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グローバルスタンダード最前線

TTC BSG活動報告

一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)におけるBSG(Bridging the Standardization Gap:標準化格差解消)専門委員会の活動の一環として、アジア太平洋地域諸国からICTの利活用と標準化の推進・普及に携わる大学教授や政府機関関係者を招き、日本の農水産業、教育、環境、医療、災害対応等におけるICT活用の事例紹介や参加者どうしの意見交換を行うミーティングを開催しました。ここでは、2023年10月に東京と北九州で実施された本イベントについて報告します。

長尾 慈郎(ながお じろう)
NTT研究企画部門

BSG活動とは

BSG(Bridging the Standardization Gap)とは、日本語では標準化格差解消などと訳されるように、新興国やルーラルエリアにおいて標準化活動や標準化された技術の導入が、先進国や都市部に比べて遅れがちとなることに対処するために、これらのエリアでのICTの利活用と標準化の推進・普及を支援する活動です。国際標準の価値を最大限に発揮させ、世界中の人々の生活をより良くしていくために重要な活動であり、ITU(International Telecommunication Union)の5つの戦略目標の1つにも掲げられています(1)。国際標準は、世界中の国々の隅々まで普及することでその真価が発揮されます。なぜなら国際標準は、世界中が同じインタフェースでつながり、誰もが同じ使い勝手で同じ恩恵を受けられ、規模の経済性によってコストが下がること等を目的としているためです。BSGは、見た目は新興国やルーラルエリア支援の活動のようにみえますが、上述のように、コストメリットや市場規模の拡大、利便性の向上等も期待でき、先進国にもメリットのある活動です。

TTCにおけるBSG活動

我が国においてITU-Tへの寄書等の国内審議機関としての役割を持つ一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)でも、BSG専門委員会を設置し、10年以上にわたりBSG活動を行っています。“SHARE”(Success & Happiness by Activating Regional Economy)をスローガンに掲げ(2)(3)、ITUのアジア太平洋地域における地域標準化団体にあたるAPT (Asia-Pacific Telecommunity)とも連携し、各国の政府機関や標準化団体等とも信頼関係を築きながら、アジア太平洋地域でのICTの利活用と標準化の推進・普及に向けて取り組んでいます。例年開催しているSHARE Meetingを中心にワークショップや研修を年に数回実施しており、2023年は表1に記載の活動等を実施しました。NTTとしてもBSG活動は非常に重要と考えており、TTC BSG専門委員会に積極的に参画しています。筆者は当委員会の副委員長を拝命しており、2023年10月16~18日にかけて実施された第19回SHARE Meetingにも参加しました。ここでは当ミーティングの模様について報告します。

第19回SHARE Meeting

第19回SHARE Meetingの概要を表2に示します。1日目はTTC岩田秀行代表理事専務理事による開催挨拶および参加者からの挨拶、前回第18回SHARE Meetingの総括に続き、Meeting参加者による最近の活動報告が行われました。各参加者より現在の注力ポイントと最近の活動が紹介され、参加者どうしの活発な議論が行われました。図1に1日目の活動報告の様子を示します。1日目の午後は、TTC IoT・スマートシティ専門委員会と合同開催のTTCオンラインセミナー「スマート農業の最新技術と国際標準化動向」として実施されました。日本におけるスマートシティ関連の国の取り組みや、企業によるICTを活用した先進的な農業、漁業の取り組みが紹介されるとともに、ITU-Tにおいて農業へのAI(人工知能)活用を検討しているFG-AI4A〔Artificial Intelligence(AI) and Internet of Things(IoT) for Digital Agriculture〕や、IoTとスマートシティを扱うITU-T SG20(Study Group 20:IoTとスマートシティ・スマートコミュニティ)の活動が紹介されました。また、SHARE参加者からも発表があり、活発な意見交換が行われました。2日目の午前には1日目の総括と成果文書が作成され、午後は後半の開催地である北九州市への移動に充てられました。
3日目の午前は、日本におけるICTを活用した先進的な農業の事例として、国内外の最新の栽培技術を導入した大規模ハイテク菜園である響灘菜園を見学しました。響灘菜園の見学の様子を図2に示します。8.5haもの広大な菜園内に20万本ものトマトが栽培されているとのことで、人の背丈の倍以上も高く育ったトマトが延々と並んでいる様は圧巻でした。参加者の中にはアジア太平洋地域において農業や漁業へのICT活用を研究している大学教授等もいたため、菜園の説明者への質問や、参加者間での議論が盛んに行われました。また、見学後には菜園でのICT活用について説明を受け、菜園内の温度・湿度・二酸化炭素量などをコンピュータで管理し、リアルタイムで養液の成分調整をコントロールしていることなどが紹介されました。ここでもまた活発な意見交換が行われ、培地にココ椰子の殻が使用されていることが紹介されたときには、参加者からもココ椰子の殻は栄養分がなく、土壌病原菌のリスクが低いため養液栽培に適していることが解説されるなど、菜園側と参加者側が一体となった議論が行われました。また大学教授等が参加する会議らしく、議論のトピックは栽培管理だけにとどまらず、社会システムや研究資金の調達・提供の仕組みなど広範囲に及びました。国境を越えて課題を共有し、解決策を探る本活動の意義を特に強く感じたひと時でした。
3日目の午後は九州工業大学を訪問し、意見交換を行いました。九州工業大学では、水中ロボット制御などをはじめとしたロボティクスや、魚の養殖の研究等について発表がありました。参加者からは、魚の動きの検知になぜ画像(カメラ)を使用し魚群探知機に代表される音波を使用しないのか、などの研究内容に踏み込んだ質問をはじめ、意見交換が行われました。意見交換の様子を図3に示します。

まとめと今後に向けて

ここでは、TTCにおけるBSG専門委員会の活動として2023年10月に開催されたSHARE Meetingの模様を報告しました。アジア太平洋地域からICTの活用による地域活性化に携わる大学教授、政府機関関係者を招いて日本の事例を紹介するとともに参加者間の意見交換が行われ、新興国やルーラルエリアにおけるICT導入の促進支援に資するイベントとなりました。今回のSHARE Meetingでは主題とはなりませんでしたが、TTC BSG専門委員会では標準化人材育成研修も行っており(表1)、今後もICT導入促進支援と標準化人材育成の両輪により、アジア太平洋地域のBSGをめざして取り組んでいきたいと考えています。

■参考文献
(1) https://www.itu.int/en/ITU-T/gap/Pages/default.aspx
(2) https://www.ttc.or.jp/activities/wg/bsg/asia_promotion
(3) https://www.ttc.or.jp/e/globalactivity/share