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特集

IOWN/6Gに向けた光・電波・音波を活用する大容量・低遅延伝送技術

IOWN/6Gの実現と世界一・世界初の新たな価値創出に向けて

NTT未来ねっと研究所(未来研)では、世界をリードし続けることで蓄積してきた世界トップレベルの技術力でIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の実用化に貢献するとともに、社会に変革をもたらす世界一・世界初、新たな価値の創出によりNTTグループの競争力強化に貢献することをミッションとして研究開発を行っています。本稿では、未来研で取り組んでいる技術の概要を紹介します。

赤羽 和徳(あかばね かずのり)†1/水野 晃平(みずの こうへい)†2
高杉 耕一(たかすぎ こういち)†2/鈴木 賢司(すずき けんじ)†2
木坂 由明(きさか よしあき)†2
NTT未来ねっと研究所 所長†1
NTT未来ねっと研究所†2

はじめに

NTT未来ねっと研究所(未来研)は、光・電波・音波等のさまざまな周波数帯の物理的な波動を駆使し、光ファイバ・空中・水中等の通信媒体を含む幅広い領域に対して長距離・高速大容量の情報伝送を可能とする通信技術の確立をめざして、研究開発に取り組んでいます。
未来研の取り組み領域を図1に示します。光ファイバにおける光通信、空中・宇宙空間における無線通信、水中における音響通信の大容量化・長距離化・カバレッジ拡張・低電力化技術を中心としつつ、自由空間光通信などの電波と光の境界領域の通信技術にも取り組んでいます。
未来研は、NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の実現に向け、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)の研究開発を推進しています。2023年3月にAPN IOWN 1.0サービスが開始され、エンド・ツー・エンドで光波長を占有することにより、「高速・大容量」「低遅延・揺らぎゼロ」のサービスが実現されています。このAPN IOWN 1.0サービスにおいて、通信遅延を自在に操る遅延マネージドネットワークを具現化するOTN Anywhereの装置を開発しました。
現在、未来研では図2に示す方向性でIOWNの性能・利便性を向上する研究開発を進めています。2025年以降の実現をめざすIOWN 2.0に向けて、より多様なクライアント信号の収容や、さらに細かい粒度での遅延マネージドを実現するOTN Anywhereの開発に取り組んでいます。また、デジタルコヒーレント光伝送技術により1.6Tbit/s級の大容量伝送を実現するDSP(Digital Signal Processor)の開発、光波長パスの自動設定・遠隔制御技術の開発、耐量子計算機暗号を用いた安全なネットワークサービスを実現するセキュア光トランスポート技術の開発、超低遅延かつ確定遅延のデータ伝送を実現するIOWN IPU(Infrastructure Processing Unit)ボードの開発など、IOWNのユーザビリティ向上に資する要素技術の研究開発に取り組んでいます。
2029年以降の実現をめざすIOWN 3.0に向けては、APNにおけるペタビット(Pbit/s)級の伝送スループットを実現する空間多重光伝送技術・スケーラブル光トランスポート技術の開発や、IOWN/6G(第6世代移動通信システム)を支える無線xHaul向けのテラビット級無線伝送技術の開発、大容量・多重化・秘匿化を実現する海中音響通信技術の開発など、IOWN APNのさらなる大容量化・長距離化に向けた要素技術開発に取り組んでいます。
2030年代の実現をめざすIOWN 4.0に向けては、量子中継を用いたスケーラブル量子ネットワークの研究開発、自由な無線空間を高精度に形成する波動適応制御技術の研究開発など、既存サービスとは一線を画す新たな価値を提供する情報通信基盤の実現に向けた研究開発に取り組んでいます。
以降では、未来研で取り組んでいる最先端技術について、フロンティアコミュニケーション技術、波動伝搬技術、トランスポートイノベーション技術に分けて紹介します。

フロンティアコミュニケーション技術

フロンティアコミュニケーション技術の概略を図3に示します。広域に分散したコンピューティングリソースを活用して、スマートシティ・医療・金融など、ミッションクリティカルなサービスを実現するため、トランスポート・制御技術、さらなるフロンティアとして量子ビットを伝送する量子通信に取り組みます。

■高速データ・メディアトランスポート(IOWN IPU ボード)

IOWN APN上で超低遅延にデータ・メディアを確定的な遅延で伝送する技術を確立し、スマートシティ、医療、金融など時間制約があり、リアルタイム性の高いサービスの実現をめざします(1)。高速データトランスポートではメモリ間の超低遅延かつ確定遅延によるデータ伝送を実現するIOWN IPUボードおよび高精度時刻同期による遅延制御により、アプリケーションから伝送処理遅延を指定・把握することが可能となるSDK(Software Development Kit)を実装します。また、高速メディアトランスポートにおいては非圧縮映像や3D映像などの超低遅延なメディア伝送を実現します。

■光波長パス自動設定・遠隔制御(AOPP)

