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トップインタビュー

機動的経営の強みを活かし、黎明期にあるXR市場で「あたらしい何か」を創造する

誰よりも人と人のコミュニケーションを考えてきたNTTドコモから生まれた、NTTコノキュー。リアルとデジタルの空間を永続的に行き交う新しい体験を生み出すことをめざしています。距離、時間、想像を超えてヒトの心を豊かにし、社会を輝かせるためにXR市場を創造する丸山誠治NTTコノキュー代表取締役社長に、事業の状況とトップとしての心構えを伺いました。

NTTコノキュー
代表取締役社長
丸山誠治

PROFILE

1985年日本電信電話株式会社に入社。2010年NTTドコモ プロダクト部長、2016年取締役執行役員 人事部長、2018年取締役常務執行役員 経営企画部長 モバイル社会研究所、2020準備担当、2019年代表取締役副社長を経て、2022年10月より現職。

メタバース、デジタルツイン、デバイスの3領域でXR市場に挑戦

NTTコノキューが誕生し、社長に就任されて1年余りが経ちました。この1年を振り返ってのご心境、そして、事業の進捗をお聞かせいただけますか。

NTTコノキュー(コノキュー)は2022年10月に会社としてスタートしました。おかげさまでさまざまなXRサービスを開発し、シャープ株式会社との合弁会社「NTTコノキューデバイス」も設立するなど順調に進んでいます。コノキューの社員約200名に加え子会社の社員、そして協業しているパートナーの皆さんとともに、XR(Extended Reality)*の技術開発に勤しみ、やっとコノキューという会社としてのかたちができたかなと感じているところです。
私たちは主にメタバース事業、デジタルツイン事業、そして、デバイス事業の3領域においてさまざまなサービスやソリューションを提供しています。これらは先に挙げたXR技術に支えられていますが、実はXR技術は発展途上の技術でもあります。また、XR空間を構成するための3D空間のデータ量は膨大で、それに対応できるよう通信回線の高度化やデバイスの進化が必須です。しかし、現在の技術は追いついていないため、できることは限られており、その範囲で製品を工夫しているところです。
このため、私たちはNTTやNTTドコモの研究開発部門と連携して中長期的な技術開発を進めると同時に、NTTグループ内にないノウハウを補うため、他社とも広く連携しながら、新たな顧客価値を提供できるよう、小規模企業ならではの機動的な事業運営に努めています。

* XR:VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった先端技術の総称。

XRは国内外大手との競争が強いられると思います。こうした中で、コノキューはどのような強みを携えて挑まれるのでしょうか。

XR技術は未熟であり、XR市場もまだまだビジネスとして成長段階、黎明期にあります。現在、Meta社をはじめMicrosoft社、Apple社、Epic games社などの有力企業が、XR事業の垂直統合型展開をめざして活発に投資を続けおり、数年後には市場が大きく成長すると予想されています。さらに、XR市場にはこれらの大企業だけではなく、ベンチャー企業を含むさまざまな企業が参入し、各社がそれぞれの強みを活かした領域に特化して事業を展開して、市場を盛り上げています。
このような状況下において、私たちの強みは2つあります。1つは、XRの構成要素であるサーバ、ネットワークから端末までをフルカバーしている点です。もう1つは私たちが豊かな技術や人材を抱えていることです。もともとNTTグループは「リアルな限界を超えて、夢や思いを体験し、共感し合える世界へ」というNTT XRビジョンの下、各社がそれぞれXRビジネスを展開していました。このビジョンを推進するため、それらを集約して、NTTコノキューが設立されました。
したがって、NTTグループの営業基盤や技術力を活かして、さまざまなビジネスの可能性を提案しながら、こうした強みを携えて、さまざまなビジネスの可能性を模索しながらスピーディにお客さまのニーズをとらえ、それに対応するよう自らの技術を柔軟に組み合わせながら価値提供することに努めています。NTTグループ各社のバックアップには大変感謝しています。

