from NTTコミュニケーションズ
DXで社会的な課題の解決をめざす「Smart World 推進プロジェクト」 ―― Smart FactoryとSmart Healthcare
NTTコミュニケーションズでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)により日本が今、直面している社会的な課題の解決をめざす「Smart World推進プロジェクト」を全社横断で展開しています。7つの注力カテゴリ(Smart Factory、Smart Healthcare、Smart Education、Smart City、Smart Workstyle、Smart Mobility、Smart Customer Experience)の中から今回はSmart FactoryとSmart Healthcareの取り組みと、それらを支える技術を紹介します。
Smart Factory分野の取り組み
グローバル競争が過熱する製造業にとって、工場の生産性向上や設備稼動率の向上は、永遠の課題です。加えて、ユーザニーズが多様化する中で、製造現場では効率性とともに変化に対応できる柔軟性が求められています。これらの課題は、従来、人手により改善されてきましたが、人材不足が深刻化する中で新たな解決法が求められています。このような状況を踏まえて、製造業では「Smart Factory」の実現に向けた取り組みが加速しています。「Smart Factory」は工場内のあらゆる機器や設備、工場内で行う人の作業などのデータを、IoT(Internet of Things)などを活用して収集・蓄積し、これらのデータを分析・活用することで、さまざまな課題の解決や新たな付加価値を創出していく取り組みです。
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)では、このような課題に立ち向かう製造業に対して、デジタライゼーション(変革)を支援し、新しいモノ・サービスづくりを実現するエコシステムをつくり上げることをめざしています(図1)。例えば、工作機械業界における工作機械デジタルトランスフォーメーション(DX)プラットフォームは、工場内で使用される工作機械等の各種機器をネットワークで接続し、それらから生み出されるビッグデータを活用して製造・生産の最適化を図り生産性を向上させる取り組みです。さらに、複数の工場を連携することで新たなビジネスを創造する取り組みにも挑戦しています。
また、化学業界に対しては、熟練工の暗黙知を形式知化することにより、人手不足や現場業務の効率化、熟練工のノウハウの継承といった課題を解決するアプリケーションサービスを提供するなど、プラントにおける経営のデータ、設備のデータ、人のデータを利活用し、コンビナートの連携による生産性・安全性向上を実現する業界共有プラットフォームサービスの提供をめざしています。
図1 Smart Factory
Smart Factoryを支える技術
Smart Factoryの実現に向け、NTT ComではNTT研究所のR&D成果を基に開発した汎用的なIoTプラットフォームソフトウェア「データ利活用基盤」(図2)を利用した取り組みを推進しています。「データ利活用基盤」は、データ交流とアプリケーション実行の2つの基盤機能で構成されており、デバイスから収集したデータを蓄積し、アプリケーションによるデータ分析・活用を実現するデータ利活用環境を提供します。
データ交流基盤機能
データ交流基盤機能は、NTT ソフトウェアイノベーションセンタ(SIC)の研究成果である高速で軽量なストリームデータベースである「データ交流基盤」をベースに開発した機能で、多様なデバイスのデータを、コネクタを介して接続して収集を行います。データ収集のインタフェースとしてIoT向けの軽量プロトコルであるMQTTを標準サポートしており、さまざまな業界のセンサや装置が生成する時系列データをはじめとする多様なIoTデータを収集することができます。収集したデータは、あらかじめ定義したデータモデルにのっとり一元的に蓄積します。データモデルは、業界特性を踏まえて柔軟に設定することが可能で、幅広い業界に適用することが可能です。蓄積したデータはその使用頻度に応じてアーカイブすることができるため、NTT Comが提供するリーズナブルなストレージサービスと組み合わせることで、従来はその膨大さゆえに破棄せざるを得なかった貴重な過去データを継続して長期間蓄積することが可能となり、将来の新技術での活用や分析に備えることも可能です。
アプリケーション実行基盤機能
アプリケーション実行基盤機能は、SICの研究成果であるコンテナの配備・更新にかかわるデプロイ管理技術「IoT-MANO」をベースにして開発しました。データの可視化や分析を行う個別アプリケーションが稼動するコンテナ(Docker)の実行環境を提供し、業務量変動に応じたアプリケーションのオートスケール、ならびにコンテナやサーバを監視して不具合検出時にコンテナを復旧させるオートヒーリングを実施します。またアプリケーション開発者向けには、データ利活用基盤の統合開発環境(IDE)の提供とアプリケーション配信サービスの提供を計画しています。さらに企業間、業界間でのデータ交流の活性化を見据え、安心・安全なデータ流通に向けて、流通させるデータのアクセス制御とトレーサビリティを実現する機能整備をSICの散在データ仮想統合技術「iChie」をベースに進めていきます。
このほか、データの計算過程を保護することで“データの中身を見ない”運用を提供する「秘密計算」や、収集データの2次的利用にあたり、特定の個人を識別することができないような加工をデータに施す「匿名加工」など、NTT研究所のR&D成果を活用した機能なども順次拡充する計画です。
図2 データ利活用基盤
Smart Healthcare分野の取り組み
日本は、世界に先駆けて急速な少子高齢化が進行し、死因の約6割が生活習慣病(1)となる中、国民1人ひとりの健康寿命を延伸することが求められています。
