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特集

NTT Technology Report for Smart World 2020

テクノロジートレンド,社会トレンド,スマートワールド 「NTT Technology Report for Smart World 2020」の発表について

前田 裕二(まえだ ゆうじ)/ 大西 隆之(おおにし たかゆき)/ 村元 厚之(むらもと あつゆき)

NTT研究企画部門

 

NTT研究企画部門では,テクノロジーをナチュラルな存在に変え,世界をスマートにしていくための11のテクノロジーとNTT R&Dの先進的な取り組みについてまとめた「NTT Technology Report for Smart World」を発表しています.このたび,新たな内容を追加した2020年度版を公開しましたので,その概要と更新のポイントについてご紹介します.

スマートな世界とナチュラルなテクノロジーのために

2019年5月に初公開しました昨年度版「NTT Technology Report for Smart World」は,おかげさまで多くの冊子配布およびダウンロードをいただき,「スマート」で「ナチュラル」な世界をつくる11のテクロノジーについて広く皆さまにご紹介することができました.このたび,1年間の技術動向の変化や,わたしたちNTT R&Dの取り組みの進展をもとにTechnology Reportの内容を刷新し,2020年度版として新たに公開することとなりました.

いまや実用的なサービスが多数登場しているAIに代表されるように,新しいテクノロジーが無人店舗や自動運転,業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)などを通じて身近な環境を大きく変えようとしています.さらに,この数か月で世界にひろがった新型コロナウィルスにより,人類がこれまで築いてきた経済や社会のしくみ,人と人とのつながりそのものが大きな挑戦を受けているなかで,リモートワークや遠隔授業に代表されるように,ICT技術や通信ネットワークが人類のレジリエンスを支える大きな役割を担っています.さらなる未来をめざすためには,エネルギー問題の解決や革新的な医療・材料・製造技術といったブレイクスルーの実現が不可欠ですし,テクノロジーの活用はセキュリティやプライバシーの観点を除いて議論することはできません.

そこで今回は,昨年度に選定した11のテクロノジーについてはそのまま踏襲し,近年の技術動向とNTT R&Dの取り組みの進展について新たにとりまとめ,ご紹介しています.さらに,昨年度新たに発表したIOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)構想について,その具体的な構成と取り組みロードマップ,また世界的なフォーラムの設立について解説しています.

スマートな世界を更新する11のテクノロジー

わたしたちは技術をナチュラルな存在に変え,世界をスマートにしていくために11のテクノロジーに注力しています.すでに研究が進みさまざまな領域で実用化に取り組まれているテクノロジーから,これから大幅に伸びることが期待される萌芽期のテクノロジーまで.11のテクノロジーがいかにスマートな世界をつくり上げるのかご紹介します.

01. 人工知能

ディープラーニングの進展で近年もっともホットなワードとなっている人工知能は,大量データの学習によって分類や判断をする領域ではすでに人間を超える性能を発揮しています.今後は,感情を含めた人間のより深い内面の理解に基づいた技術が求められるとともに,その活用には人間の価値観や倫理を含めた提案があわせて必要となることでしょう.わたしたちは京都大学との共創プロジェクトなどの人文科学的考察をふくめて,人間を深く理解し共生する人工知能をめざした研究を進めていきます.

02. 仮想現実/拡張現実

ゲーム体験へのVR(Virtual Reality:仮想現実)導入は歴史が長く,疑似外出体験による高齢者ケアといった新たなアプリケーションも注目されています.今後VR/ARは人間の生活全体へと溶け込んでいくことでしょう.現実空間とサイバー空間が密接に連携し,両者を分け隔てなく行き来できるようになる未来では,VR/AR(Augmented Reality:拡張現実)技術はより一層重要な役割を果たしていきます.今後は五感を再現して人へフィードバックすること,現実空間のより高度なセンシングや情報収集によって人やモノ,環境をリアルタイムにデジタル化・モデル化し,それを人にフィードバックしていくことも求められます.また,それらをいかにナチュラルに,人への負担なく実現するかが大きな研究課題となっていくでしょう.

03. ヒューマン・マシン・インターフェース

現実空間とサイバー空間が密に連携する環境において,ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)の活用領域は爆発的に広がるといえます.そのなかで今後重要となるのは「アンビエント」という概念でしょう.人にとって無理のないかたちで情報提供を実現する,また,人が感知できない情報を活用し周囲の環境から人の活動を妨げることなく自然に支援する技術にわたしたちは注目しています.現実空間における人々の活動を拡張していく観点から,人間の運動機能を最大限に引き出すといった課題にも取り組んでいきます.

04. セキュリティ

サイバー犯罪やサイバーテロなどネットワークセキュリティのリスクは飛躍的に高まっています.現実空間とサイバー空間が密に連携する世界において,サイバー空間への攻撃は現実空間にも大きな影響を及ぼすことでしょう.わたしたちはそうしたリスクに対応すべく,セキュリティ対策で増え続けるオペレーションコストの問題を解決しながらセキュリティ被害を最小限にとどめる技術を開発しています.さらに,技術に即した記述を盛り込むことでよりよい制度や規範を実現する研究や,サイバーセキュリティ分野におけるコミュニティ活動や人材育成活動にも幅広く取り組んでいます.

