特別企画
世界初のIOWN国際間オールフォトニクス・ネットワーク
- IOWN
- 国際APN
- Early Adoption Use Case
NTTと、台湾最大の通信事業者である中華電信股份有限公司(中華電信)は、2023年10月25日に締結した基本合意書に基づき、IOWN Global Forum(IOWN GF)が推進しているOpen All-Photonic Network (Open APN)のアーキテクチャを基に両社が構築するオールフォトニクス・ネットワーク(APN)を用いて、世界初の国際間APNを2024年8月29日に開通しました。本稿では日本と台湾間のIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)による国際APNおよびその開通を祝し開催された開通セレモニーの模様とIOWN GFの最近の活動状況について報告します。
進藤 勝志(しんどう かつし)/田島 佳武(たじま よしたけ)
南端 邦彦(みなみはた くにひこ)/菅 公彦(すが きみひこ)
NTTと中華電信とのIOWNによる国際ネットワーク接続の実現に向けた基本合意
2023年10月25日、NTTと中華電信股份有限公司(中華電信)は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)による国際ネットワーク接続の実現に向けた基本合意書を締結しました。NTTは、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、ネットワーク・情報処理基盤の構想であるIOWNの社会実装を進めており、IOWN Global Forum(IOWN GF)などを通じて、新たな次世代コミュニケーション基盤の実現を促進しています。また、中華電信は、台湾の電気通信業ではトップに位置する企業であり、NTTが提唱したIOWN構想にいち早く賛同し、IOWN GFへ早期参画し、Vice PresidentのDr. Rong-Ruey LeeはIOWN GFの活動をリードするDirectorにも選出・就任され、ユースケースおよび技術の検討を積極的に主導しています。その両者が強みとする光伝送技術や無線伝送技術、NTTと中華電信での社会実装の実績を基に、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)技術を中心としたIOWNの革新的な通信技術による、日本と台湾間の国際ネットワーク接続の実現およびIOWNに関するビジネスとセキュリティの協業をめざし基本合意書を締結しました。
世界初のIOWN国際間APN開通
2023年10月25日に締結した基本合意書に基づき、2024年8月29日に日本と台湾間においてIOWNのAPN技術を活用した国際間のネットワークが、世界で初めて開通しました。
国際間APNの開通にあたり、NTTは、NTT武蔵野研究開発センタ(日本:武蔵野市緑町)から日本国内の陸揚げ局まで、NTTコミュニケーションズが提供するAPN専用線プランを利用してAPNを構築し、中華電信は、桃園データセンタ(台湾:桃園市桃園)から台湾の陸揚げ局まで台湾国内でAPNを構築し、日本と台湾の間の海底ケーブル(光ファイバ)を用いて約3000kmの長距離区間を接続しました。また、この国際間APNは、IOWN GFが提案しているOpen All-Photonic Network Functional Architectureを基にした構成であり、日本および台湾国内のAPNを構成するネットワーク装置は、IOWN GFのパートナー企業が提供している機器で構成され日本と台湾間での相互接続を実現しています。
また、国際間APNは100Gbit/sの光パスで実現しています。このネットワークについての通信試験の結果は、片道で16.92ms*と低遅延で、遅延揺らぎは1ns未満とほとんどないことが確認されています。この世界初の取り組みでは、NTTと中華電信が連携・協力しエンド・ツー・エンドでのAPNによる安定した品質の良い通信であることを証明することができました(図1、表)。
* 光ファイバを用いた通信遅延は一般的に1キロ当り5μs、3000 kmでは、15 msの遅延となります。
開通セレモニー
この国際間APNの開通と合わせて開通セレモニーが同日開催されました。開通セレモニーは台湾のメイン会場と日本の会場を国際間APNで接続して行われました。このセレモニーでは、日本と台湾を4K解像度の双方向映像コミュニケーションシステムで接続し、NTTおよび中華電信のIOWNビジネスを一緒に展開していくパートナー、報道関係者など数多くの企業・団体・組織に日本と台湾の会場から参加していただき低遅延で揺らぎがほぼない通信を体験していただきました。NTT島田明社長は、スピーチで、「リモートでの参加でAPNの良さを伝えられるチャンスとなったこと、卓越した技術と豊富なグローバルビジネスの経験があるNTTと中華電信が協力してIOWNの国際間通信に取り組むことは、IOWNの技術開発、および台湾と日本の両国でのサービス展開を強力に加速させることへの期待、この取り組みによる実績によって、他のさまざまな国でのIOWNの展開も進めていきたい」と述べました。また、中華電信 郭水義会長(当時)は「引き続きNTTと密に協力し、IOWNの革新的技術を開発しながら国際間のAPNのさまざまなユースケースを実現し、世界へ普及させて豊かな社会に貢献することをめざすこと、通信の遅延が少なくなることで、分散型ネットワークもより効率的に活用が可能になり、離れた場所にデータセンタを構築しても、それぞれ遅延無く活用できるようになること」と述べました(図2)。
