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使える技術を生み出すにはお客さまの視点が不可欠。アセットベースのビジネスモデルへ進化させ、先端技術活用力とシステム開発技術を強化

NTTデータは2023年7月、国内事業を担う「NTTデータ」と海外事業を担う「NTT DATA,Inc.」、そしてこの2社を傘下に擁する持株会社の「NTTデータグループ」の3社体制で新たにスタートしました。「Realizing a Sustainable Future」をスローガンにサステナビリティ経営を推進しています。田中秀彦NTTデータグループ 執行役員 技術革新統括本部長に新体制における技術戦略とビジョンを伺いました。

NTTデータグループ 執行役員
技術革新統括本部長
田中秀彦

PROFILE

1995年NTTデータ通信に入社。2017年NTTデータ 技術革新統括本部 システム技術本部 方式技術部長、2018年生産技術部長、2020年技術革新統括本部 システム技術本部長を経て、2023年6月より現職。

グループ全体の技術をリードし、技術戦略を立案する技術革新統括本部

NTTデータグループとして新たなスタートを切られましたね。グループにおいて技術革新統括本部はどのようなポジションを担っているのでしょうか。

NTTデータは1988年の創業から35年目を迎えた2023年、事業規模の拡大、変化のスピードが速いデジタル時代にふさわしい機動性のある経営の推進を目的に、国内事業を担う事業会社の「NTTデータ」と、海外事業を推進する事業会社の「NTT DATA,Inc.」を傘下に擁する持株会社の「NTTデータグループ」の3社体制で新たなスタートを切りました。
私たち技術革新統括本部はNTTデータグループの組織として、グループ全体の技術をリードして統一的な技術戦略を立案し、国内を含むグローバルでのテクノロジアセット開発や活用を推進する立場となりました。
さて、私たちは「情報技術で新しい仕組みや価値を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する」という企業理念の下、ITを活用した多くの社会インフラやITサービスの提供を通じて、行政・金融・製造・流通などさまざまな業界のお客さまとともに社会を支えていますが、2022年度から2025年度の中期経営計画において「Realizing a Sustainable Future」をスローガンに、「これまで培ってきた顧客理解と高度な技術力によってシステムをつくる力」「さまざまなシステムやインフラを支え人と企業・社会をつなぐ力」のさらなる向上に向けて、「ITとConnectivityの融合による新たなサービスの創出」「Foresight起点のコンサルティング力強化」「アセットベースのビジネスモデルへの進化」「先進技術活用力とシステム開発技術力の強化」「人財・組織力の最大化」の5つの戦略を推進しています。
このうち、技術革新統括本部はこれまで以上に技術成果を活用することを重要視し、グローバル展開という視点を強化しながらアセットベースのビジネスモデルへの進化と、先端技術活用力とシステム開発技術の強化を継続して推進しています。業界・業務のベストプラクティスのような知見からソフトウェアや自社ツールなど、ビジネス的に有用かつ再利用可能なものをアセットとし、技術革新統括本部ではこのうちグローバル共通のテクノロジアセットの創出をねらい、グローバルで技術注力領域を定め、業界に依存しないテクノロジアセットの開発に臨んでいます。

技術戦略について詳しく教えていただけますでしょうか。

技術戦略のビジョンとしては、5つの戦略のうち、「アセットベースのビジネスモデルへの進化」「先進技術活用力とシステム開発技術力の強化」に注力しています。これを踏まえて私は、日々誕生する新しい多くの技術をいち早くキャッチアップし、お客さまや社会課題といかに早く結びつけることができるか、ということが重要だと考えています。
このため技術革新統括本部は、技術の成熟度に対応したEmerging、Growth、Mainstreamという3つのフェーズごとに技術テーマを選定し、先行者優位性の獲得に向けた先進技術活用力の強化と、システム開発技術力強化によって生産性や品質の向上、ビジネスの拡大を推進しています。
まず、現在のビジネスの中心であり、市場においてすでに活用されているホットな技術であるMainstreamの技術については、技術力の向上とアセット化によるビジネスアジリティの向上に重点をおき、グローバル共有で定めた技術注力領域(TFA:Technology Focus Area)で分野や業界に依存しないテクノロジアセットの開発を推し進めています。また、それを社内でどのようにスケールさせるかということが重要な課題です。このため、デリバリーにかかわる人材の育成や、パートナーとのエコシステムの構築を通じて、技術の大規模な展開をねらって、技術ポートフォリオを活用し、技術の成長段階に応じた管理と運用をしています。
次に、Growthフェーズにある技術はある程度の実用性が確認されており、ビジネスとしての成長が期待されています。これまでは3年から5年のスパンで技術を見ていましたが、世の中のスピード感は年々増していますから、GrowthフェーズからMainstreamフェーズへのステップをいかに速めるかということが重要になります。そのための方法として、私たちはインダストリーごとにユースケースを作成し、お客さまとともに技術の適用範囲を広げるために普及を促進し、特定のインダストリーにおける成功事例を基に他の業界への展開を図っています。
最後に、Emergingフェーズでは、量子コンピュータのような新しく、まだ実用化が不確定な段階にある技術を見極めています。将来のビジネス成長に資する技術を見出して、お客さまとともにその技術の実用性を評価しています。こうしたお客さまとの協創は、その技術が広く展開されたときにどのように貢献するかを見極めることにもつながります。

