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特集

新たな環境エネルギービジョン

NTTアノードエナジーのスマートエネルギー事業

NTTアノードエナジーは、太陽光をはじめとした再生可能エネルギー電源を自社で開発して顧客企業やNTTグループ各社に提供しています。また、蓄電所の設置を通じて蓄電池の充放電によるエネルギーの安定化を図り、電力の地産地消を進めていきます。これらの事業を通じて、顧客企業やNTTグループ各社のグリーン電力ニーズにこたえ、社会全体の脱炭素化に向けた課題解決に取り組んでいきます。本稿では、NTTアノードエナジーの取り組み、および今後の展望について紹介します。

角田 康博(すみだ やすひろ)/桐本 喬晴(きりもと たかはる)
NTTアノードエナジー

はじめに

NTTアノードエナジーは、NTTグループの保有する技術やアセットを活用したスマートエネルギー事業の推進を目的として、2019年6月にNTTグループの事業持株会社として設立されました。グループ会社であるエネット、NTTスマイルエナジーとともに、グリーン電力発電、電力小売、エネルギーを核とした地域・環境貢献、の3つを主軸として事業を展開しています。
脱炭素社会の実現に向けて社会全体の意識が高まっている中、再生可能エネルギー(再エネ)は今後の主力電源の1つと考えられており、再エネを導入する企業も増えています。NTTアノードエナジーグループでは、再エネ電源を開発、獲得して顧客企業からのグリーン電源ニーズに対応するとともに、2021年9月28日に発表したNTTグループの環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」の実現にも貢献していきます。また、エネルギーの地産地消を実現するため、蓄電池等を活用した分散エネルギー構造の実現に取り組んでいます。

グリーン電源開発・供給

NTTアノードエナジーでは、太陽光、風力、地熱、バイオマスといった再エネによるグリーン電力の電源開発を進めており、当社資産の再エネ発電所で発電された再エネ電力を供給しています(図1)。
近年、脱炭素化をめざす企業が再エネ電力を調達する手段として、コーポレートPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)が注目されています。需要家の敷地内(オンサイトPPA)または遠隔地(オフサイトPPA)に専用の発電所を設置し、そこで発電するグリーン電力をご利用いただく形態です(図2)。電力会社ではなく一般企業が発電事業者と直接、電力購入の契約を結ぶことから、このように呼ばれています。需要家にとっては、電力消費量に応じた料金を支払うのみで、発電設備の初期投資と維持管理費用が不要であること、長期間にわたり安定的なグリーン電力を調達できることなどのメリットがあります。
当社では、「追加性(ad­di­tional­ity)」を満たした仕組みにより、お客さまにコーポレートPPAの形態でグリーン電力をご利用いただいています。「追加性」とは、企業等の選択した調達方法が再エネへの投資を促進し、化石燃料の代替につながっていることを表すもので、再エネの調達に積極的な企業の中で重要視されつつある考え方です。
最近の事例としては、2020年11月に株式会社熊平製作所千代田工場、同年12月に第一三共ケミカルファーマ株式会社小名浜工場、2021年4月に古河電気工業株式会社三重事業所に提供を開始しました。これらの事例は、お客さまの敷地内に太陽光発電設備を構築し、そこで発電するグリーン電力をお客さま施設内で自家消費していただいています。
また、2021年3月にはセブン&アイグループと共同で報道発表を行い、セブン‐イレブン40店舗およびイトーヨーカ堂の1店舗(アリオ亀有)に対してグリーン電力を導入することを発表しました。セブン&アイグループは2050年までにグループの店舗運営に伴うCO2排出量実質ゼロをめざしており、その実現に向けて、国内初*1のオフサイトPPAの仕組みにより当社が設置した専用の太陽光発電所から送配電網を介して電力供給*2を行うとともに、夜間等の電力については、NTTグループが所有するグリーン電力発電所からのトラッキング付非化石証書を付与するスキームを採っています。
NTTアノードエナジーのグループ会社の1つであるエネットは、電力の小売自由化が開始した2000年から小売電気事業を手掛けており、それ以降、時代の変化に合わせてさまざまなメニューを提供しています。例えば、2017年にはCO2排出量削減メニューである「EnneGreen®」の提供を開始しました。LNG(液化天然ガス)等で発電された電気に非化石証書を組み合わせることにより、実質再エネ電気を提供するサービスです。2021年9月現在の契約数は約2700と、多くのお客さまにご利用いただいています。
また、同じくNTTアノードエナジーのグループ会社であるNTTスマイルエナジーは、AI(人工知能)・IoT(Internet of Things)や制御技術を活用し、再エネや蓄電池などの分散型のエネルギーリソースをつないで制御することで、エネルギーの効率性や持続可能性の向上を図っています。同社が提供する太陽光発電設備の遠隔監視サービス「エコめがね」の導入件数は7万8000件(2021年3月時点)となっており、太陽光発電所の運営に貢献しています。
NTTアノードエナジーグループでは、企業からの再エネ電源供給への要望にこたえ、NTTグループの消費電力のグリーン化による環境負荷低減に貢献するため、自社所有電源の開発によるグリーン電力の供給拡大およびグリーン電力関連サービスの展開をさらに進めていきます。

