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グループ企業探訪

第261回 DOCOMO Communications Laboratories Europe GmbH

NTTグループの技術・知見を活かし、モバイル通信技術の国際標準化に貢献する会社

スマートフォンが世界中に普及し、いつでも、どこでも、誰とでも、SNSや情報通信が可能となっています。これを支えているのが5G(第5世代移動通信システム)をはじめとする情報通信ネットワークです。情報通信ネットワークは、さまざまなベンダによる多くの装置で構成されていますが、これらの装置が、国際標準と呼ばれる世界共通な規約・規格に従っていなければつながりません。モバイル通信を中心に国際標準策定(国際標準化)活動に貢献しているDOCOMO Communications Laboratories Europe GmbHの田中威津馬(たなかいつま)所長に、国際標準化活動の中心地である欧州における活動と、6G(第6世代移動通信システム)、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)時代に向けた国際標準化への思いを伺いました。

DOCOMO Communications Laboratories Europe
田中威津馬所長

国際標準化活動の中心地、欧州で技術開発と標準化に向けた仲間づくり

■設立の背景と会社の概要について教えてください。

DOCOMO Communications Laboratories Europe GmbH(通称:ドコモユーロ研)は、NTTドコモにおける次世代モバイル通信の研究開発拠点として、2000年11月にドイツのミュンヘンに設立されました。
当時のNTTドコモは3G(第3世代移動通信システム)、iモード等の事業の海外展開を強化しており、米国、中国、欧州に研究開発拠点をつくりました。欧州では、主要工業や、通信関連企業の拠点が多く、通信技術に関する著名な大学も多かったこと、そして欧州特許庁があることから、ミュンヘンに会社が設立されました。
オフィスはミュンヘン中心地から少し離れた、ニンフェンブルグ城という貴族の避暑地の名残のある豊かな緑と公園が多いエリアにあるオフィス街に位置しています(写真1)。人が最大のアセットの研究所で、社員は所長を含めて12名で、8名の研究員(イタリア、スペイン、フランス、ギリシャ、インド、イラン、トルコ、フィンランド国籍)と3名のオペレーションチーム(会計・財務・総務・人事・情報システム等バックヤード業務全般:日本人2名、中国人1名)により構成されています。
全員が個室で執務しており、論文・会合提案文書の作成や電話会議に集中できる環境が用意されています。各自が個室に引きこもることなく、逆に昼休みなどは、コーヒーとクッキー等が準備されたラウンジで、世界事情、ニュース、技術などについてカジュアルな意見交換を行うことで、それぞれが有機的に連携し合う組織文化となっています。そして、現社員、新規社員にかかわらず、この組織文化へのフィットを一番大切にしており、確かな技術力のうえに、社内外の大勢の異業種の方々と、国境、業界、技術の壁を越えて、「NTTドコモの外交官」として大きなコラボレーションができる人材を育成・採用しています。

■具体的にどのような事業展開をしているのでしょうか。

通信技術の国際標準化のエキスパートを擁する「CoE(Center of Excellence)」として、さまざまな国際会議において、NTTドコモとNTT研究所の技術の国際標準規格への採用をめざしています。そのために、寄書の提案だけではなく、会議メンバー等、関係者の理解を促進し、賛同者を増やすよう、会議以外の場も含めてのロビー活動にも取り組んでいます。私たちNTTグループとドコモグループの保有する技術が世界中のデバイスやネットワークの国際標準として採用され、利用されている状態、またそのための業界内のリーダーシップ獲得をめざします(図)。
こうした国際標準化会議において、ドコモユーロ研のメンバーが、これまで以下のような要職に就いて、国際標準化をリードしてきました。
・3GPP(Third Generation Partnership Project) TSG SA WG 2(Technical Specification Group、Service & Systems Aspects Working Group 2:アーキテクチャがテーマのWorking Group)における、Work Item・仕様のラポーターやセッション議長
・3GPP TSG CT WG 4(Technical Specification Group、Core Network and Terminals Working Group 4: コアネットワーク内のプロトコルがテーマのWorking Group)における、Work Item・仕様のラポーター
・GSMA(GSM Association) Network Groupの会合議長
・GSMA Network Group SWG(Sub Working Group)の副議長および仕様ラポーター
・ETSI(European Telecommunications Standards Institute) NFV(Network Function Virtualization)SOL(Solution) WG(Working Group)の副議長 (現職)
・ETSI IFA(Interfaces and Architecture) WGの副議長 (現職)、仕様ラポーターおよびテクニカルディレクター など
そして、これらの活動を通して、「4G(第4世代移動通信システム)におけるLTE(Long Term Evolution) EPC(Evolved Packet Core)に関する国際標準仕様策定への貢献」「5Gコアにおけるstandalone仕様策定への貢献」「ETSI NFVにおけるネットワーク仮想化基盤仕様策定への貢献」等がなされ、これらは現在世の中で商用化されているコアネットワーク基盤で活用されている、トラフィック制御技術、スライシング技術、仮想化基盤制御技術などで日本と世界中の通信装置に実装され、世界のモバイル通信を支えています。
さらに、こうした活動を通して、標準必須特許も多数取得しており、現在は、5Gと仮想化基盤の発展、そして6G(第6世代移動通信システム)に向けての研究開発を進めています。