厚生労働省では、健康・医療・介護分野におけるICT化を進め、これまで分散されていた各種医療データを国民や患者1人ひとりが自身の医療等のデータを有効に活用することや保健医療現場や関係する産業界が適切に活用し、課題解決の糸口を見出すべく、平成29年1月に「データヘルス改革推進本部」を立ち上げ、健康・医療・介護データの有機的な連結やその利活用の推進に向けた取り組みが推進されています(2)。
NTTグループでは、中期経営戦略「Your Value Partner 2025」のSmart Worldの実現への貢献の中で、健康・医療に関するさまざまな情報を蓄積するだけでなく、NTTグループのビッグデータ解析、AI(人工知能)、セキュリティといった技術を活用し、健康・医療ビッグデータを解析することによって、新たな価値を創出するメディカルサイエンス事業を推進しています(3)。
NTT Comにおいても、Smart Healthcareの取り組みとして、予防、治療、ケアといった各ステージのデータを収集・統合し分析するプラットフォームをSmart Data Platform(SDPF)の各種機能を活用して実現し、自らがData Enablerとなり、新たなヘルスケアサービスを提供する医療プロセス革新、およびデータ分析による新たな付加価値を提供するデータマネジメント革新の推進をめざします(図3)。
図3 Smart Healthcareの取り組みとそれを支えるデータセキュリティ機能
Smart Healthcareを支える技術
Smart Healthcareで取り扱う各種データは、プライバシへの配慮が必要となる要配慮情報であるため、データを安全に収集、蓄積、活用するために、ID管理、認証、認可、証跡管理、匿名加工、秘密分散、秘密計算といったSDPFのデータセキュリティを実現する機能(データセキュリティ機能)が特に重要となります。ここでは、データセキュリティ機能の中で現在開発を進めている秘密計算機能について紹介します。
各医療機関が保有する要配慮情報であるデータを複数医療機関が組み合わせて分析する場合において、匿名化情報に加工することが考えられますが、匿名性が担保できないような希少症例や、複数医療機関のデータどうしを名寄せして分析を行う場合、氏名などの情報を削除したとしても、連結キーを有する仮名化情報となるため、現行法では個人情報にあたります。
また、例えば企業の健康経営において、従業員の健康診断データやレセプトデータを活用する場合においても、企業側に従業員個人の健康状態が把握されることに対する抵抗感も想定されるため、情報の利活用における安全対策は必要になると考えます。
秘密計算機能は、データを複数の断片に分散(秘密分散)した状態で保管し、データを暗号化された状態で元のデータに復元することなく統計分析できる機能であり、NTTセキュアプラットフォーム研究所(SC研)の研究成果である世界最高レベルの性能を実現した秘密計算基盤(Trust-SC)V3.0「算師®」(4)をベースにして開発を進めています。
データ活用者に対して、データそのものは一切見せずに統計分析できる(図4)ため、例えば、各医療機関で保有しているデータの内容を他の医療機関に見せることなく、複数医療機関のデータを組み合わせて分析することが可能となり、新たなデータ活用につながります(個人情報を外部機関と連携して分析する場合は、個人情報保護法の第三者提供にあたるため、同意取得等の対応は必要になります)。
さまざまな統計演算に対応しており、例えば、治療における生存曲線を表現するKaplan-Meier法や病気の発生率の予測を行う場合に使用するロジスティック回帰等の医療分野でのデータ利活用に必要となる統計演算が可能です。
開発の中で、統計演算方式の追加や、統計解析ソフト‘R’からの利用に加えて、SPSS、SAS JMPなどの汎用的な統計解析ソフト対応、秘密計算技術を活用したディープラーニング対応(5)などへの機能拡充をSC研と連携して進めていきます。
図4 安全なデータ利活用を実現する秘密計算
今後の展開
NTT ComではSmart Worldの実現のための取り組みとして、データ利活用に必要な収集、蓄積、管理分析に関する機能をワンストップで利用できるプラットフォーム「Smart Data Platform(SDPF)」を2019年9月より提供しています。今後はSDPFを基盤として活用しながらSmart Worldの各領域におけるマーケットニーズをフィードバックし、それぞれの領域で培ったノウハウ・付加価値をSmart Worldの別領域や自社のサービス開発等に展開していきます。また、Smart Worldの各領域の連携から産まれるシナジー効果は、ビジネスマッチング(スタートアップ企業の支援等)の機会創出に役立てます。同時にデータ利活用のニーズや技術の進化に合わせ、SDPFの機能拡充や進化も継続的に図り、ユーザのICTリソースを含めた構築・設定および管理・運用を、一元的に実施できる仕組みである「Cognitive Foundation」を活用し、NTT Comはお客さまにとっての「DX Enabler」としてお客さまのDXの実現や、さらなるSmart Worldの実現と企業・社会の持続的成長に貢献していきます。
■参考文献
(1) https://www.mhlw.go.jp/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/2018/03_01.html
(2) https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000545974.pdf
(3) https://www.ntt.co.jp/ir/library/annual/pdf/19/06.pdf
(4) https://www.ntt.co.jp/RD/active/201810/jp/nw/n003.html
(5) https://www.ntt.co.jp/news2019/1909/190902a.html
問い合わせ先
NTTコミュニケーションズ
ソリューションサービス部
〔Smart Factory推進室〕
E-mail smart-factory@ntt.com
〔Smart Healthcare推進室〕
E-mail secure-computation-ss@ntt.com