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グループ企業探訪

第213回 NTTワールドエンジニアリングマリン株式会社

NTTグループ唯一の海洋エンジニアリングでこれからのIoT時代の発展を支える

TTワールドエンジニアリングマリンはNTTグループ唯一の海洋エンジニアリング会社である。国内外で重要性を増している海底ケーブルの設計から建設、保守までを一貫して行い、これからのIoT、クラウド、AIの発展を通信インフラの側面から支える。同社の木野雅志社長に事業内容や事業環境、新しい取り組みについて伺った。

NTTワールドエンジニアリングマリン 木野雅志社長

NTTグループ唯一の海洋エンジニアリング会社

会社概要について教えてください。

NTTワールドエンジニアリングマリンは1998年にNTTグループ唯一の海洋エンジニアリング会社として設立されました。日本における通信用の海底ケーブルの歴史は古く、1872年の関門海峡に引かれた電信ケーブルが起源です。時代の流れとともに電電公社、NTTへと組織の変遷を経つつも、一貫して海底ケーブルの建設・保守に従事してきました。本社は横浜ですが、長崎事務所とフィリピンにマニラ支店があり、特に長崎事務所では1896年に建築された洋風建築史上希少な建造物を保有しており(経済産業省近代化産業遺産認定)、長崎県教育委員会からの要望もあり、これを保存・活用して、海底通信ケーブルに関するさまざまな歴史を展示している「海底線史料館」も開設しています。

事業概要と具体的な取り組みについてお聞かせください。

当社の事業は大きく海洋エンジニアリング事業と陸上エンジニアリング事業の2本の柱からなります。主力である海洋エンジニアリング事業では海底ケーブルの建設に適したルートを選定する「海洋調査・設計」、海底ケーブルを陸上に陸揚げし、浅い部分を埋設した後、設計ルート上に正確に海底ケーブルを設置する「ケーブル敷設・埋設」、すでに敷設してあるケーブル等が故障・切断された場合に現場へ行って修理する「ケーブル保守」の3つの業務を当社直営で行っています。
もう1つの陸上エンジニアリング事業は、エンジンの扱いに慣れている船の機関士のスキルを活かし、陸上のNTTビル等に設置されている「非常用発電機の保守・整備」、一般商船へのインターネット接続環境、船内LAN、これらを活用した運航管理支援システムの提供といった船内のIT整備を行う「船舶ITソリューション営業」の2つの業務を行っています。
これらの事業への取り組みにおいて、次の3つを基本方針として掲げています。1番目は、国内と国際ケーブルの迅速・確実な保守です。国内、国際の別なく、海底ケーブルが何らかの原因で故障すると、重要かつ大量の通信が途絶し、場合によっては地域の通信が孤立するなど、住民の生活や企業活動に大きな影響が出ます。故障個所を速やかに把握し、現場へ急行し、ケーブルを引き上げて修復し、元の場所に戻すといった修理作業を、重要な通信を預かっているとの使命感に基づいて、迅速・確実に実施します。
2番目は新規顧客開拓および事業領域の拡大を図ることです。現在、国内においては離島を含み海底ケーブルの需要はほぼ満たされている状況です。今後、海底ケーブルの新規の顧客開拓や、非常用発電機の保守・点検等、ノウハウを活かして新たな事業領域を拡大していくことにも注力していきます。
3番目は何といっても安全です。安全なくしては事業が成り立ちません。船上の作業は、船体が揺れる中で3~4トンもの張力のかかるケーブルを扱うといった危険を伴うものなので、環境や工程における安全の確保が何よりも優先されます。また、気象条件によりうねりや時化等も発生する洋上においては、船舶運航の安全確保も重要です。こうした取り組みを着実に進めることで無事故無災害を実現しています。

