グループ企業探訪
DBO一体アプローチでデータセンターの構築から運用までをフルターンキーで提供する会社
ICTやICTを活用したサービスが急速に拡大・進歩している世界において、データセンターはこうしたICTやデジタルサービスを支えるコアとなるインフラとなっています。東南アジアにおいては、2000年代中ごろからシンガポールを中心にデータセンター建設が急速に進展し、NTTグループも2012年にシンガポールに新たにデータセンターを建設・構築しました。データセンター建設の勢いは、周辺国に拡大しつつ現在まで続いています。こうした時流の中、早期からデータセンター構築に取り組んできたPro-Matrix Pte. Ltd.のDesmond Teo CEOに、DBO(Design、Build、Operate)の一体アプローチや「ワールドクラスのデータセンター施設に関するサービスプロバイダになる」というビジョンへの思いについて伺いました。
Pro-Matrix Pte. Ltd.
Desmond Teo CEO
シンガポールで早期からデータセンター構築に取り組み、2014年にNTTファシリティーズグループ会社となる
■設立の背景と会社の概要について教えてください。
Pro-Matrix Pte. Ltd.(Pro-Matrix)は、ミッションクリティカル施設の構築・保守をフルターンキーで行う統合ソリューションを提供する会社として2000年にシンガポールで設立されました。2014年にNTTファシリティーズグループ会社となり、グループのノウハウを結集することで、大規模なデータセンター専用施設の建設に携わるようになります。2017年にはインドネシアにPro-Matrix社の建設駐在員事務所(Public Work Representative Office:PWRO)を開設しデータセンター構築サービスを、2021年からはPT Pro-matrix Facilities Management社(PTFM)を設立しデータセンターオペレーションサービスをそれぞれ開始し、さらに2022年からはPromatrix DC Solution Sdn. Bhd.社(DCS)を通じてマレーシアにおいてもデータセンターソリューションの提供を開始しました。
グループ全体で350名の社員(2024年3月末現在)を擁する当社は、「ワールドクラスのデータセンターサービスプロバイダになること」をビジョンとし、高い専門性により、お客さまへ卓越したサービスとソリューションを提供することをめざしています。この実現に向けて、Pro-Matrixはコアバリューとして「プロフェッショナリズム」「レジリエンス」「オーナーシップ」の3つの基本原則を掲げています。
プロフェッショナリズムは当社のコアバリューの要であり、あらゆる業務において最高水準の卓越性と企業倫理を保持するという当社のコミットメントを表しています。当社にとってプロフェッショナリズムとは、単に業界の規範や規制を遵守する以上の意味を持っており、たゆまない改善、誠実さ、そして品質に対する積極的な献身を体現しています。
そして、データセンターのマネジメントのようにダイナミックで進歩の早い業界では、予期しない変化に適応し、困難を克服し、卓越した取り組みを継続していくために、レジリエンスが不可欠です。
さらに当社は、責任はすなわち説明責任である、というオーナーシップの概念を取り入れています。チームメンバーは、自らの業務に完全なオーナーシップを持ち、説明責任を果たし、信用と信頼性の文化を育みます。この哲学は、当社の成功に向けた活動を推進するだけでなく、成果を成し遂げることに注力し続けることにもつながります。
■具体的にどのような事業展開をしているのでしょうか。
急速に進歩するテクノロジーの世界において、データセンターはデジタル社会の根幹を担っています。Pro-Matrixは、2000年の設立以来、この業界の最前線に立ち、データセンターに関する専門知識、革新性、卓越性への揺るぎない取り組みを通じて、小規模な事業者から業界に認められる著名なサービスプロバイダーへと成長を遂げました。
当社は、DBO(Design[設計]、Build[構築]、Operate[保守])の一体アプローチにより、包括的・効率的で費用対効果の高いデータセンターソリューションを提供しています(図)。
設計業務としては、建物の設計(Architectural)に加え、空調システム(Mechanical)、エネルギーシステム(Electrical)、配管網(Plumbing)のMEP設備の設計をとおして、顧客要求や省エネ性能の担保、各国法令や基準への適合性確保等を行います。
構築業務としては、資材調達、施工管理(工期、品質含む)、施主が求める建築設備への要求性能どおりに企画・設計・建設・運用されていることを検証する竣工管理等を行います。設計思想を理解した立場から調達・施工を提供することで、お客さまの要求仕様と最適な納期・コストを実現します。
保守業務としては、データセンターの安定運用のため、24時間365日のオンサイトでの設備管理、年次法定点検や設備更改における技術面のサポート等を行います。設計段階から保守運用における安全性・効率性に配慮することで、シームレスな設備運営に資するとともに、長期の事業運営期間にわたる設備の安定運用とコスト最適化に貢献します。
DBOの一体アプローチにより高品質のサービスを提供し、お客さまの要求の実現と長期的な成功を保証します。