IOWN APNを活用しユーザ要求に応じてデータセンタ間を動的に接続するDCX(データセンタエクスチェンジ)の実現に向けて、オンデマンドに光波長パスを設定する自動プロビジョニングを実現します。
装置ベンダや伝搬特性など条件の異なる多ユーザ拠点間の伝送路推定をオンデマンドに行い、光波長パスを設定することで、光波長パスの開通時間の短縮・自動化を実現します(2)。また、ユーザ拠点に設置された光伝送装置を、キャリア設備から設定・監視するための遠隔制御エージェント機能を実現し、監視制御インタフェースの標準化を進めることで、オープンで多様な光伝送装置を活用したDCXサービスの実現をめざします。

■セキュア光トランスポート

将来の量子コンピュータによる盗聴・改ざんを想定し、耐量子計算機暗号鍵等により、APNにおける光波長パスの安全性を保証する技術に取り組んでいます。将来のセキュリティ・伝送技術の進展に合わせて機能を拡張できるよう、鍵交換機能、鍵管理機能(ソフトウェア処理)と暗号機能(ハードウェア処理)をディスアグリゲーションする機能アーキクチャを採用するとともに、異なる鍵交換方式を併用して得られた信頼性根拠の異なる複数の鍵の合成により強固な安全性(マルチファクタセキュリティ)を実現します。

■無線環境把握・予測技術

カメラやセンサ等の非通信デバイスを含むさまざまなフィジカル空間情報を利用し、数秒先の未来の通信品質を予測し、最適な通信手段により高速・低遅延な通信を常に維持する技術に取り組んでいます。これにより、ミリ波等の高周波数帯の周波数資源の有効活用を推進するとともに、従来、無線環境で難しかったロボット制御などのミッションクリティカルなユースケースへの適用をめざします。

■量子通信技術

多数の量子コンピュータをネットワーク化し、計算能力を指数関数的に向上させるため、量子コンピュータで扱う量子ビットを伝送する量子通信技術に取り組んでいます。安定的な長距離・高速通信を実現する光子通信・量子もつれ通信技術、量子ネットワークを実現するための量子ノード構成技術・量子ノード管理技術の確立をめざします。

波動伝搬技術

IOWN/6G 時代の社会基盤となる無線価値創造に向け、波動伝搬技術に取り組んでいます(図4)。海中音響通信技術や衛星センシング技術では、陸上以外の海、宇宙、空といった通信エリアを究極まで拡大する超カバレッジ拡張をめざすとともに、自由空間光通信技術、テラビット級無線伝送技術により、通信速度を飛躍的に向上する究極の高速大容量伝送にも取り組んでいます。さらには、通信エリアを自在に制御し高精度な無線空間形成を可能とする究極の無線通信として波動適応制御技術にも挑戦しています。

■海中音響通信技術

これまで移動通信システムとして未踏領域であった海中への超カバレッジ拡張により、海底資源開発や港湾設備工事、海洋設備点検といった産業分野における通信を活用した業務効率化への期待が高まっています。海中音響通信の高速化・長距離化・安定化を実現する時空間等化技術、環境雑音耐性向上技術の確立により、1Mbit/s級の高速伝送を達成し、本技術を搭載した世界初となる完全遠隔無線制御型水中ドローンを公開実験にて実証しました(3)。現在は産業分野の各種パートナーと連携し、より具体的な業務への技術適用性を検討するとともに、水中での音響測位や広域通信ネットワークといった新たな研究開発にも取り組んでいます。

■衛星センシング技術

衛星専用の装置や周波数を用いずに、地上普及している一般的なLPWA(Low Powe Wide Area)端末を用いて、IoT(Internet of Things)データを収集する衛星センシングプラットフォームの基盤技術に取り組んでいます(4)。山間部や海洋など、地上網ではカバーできない超カバレッジの通信プラットフォームにより、地球規模でのセンシング実現をめざしています。

■自由空間光通信技術

光ファイバの敷設が困難な場所や移動体に対して超高速無線回線の提供を可能とする新たな通信インフラ技術の確立をめざし、空間光通信技術の研究に取り組んでいます。大気伝搬に伴い発生する大気揺らぎに対し、波面補償技術による高効率ファイバカップリングにより超高速大容量伝送を実現し、将来的には災害時の迅速なネットワーク一時復旧などにも適用することをめざしています。

■テラビット級無線伝送技術

IOWN/6G時代のフロントホール・バックホールにはテラビット(Tbit/s)級の無線伝送技術が必要になると考えられており、この実現に向けて伝送帯域と空間多重数の拡大による高速大容量無線伝送に取り組んでいます。具体的には、サブテラヘルツ帯の超高帯域幅を利用したOAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)多重伝送により1.4Tbit/sもの大容量無線伝送を世界で初めて実証しました(5)。現在は実社会におけるさまざまな用途展開を想定し、100mを超える長距離の伝送実証をめざしています。

