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特集

新たな環境エネルギービジョン

NTTグループの新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」

NTTは、2021年9月に新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を策定し、NTTグループとして2040年度までにカーボンニュートラルの実現をめざすことを発表しました。本稿では、「NTT Green Innovation toward 2040」の概要と、2040年度カーボンニュートラル実現に向けたNTTグループの取り組み、社会全体の環境負荷削減に向けた取り組みについて紹介します。

吉松 俊英(よしまつ としひで)/八木 美典(やぎ よしのり)
松尾 啓吾(まつお けいご)/朝倉 薫(あさくら かおる)
NTT研究企画部門

「NTT Green Innovation toward 2040」の概要

気候変動問題をはじめとした環境問題は年々深刻さを増しており、世界規模での自然災害の巨大化など社会経済へ与える影響も大きくなっています。2020年10月に日本政府は、温室効果ガスの排出を2050年までに全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラルを宣言しました。企業活動も環境や社会へ影響を与える一要素であり、気候変動問題への対応は待ったなしの重要な社会課題であることに加え、企業の持続的な成長につながる経営基盤を強化する観点から、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)等の非財務情報を重視するESG経営の取り組みがますます重要となっています。
NTTグループは、2020年5月に「環境エネルギービジョン」を策定し、自社における再生可能エネルギー利用率を2030年までに30%以上に引き上げることを宣言するなど、環境負荷ゼロに向けて取り組んできました。さらに2021年9月には、「事業活動による環境負荷の削減」と「限界打破のイノベーション創出」を通じて、「環境負荷ゼロ」と「経済成長」といった背反する目的の同時実現をめざして、新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を策定しました。
「NTT Green Innovation toward 2040」において新たに設定した目標を表に示します。まず中期的な目標として、NTTグループ全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに2013年度比で80%削減することをめざします。さらに、モバイル(NTTドコモ)とデータセンタの2030年度カーボンニュートラル実現をめざします。また長期的な目標として、NTTグループ全体で2040年度カーボンニュートラル実現をめざします。

2040年度カーボンニュートラル実現に向けたNTTグループの取り組み

電気通信事業を主力事業とするNTTグループは、日本の商用消費電力の1%近くを消費しており、温室効果ガス排出量もその多くが電力消費に由来しています。NTTグループの温室効果ガス排出量の削減イメージ(国内+海外)を図1に示します。成り行きに任せた場合は、通信トラフィックの拡大などによる電力消費量の増加に伴い、温室効果ガス排出量は2040年度に2013年度比で約1.8倍に増加すると見込まれます。2030年度までに温室効果ガス排出量を80%削減し、2040年度までにカーボンニュートラルを実現するためには、温室効果ガス排出量を2030年度までに95万トン程度に抑制し、2040年度までに実質ゼロにしなくてはなりません。そこで、電力消費に由来する温室効果ガス排出量を実質ゼロにするために、主に次の取り組みを行います。
1番目に、継続的な省エネルギー(省エネ)に取り組みます。NTTグループの電力消費量を効果的に削減するためには、NTTグループが導入する装置に対して、省エネ性能・機能の高い装置を開発・調達することが不可欠です。NTTグループでは、社内で使用するルータ、サーバなどのICT装置の開発・調達にあたっての基本的な考え方や装置別の目標値を「NTTグループ省エネ性能ガイドライン」として2010年4月に定め(1)、2010年5月より運用しています。継続的な省エネの取り組みにより、温室効果ガス排出量を成り行きに対して2040年度までに2013年度比で10%削減することをめざします。
2番目に、すでに導入している再生可能エネルギーの利用拡大に取り組みます。2040年度までに2020年度比で約7倍の再生可能エネルギーを導入し、温室効果ガス排出量を成り行きに対して2040年度までに2013年度比で45%削減することをめざします。再生可能エネルギー(非化石証書活用による実質再エネを含む)による電力消費量は、2020年度の10億kWhに対し、2030年度から2040年度に70億kWh程度を見込んでいます。なお、2030年度には、日本国内のNTTグループの再生可能エネルギー導入量のうち半分程度をNTT所有電源でまかなう予定です。
3番目に、IOWN(光電融合技術等)の導入に取り組みます。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現による通信設備等の抜本的な低消費電力化により電力消費量を削減することで温室効果ガス排出量を削減します。具体的には、2024年度に光電融合デバイス完成、2025年度に装置化を実現し、2026年度から光電融合デバイスが搭載された装置が導入開始され、IOWN導入による削減効果が表れてくると考えています。そして2040年度までに、温室効果ガス排出量を成り行きに対して2013年度比で45%削減することをめざします。総電力量に対するIOWN(光電融合技術等)の導入率を15%(2030年度)、45%(2040年度)としたとき、IOWN導入による電力消費量の成り行きに対する削減量は20億kWh(2030年度)、70億kWh(2040年度)を見込んでいます。
さらに、2022年度にインターナルカーボンプライシング制度を導入します。カーボンプライシングとは二酸化炭素排出量に価格を付ける仕組みのことで、例えば炭素税は、政府が政策として導入するカーボンプライシングです。インターナルカーボンプライシングは、カーボンプライシングの考え方を企業に応用したもので、企業内で独自に排出量に価格を設定し、低炭素投資・省エネの推進や社内行動の変化などに活用する仕組みです。NTTグループでは、炭素価格を考慮した調達制度の見直しなどに取り組みます。