将来に向けて6GとIOWNを国際標準化の側面で支える

■事業を取り巻く環境はどのような状況でしょうか。

さまざまな社会課題の解決のため、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、付加価値サービスの提供がその大きな要素となります。これにより、世界中どこでも便利で快適につながる価値をお客さまに提供し、そのうえ事業利益確保にも貢献できます。それをめざしてさらに効率的で経済的かつ持続的なモバイル通信基盤を世界中に提供するためのイノベーションを起こすことが、今この時代だからこそ求められています。
例えば省電力。そしてAI(人工知能)と機械学習を活用したネットワークマネジメント技術。SDGsと社会貢献を企業理念の根幹として強く意識し、カーボンフットプリントの削減に貢献する技術開発、そしてそれらを国際規格に盛り込むべく日々取り組んでいます。
将来的に、求められる通信の高速・広帯域や低遅延の要望も増え、IoT(Internet of Things)の普及などによりネットワークに接続するデバイスの数、その接続のための基地局も増えます。今までのネットワークの延長線上では、このままいくと消費電力も増え続けます。省電力化による経済性と環境など持続性の両立が大きな課題となっています。
私たちは、6GとIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の時代に、持続性と経済性の両観点から最適となるような通信アーキテクチャを検討しています。例えば、クラウド・仮想化技術を発展させ、消費電力の少ない機器へのリプレース・活用がしやすい環境づくりをめざしています。その例として、OSS(Open Source Software)やO-RAN(Open Radio Access Network)技術を活用し、ベンダロックインから脱却するための技術開発に取り組んでいます。また、端末・ネットワーク間の制御の通信量を最小化させる技術の開発や、エッジコンピューティングをさらに活用しやすくし、全体の電力消費をおさえるための技術の開発にも取り組んでいます。

■今後の展望についてお聞かせください。

2030年代に向けて、6GとIOWNの国際的な技術開発において各社間の国際競争がますます活発化することが予想されます。その中で、ドコモユーロ研は、国際標準規格づくりの中心地である欧州における戦略的拠点として、国際社会における合意形成とそのためのリーダーシップを今まで以上に強化・獲得していこうと考えています。世界におけるNTTのトップポジションと優位性をいち早く確立すべく、イノベーション創出のみならず、多くの企業やアカデミア、政府機関等との議論と対話を進めていきます。
また、そのためには、従来のR&Dを中心とした活動だけでなく、より事業に直結した要件を踏まえ、世界中の企業や個人のお客さまに喜んでもらえる技術開発が必要です。業界の内外、国の如何を問わず、「困ったときはユーロ研に聞いてみよう」と言ってもらえるような、研究所をめざしています。

担当者に聞く

NFVとクラウドでネットワークをさらにスマートに

コアネットワークグループ マネージャー
Dr. Joan Triay
ジョアン・トリアイさん

■担当されている業務について教えてください。

NFVとネットワークのクラウド化、およびモバイルネットワークの仮想化全般に関連する国際標準化を中心としたプロジェクトを担当しています。特に、ネットワークインフラストラクチャとその仮想化の下位層から、コアネットワークと無線アクセスネットワークの両方の部分に適用される、ネットワーク管理とオーケストレーションの上位層に至るまでの技術を全般的にカバーしています。そして、国際標準化活動の場としては、ETSI ISG NFVおよびO-RAN Allianceをベースに、標準化に寄与する研究、および関連するOSSプロジェクトに取り組んでいます。そのテーマである仮想化とクラウド技術は、ネットワークをより柔軟、効率的、費用対効果が高く、持続可能で信頼性の高いものにするためのものであり、現在のNTTドコモのネットワーク開発における非常に重要な部分です。
そのため、国際標準と開発戦略やニーズを整合させるために、常に日本のチームとコミュニケーションをとり、それを基に、さまざまな標準化団体へ参加し、他の企業からの多くの参加者と意見交換や議論を繰り返し行い、その結果を国際標準としていくといったプロセスで対応しています。このプロセスでは、特定のシナリオでは良いことが他のシナリオに大きな影響を与える可能性もあり、そのため参加者の利害が対立することで、激しい議論になることもあります。そのうえ、ソリューションや技術の長所・短所を評価するには時間と労力が必要です。しかし、反対意見を得ることは、提案された解決策を別の視点から見る機会でもあります。これにより、より優れたソリューションを提案し、コミュニティと業界全体を共通の道に導くことにつながります。
NFVやクラウド化に関してNTTドコモは、通信ネットワークの設計、構築、オペレーションにその技術を活用しています。この中で私が現在取り組んでいるのは、NFVフレームワークにPaaS(Platform as a Service)機能を追加することです。プラットフォームが提供するPaaSを利用することで、ソフトウェアアプリケーションとハードウェアインフラストラクチャの分離をさらに促進できます。