「車のメンテナンスをするのに最適な人は、その車をつくった人だ」という格言を体現するDBOソリューション
■なぜDBOなのでしょうか。
DBOにより、データセンターの設計から建設、運用まで、さまざまな専門分野をまたがって包括的かつ効率的に業務を遂行することが可能となり、商用に供するまでの期間短縮を図ることができます。また、設計段階からプロジェクト全体の実装と運用チームを監督し、シームレスなプロセス間の引き継ぎを保証します。さらにこの結果として、建設から運用までの総コスト(Total Cost of Ownership:TCO)の透明性が確保されるため、予算管理のリスクが大幅に低減します。
このようなDBOのメリットを活かし、Pro-Matrixはフルターンキーソリューションを専門とし、データセンターの建設における検討から建設完了、さらには運用段階までをマネジメントする、という課題に取り組んできました。当社は、お客さまの多様なニーズにこたえ、オーダーメイドかつ包括的なソリューションを提供できることを強みとしています。当社が提唱するDBOコンセプトは競合他社と一線を画しており、このアプローチにより、シームレスで効率的なオペレーションと、コスト・納期の大幅な削減をお客さまに提供できます。建設プロジェクトから保守運用までのすべてのフェーズを当社がマネジメントすることで、各フェーズが適切に調整され、より高いパフォーマンスと顧客満足を実現します。まさに「車のメンテナンスをするのに最適な人は、その車をつくった人だ」という格言のとおりなのです。
「ワールドクラスのデータセンター施設に関するサービスプロバイダになる」ことをめざして
■今後の展望についてお聞かせください。
Pro-MatrixがNTTファシリティーズグループの一員となって10周年を迎えましたが、共通のビジョンとグループシナジーにより、当社はシンガポールおよび東南アジア市場における有力企業としてのポジションを確立してきました。しかし、これは私たちの1つの通過点に過ぎません。
「ワールドクラスのデータセンター施設に関するサービスプロバイダになる」という当社のビジョンが、私たちのすべての原動力となっています。私たちはデータセンター業界の限界に挑戦し、拡大を続ける需要を満たすため、常にイノベーションとサービス改善に取り組んでいます。また、高性能であるだけでなく、環境に配慮したサステナブルなデータセンターの構築にも力を入れています。環境への配慮とエネルギー効率改善への取り組みは当社の使命として不可欠であり、全世界的な炭素排出量削減に向けて確実に貢献していきます。
今後、私たちはこの10年間に築き上げてきた強固な基盤と信頼をベースとして、その卓越した専門性によりイノベーションを追求し、よりグローバルなポジションをめざしてチャレンジし続けます。
担当者に聞く
人材育成を強化し、NTTグループのグローバル戦略・新規事業プロモーション活動・グループシナジーづくりを担う
Senior Manager,Head of Corporate services in IndonesiaDirector of PT.
Pro-matrix Facilities Management
Elly Setiawatiさん
■担当されている業務について教えてください。
PT Pro-matrix Facilities Management(PTFM)の会社運営責任者として事業運営全体を統括しています。また、インドネシアPro-Matrixグループのコーポレート業務(総務・財務・人事・法務)責任者も兼務しており、インドネシアにおけるNTTファシリティーズグループ*(F-PWRO、P-PWRO、PTFM)間の営業連携強化を図っています。
Pro-Matrixグループは2017年度よりインドネシアに建設駐在事務所(PWRO)を設置し、事業を開始しました。当初はNTTグループ(NTT Global Data Centers Indonesia,NTT Indonesia)への事業貢献や営業連携を中心に対応し、その後、既存データセンターのFit-Out業務(設計、建設、内装やエンジニアリング整備の統合工事)の提供により事業を拡大してきました。近年では、ジャカルタ近郊の新築データセンター等の各プロジェクトにおいてM&E(Mechanical & Electrical)設備の元請け施工会社として、継続的にお客さま事業へ貢献しています。
2021年にはPTFMを設立し、F-PWROが設計、P-PWROが施設の施工もそれぞれ担当したデータセンターの保守運用業務を施設の運営開始当初から受託し、構築から保守へのシームレスな運用移管も実現しました。その後、ローカル銀行やグローバルデータセンター事業者からもデータセンターの保守運用業務を受託しています。
DBOコンセプトの具現化に向けて、PWROとPTFMは常に緊密に連携しており、業務効率化のためコーポレート機能も統合して事業運営をしています。
* インドネシアにおいては、F-PWRO(NTTファシリティーズの建設駐在員事務所)が設計業務、Pro-Matrix PWRO(P-PWRO)が構築業務、PTFMが保守業務をそれぞれ提供し、NTTファシリティーズグループ全体で一気通貫のDBOソリューションを提供。
■今後の展望について教えてください。