社会全体の環境負荷削減に向けたNTTグループの取り組み

NTTグループ自身の温室効果ガス削減と合わせ、以下の取り組みにより社会全体の削減にも貢献します。
まず、通信分野からさまざまな産業分野までIOWNの普及・拡大を進めます。2040年度には日本全体の4%の温室効果ガス排出量削減、世界全体では2%の削減に貢献します。さらに、カーボンニュートラルに貢献する新たなサービスの提供と、再生可能エネルギーの開発強化・導入拡大を推進し、社会全体の温室効果ガス削減に貢献します。

具体的な取り組み

図2に、環境負荷ゼロの実現に向けた具体的な取り組みを4つの領域に分類して示します。社会の環境負荷削減に貢献する「Green by ICT」と、NTT自身の環境負荷を抑制する「Green of ICT」のそれぞれについて、「事業活動による環境負荷の削減」と、「限界打破のイノベーション創出」による取り組みを推進することで、NTTグループ自身だけでなく、社会全体の環境負荷削減に貢献します。

社会の環境負荷低減

ICTそのものが社会の環境負荷低減に貢献するものと考えています。例えば、テレワークや、バリューチェーンのデジタル化・電子化などは、社会のエネルギー使用を抑制する効果が期待されます。このようなICTによる社会の環境負荷削減により一層取り組んでいきます。さらに、プラスチックの利用削減・循環利用の推進など、循環型社会の実現に向けた取り組みも進めます。

革新的な環境エネルギー技術の創出

気候変動問題をはじめとしたさまざまな環境エネルギーに関する問題に対し、革新的な技術の創出に取り組みます。2020年7月に、地球環境の再生と持続可能かつ包摂的な社会の実現を目的とした、NTT宇宙環境エネルギー研究所を設立しました。次世代エネルギーを含めたスマートエネルギー分野に革新をもたらす技術の創出と、地球環境の未来を革新させる技術の創出をめざします。また、2020年5月には、日本の民間企業として初めて、ITER国際核融合エネルギー機構と包括連携協定を結びました(2)。将来の夢のエネルギーである核融合炉の成功を、IOWNの超低遅延な高速大容量ネットワークでの伝送と、デジタルツインコンピューティングでのシミュレーションなどでサポートしていきます。