NTTグループの強みを結集し、広範囲、網羅的に挑む

NTTグループの強みを結集して、広範囲、そして網羅的にXR市場に臨んでいらっしゃるのですね。私たちがその技術力を体験できるチャンスはありますか。

非常に良い機会があります。NTTグループとして2025年開催予定の大阪・関西万博へ参画しますが、私たちの技術力、NTTグループの技術力、コノキューの実力をお披露目する絶好の機会と考えています。
その1つとして、大阪・関西万博の会場をバーチャルで再現した「バーチャル会場」をNTTが提供し、そのソフトフェア開発を私たちコノキューが担当します。これは会場運営に先進的な技術やシステムを取り入れた万博における「未来社会ショーケース事業」の一環で、仮想空間(メタバース)に万博会場やパビリオンなどを再現して、実際に会場に足を運ばなくても万博の体験ができるサービスです。このバーチャル会場はアバター(分身)で回遊でき、バーチャルパビリオンへの入場や、バーチャル会場内のイベント開催も実施する予定です。
話は少し飛躍しますが、九州の田舎の小学生だった私は1970年に開催された大阪万博を観に行きました。科学好きの少年として万博にとてもワクワクしたのを覚えています。技術者の道を選んだのもその経験が影響しているようにも感じます。「バーチャル会場」を通して、皆さんにこうした夢や希望のある体験をしていただければと思います。
また、前述のようにXRは未完の技術ですし、一般の方はXRとはどのようなものか実感が持てないこともあると思います。しかし、体験していただくことでXRの面白さを実感していただけて、XR技術に対する印象も変化します。このため、XR技術の体験をしていただけるように、秋葉原駅電気街改札口に「XR BASE」(https://www.nttqonoq.com/xrbase/)を開設しました。入場は無料ですから、ぜひお気軽にご体験ください。

XR技術を体験していただければ、実社会にどう活かしたいかという希望も現実味を帯びそうです。すでにプレスリリース等でも発表されていますが、さまざまなソリューションの提供が始まっていますね。

メタバース分野では、アバターをより人間らしく表すことに注力していきます。具体的には、「DOOR」というWeb版仮想空間プラットフォーム上で、より人間らしいアバターによる応対をAIの活用により実現していきます。
コノキューでは、XR Concierge(コンシェルジュ)という、アバターと対話型・生成AIをカスタマイズした対話エンジンを組み合わせたソリューションを提供しており、これらの技術・ノウハウをメタバース上に展開することで、ユーザの感情を分析したり、状態を推定して、ユーザに寄り添ったアバターによる応対を実現します。
NTTグループが培ってきたAI技術の活用も視野に入れ、グループ各社の皆様と検討を進めております。
また、新型コロナウイルス感染症によりリモートワークが浸透しましたが、なかなかリアルのようなコミュニケーションが難しいというお声があります。そこで、XRラウンジというサービスを開始しました。アバターを使った小さなメタバース空間により、雑談をはじめとしたインフォーマルコミュニケーションを促すことができるよう工夫しています。
一方、少子高齢化による人手不足などが叫ばれる中、AR(Augmented Reality)分野においては「遠隔操作」で社会課題の解決に臨んでいます。「NTT XR Real Support」(https://www.nttqonoq.com/realsupport/)はMR(Mixed Reality)技術を用いた遠隔支援ソリューションで、例えば、インフラ業界等における保守業務の現地省力化や、製造業における機械の操作支援や現地保守サポートを担います。遠隔で熟練の技術を伝えられるため、農業や消防署等、多彩な現場で、すでにご活用いただいています。さらに特徴の1つである立体的にモノが見えることをさらに活かして、歯科等の医療分野や教育分野での有効活用も模索しています。
XR市場は主に産業分野で活発に動いており、体験していただくとその良さを実感していただけますから、2023年1月に開催された「第7回スマート工場EXPO東京」にも出展しました。ブースでは「Real Support」に新たな対応機種を追加し、ハンズフリーのMR遠隔支援をご体験いただきました。
さらに、軽量眼鏡型デバイスをコノキューとして自社開発しており、2024年には発売予定ですのでどうぞご期待ください。