■波動適応制御技術

IOWN/6Gにおける無線システムでは、多種多様な機器が無線接続されると想定されており、さらなるユーザ間干渉の増大や高周波帯活用に伴う電力損失が課題です。これらに資する要素技術として波動制御に基づき伝搬エリアを曲げたり、直進させるマルチシェイプ波動制御技術、端末も連携して適応的に無線空間を形成する端末協調ユーザセントリックRAN技術、そして、光電変換を活用し大規模アレーアンテナにおける無線ビームフォーミングを省回路で実現する光マトリクス無線ビームフォーミング技術などに取り組んでいます。

トランスポートイノベーション技術

IOWN構想の基盤となるAPNの実現に向けて、光ネットワークの付加価値向上と大容量化をもたらすトランスポートイノベーション技術の研究開発に取り組んでいます(図5)。APNサービスの高度化とユースケース拡大に向けて、ユーザとオペレータに新たな価値をもたらすエクストリームレイヤ1ネットワーク技術の研究開発を推進しています。また、光パスの大容量化かつ低電力化の実現に向けて、大容量コヒーレント伝送技術の研究開発も進めています。さらに、将来の膨大な通信トラフィックを効率的に収容することを目的に、リンク当りPbit/s級の伝送スループットを実現するスケーラブル光トランスポート基盤技術を開拓しています。

■エクストリームレイヤ1ネットワーク技術(OTN Anywhere)

レイヤ1 ネットワーキングによりユーザとオペレータに価値をもたらす要素技術を創出することで、APNサービスの高度化とユースケース拡大に貢献することをめざしています。大容量・低遅延のレイヤ1通信パスに対して、新しい付加価値機能を実現してユーザエクスペリエンス(UX)に変革をもたらす技術として、ネットワーク遅延の高精度測定・制御を行う伝送システム(OTN Anywhere)、通信データの1ビットの欠落なくネットワーク構成変更を行うレイヤ1無瞬断切替技術などの研究開発に取り組んでいます。OTN Anywhereは実用化され、APN IOWN1.0として商用サービスの提供が開始されています。また、これらの技術を活用した遠隔手術や公平なeスポーツ遠隔対戦などの実証実験を通してユースケース拡大を進めています。

■大容量コヒーレント伝送技術(コヒーレントDSP)

APN 構築に必須となる1波長1Tbit/s超級の高速大容量光伝送の長延化と低電力化を実現する、デジタルコヒーレント光伝送技術の確立をめざしています。従来のキャリア向け長距離伝送だけでなく、データセンタインターコネクト(DCI)等の近距離伝送にも適用され、急速に拡大する適用領域に対して、伝送方式・補償処理等を柔軟に変更することで、最適な光パスを実現する技術の研究開発に取り組んでいます。さらに大容量コヒーレント伝送を低電力で実現するためのキーデバイスである1.6Tbit/s級光通信用デジタル信号処理回路(コヒーレントDSP)の開発を進めています。

■スケーラブル光トランスポート基盤技術

将来的な高速モバイルアクセスの進展やAI(人工知能)サービスの普及などにより、今後急増していく通信トラフィックを収容可能なペタビット級光ネットワークの実現に向けて、革新的な超大容量伝送技術、およびこれを可能とする光信号処理技術を開拓して、リンク当り1Pbit/s容量級のスケーラブル光ネットワーク基盤技術の確立をめざしています。大容量伝送を実現する要素技術として、コア多重やモード多重を駆使した大容量空間多重伝送技術(6)(7)、広帯域パラメトリック光増幅中継による一括光増幅帯域拡張および波長帯一括変換技術(8)などの基盤技術の研究開発に取り組んでいます。

おわりに

本稿では、未来研で取り組んでいるIOWN/6Gに向けた最先端技術に関する取り組みの概要を紹介しました。光・電波・音波を用いて伝送技術や高付加価値化に取り組み、2030年に計画されているIOWN/6Gの実現に向け、今後もさまざまな産業分野のパートナーの方々や専門家の方々とのコラボレーション等も活用し、各要素技術の早期確立をめざしていきます。

■参考文献
(1) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/11/10/pdf/231110ba.pdf
(2) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/10/13/231013a.html
(3) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/11/01/221101a.html
(4) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/02/10/230210a.html
(5) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/03/30/230330a.html
(6) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/03/06/230306a.html
(7) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/10/05/231005a.html
(8) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/06/16/230616c.html

(上段左から)赤羽 和徳/水野 晃平/高杉 耕一
(下段左から)鈴木 賢司/木坂 由明

情報化社会の変革に向け、光・電波・音波等のさまざまな周波数帯の波動伝搬を駆使し、光・無線通信システムの高度化・大容量化や通信可能領域の拡張を可能とする要素技術・システム化技術の確立をめざして、研究開発に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTT未来ねっと研究所
企画担当
TEL 046-859-3008
FAX 046-859-3727
E-mail kensui-mirai-p@ntt.com

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