IOWNの導入と再生可能エネルギーの拡大

IOWNの導入により電力消費量を削減するとともに、NTTグループの温室効果ガス排出の主要因である電力のグリーン電力化を進めます。NTTグループでは自ら再生可能エネルギーの電源開発に取り組んでおり、国内外のオフィスビル、通信ビル、データセンタ、研究所などのグリーン電力化を進めています。さらに、2020年5月に表明した国際的な気候変動イニシアティブであるSBT(Science Based Targets)*1への参画、ならびにTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)*2への賛同を通じて、環境エネルギーへの取り組みの充実を図ります。

*1 SBT:パリ協定〔世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃:WB2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることをめざすもの〕が求める水準と整合した、5年〜15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。
*2 TCFD:G20の要請を受け、金融安定理事会により設置されたタスクフォース。気候変動に対する企業の取り組みにかかわる情報開示を促すフレームワークのこと。

圧倒的な低消費電力の実現、分散化技術の創出

光技術の適用により、コンピュータやネットワークなどの圧倒的な低消費電力が期待されるIOWN構想(2019年5月発表)の実現に向けた取り組みを推進します。光電融合技術は、IOWNの3つの主要技術分野の1つであるオールフォトニクス・ネットワークにおいて超低遅延・超低消費電力化の鍵となる技術であり、本誌2020年8月号特集『IOWN構想特集─オールフォトニクス・ネットワーク実現に向けた光電融合技術─』で詳しく解説しています(3)。また、2021年5月には、株式会社スカパーJSATホールディングスと業務提携し、宇宙統合コンピューティング・ネットワークによるイノベーションで新たな宇宙インフラを構築し、持続可能な社会に貢献することを発表しました(4)。地上の災害の影響を受けず、宇宙で独立して脱炭素かつ自立可能な宇宙インフラを構築し、光技術で超低消費電力、超高速通信、高セキュアなネットワークの実現をめざします。

本特集の内容について

今回は、NTTの新たな環境エネルギービジョン「NTT Green In­no­vation toward 2040」について特集します。
NTTグループの新たなビジョンと環境負荷削減に向けた取り組みについて本稿で紹介しました。カーボンニュートラルに貢献する新たなサービスなどについてはNTTデータとNTTドコモの取り組み(5)、(6)を取り上げます。再生可能エネルギーの開発拡大についてはNTTアノードエナジーの取り組み(7)を紹介します。

■参考文献
(1) 岡崎・宮崎・錦戸・染村・杉山・田中:“NTTグループ省エネ性能ガイドラインの取り組み,およびグリーンR&Dの推進,” NTT技術ジャーナル,Vol.22,No.11,pp.41-44,2010.
(2) https://www.ntt.co.jp/news2020/2005/200515c.html
(3) 特集:“IOWN構想特集─オールフォトニクス・ネットワーク実現に向けた光電融合技術─,”NTT技術ジャーナル,Vol.32,No.8,pp.4-28,2020.
(4) https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/05/20/210520a.html
(5) 中島・八木・福田:“NTTドコモ「2030年カーボンニュートラル宣言」を発表,”NTT技術ジャーナル,Vol.33,No.12,pp.48-51,2021.
(6) 下垣・南田・古川・濱野・小林・常見・遠藤:“NTTデータが挑むグリーンイノベーション,”NTT技術ジャーナル,Vol.33,No.12,pp.52-55,2021.
(7) 角田・桐本:“NTTアノードエナジーのスマートエネルギー事業,”NTT技術ジャーナル,Vol.33,No.12,pp.56-59,2021.

(左から)松尾 啓吾/吉松 俊英/八木 美典/朝倉 薫

NTTグループが、皆様から環境先進企業として認められるために、「事業活動による環境負荷の削減」と「限界打破のイノベーション創出」を通じて、自らだけでなく社会の環境負荷低減に貢献していきます。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
R&D推進担当 環境エネルギー推進室
TEL 03-6838-5304
FAX 03-6838-5349
E-mail kankyo-ml@ntt.com