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特集2

docomo business Forum'23開催報告

超省エネ型データセンターサービス「Green Nexcenter™ 」

社会と未来をつなぐDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けたICT環境の高度化や複雑化の進展と並行し、脱炭素社会、循環型社会に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)への取り組みが求められています。ICT基盤の根幹となるデータセンタサービスを提供するNTTコミュニケーションズの「Nexcenter」においても、お客さまのGX推進に貢献すべく、さまざまな取り組みを推進しています。本稿では、サステナブルな社会の実現に向けて、docomo business Forum'23(dbF’23)においても展示をした超省エネ型データセンタサービス「Green Nexcenter」について紹介します。

松林 修(まつばやし おさむ)
NTTコミュニケーションズ

DX時代における、カーボンニュートラルの必要性

生成AI(人工知能)やロボット、IoT(Internet of Things)といった近年のテクノロジの進展はとどまることを知りません。経済産業省はDX(デジタルトランスフォーメーション)を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することをDXと指す」(1)と定義しています。DXの推進においては、拡張性や迅速性に優れたクラウドサービスの利用など、ビジネスモデルの変革と合わせて、データをいかに効率的に活用するかが重視されています。ICT基盤に対してはより低遅延、より高性能、より大容量が求められるとともに、事業を止めることのない強靭さ・レジリエンスの両立も期待されています。
ICT基盤を支える代表格の1つがデータセンタです。データセンタは、サーバやネットワーク機器の設置・運用に特化した専用施設です。企業などのお客さまはデータセンタにコロケーションをすることで、自社設備でサーバを保有・運用するよりも安全にデータを保管・活用でき、強固なセキュリティを確保できるメリットがあります。また、近年では政府がめざす2050年までの脱炭素社会(2)を実現するため、環境課題の解決とICTの活用などによる経済成長を両立させるための取り組み、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進することが、ますます重要となっています(図1)。

NTTコミュニケーションズの取り組み

NTTドコモグループは、2021年に「2030年カーボンニュートラル宣言(3)」を発表しました。2030年度までにデータセンタ・ネットワークなど自社(Scope1・2)(4)のカーボンニュートラルを実現し、2040年度までにはサプライチェーン(Scope3)も含めたネットゼロの達成に向けて、お客さま・パートナー企業とともに取り組んでいます。NTTドコモグループの一員としてNTTコミュニケーションズ(NTT Com)では、お客さまのカーボンニュートラル実現に向け、お客さまの戦略策定や現状把握、温室効果ガス排出量削減や情報開示など、脱炭素化を求められるフェーズごとにサービスやソリューションを提供しています。
NTT Comでは、2000年代よりデータセンタビジネスに参入後、国内70以上の拠点で施設を運営し、データセンタサービス「Nexcenter」を提供してきました。データセンタのサーバやネットワーク設備における電力消費量は社会全体の1~2%(5)を占めるとされています。そのデータセンタの膨大な消費電力のうち約20~30%を占めるのが冷却用設備です。サーバなどの機器が集積するデータセンタにおいて省エネならびにカーボンニュートラルを推進するには、機器をいかに効率的に冷却するかが、鍵となります。「Nexcenter」では設計・構築ノウハウを結集し、AIを活用した空調のリアルタイム制御や、季節に応じた熱交換方式への切り替えなどによる効率的な空調設備の実装など、環境負荷を低減させる各種の仕組みを提供しています(図2)。
また、これら長年のデータセンタ運営で培った業界最高水準の省エネ型設備の導入に加え、電力の使用においてお客さまの要望する再生可能エネルギーを選択いただけるメニューを用意しています。近年、大手企業を中心に、各国政府による脱炭素に向けた指針整備に対応し、RE100(Renewable Energy 100)*1の達成や、SBT(Science Based Targets)*2の認定取得をめざす事例が増えつつあります。「Nexcenter」においては、RE100の達成やSBT認定取得のために必要な、非化石由来のエネルギー利用を証明する「環境価値報告書」も提供可能であり、お客さまのESG経営の実現に貢献しています。

*1 RE100:企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことをめざす国際的なイニシアティブのこと。
*2 SBT:パリ協定が求める水準と整合した、5~10年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。

