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from NTTアノードエナジー

NTTが創る日本の水素サプライチェーンへの挑戦

NTTが水素事業に参入するにあたって強みとなると着目したのがNTTのアセット(通信管路・とう道等設備・人材)であり、このアセットを活用した水素パイプライン網を整備することで、新たなエネルギー流通基盤を確立します。ここでは、NTTアノードエナジーの水素事業への取り組みについて紹介します。

日本における水素戦略とNTTが水素事業へ参入する意義

日本は世界で初めて水素基本戦略を2012年12月に策定し、2023年には本戦略が改定されました。官民合わせて15年間で15兆円のサプライチェーン投資計画が検討され、水素導入目標は2050年に2000万トン(2030年に300万トン、2040年に1200万トン)と設定されました。水素は「電力分野の脱炭素化」「非電力分野の脱炭素化」に貢献でき、電力分野においては2050年に全電源の10%を水素・アンモニアで賄うことをめざすとされています。
2050年のカーボンニュートラル実現の一役を担う水素に官民合わせて力を入れている中、NTTが水素事業へ参入を検討する意義は次の3点です。
① 社会の環境負荷削減:再生可能エネルギー(再エネ)による水の電気分解や、化石燃料と二酸化炭素の貯留・再利用技術を組み合わせることで水素はカーボンフリーエネルギーとして活用できる
② 日本の経済発展・競争力強化:日本は国際的に高い水素関連技術を有し、官民一体での水素社会実装の推進により日本の経済発展への寄与が期待できる
③ エネルギー安全保障:水素は、国内での製造や海外からの資源調達先の多様化を通じ、日本のエネルギー供給・調達リスクの低減に資するエネルギーとなる

NTTがめざす水素パイプライン事業

NTTが水素事業に参入するにあたって強みとなると着目したのはNTTのアセット(設備・人材)です。水素を需要家が活用していくためには、「国内製造された水素」「海外から輸入してきた水素」を国内中に輸送する手段が必要です。NTTでは「NTT通信ビル(約7000カ所)」を起点に「とう道(約650km)」「管路(約60万km)」を保有しており、通信ケーブル用途で空いている管路を水素パイプラインに有効活用できると考えています(図1)。また、水素を輸送するだけではなく、24時間365日の運用監視や有事の際の駆け付け対応も必須であり、NTTの全国に有する“人材”が強みと考えています。NTTのアセットを活かし、エネルギー供給~保守のワンストップ提供をめざしていきます(図2)。

水素の大量・安定輸送の実現に向けた実証実験

将来の水素大量消費社会の実現に向けて、地域の需要家に水素を安価・安定的に供給する手段の確立が求められています。現状の一般的な水素供給手段は高圧水素カードル・チューブトレーラーなどのトラック輸送であり、臨海部の水素拠点などから幅広いエリアに供給が行われていますが、1台当りの輸送量が限られており大量輸送に適した手段とはなっていません。また、一部の液化水素プラントからはタンクローリーによる輸送が行われており、高圧水素と比べて輸送効率が高い特徴がありますが、プラントの建設・運用コストが極めて高額となる課題があります。他方CNP(カーボンニュートラルポート)など輸入水素サプライチェーンの玄関口となる港湾周辺では、事業用発電所等の大規模需要家向けに大口径・高圧の水素パイプラインが敷設されると見込まれますが、この水素パイプラインは大規模設備であるため高コストで、高圧ガスからの離隔距離確保等の安全対策も大掛かりとなるため、内陸の幅広いエリア・需要に対して水素供給するにはハードルが高いと想定されます。
なお、米国DOE(Department of Energy)等の公開情報にある水素パイプライン・液化水素・圧縮水素の輸送コスト比較によると、短距離・大量輸送の条件において水素パイプラインに優位性があるとの報告もあり、水素大量消費社会に求められる有望な水素供給手段と考えられる一方、我が国での展開に際しては経済性(水素パイプラインの新規埋設における高コスト問題)や安全性(ガス事業法等への対応)など固有の課題を解決することが必要となります。
NTTアノードエナジーでは、2022年度に既設管路内での水素の大量かつ安定的な輸送の実現に向けた二重配管方式の輸送モデルの安全性に関する技術開発・調査研究として、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業を通じて既設管路を活用した水素配管の安全対策等に関する調査を実施しました。
本取り組みを行うことで将来的な水素大量消費社会を見据えた内陸地域におけるパイプラインによる水素供給手段の確立、スマートシティの発展に貢献できると考えています。