ケーブルの保守・建設にあたる船舶を紹介していただけますか。

現在、当社では4隻の船でケーブルの保守・建設に取り組んでいます。2017年4月に就航した最新鋭の船である「きずな」(全長:109 m、全幅:20 m、総トン数:8598 t)、今はフィリピン船籍ですが、もともと日本船籍の「SUBARU」(全長:124 m、全幅:21 m、総トン数:9557 t)の2隻を主力船として、「きずな」は国内保守、「SUBARU」は国際保守、建設を中心に従事しています。保守については国内、国際の区別なく迅速、確実に実施できる体制を維持するため、相互バックアップ体制をとり、常に1隻は海底ケーブルの故障に備えてスタンバイしています。そのほか、浅海部における建設や保守を行っているフィリピン船籍の「VEGA」(全長:74 m、全幅:13 m、総トン数:1706 t)、日本船籍の「おりおん」(全長:55 m、全幅:9.5 m、総トン数:298 t)の計4隻を運用しています。

事業環境はいかがでしょうか。

当社の売上の内訳は、国内ケーブルの保守が3割、国際ケーブルの保守が1割、国内ケーブルの建設が4割、国際ケーブルの建設が2割となっています。保守だけでは収入も限られるので建設事業も積極的に受注しています。1998年の会社設立以来、国内ケーブルは約8200 km、国際ケーブルは2万9300 km、合わせると地球1周分に近い長さの工事を行ってきました。
市場としては、国内の海底ケーブル需要はほぼ満たされていますが、情報格差の是正の観点により政府の補助事業として地方自治体による離島への光海底ケーブルの敷設が増えてきています。
一方で海外に目を向けると近年はGAFAが全世界的な自前のネットワークを構築しようとしています。海底ケーブルへの投資も積極的に行われており、年に2倍ぐらいで伸びていくだろうというのが大方の見方です。こうした動きの中で、当社は日本近海および東南アジアでの工事をターゲットとして営業活動を実施しています。
今の海底ケーブルというのは、テラビット級の伝送容量を持っています。1波長当り100 Gbit/s、100WDM(Wavelength Division Multiplexing)なので、1本のファイバ当り100 Gbit/s×100波長=10 Tbit/sになります。それが1本のケーブルの中に8ペア(上り・下り)入っていれば、80 Tbit/sが実現されます。80 Tbit/sというと、DVDだと1枚が4.7 GBなので、2100枚を1秒間で送ることができる伝送速度です。国際通信においては昔は衛星が中心でしたが、今は通信の大容量化が求められているため、遅延がなく安定した海底光ケーブルが主力になりました。昨今言われるIoT(Internet of Things)、クラウド、AI(人工知能)という情報通信、IT産業の発展を考えたときに海底ケーブルは一番のベースとなるインフラです。これを建設し保守するというのは見えない裏方ですが、世界的なIoT、クラウド、AIの発展を、土台で支える非常に重要な仕事です。

強い使命感を持って何があってもミッションをやり遂げる

他のグループ企業にはみられない、洋上の業務が多い貴社の雰囲気を教えてください。

一度航海に出るとある程度の期間は陸には戻れないといったこともあり、社員はやらなければいけないミッションを何があってもやり遂げるという強い使命感を持って仕事に取り組んでいます。例えば建設工事において、岩場があって掘れないなど設計とは異なった状況であった場合でも、臨機応変にルートを迂回するなど対応し、お客さまの要望を何としてもかなえられるように仕事に取り組んでいます。
また、工事の際には技術だけでなく、船の中でのチームワークも非常に重要です。船の中には船を運航するグループと、工事をするグループの人たちがいます。ケーブルを敷設する際には船のスピードと、ケーブルを送り出すスピードがぴったりマッチしていないと、ケーブルを設計どおりに敷設することができません。修理の際には深海から故障したケーブルを引き上げることもありますが、そのときは、ケーブルの張力を見ながら巻き上げのスピードを調節し、船のスピードもそれに合わせて調節するなど、船を運航するグループと、工事をするグループの人たちの連携がとても大事で、非常に一体感があると思います。

