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主役登場

実世界の事象をデータ化しながら活用するフィジタルデータセントリックコンピューティング

実空間の物体すべてを仮想空間へ投影することをめざして

磯村 淳

NTTソフトウェアイノベーションセンタ
研究員

私が所属するグループでは、コネクティッドカー、ドローン、ロボットなどの動く物体(動的オブジェクト)が収集した情報を蓄積し、時間と空間を用いて高速に検索する「高速時空間データ管理技術 Axispot®」の研究開発に取り組んでいます。
近年普及し始めている動的オブジェクトは、コネクティッドカーを例として、2025年に5億台を超える見込みです。未来の社会では、このような膨大な数の動的オブジェクトがインターネットに接続することで、生活をより豊かにする次世代サービス(道路レーン単位での交通状況の把握、移動中のヒトに対する最適タイミングでの郵便配達、災害の即時被害シミュレーションによる避難誘導等)の実現が期待されています。これらのサービスを実現するには、現実世界の建物・道路等の静的オブジェクトを仮想空間内に再現する「ポリゴン管理技術」、動的オブジェクトの現在位置を仮想空間内に投影し、ある時間・空間(地域、道路、建物等)に存在する動的オブジェクトを高速に検索する「時空間データ管理技術」が必要となります。しかし、既存のポリゴン管理技術は、LiDAR(Light Detection and Ranging)等で収集した点群データから静的オブジェクトの形状を計算する際に長時間を要し、広範囲で集めた大量の点群データを高速に処理できません。また、既存の時空間データ管理技術は、高速な検索性能を維持しながら、動的オブジェクトが一斉送信する時間・空間の多次元情報をリアルタイムに格納できません。
私は、これらの問題を解決できるNTT独自技術の確立、および次世代サービスへの技術適用をめざしています。現在、次世代サービスの1つとして、コネクティッドカーを対象とする「道路レーン単位での交通状況の把握」に着目しています。このサービスを実現するための詳細な要件をNTTデータと整理し、この要件を満たすことができる技術をグループメンバと検討しています。その結果、既存技術では実現できない大量の時空間データ蓄積と高速な検索、時空間データの局所性の高さを考慮した複数サーバ間の負荷分散、という2点の両立を、NTT独自の提案技術で実現しました。
2019年米国サンフランシスコで開催されたRedisConfでは、この提案技術を取り入れたAxispot®を紹介し、既存技術と比較して性能が大幅に改善することを発表しました。さらに、Axispotの改善に向けて、米国セントルイス、ルーマニアブカレストで開催されたFOSS4G (Free Open Source Software for Geospatial)に参加しました。そこでは、PostGIS、JTSなど、世界中で利用される最先端のデータベース技術にかかわる研究者と議論しています。
また、トヨタ自動車とNTTグループが取り組んでいる「コネクティッドカー向けICT基盤の研究開発に関する協業」の一員として参加しています。この協業の実証実験でAxispotを提案し、数千万台規模のコネクティッドカーが収集した情報の効率的かつ高速な処理の実現に向けて取り組んでいます。
今後は、Axispot®の自動車分野への実サービス適用をめざすと同時に、点群データに対する効率的かつ高速な計算処理を可能とするポリゴン管理技術、動的オブジェクトの時間・緯度・経度だけでなく高度・向き等の情報を含んだ検索を可能とする時空間データ管理技術の検討を推し進め、産業と学術の両面で貢献できるよう、日々邁進していきます。