お客さまと信頼関係を築き着実に成果を創出したい

各フェーズにおいて盤石な体制で臨んでいるのですね。現在、注力している領域の具体例を教えていただけますか。

Cloud領域、ADM(Application Development and Management)領域、D&I(Data&Intelligence)領域、そしてCybersecurity領域の4領域とNTTグループ全体で推進しているIOWN構想についての実例をお伝えします。
Cloud領域では成長領域であるクラウド運用・保守のITアウトソーシング(マネージドサービス)の強化です。ハイブリッド環境のニーズの高まりを受けて、AWS/Azure/Google Cloud等のパブリッククラウドとプライベート・オンプレミス環境を組み合わせて開発・運用するためのノウハウやツール群を一式にまとめたテクノロジアセットとして、「Hybrid Cloud Managed」を提供しています。
ADM領域では市場を牽引しているソフトウェア開発技術へ注力しています。加えて、昨今急成長している生成AI(人工知能)技術の活用にも力を入れています。2020年から日本とスペインを拠点に生成AIをソフトウェア開発へ適用する取り組みを実施しています。
D&I領域では、データプラットフォーム構築力と提案力の強化に注力しており、それに資するAIガバナンス、AIエンジニアリング、データ・ファブリック、意思決定インテリジェンスの4つのテクノロジトレンドに関するアセットを整備しています。
そして、Cybersecurity領域においては検知から原因特定や復旧、再発防止まで含めたセキュリティ運用の強化に注力しています。2023年7月に、セキュリティ運用のアウトソーシングサービス〔MDR (Managed Detection and Response)サービス〕の提供を国内で開始しました。NTTデータグループの世界56カ所の拠点、19万人のグローバルガバナンスで培ったノウハウをビジネス化しています。さらに、このサービスを担う人材育成にも注力し、グローバル展開をめざしています。
加えて、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想においては、2024年4月、英国と米国内においてNTTグループ保有のデータセンタ間をIOWN APN(All-Photonics Network)で接続する実証を行いました。この実証では約100km離れたデータセンタ間をIOWN APNで接続し、データセンタ間の通信を1ミリ秒以下の低遅延で実現しました。これは、同一のデータセンタと同等の統合ITインフラとして機能するものであり、分散型リアルタイムAI分析や金融分野への適用可能性を示すものです。現在は、世界各地の事業部門とともに、早期のビジネスの立ち上げをめざし、金融分野をはじめ分散データセンタのユースケースとなる分野におけるお客さまとの共同実証の実施を検討しています。実際の業務に求められる要件を、IOWN APN接続による分散データセンタで十分に満たせることをお客さまとともに確認していこうと考えています。

改めて、国内外でビジネスを展開するNTTデータグループの強みはどこにあるとお考えでしょうか。

さまざまなインダストリーに精通し、ビジネスをグローバルに展開していることです。お話ししたとおり、私たちはこれまでお客さまとの長期的なリレーションシップを活かし、イノベーションパートナーシップを結んでいます。ビジネスや技術開発は1つの視点からでは成り立たないからです。
私たちは前述の4つの注力領域のように、ビジネスの注力領域を定めてBFA(Business Focus Area)と呼び、技術のみを考えるのではなくビジネスの側面からも展開を考えています。イノベーションプロセスと合わせて、先進技術活用によるビジネス創出を加速させる専門チーム(テックアドバイザリーチーム)も立ち上げました。開発した技術が実際に活用されなければ意味がありませんから、ここにしっかりと意識を向けて、開発と同時に国内外においてアセットの流通や展開にも力を入れているのです。そのために必要なことは、一言でいえば、業界を問わず使える技術を民主化することです。グローバルについては2023年度、NTTデータグループのグローバル全体で、アセットを共有する仕組みGlobal Repositoryを確立しました。国内においては情報を流通させる仕組みづくりに加えて、技術革新統括本部が主導し、公共社会基盤や金融、法人、TC&S(テクノロジーコンサルティング&ソリューション)の各分野が持つインダストリー戦略との連携をはじめ、各分野において注力すべきアセットを正しく見極め、将来的により広く活用されることが見込まれるアセットをいち早く拡充し、高度化することに努めています。
私たちはこれまで高い「実装力」が評価されてきましたが、それに加えて「提言力」を強化することで、コンサルティング力も備えたエンジニア集団にしていきたいと考えています。さらに、お客さまがめざすものにどれだけ貢献できたのかという「成果」についてもこれまで以上にこだわりたいのです。提言・実装して終わりではなく、お客さまとの信頼関係の下、着実な成果創出につなげていきたいですね。ちなみに、成果は提言するコンサルタントにも、実装するエンジニアやスペシャリストにもかかわる重要な指標で、サービスを提供して終わりではなく、成果をカタチにして、価値の提供にまでこだわれる存在でありたいと考えています。