05. 情報処理基盤

映像や各種センサからの情報をもとにしたシステム制御により,さまざまな分野でヒトの能力を超えた最適な行動選択や未来予測の実現が期待されています.しかし,データ処理要求の急激な変化や膨大な電力消費電力など,持続可能な社会に向けた課題は少なくありません.わたしたちは「フィジタルデータセントリック」をキーワードとし,データ中心の情報処理基盤や光技術の活用により,従来の限界を超え,現実空間の膨大なデータをきわめて低遅延で処理可能とする技術に挑戦していきます.

06. ネットワーク

ネットワークがスマートな世界の基盤となることは言うまでもありません.近年はネットワークの仮想化や非中央集権型のネットワークが注目されていますが,わたしたちは従来の電気処理ベースのネットワークの限界を超えるため,光ベースの技術への転換によって低消費電力・高品質・大容量・低遅延といったすべての課題を解決するネットワークをつくり出そうとしています.加えて,JAXA(宇宙航空研究開発機構)と協働して行なうMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output:マイモ)を活用した衛星通信や,海中通信などネットワークがカバーする領域も急速に拡大させていきます.

07. エネルギー

世界中の企業が持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目標とし人々の環境意識も大きく変わっている時代にあって,エネルギー分野の研究開発には大きな躍進が求められています.わたしたちは,保有する電力系技術をネットワーク系技術と掛け合わせ,再生可能エネルギーを効率的かつ高信頼に扱うための技術開発を進めるとともに,微小エネルギーで動作できる通信機器の実現といった目標に取り組んでいます.さらには,人類にとって長年の夢であった核融合や宇宙太陽光発電,雷充電といった革新的なエネルギー源の獲得にも踏み出そうとしています.

08. 量子コンピューティング

従来型のコンピュータを遥かに上回る性能をもつことで知られ,ほぼすべての産業での活用が見込まれている量子コンピューティング.現在は欧米や中国など各国の企業が独自のコンピュータ開発を進めています.わたしたちも革新的なコンピューティング技術の開発を進めるべく,ノイマン型ポストムーアコンピューティング,非ノイマン型ポストムーアコンピューティング,そしてさらに次の時代を見据えた新原理による高速高効率な量子情報処理まで,さまざまな方向から次世代の情報処理技術を探求しています.

09. バイオ・メディカル

バイオ・メディカルテクノロジーは,もはや生物学や化学,医学のなかだけで開発されるものではありません.ICTとAIの技術で実現するプレシジョンメディシン(精密医療・個別化医療)など,現実空間とサイバー空間の融合が進むほどバイオ・メディカルの範囲もまた広がっていきます.わたしたちもデータ駆動型のナチュラルな医療ヘルスケアの実現に向けて,AIによる潜在的な疾病リスク予測や疾病メカニズムの解明,高精度リアルタイムバイオモニタリング技術の開発や生体内に自然に溶け込む新素材の開発など,多角的なアプローチで未来のバイオ・メディカルを創造していきます.

10. 先端素材

先端素材の開発は世界中で各社がしのぎを削る状況にあり,環境に合わせて変化する多機能素材やナノマテリアルのような極小素材へのアプローチ,あるいはバイオテクノロジーや次世代メモリへの注力が進んでいます.わたしたちは「光通信の低消費電力化・低遅延化に資するデバイス」「ナチュラルな感覚や気付きを提供する素材」「新奇機能の発現」という3つの方向性を定めています.先端素材とその他テクノロジーの開発は,両輪となってこれからも進んでいきます.

11. アディティブ・マニュファクチュアリング

アディティブ・マニュファクチュアリングというと3Dプリンタを思い浮かべますが,その「製造」が意味するところは広範囲へひろがっています.わたしたちは,今後「生体デバイスのパーソナライズ」「光電融合デバイスの進化」「ナノレベルにおける究極の製造技術の実現」という3つの変化が生じると考えています.人工的な身体システムの作製,高度で複雑な光電融合デバイスの製造,原子配列の三次元的制御や原子の直接操作といったナノレベルの製造技術に取り組んでいきます.

IOWNとは,わたしたちの未来である

昨年発表した新たなコミュニケーション基盤構想であるIOWNについて,エレクトロニクスから「フォトニクス」への転換や,現在のデジタルを超えた「ナチュラル」な技術をめざす取り組みについて解説します.IOWNを形づくるのは,ネットワークから端末まで,すべてにフォトニクスベースの技術を導入した「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」,あらゆるものをつなぎその制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」,実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング(DTC)」の3つです.

さらに2019年10月には,インテル コーポレーションとソニー株式会社とともに新たな業界フォーラムである「IOWN Global Forum」の設立を発表し,グローバルなパートナーとともに研究開発を進めています.また,IOWNの実現に向けたNTTの技術開発ロードマップについても2020年4月に発表しており,この内容についてもTechnology Reportにて解説しています.

さ い ご に

NTT研究企画部門では今後も毎年テクノロジーの動向とNTT R&Dの戦略と取り組みについてまとめて発表していきます.また,今回発表した資料につきましては次頁以降に掲載していますので是非ご覧ください(1)

(左から)前田 裕二/大西 隆之/村元 厚之

■参考文献

(1) https://www.rd.ntt/techreport/

テクノロジートレンドとNTT R&Dの動向をまとめた 「Technology Report for Smart World 2020」の冊子とオンラインPDFを発行しています.お客さまとのコミュニケーション等へ活用いただければと思います.

問い合わせ先

NTT研究企画部門

R&Dビジョン担当

E-mail technology_report-ml@hco.ntt.co.jp

Technology Report URL: https://www.rd.ntt/techreport/