当初はジャカルタ中心部のサービスオフィスにおける一室・3名体制から事業を開始しましたが、2024年度にはPro-Matrixインドネシア事業全体で合計100名を超える体制まで拡大する見通しです。特にFM担当の社員は若くて(平均年齢30歳)元気な社員が多いです。これからの成長を期待し、引き続き社員の人材育成を強化していきます。そして、NTTグループのグローバル戦略への貢献・新規事業プロモーション活動・グループシナジーづくりを担う業務にも取り組んでいきます。
東南アジアのデータセンター関連新技術展開の中心地シンガポールで、テクノロジーリーダーをめざす
Manager, Architectual
Designer
Hiroki Tatamidaさん
■担当されている業務について教えてください。
主にシンガポールとマレーシアを中心にデータセンターの設計・構築業務を担当しています。シンガポールでは政府による新規データセンター建設規制(モラトリアム)の影響で案件数は限られていますが、既存のデータセンターのフィットアウト(設備構築)や、NTTグループが開発した海底ケーブル陸揚げ施設の設計・構築などに携わっています。
データセンター建設の需要は世界中で高まっており、シンガポールの規制の影響もあって、近隣のマレーシアやインドネシアでの建設需要が急速に増加しています。シンガポールの国土は東京23区と同程度の広さで、土地の希少性から都市型データセンター(高層・中規模)が一般的です。一方、マレーシアはまだ広大な未開発地が多く、低コストで土地を取得できるため、郊外型データセンター(低層・大規模)の開発が活況です。
データセンターの構築業務を受注する際には、いかにエンドユーザーの要求事項を満たし、短期間で引き渡すことができるかが鍵となります。この郊外型データセンターはフレキシビリティが高く、短工期に適しているといえます。当社のコア業務はMEP設備工事ですが、近年は建築・設備も含めた設計チームの体制を強化し、設計・調達・工事部門が設計初期段階からチームを組み、設計から構築までシームレスなサービスを提供することで、お客さまの求めるスケジュールに対応できるよう努めています。
設計仕様については、建築では鉄骨造やプレキャスト造の採用、設備ではコンテナ化やスキッドシステムの採用など、現場工程の削減とプレファブリケーションによる全体工程の最適化がトレンドです。現場での調整が難しいため、設計段階での調整が多く求められ、高品質な図面が必要となります。そのため、設計初期からBIM(3次元CAD)を使用して設計を行い、品質の確保を図っています。
生成AI(人工知能)等の進展により、データセンター内で取り扱うデータ容量が爆発的に増えたため、サーバ1ラック当りの消費電力容量も20〜30kWといった高発熱ラックが一般的となり、1敷地当りで200MW以上の電力を消費する大規模なキャンパス型データセンターが増えています。データセンター施設内のエネルギー利用効率を示すPUE(Power Usage Effectiveness)の低減も社会的な課題となっており、Direct-to-chip coolingやImmersion coolingといった省エネ性能の高い液冷技術を使ったデータセンターも増加しています。
■今後の展望について教えてください。
東南アジア諸国におけるデータセンター開発はまだ発展途上であり、多くのビジネスチャンスが存在します。データセンター構築を得意とする競合会社はまだ多くないため、私たちが早期に進出し足場を固めることができれば、リーディングカンパニーとしての地位を確立できる機会があります。このため、エンジニアリングチームの強化や、周辺国で提携可能なパートナーの発掘が今後の重要な課題となります。
データセンターで採用される技術は日々進化しており、特に東南アジアではシンガポールを中心に新たな技術が展開されることが多く、先進技術に触れる機会が豊富にあります。これはエンジニアにとって非常にやりがいのある環境ですが、一方で各エンジニアはこれらの技術をしっかりと学び、実案件に応用していく必要があります。
ア・ラ・カルト
■一体感とアイデンティティを標榜したPro-Matrixグループオフィス
Pro-Matrixグループは、シンガポールを本拠地として、インドネシア(ジャカルタ)、マレーシア(サイバージャヤ)にオフィスを構えています。コーポレートカラーであるブルーを基調とした各オフィスには、入口に社名ロゴを掲示し、Pro-Matrixグループの一体感とアイデンティティを標榜しているそうです。
シンガポール Midview City 本社オフィスは、地理的にシンガポールのほぼ中央に位置し、コロナ禍以前からMicrosoft社のSharePointやTeamsを活用したリモートワークを積極的に取り入れ、原則として全席ホットデスク(フリーアドレス制)を採用し、オフィス外からの業務もシームレスに対応可能とのことです(写真1)。
ジャカルタ M-TENオフィス(Pro-Matrix PWRO、およびPTFM)は、データセンター建設ラッシュが続くジャカルタにおいて、社員数の増加に合わせて2023年にオフィスを移転・拡充し、より一層、働きやすい環境が整ったそうです(写真2)。
マレーシア Cyberjaya オフィス(DCS)は、ハイパースケール・データセンターの開発が急速に進むマレーシアにおける市場参入の中核拠点として、クアラルンプール郊外のIT関連企業が集積するサイバージャヤ地区に、2024年に新たに開設されたそうです(写真3)。