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特集 主役登場

6G/IOWN時代の融合・協調ネットワーク:インクルーシブコア

インクルーシブコアのアーキテクチャ実現に向けて

馬場 宏基
NTTネットワークサービスシステム研究所
主任研究員

2020年以降サービスを開始した5G(第5世代移動通信システム)に代表されるように移動通信、固定通信を問わずネットワークインフラは世代を経るごとに進化・発展してきました。私自身も利用者として体感してきましたが、携帯電話の登場以降、通信速度やつながりやすさが向上し、電話からインターネット、動画、IoT(Internet of Things)へと適用範囲も広がり、今となっては社会基盤として生活・仕事に欠かすことができない基盤になっています。
ネットワークインフラは、世代で表現されることに象徴されるように、数年~10年で大きな進化をしてきています。私が担当するネットワークアーキテクチャの研究開発では、次世代のネットワークの理想像の策定とその実現を支える技術確立の検討を中心に、アーキテクチャの実現に向け以下に取り組んでいます。
•社会や経済情勢、通信事業を取り巻く市場・技術動向や、既存のアーキテクチャの課題から、ビジョンやコンセプトを具体化
•実現に必要な技術要素を研究開発要素も含めて特定し、全体のネットワークの基本構成を検討
•インタフェース・プロトコル、パラメータなどシステム構成を検討、さらに実証実験などを繰り返しながら技術群の統合のフィージビリティを検証してドキュメント化することでリファレンスを確立
•最終的に確立した各技術の実装や商用開発品・市中製品などを組み合わせ、開発・トライアルを通じて商用化に向けて商用レベルまで完成度を向上
これらの取り組みは、NTTグループ内で連携することはもちろん、多くのプレイヤとの協調が求められるため、アーキテクチャの標準化、要素技術の確立や市中製品との連携など、世界のオペレータや通信装置ベンダ等と連携して進めています。私はNTTに入社してからアーキテクチャの研究開発を経験し、事業会社で技術導入を経験してきました。その過程で、アーキテクチャの研究開発から商用導入までの流れを体感し、技術領域の広さ・深さ・情勢の変化への対応など大変なこともありますが、さまざまな機関・企業・大学との連携・議論を通じた検討の深みを知ることができました。現在では、将来の技術発展・事業運営・社会基盤となるネットワークの将来像を担っているという位置付けから重要なテーマと考えるようになりました。
NTTグループでは5G Evolution & 6G(第6世代移動通信システム) powered by IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の1つの取り組みとして、本特集で紹介したインクルーシブコアのアーキテクチャの確立・実現に向けて取り組んでいます。具体的には、通信ネットワークに計算機能を持たせる“In-Network Computing(INC)”を実現するISAP(In-network Service Acceleration Platform)を中心とした技術開発に取り組んでいます。INCでは、これまでデータを運ぶだけの役割だったネットワークにデータ処理能力を持たせることで、クラウドやエッジコンピューティングの基盤では困難だった端末の処理能力の補完をネットワークが担い、端末スペック以上のデータ処理を実現することが期待できます。大容量・高速かつ安定したデータ送受信を実現しながら同時にデータを解析・変換するなど、端末とクラウド・エッジコンピューティングのデータのやり取りを仲立ちすることで全体としての処理を高速化します。これは、サイバーフィジカル融合やAI(人工知能)が融合したコミュニケーションなどで求められる、端末からクラウドサーバまで情報や処理を同期するかたちのシステムを構成する際に、大容量データを低遅延で共有しながら処理することを支援するものです。
INCはNTTだけでなく、世界の6Gに関する業界団体や通信事業者、装置メーカでも検討されており、近年コンセプトの提案だけでなく具体的なユースケースの議論が始まりつつあります。その中で、私たちはINCを6Gアーキテクチャの構成要素として確立すべく、標準化への提案やNTTのISAP技術を用いた実証実験を実施し2023年度世界最大のモバイル業界の展示会Mobile World Congressなどで紹介しました。これらの結果は国内外から非常に注目され、通信事業者や装置メーカ、クラウド事業者など多くの関係者より問い合わせを受け反響の大きさを実感しました。今後もパートナーの皆様と連携し、2030年代の共通アーキテクチャとして確立すべく、実証実験の実施、標準化への貢献を通じて技術開発を加速するとともに、NTTのインクルーシブコアのアーキテクチャの発展普及やISAP技術を次世代のネットワークの共通基盤となる主要構成技術として実現すべく研究開発を進めていきたいと思います。

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