新しい取り組みについて紹介していただけますか。

新しい取り組みとしては、前述した「きずな」を活用した災害対応に力を入れています。「きずな」はエンジンや居住スペースを前部に集中させてあり、作業等に関するスペースを後部に集約しています。そのスペースに災害対策用の資機材が搭載できるようになっています。例えば非常用電源車、工事用車両やNTTドコモの可搬型基地局等を積み込むことも可能です。
2018年1年間で「きずな」が災害対応で2回派遣されました。1つは、沖縄に台風が来た際に、NTT西日本からの要請でバケット車を積んで沖縄まで運びました。もう1つは北海道の地震で大停電が発生した際に、給電の止まってしまったNTTグループの施設に非常用の自家発電機とそれを回すための軽油を積んで北海道苫小牧まで運びました。これから先、発生が予想されている首都圏直下型地震や南海トラフ地震など、いざというときには災害復旧用資機材輸送、災害復旧に従事するNTTグループ社員への支援等において「きずな」を最大限活用していきます。

社員へのメッセージをお願いします。

安全第一を一番に考え、常にKY(危険予知)を行い、くれぐれも事故のないように仕事をしてください。そのうえで、海底ケーブルの保守は、IoT時代を支える極めて重要な仕事なので、しっかりと使命感を持って、自分たちのミッション、役割、仕事をきちんと最後までやり遂げましょう。

担当者に聞く

沖縄での新規敷設や東日本大震災の復興でネットワークインフラを支える

営業部 第一営業担当 課長
大東地区情報通信基盤整備推進事業PM
櫻井 淳さん

櫻井 淳さん

担当されている業務について教えてください。

航海士の資格(一級海技士)を取得し、ゆくゆくは船長をめざし日々業務に励んでいます。現在は、海底線業務の視野を広め、遂行業務の幅を広げるため、営業部で課長をしています。大小さまざまな案件がありますが、代表的な案件として沖縄本島と北大東島を海底ケーブルで結ぶプロジェクトがあり、プロジェクトマネージャ(PM)も務めています。南大東島へは8年前に海底ケーブルを敷設した実績があり、今回、新たに北大東島へも海底ケーブルを敷設するということで、契約に向けた準備をしています。
そのほかには平戸(長崎県)方面や、気仙沼(宮城県)方面での案件を担当しています。
特に東北に関しては、東日本大震災後の災害復旧工事を担当していた事もあり、強い思いがあります。当時、NTTグループの使命として、早く復旧しなければならないという状況下で、仙台の災害対策本部には何度も足を運びました。浦戸諸島では海路が寸断されており、通信復旧に必要な電柱等の資機材の運搬もままならない状況であり、現場の判断で弊社の船で、塩釜港から浦戸諸島へ電柱等の資機材を運び感謝されたのを覚えています。
震災復旧後、宮城県の海岸沿には、防潮堤が建設され、防潮堤が完成するたびにケーブルを移設する支障移転工事を実施しており、2019年7月の気仙沼支障移転工事で完了します。最初と最後に営業マンとして担当できたのが、私の営業経験の中で大きな財産となり、またNTTグループとして震災復興に大きく貢献できたと思っています。

ご苦労されている点を伺えますか。

北大東島のプロジェクトは設計がこれから始まるところですが、今年度は海洋調査、来年度は海底ケーブルを製造、敷設工事は3年後という、長期のプロジェクトです。沖縄本島周辺海域は海底ケーブルが多く敷設されているためルート選定にはとても苦労しています。当然お客さまとしてはケーブルが短いほうが安価となり、できる限り短くしてほしいと言われるのですが、既設ケーブルに対し国際ルールに従って一定の離隔を取る必要があるため、どうしてもルートは限られてしまいます。ルート選定は長崎の設計担当が実施していますが、私はその理由等をお客さまに説明しなければなりません。ルートだけでなく、水深によってケーブルの仕様(種別)が変わってくるので、敷設ルートにより種別ごとのケーブル長を計算し、それをお客さま等へ設計上の困難なところも含めて分かりやすくお伝えするのに苦労しています。
将来的には今回の工事のルート、既設のルートに加えて、北大東島と南大東島を結ぶルートを構築し、安定した伝送路の確保のためループ構成にしたいと考えています。

