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テクニカルソリューション

静電誘導の影響検討をサポートする静電誘導予測計算アプリケーションの開発

送電線近傍の通信線周辺では、送電線から静電誘導の影響を受ける場合があります。その影響範囲内で柱上作業を行うと、ビリビリとした静電気のショックにより、作業上の危険が発生する場合があります。この危険を回避し、作業者の安全を確保するために、NTTの誘導対策の設備構築担当者が事前に通信線周辺に発生する電界を確認し、必要に応じて対策する必要があります。ここでは、静電誘導の実態と影響確認方法について述べるとともに、NTT東日本技術協力センタで開発した、静電誘導の影響を机上で容易に確認できる「静電誘導予測計算アプリケーション」について紹介します。

静電誘導の実態と影響確認方法

架空送電線は高電圧を送電するため、周囲には高い電界が発生します(図1)。この電界を空間電位と呼びます。その空間内で、保守作業者が柱上での通信線の接続作業等を行うと、ビリビリとした静電気のショックにより、工具を落とす、高所から落下するといった作業上の危険が発生する場合があり、これらの危険を回避する必要があります。例えば、既存送電線の昇圧・回線増などの変更が発生した場合には、通信線周辺の空間電位を計算もしくは実測し、必要に応じて対策する必要があります(1)
空間電位は、送電線の公称電圧*1や導体*2構成等のほか、送電線や架空地線の配列から計算できます。また、柱上での作業を想定し、地上5mの高さの空間電位をNTTの誘導対策の設備構築担当者が計算します。その計算結果が、制限値(5500V)を超える場合には、静電誘導の影響を低減するための対策が必要となります(2)
送電線の設備構成を図2に示します。図2(a)の左側に示した左右対称の導体配置*3で、かつ導体構成*4が図2(b)に示した1、2、4、6導体の場合には、これまでは計算アプリケーションにより、作業の効率化が図られていました(3)。一方で、図2(a)の右側に示した非対称の導体配置や、導体構成が8導体の場合は、従来の計算アプリケーションでは対応しておらず、空間電位を算出できなかったため、現地で実測する必要がありました。そこで、NTT東日本技術協力センタでは、誘導対策の設備構築担当者が、あらゆる形態の送電線について、静電誘導が与える影響を現地で実測することなく、机上計算により容易に確認できることを目的として静電誘導予測計算アプリケーションの開発を行いました。

*1 公称電圧:送電線における標準電圧のこと。500kV、275kV等。
*2 導体:送電が行われる電線のこと。
*3 導体配置:各導体の位置関係のこと。
*4 導体構成:各導体の構成のこと。1導体、2導体、4導体等。

静電誘導予測計算アプリケーションの概要と機能

静電誘導の空間電位は送電線の電圧と導体配置で理論的に求められ(2)、静電誘導予測計算アプリケーションはそれをExcelファイルに実装しています。操作画面を図3に示します。本アプリケーションでは、送電線情報(回線数*5、導体配置、公称電圧、導体構成など)を入力することで、静電誘導の影響範囲をグラフで表示し、対策の要否を評価できます。
表の送電線情報で、図4(a)に示した非対称の導体配置の送電線形態を例に、静電誘導予測計算アプリケーションで計算した場合の出力結果(空間電位図)を図4(b)に示します。点線が空間電位の制限値5500Vの境界を示し、点線の内側(赤色で示したエリア)が5500Vを超えて、対策が必要な範囲を表しています。図4(c)に示した「最下点の送電線地上高」と「鉄塔中心からの水平距離」の値の交点が点線の範囲内であれば対策が必要であり、交点が点線の範囲外であれば対策が不要ということを確認することができます。鉄塔の左右に対して、左側10mにおいては最下点の送電線地上高が25mまでが対策要の範囲となっていますが、右側10mにおいては33mまでが対策要の範囲となっているなど、非対称の導体配置に合わせて空間電位図も非対称で表れています。また、空間電位図での対策要否の見方として、最下点の送電線地上高が20mの場合を例とすると、鉄塔中心から通信線までの水平距離が25mの場合(図4(b)ア点)は、点線の内側となるため対策が必要となりますが、鉄塔中心から通信線までの水平距離が35mの場合(図4(b)イ点)は、点線の外側となるため対策不要と判断できます。

*5 回線数:送電線数のこと。3つの導体で1回線。

今後の展開

静電誘導予測計算アプリケーションは、あらゆる形態の送電線に対して、導体配列や導体構成などの情報を入力することで、静電誘導の影響範囲を確認できるツールです。そのため、送電線の昇圧・回線増などの変更により空間電位の影響確認が必要になった場合にも、設備構築担当者は現地で実測する必要はなくなり、机上で容易に静電誘導の影響範囲を確認し、対策の要否を判断することができます。今後は、現場での活用に向けて、さらなる普及展開を図っていきます。
NTT東日本技術協力センタでは、引き続き現場の課題解決に向けた技術協力活動を推進し、通信設備の品質向上・信頼性向上に貢献していきます。

■参考文献
(1)  テクニカルソリューション:“柱上作業者の安全を守るための取り組み──電磁誘導対策,” NTT技術ジャーナル, Vol.33 , No.7 , pp.52-54, 2021.
(2)  “誘導〔上巻〕,” 電気通信協会東海支部, pp.223-240, 1981.
(3)  テクニカルソリューション:“通信設備設計における誘導予測計算法,” NTT技術ジャーナル, Vol.18 , No.7 , pp.70-71, 2006.

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