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特集2

IOWN構想の早期具現化に向けた取り組みについて

IOWN構想の早期具現化に向けて――IOWN実用化に向けたNTT IOWN総合イノベーションセンタの取り組み

NTT IOWN総合イノベーションセンタは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の早期具現をめざして発足した組織であり、NTT研究所が創出するIOWN各種技術の実用化と、それらを核として市場ニーズや社会の要請にこたえられるように仕立て上げた、IOWNサービス・プロダクトの提供に取り組んでいます。本稿では、IOWNを幅広く普及展開させ、持続的成長に向けて社会の変革に寄与することをめざすNTT IOWN総合イノベーションセンタの活動について紹介します。

塚野 英博(つかの ひでひろ)†1/髙𣘺 郁也(たかはし いくや)†2
池尻 雄一(いけじり ゆういち)†3
NTT IOWN総合イノベーションセンタ センタ長†1
NTT IOWN総合イノベーションセンタ 副センタ長†2
NTT IOWNプロダクトデザインセンタ センタ長†3

はじめに

NTT IOWN総合イノベーションセンタは、2021年7月に、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)関連技術とプロダクトの開発加速のために、NTT研究所の中で開発ミッションを有する組織を集結して新設された、NTT研究開発部門の中でユニークな存在です。当初は、ネットワーク・アクセスシステムの研究開発を担う「NTTネットワークイノベーションセンタ」、コンピューティング基盤ソフトウェアの研究開発を担う「NTTソフトウェアイノベーションセンタ」、光・電子デバイスの研究開発を担う「NTTデバイスイノベーションセンタ」の3センタで発足しました。組織名が「研究所」ではなく「センタ」となったのは、従来の研究所のように将来を見据えた基礎研究を行うというよりも、世の中のニーズを汲み取ってタイムリーなIOWN構想の具現化をめざす組織であるという意味が込められています。その後、2022年5月には、IOWNの普及展開の加速のため、「NTT IOWNプロダクトデザインセンタ」が新設され、4センタ体制となりました(図1)。この3センタがIOWNの革新的な技術を実用化し、IOWNプロダクトデザインセンタがそれらの技術を中核に、市中技術等と組み合わせて、市場ニーズからバックキャストしたIOWNのサービス・プロダクトを仕立てていく、という役割分担で取り組んでいます。

NTT IOWN総合イノベーションセンタがねらうIOWNの普及展開領域

NTT IOWN総合イノベーションセンタでは、NTTグループ内での活用にとどまらず、IOWNを社会全般に幅広く普及展開し、IOWNの価値を享受してもらいたいと考えます。図2に示すように、4階層の普及展開領域(半導体デバイス領域、IT機器領域、通信ネットワーク領域、ICTソリューション領域)を定義し、NTT IOWNプロダクトデザインセンタを中心に領域ごとに取り組みを進めていきます。

■半導体デバイス領域

従来の情報通信システムでは、光信号は半導体デバイスによって処理された情報を他の拠点に伝えることのみに使われてきました。半導体デバイスは「ムーアの法則」に沿って進化してきましたが、処理すべき情報が爆発的に増えてくると、従来、装置内あるいは半導体間の情報伝達を行っていた電気信号では、速度・エネルギー消費の観点で限界が見えており、新たなブレークスルーが求められています。NTTが研究開発を進めてきた光電融合技術は、従来の半導体デバイスを用いたシステムにおいて光信号と電気信号を適材適所で活用していく技術です。拠点間の通信だけでなくさまざまなレベルで光を活用していくことで、小型・経済化、高速・低消費電力を実現することが可能となります。
NTTでは、光電融合技術の進化に連動するかたちでIOWN1.0からIOWN4.0までロードマップを定めています(図3)。IOWN1.0ではネットワーク向け小型・低電力デバイスをオールフォトニクス・ネットワーク(APN)サービスに適用していきます。次に、IOWN2.0ではサーバ内部のボードとボードの間の接続に光を利用可能となり、適用領域がコンピューティング分野まで広がります。さらにIOWN3.0では、サーバのボード内の半導体パッケージ間の接続に、IOWN4.0では演算処理を行うロジック半導体の近傍まで光接続を利用できるようにします。このような進化により、光電融合デバイスの適用領域は従来の通信分野から、コンピューティング分野に拡大され、幅広いモジュールベンダや装置ベンダ、自社での装置組み上げ能力を持つハイパースケーラー等に活用してもらい、AI(人工知能)の活用拡大等に伴う社会全体の消費電力増大の解決に貢献していくのが1つの形態と考えます。さらには、自動車やモバイル端末等、コンシューマ分野に広がれば、適用台数も億単位に拡大、かつ1台当りの使用量も増えることが期待され、世界のカーボンニュートラルに大きく貢献することが将来の展望です。
本取り組みを加速して早期に光電融合デバイスを世の中に提供するため、2023年6月にNTTイノベーティブデバイスを設立しました。今後、NTTイノベーティブデバイスとも密に連携していきます。