以前は航海士として乗船していたとのことですが、そのころの話も伺えますか。

今は完全に横浜での陸上勤務ですが、2015年まで航海士として船を操船する仕事をしていました。パプアニューギニアから帰ってくる航海のときに、雲1つない水平線へ太陽が沈むときに一瞬光るグリーンフラッシュを見ることができました。海は意外と雲が多いので、水平線にきれいに沈む太陽というのはなかなか見ることができません。グリーンフラッシュを見た船乗りは幸せになれるという言い伝えもあり、貴重な体験ができました。
また、イルカやクジラ、海亀ともよく出会いました。南の島だと海水が透き通っているのでケーブルを海底へ沈下させる最後の瞬間まで見ることができます。1カ月、2カ月と歳月をかけて敷設してきたケーブルの最後がきれいに沈下していくところを見ると、本当に疲れがすべて吹っ飛ぶぐらいの、達成感が湧いてきます。

乗船中の苦労した点も伺えますか。

一等航海士として乗船していたころは、工事を含む各部門のトップと職長を集めてミーティングを実施し、どのようにして作業するか手順等々を決定し、船長と工事長に説明していました。ベテランの方たちから文句を言われることや、ここはこうしたほうがいいといった意見が出るので、それをまとめるのが大変でした。ただし最後は、お前が決めたのならそれでいこうとなるので、うまく連携が取れていたと思います。そのときの経験が、今のPMとしての仕事に役立っていると感じます。

今後の展望について教えてください。

現在手掛けている大東島の案件は2021年には終わりますが、その後に2工区目といわれている北大東島と南大東島をつなぐところまで含めると6年がかりの大きなプロジェクトです。これから先、しばらくは大東島に関連した仕事が続く予定ですが、ゆくゆくは現在の業務を活かしお客さまへ満足していただける工事ができる船長となることを夢見ています。

NTTワールドエンジニアリングマリン ア・ラ・カルト

健康増進への取り組み

NTTワールドエンジニアリングマリンでは工事に出ると船の生活が長くなるため、健康増進への取り組みに力を入れているそうです。健康診断・人間ドックだけではなく、体力測定やその結果に基づいたスポーツインストラクターからの日常生活で継続できる運動指導も受けています。さらに2017年度からは管理栄養士から生活習慣病予防のための食事に関するアドバイスをいただいており、吉田洋一労働安全グループ担当課長(写真1)によるとこれが社員の方へは非常に好評だそうです。健康経営の観点から、社員の健康増進の取り組みは継続していきます。

写真1

横浜・長崎それぞれの地域でのレクリエーション

横浜では横浜港振興協会が主催している「横浜港カッターレース」に毎回エントリーしています(写真2)。こちらは勝負よりも、社員や家族とコミュニケーションを図っているとのこと。また、同社所属の海洋学校OBと、大会に参加している海洋学校の生徒たちが交流することで、社内だけでなく地域との交流にも一役買っています。
長崎では昨年初めて、協力会社の方々も含めてソフトボール大会を開催しました(写真3)。家族を入れて総勢130名もの方が参加して行われ、会社・所属を問わず、お互いの理解が深まりました。この企画は大変好評で、今年も計画されるそうです。

写真2

写真3

すべてが圧巻のスケール「きずな」

取材後に出航準備のために停泊していた「きずな」を見学させていただきました。船自体の大きさにも驚きましたが、ケーブル自体やケーブルを貯蔵するタンク、ケーブル敷設のためのロボットなどすべてが日ごろは目にすることのない圧巻のスケールでした。仮想化などによって最近はネットワークの低レイヤの部分を意識することは少なくなりましたが、物理的なものを見たことで、ネットワークの根幹の部分を再認識させられました。