既設管路を活用した水素配管の安全対策等に関する調査

既設管路を活用した二重配管方式〔水素輸送用配管(内管)と、通信用管路(外管:さや管)で構成される二重配管〕(図3)は、水素輸送用配管のみを直接埋設する一重配管方式と比べ、既設管路を有効活用するため配管敷設に必要となるコストの低減化ならびに水素輸送用配管の損傷リスクも低くなると考えます。また、仮に水素輸送用配管から水素が漏洩した場合、水素輸送用配管と通信用管路の中空層内において直接検知が可能となるため、安全対策上の付臭措置が不要となるなどのメリットが期待されます。しかし一方で、中空層内で漏洩した水素は空気と混合し拡散しながら滞留することが想定されるため、いち早く漏れを検知することが必要となります。
上記課題を解決するため、福島県の某所内に通信用既設管路を再現し、水素パイプライン設備を加えた実証環境の整備を行いました(図4)。二重配管方式と水素供給インフラの安全性にかかわる技術基準の策定に必要となる水素漏洩時の基礎データを収集・調査・分析(データアナリティクス)することを目的とし、収集した基礎データから二重配管方式における水素漏洩時の検知状況、ポイントおよび分布型センシング、アンサンブルなどの検知手法の確立につなげることを目標として、以下の実地検証を実施しました。
(1) 水素漏洩検知の実地調査
光ファイバケーブルの防爆性および分布的な検知が可能な点に着目した、光ファイバケーブルによる水素漏洩検知の有効性について、各検証を実施しました。
① 直接的な水素漏洩検知:光ファイバケーブルに漏洩した水素を直接吸収させることによる光学特性の変化を用いた漏洩点の検出方法(光損失の検証)
② 間接的な水素漏洩検知:水素漏洩に伴う光ファイバケーブルへの音響変化分布の検知による漏洩点の検出方法(位相変化の検証)
③ 異常予兆に関する検討:二重配管に対して過剰な外力が加わることによる応力歪を、光ファイバケーブルを用いることで破損による経時的な変化に至る前に異常を検知する技術成立性についての検証
(2) 異常検知(圧力、流量)に関する検証
正常時データ(圧力、流量)ならびに水素漏洩時の観測データを基に基礎となる異常検知モデルを作成し、これを基に実環境適用に向けた異常検知モデルの技術成立性に関する初期検証を行いました。
(3) 実環境における各種水素センサの性能評価
実証環境において二重配管内の中空層内に疑似漏洩させた水素の直接的な検知における各種水素センサの性能検証を行いました。
検証結果より、光ファイバケーブルを利用した検知方式において100時間程度経過後に微小な光損失が確認できること、水素漏洩地点において、音響振動による漏洩検出が可能であること、ならびに流量低下開始から約30分以内に異常検知が可能(ただし漏洩位置の特定は困難)であること、および光ファイバ式水素センサで水素輸送用配管と通信用管路(さや管)の間の中空層に漏洩した水素をリアルタイムかつ25%LEL以下で検知できること(図5右)。また、異常予兆に関する技術・機能要件の抽出や、事故シナリオに基づき安全性を確実に担保する場合、中空層に漏洩した水素濃度分布ならびに拡散挙動の経時変化の観点より、光ファイバ式水素センサを約10m間隔で設置することが必要であるなどの成果が得られました。
さらに安全性を担保するためには、さまざまな事故シナリオによる異常状態の発生状況(管切断事故による急激なガス漏洩、劣化等による少量のガス漏洩等)に対して適切な把握手段(モニタ、センサ等)と的確なアクションプランを遂行できる保守要件の明確化を行っていく必要があると考えています(図5左)。

技術に関する今後の見通し

最終需要家への中・小規模の水素供給をターゲットとし、定量的評価に基づくリスクアセスメントの実施、付臭措置代替となる安全技術の評価・確立、自然災害等非定常時の安全機能維持、安全機能(システム)の堅牢化・冗長化構成の検討・実装、最適な配管スペックの研究と調達、既設管路内に適用可能な水素輸送管の選定を実施するなど、二重配管方式を活用した水素パイプライン輸送の実用化・事業化に向けての課題解決に向けた取り組みを実施していきます。

今後の事業展開

水素の需要はコンビナートの大規模水素発電、産業用燃料電池、水素ステーション等、多岐にわたります。その中でも、NTTの強みである「とう道」「管路」がある街区が主要なターゲットになります。NTT通信ビルを水素の地域供給ハブ拠点と位置付け、NTT通信ビルを起点に放射線状にある「とう道」「管路」に敷設する水素パイプラインで街区の需要家(自治体、商業施設、病院、水素ステーション等)へ水素を輸送し、供給を行っていきます(図2)。
また、電力・熱を必要とする需要家に対しては、水素発電を行い電力・熱に変換したうえで供給するモデルも検討しています。2030年には海外からの大量の水素調達が日本では期待されており、自治体やパートナー企業と協議・連携を深めていきます。

問い合わせ先

NTTアノードエナジー
経営企画部 広報室
TEL 03-5444-2442