、実環境でのネットワーク障害の発生を待つことなく、NW-AIの学習を進めることが可能となります。
私たちの研究グループが開発してきたAIを活用したゼロタッチオペレーションの一部は、すでにグループ会社との共同検証を経て、実際のネットワーク運用業務に導入されつつあります。現場での運用を通じて、新たな課題が見つかることもあります。例えば、特定の種類のネットワーク障害に対するNW-AIの対応がまだ不十分である、といった具体的な問題点が明らかになることもあります。それらは私たちにとって貴重なフィードバックであり、それらの課題を解決することで私たちの技術はさらに洗練され、実用性を増していきます。この一連のプロセスは、一度で完結するものではなく、新たな課題の発見とその解決のサイクルを繰り返すことで、より実践的な技術へとブラッシュアップしていきます。このプロセスを通じて、私たちは学び続け、技術を磨き続けています。
高信頼で強靭なネットワークを実現するためにはまだまだ解決しなければならない課題が多く、その道のりは決して容易ではありません。それでも、今後ますます重要性を増していくインターネットという社会インフラを支える研究開発に携わることには、私自身大きなやりがいを感じています。これからもNTTグループの一員として、そしてネットワーク研究者として、私はこの目標に向かって尽力していきます。私たちの研究が社会全体の利益となり、より高信頼で強靭なネットワーク環境の実現に貢献することを願っています。