IOWN GFの活動状況
IOWN構想の実現と普及を目的に、2020年1月に設立された業界団体IOWN GFでは、実現すべきスマートな世界をより具体的に描き、IOWN技術やアーキテクチャの検討、そして、それらを活用しより豊かな社会実現をめざした未来志向型ユースケース(Future Looking Use Case)の創出に取り組んできました。2023年からは“Vision to Reality”を掲げ、活動のギアを一段上げて新たにさまざまな取り組みを進めています。その活動の1つとしてIOWN GFが公開するIOWN技術やIOWNユースケースの実現、価値、パフォーマンスを実証することを目的とし実践されるPoC(Proof of Concept)活動の推進があります。このPoCはPoCリファレンスに基づいて実施され、その結果はPoC ReportとしてIOWN GFに提出されます。IOWN GFは提出されたPoC Reportの対象分野の専門家チームを編成・評価し、その結果はIOWN GFが認定した「Recognized PoC」としてIOWN GFのホームページで公開されます。2024年9月末時点で、10件のRecognized PoCが認定され、公開されています。また、この活動を通じて、IOWN GFに参画しているさまざまな企業からIOWNを実現することができるサービスや製品の販売が開始されています。
また、もう1つの活動としては、IOWNユースケースの中でも2025~2026年ごろの社会実装・ビジネス活用をより意識した具体的なユースケースとして、以下の3つのEarly Adoption Use Caseの検討に取り組んでいます。
① 金融業界向け分散データセンタによるより機能的なデジタルインフラの実現:データセンタ間をAPNで接続しデータ同期やさまざまなアプリケーションの切り替えを効率良く実現するユースケース
② 放送業界向け遠隔・クラウドメディア制作ワークフローの進化を実現:制作機材の共有(クラウド型)・リアルタイム性を担保したリモートからのメディア制作のユースケース
③ 生成AIや大規模言語モデルのためのリモートGPUサービスの実現:近年の大規模AI計算に対応可能なグリーンデータセンタにおけるGPU(Graphics Processing Unit)コンピューティングとユーザデータの拠点を接続しデータの保護と効率的な処理を実現するユースケース
これらの新たな活動により、世界のさまざまな業界・業種からIOWN GFの活動への関心が高まっており、IOWN GFには2024年9月末時点で153の企業・団体・組織が参加しています。
今後の展開
IOWN GFは、2025年からはPhase4という新たな活動計画に基づき、メンバー間での連携をさらに強化し、より早くIOWN技術やユースケースの社会実装に取り組みます。
また、日本と台湾間のIOWN国際APNについては、日本と台湾に拠点を置く半導体分野などの製造業を中心に、被災時のBCP(Business Continuity Planning)対策としてのデータバックアップやレプリケーションサービス、大規模言語モデル(tsuzumi)などの技術検証、ビジネス評価をNTTと中華電信が中心となり推進し、さらには、この活動をIOWN GFのパートナーとともにグローバルに展開し多様性を受容できる豊かな社会へ貢献することをめざします。
■参考文献
(1) https://iowngf.org/
(2) https://iowngf.org/use-cases/
(3) https://iowngf.org/wp-content/uploads/formidable/21/IOWN-GF-RD-Open_APN_Functional_Architecture-2.0.pdf
(4) https://iowngf.org/technology/
(5) https://iowngf.org/recognized-pocs/
(6) https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2024/0229.html?msockid=269673ca41666b7316416770403e6ade
(左から)進藤 勝志/田島 佳武/南端 邦彦/菅 公彦
問い合わせ先
NTT研究開発マーケティング本部
研究企画部門 IOWN推進室
E-mail iown-info@ntt.com
NTTは、IOWN GFの「Vision to Reality」のもと、グローバルパートナーと協力し、IOWN技術を活用したユースケースの社会実装を加速させています。今回の世界初の国際間APNに続く、IOWNビジネスの具体的な成果にもぜひご期待ください。