直観は顕在化されていない教訓である

NTTに入社されて、重ねられてきたご経験はコノキューのトップとしてのお仕事に活きていらっしゃいますか。

前職であるNTTドコモの副社長からコノキューの社長となりましたが、NTTドコモとコノキューでは会社の規模が全く違うこともあり、大きな変化を感じています。
また、私はNTTに入社して、技術者として歩みつつ、会社のトップも何回か経験させていただきました。そのときの経験は今の仕事にも役立っていますが、そのうちの1つ、2年ほどトップを務めたドコモ・プラスハーティ社での経験をお話しいたします。
ドコモ・プラスハーティ社は重度の知的障がいのある方を中心に雇用を進めることを目的として設立されました。清掃などを手掛ける会社で、コノキューと同程度のサイズです。当時の私は、障がいを持つ社員が働きやすく、仕事がはかどるように環境を整え、やり方を工夫しました。社員はこれを受けて業務現場で一生懸命、丁寧に仕事をしてくれたので、その仕事ぶりがお客さまからとても喜ばれ、フィードバックがありました。とても嬉しかったですね。
実は、このコミュニケーションの重要性を今になって再度実感しています。現場の声がトップにダイレクトに届き、迅速にそれに対応できる、このスピード感やフットワークの軽さ、機動的経営と評される小さい会社の良さはこういうところにあると思います。
こうした経験を基に、社員とのダイレクトコミュニケーションはコノキューでも続けており、また、ワインの会などの社内イベントを開いたり、eスポーツ大会に参加したりして、担当者と直接コミュニケーションをとる機会を増やしていますが、これは私にとっては非常に有意義で楽しいことです。
そして、もう1つ。過去の経験から大切にし続けているのは失敗を恐れないことです。もちろんビジネスですから失敗を減らす努力も重要ですが、一方で、何事にもチャレンジする姿勢も同じくらいかそれ以上に大切なのです。失敗を恐れていては、チャレンジはできません。
繰り返しになりますが、XRは未知の領域でもあり、新しい何かを創造することが私たちの仕事です。失敗しても繰り返しチャレンジしようと日頃から社員には伝えています。

さまざまなご経験を基に舵取りをされているのですね。トップに求められている力とはどんなことだとお考えですか。最後に皆さんへのメッセージもお願いいたします。

まずはトップとは最終判断を下す人です。大きな組織では各部署の長がそれぞれの立場で慎重に判断した結果が上がってくるので、それを考慮して判断するわけですが、私たち程度の規模ですと現場から直接、相談等が上がってきます。この場合、決断には特にスピード感を求められますからトップは大変ですが、私は極力その場で判断するように心掛けています。
そして、過去の事例や数字、失敗例を見て分析することも大切ですが、真意、真理を確認するために心の声を聞くことも重要です。そして、最後は「直観」です。こう表現すると何となく無責任に感じられるかもしれませんが、直観とはこれまでの経験に基づいた判断を瞬時にするということかもしれません。そういう意味では「直観は顕在化されていない教訓」なのかもしれません。
もう1つ。社員のみならず、自分自身の「好奇心」を大切にすることです。好奇心は新しいものを見せてくれ、物事の違う角度からの見方を教えてくれます。私たちは世の中のすべてを知っているわけではありません。広くさまざまな立場の方々と話すことで好奇心は刺激されますから、どんな立場にたっても忘れずに持ち続けたいと思います。
さて、謙虚にこうした経験を踏まえ、特に研究者の皆さんには好奇心を抱き、失敗を恐れずに仕事に従事していただきたいです。失敗は成功の母と言いますが、成果や取り組みの積み重ねがなければ気付きは得られません。技術者として歩んできた経験から、皆さん自身の手掛けている研究開発が重要だと信じ、それに挑まれる気持ちを尊重したいと考えています。
企業、コンシューマーのお客さま、XR技術はどんどん進化しています。ぜひ体験して感想をお聞かせください。頂戴した感想や実感が新しい扉を開くことにつながります。そして、パートナーの皆さん。私たち自身でできることには限りがあります。ぜひこれからも協働していきましょう。

(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

丸山社長に最初にお会いしたのは2019年。NTTドコモの副社長時代にトップインタビューにご登場いただきました。当時と変わらず爽やかな笑顔で「お久しぶりです!」と声をかけてくださいました。「気さくでおおらか」という丸山社長のお人柄はご健在で、全スタッフを巻き込んで穏やかで楽しい雰囲気でインタビューを盛り上げてくださいました。そんな丸山社長が最近夢中になられているのは「ゲーム」です。かねてからゲームはお好きだったそうですが、コノキューのトップとなっても、やはりご趣味と仕事を兼ねて貴重なお時間を使われています。「私たちがXRに使っている技術はゲーム由来のモノが多いですし、メタバースをけん引されている方はマルチプレイヤーオンラインゲームに原体験のある方が多いですよ」と丸山社長。どんなご経験も楽しまれる一方で、冷静に分析されています。変わらず、読書にも勤しんでおられるそうで、ご紹介くださった最近の一冊は「銀河鉄道の父」で、息子の宮沢賢治を信じてサポートした父親の在り方に共感されたと言います。XR市場をけん引するトップの冷静さ、大きさと温かさを感じたひと時でした。