*1 株式会社資源総合システムへのヒアリング等を通じたNTTアノードエナジー調べ。
*2 NTTアノードエナジーがエネットの取次店としてサービス提供する形態。

再エネの課題と蓄電所のめざすもの

脱炭素社会の実現のために再エネのさらなる拡大は必須ですが、電力を需要家に供給するための現在の電力システム(発電・変電・送電・配電を統合したシステム)において、再エネが大きく拡大することで生じる以下のような課題が顕在化しつつあります。
① 電気は、需要と供給のバランスを確保する必要があり、需給のバランスが崩れると周波数が乱れ、最悪の場合は大規模停電につながります。再エネの大半を占める太陽光発電は、日中時間帯しか発電せず、雨や曇の日の発電量は晴れの日に比べ非常に小さくなる特性があり、発電量が天候により変動しやすいため不安定な電源であるといえます。
② 太陽光発電所は広くて平坦な土地が得やすい地域に多く設置されていますが、そのようなエリアでの電力系統は貧弱なことが多く、それらの電力系統を増強するまでは太陽光発電所を接続できないケースがあります。仮に接続できたとしても、太陽光発電所の立地場所と需要家が離れていることから電力系統における送電ロスが大きく、社会的コスト増大につながっています。
③ 太陽光発電所の大量の電気が貧弱な電力インフラに流れ込むことで、電圧が局所的に不安定となり、電気の安定供給に支障をきたす懸念も高まっています。電力系統の安定性を確保するため、太陽光発電所に出力抑制が発動され、電気を捨てている現状があります。
これらの課題を解決する方法の1つが蓄電池の活用です。電池が持つ電気を出し入れできる充放電機能を活用することにより、太陽光発電所の変動する発電量を補完することができ、電力系統の不安定さを解消する調整力を提供することができると考えています。
NTTグループでは、日本全国に約7300カ所のNTTビルがあり、停電時の通信確保などのために約400万kWhの蓄電池を保有しています。NTTアノードエナジーでは、これらの蓄電池を利活用し、再エネ拡大や電力系統安定化に資するための蓄電所事業を全国に展開します。
蓄電所事業では、全国各地に設置する蓄電池を適切に遠隔制御するためのEMS(Energy Management System)が必要不可欠です。具体的に、蓄電池を電力系統の安定化に活用していくためには、蓄電池による制御量(充放電量)を決定するための各種予測技術と、全国の蓄電池を束ねて、予測により決定した制御量を実現する蓄電池制御技術が必要となるため、NTTグループ各社や研究所と連携して取り組んでいます。蓄電池の制御量を決定するためには、気候の影響が大きい太陽光をはじめとした再エネ発電の発電量や、それに加えて社会動向等の影響も受ける電力需要を正確に予測する必要がありますが、市場で入手可能な気象予測を弊社グループが保有する独自のデータで拡張して活用するオリジナルの予測技術の開発を行っています。また、全国に分散した充放電可能量・充放電可能時間がまちまちの大量の蓄電池を束ねて、予測により決定した制御量を正確に実現するための独自の制御アルゴリズムの開発にも取り組んでいます。
NTTアノードエナジーは、図3に示すように、NTTビルを蓄電所として全国に展開し、EMSを駆使して蓄電所を制御することで、より多くの再エネが電力系統に接続できるようにし、地域内の脱炭素化や電気の地産地消に貢献することをめざしていきます。さらに、将来、NTTグループならではの蓄電所の数が増え続け、EMSを磨いていけば、再エネが電力系統にシームレスに接続でき、電力の流れを最適に制御できる世界を実現できると考えています。

おわりに

NTTアノードエナジーは、蓄電所事業を通じて、電気の地産地消を進めていきます。地産地消により出力抑制の回避や送電ロスの削減をはかり、系統の安定化やエネルギーの効率利用を促進することで、再エネ発電所の普及・拡大に貢献していきたいと考えています。今後も、NTTアノードエナジーは、エネルギー事業にかかわるNTTグループの事業持株会社として、パートナーの皆様と協力しながら、社会全体の脱炭素化へのさまざまな課題解決に取り組んでいきます。

(左から)角田 康博/桐本 喬晴

NTTグループの2040年カーボンニュートラル実現および社会全体の環境負荷削減に向けて、NTTアノードエナジーはさらなる再エネ電源開発とエネルギーソリューションにより貢献していきます。

問い合わせ先

NTTアノードエナジー
総務人事部(広報担当)
E-mail kouhou-ml@ntt-ae.co.jp