■今後の展望について教えてください。

私の中長期ビジョンは、「通信ネットワーク機能のソフトウェア化」を実現することです。これまで、専用のハードウェアで実現されていたネットワークの機能を、汎用のハードウェア上で動作するソフトウェアにより実現するものです。この目標に向けていくつかの優れた方式が議論・採用されてきましたが、特にソフトウェアとハードウェアの分離に関しては、課題はまだたくさんあります。この分離が進むことで、ネットワークを、より柔軟、効率的、費用対効果が高く、持続可能で信頼性の高いものにすることが可能となります。これをNTTドコモのネットワークに適用して、ネットワークとそのオペレーションの効率化と新しいネットワークサービスの提供につなげていきたいと思います。

2030年代に向けて6Gネットワークアーキテクチャと次世代ネットワーク仮想化技術を定義

コアネットワークグループ シニアディレクター
Riccardo Guerzoni
リッカルド・グエルゾニさん

■担当されている業務について教えてください。

私のチームであるコアネットワークグループは、ネットワーク技術とオペレーション分野における研究と国際標準化を担当しています。国際標準化は、通信事業者にとって、サービスの革新を促進し、ネットワークのトータルコストを削減するための戦略的な活動です。その中で私は、5G-ACIA (5G Alliance for Connected Industries and Automation)における産業用IoTに関する作業項目策定への貢献、ベンダ個別会議やOne6Gといった業界団体内でのBeyond 5Gおよび6Gに関するコラボレーションの促進・サポートを含む、国際標準化会議への提案前段階の業界内活動のコーディネート、ETSIおよび3GPPに対する会社の窓口をはじめ、チーム全体のマネジメントを行っています。
現在注力しているテーマは、2030年代の技術環境、社会的要件、産業エコシステムがどのようになるかを予測し、それに適応する6Gネットワークアーキテクチャと次世代ネットワーク仮想化技術の定義です。こうした将来を予測するような魔術はどこにもないので、すべて自分たちで情報収集して考えていく必要があります。これに対して、優秀な専門家からなるチームの責任と自負、チーム内に流れるエネルギーを背景に、とにかく多くのコミュニケーションにより相互の知見を補完し合い、理解を深めていくことで、チームの総合力を発揮して前進していくつもりです。

■今後の展望について教えてください。

次世代ネットワークは経済的にも環境的にも持続可能なものでなければなりません。さらに、2030年代以降の未来社会の要請にも応じることは必須です。私はこれらの目標を真剣に受け止め、将来的にそれを達成できるよう日々努力しています。そして、ドコモユーロ研とともに成長し、同僚が個人としてもプロフェッショナルとしても成長できるようにしていきたいと思っています。

ア・ラ・カルト

■異文化コミュニ—ケーションによるスタートと一体感

2000年11月の会社設立の際には、日本とは言語も文化も、そのうえ会社を取り巻く法律等、何もかも異なるドイツのミュンヘンで、手本となる情報も身近にはない中で、会社に必要な制度策定、環境整備、社員の採用から始めたため、日本にいては想像もできないような苦労があったそうです。立ち上げメンバーたちが自らトイレ掃除をしたという逸話もあります。日本人出向者と現地採用の社員といった関係のみならず、現地採用の社員も多国籍で、社員どうしの文化的背景の違いによる不協和音もいたるところで見られる中、時間をかけてコミュニケーションを密にすることで、有機的に連携し合う、一体感のある組織文化を築き上げてきたとのことです。この長きにわたるドコモユーロ研の文化と発展の歴史を大切にしつつ、次世代にこの経験をどう伝えていくか、今後さらにどう発展させていくかということを、社員一同常に胸に秘めながら業務に取り組んでいるそうです。

■多国籍の「物産展」

ドコモユーロ研には、世界中から研究者が集っています。所属する8名の研究者は全員国籍が違っており、価値観もさまざまです。不思議なことに、ドイツが拠点なのに、ドイツ人がいません。もちろん社内公用語は英語です。もしかするとNTTドコモグループで一番多様性の高い組織なのではないでしょうか。とはいえ、休暇で自国に帰ると、その地のお土産を持ち寄って、ラウンジスペース、時にはドコモユーロ研名物の和室で各国の文化について語らいながら、世界中の美味珍味で舌鼓を打つことが皆の楽しみという、日本の会社における、いわゆる「物産展」が繰り広げられているそうです(写真2)。まさにグローバルの中の日本ですね。

■ドイツといえばビール

ドイツといえば、ビールです。オフィスの近くにミュンヘン最大のビアガーテン「Hirschgarten」(ヒルシュガルテン、日本語では鹿公園。名前のとおり、ほんとに鹿がたくさんいます)があります(写真3)。きれいな公園の開放感あふれるテーブルで、ドイツ独特の大きなビアジョッキで飲むビールと、ミュンヘンのあるバイエルン地方の料理は絶品だそうです。業務後にメンバーと一緒に行ったり(日本的ですが、ドイツではこうした光景がしばしば見られるそうです)、ご来訪いただくお客さまをご案内したり、楽しいひと時を過ごしているようです。ヨーロッパにお越しの際は、ぜひミュンヘンにお立ち寄りください、とお誘いが来ました。

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