■IT機器領域

光ディスアグリゲーテッドコンピューティングは、NTT研究所が提案する光の特性を活かす新たなコンピューティングアーキテクチャです。光電融合デバイスにより光インターコネクトを介してアクセラレータ間をCPU非介在、かつ、大容量・低遅延でつなぐことで、CPUボトルネックを回避し、性能向上と電力効率向上を図ることができます。このアーキテクチャであれば設備増強がサーバ単位でなく、アクセラレータ単位となり、さらに各アプリケーションで実行される処理に応じて、CPU、GPU、FPGA等のさまざまなアクセラレータから最適なものを必要な量だけ割り当てられるため、エネルギー利用効率向上が期待できます(図4)。現在、この光ディスアグリゲーテッドコンピューティングアーキテクチャを採用したSWB(Super White Box)の研究開発を進めていますが、このSWBは、NTTグループの社内システムに適用してグループのカーボンニュートラル目標の達成をめざすだけでなく、サーバシステムとしての提供や、as a Service基盤といった形態でNTTグループ外の方にも幅広く利用してもらう機会を提供し、社会全体のカーボンニュートラルに貢献していきたいと考えています。

■通信ネットワーク領域

光電融合デバイスやSWBを活用しながら、従来技術ではできなかった革新的なネットワークサービスを実現します。その1つがAPNです。お客さま1人ひとりに対して光の波長を提供し、途中で電気に戻すことなく、光のみで接続するため、低消費電力で広帯域なデータ転送を可能とするものです。2023年3月にNTT東日本、NTT西日本でAPN IOWN1.0として商用サービスが開始されましたが(図5)、既存サービスに比べて、大容量で、遅延が200分の1かつ遅延の揺らぎがない通信環境が提供できることから、遠隔医療やスマートファクトリーなど、遠隔地からでも精緻な作業が可能になったり、遠隔会場間での公平な対戦環境が保証されたeスポーツなど、これまでのネットワークサービスで困難であった新たなユーザ体験を提供することが可能です。このAPN IOWN 1.0の商用サービス開始に合わせた実証では、リアルタイムのリモート演奏や漫才で新しい芸術共創・鑑賞を体感していただくことや、リモートでのダンスレッスンで新しい部活動のかたちを体感していただくなど、活用の幅を広げてきています。
また、モバイルネットワークにおいても、光電融合デバイスを活用した無線基地局を配備し、そのモバイルフロントホールをAPNベースで構築し、vRANソフトウェアをSWB上で稼動させることで、5G(第5世代移動通信システム)・Beyond 5Gサービスの低消費電力化が可能となります。
今後はAPN IOWN 1.0をさらに進化させることで、これまでのダークファイバ利用に比べて、回線の設置・拡張のリードタイム短縮化やさらなる大容量化、ネットワーク品質の保証といったメリットを実装していき、データセンタ事業者のデータセンタ間接続、スマートファクトリーや6G(第6世代移動通信システム)サービスなどへの適用をお客さまとともに進めていく計画です。

■ICTソリューション領域

NTT研究所では、高速・大容量・低消費電力なデータ通信を実現するSWBやAPN等(IOWNインフラと総称)に加えて、それら特性を優位に活用できるセキュリティ技術やデータ処理技術、すなわち多拠点に偏在するデータから必要なデータを迅速に効率良く入手し利用できるようにする「仮想データレイク」、多拠点間での効率的なデータ送受信を可能にする「データブローカー」、異なる組織間でデータやアルゴリズムを互いに秘匿したまま実行可能にする「データサンドボックス」等(1)(IOWN技術群と総称)の研究開発も進めています。
そしてIOWNインフラとIOWN技術群を組み合わせて利用可能な「IOWNプラットフォーム」を構築・提供し、広域に分散したデータのリアルタイム処理や、安心・安全なデータ流通といった新たな価値を創出する基盤として多くのお客さまに活用していただき、幅広い業界におけるビジネス課題解決や新規ビジネス展開のソリューションに役立ててもらうことをめざします(図6)。さらにはIOWN技術群の拡充に加え、技術の提供価値を深く理解する人材を育成しコンサルテーションできるようにすることで、特定業界におけるベストプラクティス提供から他業界への横展開など幅広くIOWNの価値を享受してもらう世界の実現に向けて各取り組みを推進しています。

おわりに

NTT IOWN総合イノベーションセンタがねらう、IOWNの普及展開領域を示しました。さまざまなステークホルダーの方々に対して新たな価値を、できるだけ早期に、より効果的なかたちで提供していけるよう、多方面の方々とコラボレーションしながらIOWNの実用化を推進していきます。

■参考文献
(1) 大村・ジェイ・片山・河井・柏木・馬越・除補・木村:“組織を越えたデータ利活用を安全・便利にする次世代データハブ,” NTT技術ジャーナル,Vol.34,No.2,pp.9-13,2022.

(左から)塚野 英博/髙𣘺 郁也/池尻 雄一

NTT IOWN総合イノベーションセンタではNTTグループ全体から集まった多くの人と一丸となってIOWNサービス・プロダクトの開発を進めています。今後もNTTグループ会社をはじめIOWN Global Forumメンバとも連携し、早期に豊かな社会をつくるIOWN構想を実現していきます。

問い合わせ先

NTT IOWN総合イノベーションセンタ
企画部
E-mail injousen-s@ntt.com