「合宿」を開催してギャップを埋める

業務に取り組む際に大切にしているのはどんなことでしょうか。

私は1995年にNTTデータに入社し、研究開発部門からキャリアをスタートさせ、現場でのプロジェクトマネジメントを通じて技術を実際に活用する経験を積んできました。具体的には、NTTドコモや電力会社のスマートメータ・システムなど、多岐にわたる多くのプロジェクトに携わってきました。こうしたお客さまとともにシステムを構築するプロセスで得た知見が現在の技術戦略の基になっています。
いうまでもなく、技術を提供する際には、お客さまの視点に立つことが重要です。例えば、お客さまは充実した説明書・仕様書よりも、説明書・仕様書を読まずとも安心・安全に運用できるシステムを望んでいらっしゃいます。また、サーバは毎日どこかで1台は故障してしまうものだといってもいいくらい大小さまざまな故障が発生していますが、お客さまのシステムを止めたり、大切なデータを消失させたりして、お客さまのビジネスを止めることはできません。こうした現実に即してお客さまがいかに安心・安全に運用できるかを常に念頭に置き、技術を生み出すことをとても大切に考えています。
また、最近ではあまり見かけることはないかもしれませんが、組織内外のコミュニケーションを強化するために、合宿などの形式で意見交換をする場を設けています。例えば、同じお客さまのニーズやマーケットを見ていても、現場と指揮・管理部門にはどうしてもそのとらえ方等にギャップが生まれてしまうことがあるのです。そこで、30人前後の部長クラスとともに集中的にギャップを埋めるためのコミュニケーションを図るのです。参加者どうし、はじめは様子を探り合うこともありますが、徐々に慣れて分かり合えてきて仕事以外の話も弾んできます。こういう状況を目の当たりにすると、直接的なコミュニケーションがいかに重要であるかを実感します。
もう1つは具体的なアクションプランを策定してマイルストーンを置くことです。これによって時間の感覚や組織全体の方向性を統一しています。

最後に技術革新統括本部の今後の展望と技術者、お客さまへのメッセージをお聞かせください。

私たちは自らを「世界最強SE(システムエンジニア)集団+(プラス)」と呼び、これまで培ってきた経験を活かして、システム構築力や運用力をこれまで以上に強化していきたいと考えています。NTTデータグループは2025年を “Global 3rd Stage” と定め、ITサービス業界 “Global Top 5”、世界のお客さまから信頼される企業・ブランドとなることをめざしています。Top 5そしてそれ以上を実現するためにも失敗を恐れずにチャレンジする精神を大切にしたいですね。
技術者、研究開発者の皆さん、技術革新の分野では、いうまでもなく柔軟な対応と迅速な行動が求められますから、常に前向きな姿勢で取り組みましょう。過去に私も言われたことですが、どちらへ進んだらいいか迷ったら、まずは前に進むことです。たとえ、選択した道が失敗でも、それが分かった瞬間に軌道修正し、それを次の成功につなげていけば良いのです。そして、お客さまの視点を忘れることなく技術の進化を楽しみながら、お客さまとともに成長しましょう。ぜひ、スタートアップのスタンスで挑戦し続けていきましょう。
最後に、お客さまやパートナーの皆様。私たちは皆様のパートナーとして信頼され、選ばれる存在でありたいと考えています。共創を通じて社会課題を解決し、新たなビジネスチャンスを創出していきましょう。

(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

気温40度に迫る暑さの中、インタビュー会場に現れたスーツ姿の田中本部長。涼やかな面持ちでクールにビジョンや戦略を語ってくださいました。インテリジェンス溢れるインタビューが終盤に差し掛かり、締めくくりにトップインタビューお決まりのご趣味を伺うと、旅行が好きだと微笑みながら教えてくださいました。旅行が好きな理由は、コストパフォーマンスを検討し、飛行機や旅程を考えることなのだそうです。特にアジアの島がお気に入りで、その中でもベトナムのフーコック島をお薦めくださいました。「まるでヴェニスのような美しい島なんですよ」と微笑まれる田中本部長。撮影中、熱い旅行談義は止まず、あれこれとエピソードをお聞かせくださいました。そんな田中本部長が、突然ポツリと「今日はバラをくわえなくてよいのですね?(笑)」おっしゃるのです。聞けば、社内の広報において社員の皆さんが田中本部長の写真をコラージュしてインパクトを強めて、大切なメッセージを伝えることがあるのだと言います。「楽しみながら技術開発をしよう」「スタートアップ企業のようなスタンスでビジネスに臨もう」という田中本部長の、どんなことでも受け入れ、楽しもうとされるご姿勢がクールさを際立たせ、かつ親しみやすさにつながっていると実感したひと時でした。

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