超省エネ型データセンタサービス「Green Nexcenter

AI・IoT・VR(Virtual Reality)・5G(第5世代移動通信システム)・クラウドといった新たなテクノロジを活用した利用形態の急速な拡大に伴い、データセンタの電力使用量は2022年比で2040年には15~20倍程度まで増大することが見込まれています。成長著しい生成AIで用いられる大規模言語モデルの学習などにおいては、多大な計算処理を行う高性能なプロセッサを搭載したGPU(Graphics Processing Unit)を採用する必要があり、プロセッサの「熱設計電力(TDP)」*3が激増することが予想されています。TDPが400Wを超えると従来の空調設備では冷却が難しく、チップ性能を十分に発揮できなくなる可能性があります。GPU等の高発熱のチップの活用においては、生成AI、自動運転、メタバース、あるいはゲームでの利用などのニーズが顕在化しつつあるところですが、こうした利用形態の進展において、十分な冷却性能をデータセンタにおいて提供できなくなるのでは、といった事態が見込まれています。
このような状況を見据え、NTT Comでは従来の「Nexcenter」をさらに進化させた環境配慮型の超省エネデータセンタサービス「Green Nexcenter」の展開を進めています。
「Green Nexcenter」は、データセンタサービスとしては国内初*4となる「液冷方式」を採用し、通常のデータセンタでは対応が困難な高発熱サーバに対しても、これまで採用されてきた技術を大きく上回る省エネ性能にて冷却機能を提供するとともに、「再生可能エネルギーを活用」することにより「ゼロカーボン」を実現する、最新鋭のデータセンタサービスです(図3)。この液冷方式では、冷却設備で冷やされた液体をラック群へ運び、ラック内サーバのCPU/GPUチップ上に設置されたコールドプレートを冷やすことで、発熱体(チップ)の温度を直接的に下げる方式です。従来の空冷方式では、1ラック当り15kWの電力量が冷却の限界とされている一方、最新(2023年10月時点)のGPUチップを搭載したサーバを複数台ラックに搭載する場合、発熱量が20kWを超えるとされています。「Green Nexcenter」では、空気での冷却に比較し20倍以上熱伝導効率が良いとされる液体を活用していることから、1ラック当り最大80kWまで冷却することが可能であり、生成AI等の高発熱ニーズに対応します。また、消費電力についても従来のデータセンタに導入されている一般的な冷却(空冷)方式と比較して30%程度削減*5することができ、pPUE(Partial Power Usage Effectiveness)*6は1.15と、優れた電力使用効率を実現します。
「Green Nexcenter」の実装の第一弾としては、首都圏のニーズに早期対応すべく横浜第1データセンタの一部エリアのリノベーションを行い、2024年度内に提供を開始する予定です。また同時期に、関西圏の大阪第7データセンタ(大阪府茨木市)においても「Green Nexcenter」の提供を予定しています。さらに2025年度内に新規オープンを予定している京阪奈データセンタ(仮)(京都府精華町)においても「Green Nexcenter」の提供が可能となるよう液冷方式対応の標準装備を予定しています。
GPUに代表される高性能チップを活用した生成AIサービス等の展開や新たな業態において高発熱サーバやルータ等の活用に向けた需要は今後も伸び続けると考えており、今後新設するデータセンタにおいても、「Green Nexcenter」の標準実装を計画しています。将来的には、揺らぎの少ない超高速かつ超低消費電力を実現する最先端の光伝送技術IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)*7の主要技術分野の1つであるAPN(All-Photonics Network)によりデータセンタ間を接続する予定です。

*3 TDP:理論上の最大負荷に基づく電力消費を表し、チップが理論上どの程度まで発熱する可能性があるかを示す指標のこと。
*4 国内初:2023年10月時点における国内サーバ機器ベンダへのヒアリングによる自社調べ。
*5 30%程度削減:算定は、NTT Com内の数値を用いて、①従来のサーバ、②液冷方式サーバのサーバ機器冷却にかかる消費電力(サーバ機器自体で使用される消費電力は含まず)を机上で算出し、比較したもの。
*6 pPUE:モジュールや部屋単位など特定部分での電力効率の効率性を示す指標のこと。
*7 IOWN:NTTが提唱するネットワーク・情報処理基盤の構想のこと。

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて

NTT ComはICT事業者として、データセンタのカーボンニュートラル化およびお客さまのカーボンニュートラル推進に向けて、積極的に液冷方式技術の導入や再生可能エネルギーをご利用いただけるサービス提供に取り組んできました。
2040年のNTTグループ、そして2050年の日本のカーボンニュートラルの実現に貢献すべく、データセンタの省エネルギー化の推進と、超省電力ICT基盤によるグリーン対応を推進していきます。NTT Comは、「Nexcenter」や「Green Nexcenter」をはじめとするGXの推進を通じて環境価値を生み出し、お客さまひいては社会のサステナビリティ向上に貢献していきます(図4)。

■参考文献
(1) https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf
(2) https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/pdf/green_honbun.pdf
(3) https://www.docomo.ne.jp/corporate/csr/ecology/environ_management/netzero/
(4) https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
(5) https://www.ntt.com/content/dam/nttcom/hq/jp/about-us/csr/report/pdf/nttcom_sr2023_web.pdf

松林 修

お客さまのESG経営の推進、より豊かでサステナブルな社会の実現に貢献すべく、「Green Nexcenter」をはじめとするICTインフラサービスのカーボンニュートラル化を引き続き推進していきます。今後の展開にもぜひご期待ください。

問い合わせ先

NTTコミュニケーションズ
クラウド&ネットワークサービス部
E-mail greennexcenter-support@ntt.com